プロポーズはこじょうで(作:ぴょん)
ぴょん
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Twitter:https://twitter.com/suzu_pyon_ri
「こじょうでのプロポーズって、すっごくロマンチックだと思うの」
彼女はそう言ってうっとりとした顔をした。もともと、ロマンチストなところがある彼女だが、こじょうでのプロポーズを催促してくるだなんて、彼女も無理難題を押し付けてきたもんだ、と僕は心の中で思った。プロポーズの準備をする、僕の身にもなってほしい。こじょうだなんて、どこを探したらいいというのだ。ここは日本であるのにもかかわらずあえてのこじょう。なかなかのセンスだ。
プロポーズにはそれなりのタイミングってもんがある。指輪の準備もあるのに、こじょうでのサプライズプロポーズなんて、一体どうしたらよいのか正直頭を抱えてしまう。まずは彼女といつものように旅行デートの計画を立てるとしようか。こじょうがある地域、こじょうがある地域……。しかしこじょうか。国内よりも正直海外の方が様になる気がするんだが。そんなことを考えつつも、一応愛する彼女のために日本のこじょうを探す。滋賀県、島根県、京都府に愛知県……。
どこにしようかと悩んでいると、彼女が横から僕のパソコンを覗いてきて
「この中なら京都に行きたい。でも滋賀もいいなあ」
と希望を口にする。確かに、こじょう以外の観光地としても、京都はなかなかに楽しいだろう。しかし、滋賀に行きたい、というのはいささか意外だな、とも思う。まあでも彼女がそこがいい、というのであればそれでもいいのかもしれない。滋賀と京都はそんなに遠くないし、いっそ二か所回るのもありだ。しかしながら、なんだかんだサプライズにはならなそうだな、なんて、楽しそうな様子の彼女の顔をちらりと見て思うのだった。
◇◇◇
こじょうでプロポーズしてほしい、とそれとなく彼にリクエストしたところ、数日後に彼は早速リサーチを始めてくれたようだった。ある日ふと、彼越しにパソコンの画面を見ると、滋賀県、島根県、京都府、愛知県とタブが出ていた。へえ、京都にもあるんだ。正直、こじょうでプロポーズしてほしい、といった趣旨を彼に伝えた時、まあ滋賀県かな。と思った。一番有名だったし、なんとなくそんな気がした。しかしながら、京都でもプロポーズが可能なら、他の場所も観光できるし京都もいいな。と思ったので、
「この中なら京都に行きたい。でも滋賀もいいなあ」
と言うと、集中していたのか、彼はびくりと肩を震わせて私の方を見た。そしてまた、パソコンへと向き直る。ふふふ、と笑って私は踵を返して、手に持っていたマグカップを置きに、キッチンへと向かった。
◇◇◇
楽しみにしていた京都旅行。天気は文句のつけようがないほどの晴天だった。絶好のプロポーズ日和だった。さて、まずは京都観光をして、夕方ごろ、幻想的な雰囲気の中こじょうでプロポーズをしようじゃないか。と意気込んだ。
京都での時間はあっという間に過ぎて行く。今回は、まさに京都、というお決まりのラインナップでの観光だったので、僕らはお互い、修学旅行以来だね、何て言いながら無邪気にはしゃいだのだった。
そうしてその時間がやってきて、僕はとある場所で彼女の前に片膝をついた。夕暮れをバックに、彼女に指輪を見せる。
「僕と、結婚してください」
彼女はすごくびっくりした顔をしていた。そしてその後、微かな声で、そうか……、こじょう。と呟いたような気がした。
一瞬の間はあったものの、彼女は僕のプロポーズを受けてくれて、二か月後には夫婦になった。
◇◇◇
「あの時ねえ」
と、僕の横で白髪の彼女が言って続けた。
「あの時、私ね、ああ、こじょうって古城、古い城の方のこじょうの解釈したのね、って思って一瞬止まっちゃったのよ。貴方からのプロポーズ、どこでしてもらったって嬉しいのだけれど、私が思っていたのは湖だったから……」
ああ、それであの時びっくりしていたのか、と数十年間の謎が解ける。
「そうだよなあ。僕はてっきり古い城の方かと思って、ヨーロッパにでも行ったほうがいいんじゃないかなって思っていたんだよ。君も渋い趣味してるなあって。そりゃそうか、湖か。それなら確かにロマンチックだったね」
しわしわになった手をお互いつないで、僕たちは湖にいた。
あの頃を思い出した彼女は、ふふ、と楽しそうに笑っていた。そして僕は、ボートに乗ったタイミングで、彼女に小さな花束を渡してこう言う。
「あのとき僕と一緒になってくれてありがとう。これからも二人で一緒にいようね」
彼女は照れくさそうな顔をして、はい。と言った。