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2222年

作者: Hora

(200年前に小説家になろうというサイトで帰り道をテーマとしたホラーを投稿する企画があったそうだ)


時は2222年。

去年、氷河期が明けた地球。

地球上から一切の氷が消え失せ、3万年前の氷河期の頃と比べると水位が186m、ここ200年だけで見ても68mも海水面が上がっている。秒速50mを超える嵐が年間300日を越える頻度で吹き荒れており、夏の最高気温は日本で58℃。中東では73℃を記録している。一方で冬では降雪が無く30℃を越えることもある。しかし10年に一度程の頻度で猛寒波が襲い、低い気温と雪が集約しやってくる。猛寒波では最低気温は日本で-60℃。ロシアでは-100℃を下回る。降雪量は日本でも30mを越える。ここ数十年は大体そんなものである。


 しかし何ら不都合は無い。荒れ狂う地球に対処すべく私達は「棺」(アークコフィン)と呼ばれる縦2m横60cm高さ50cmの空間で暮している。25年前から全世界の人物は原則として(コフィン)に入る事になっている。資料映像として残っている、170年程前に消えたカプセルホテルと呼ばれるものの1/4程のサイズ。0.74畳の面積だ。完全耐衝撃・防音であるので10cm隣に誰が入っているのかも分からないようになっている。外の気温が58℃であろうが、冬の寒波で-60℃であろうが、このスペースにおける完全空調は快適なのである。


 栄養・体調・運動・知識の管理は国の管理者が行っている。人が国内で産み出されると、血管に極小のチューブが通され、そこから栄養や投薬、健康の検査が1m秒毎、ほぼほぼ永続的に行われる。運動は栄養素と連動させて電気刺激を流し健康維持が出来る。ウイルス・細菌・アレルゲンが存在しないので感染症やアレルギー反応も皆無である。


 人間の成長や暮らし1人あたりにかかるコストはスペースの狭さ、汎用性のため極少である。エネルギー問題は1人当たり従来のエネルギーが1/1000になったことと、200年前と比べ人口がおおよそ1/50となったおかげですべて片付いたと言っても良い。発電所はもちろん外の世界の施設のほとんどが20年も前に閉鎖した。


 VR技術が(コフィン)の中に組み込まれているので、(コフィン)の中が狭く感じることは無い。知識も視覚から学ぶという過程は存在せずダウンロードという形で記憶回路に組み込まれる。教育はとうに消滅した。皆が常に横になっていることと栄養が十分であるからか、人間の平均身長は194cmと伸びていっている。(コフィン)は2mのサイズ。だが当然、2mを越える人間には可変である。


 人との交流はすべてVR上の空間で行われる。家族・友人・恋人との会話や新しい出会いもVR上である。VR上で食事をする事で味覚や嗅覚も体感する。もう誰もVRが仮想であるとは考えていない。AIとは一線を画す。あれはあくまで人工のプログラム。


 VR上でのAIは人間の形で配置することが禁止されている。AIを人間の形にすると区別が全くつかない。2072年に外の世界で人型のAIによる大規模な犯罪行為が起こり数千万人が大きな被害を(こうむ)った。それによりAIの人型化そのものが禁止される法案ができたのだ。そしてそれはVR上であっても適用されている。

 なのでAIと異なりVRでは実際に人間があってのことだ。日本の人口は25年前の法案で1000万人で維持・管理されているが(コフィン)では多すぎると思う。実際に人に会うために体を動かしていた昔と異なり、VR上では圧倒的に出会いの場と言える場所と機会は多い。性格や遺伝上で相性の良い相手に限定して会うだけにしてもだ。現在で平均寿命は147歳。更にVR空間は時間も引き延ばされているので実際の寿命以上に長く感じてられる。しかもこれからも寿命はより延びて行く事は間違いない。


 さて冒頭の帰り道をテーマにしたホラーの話。ホラーはこの時代にもある。緩いホラーから、ショック死してしまうような極上のホラー体験は娯楽として存在する。しかし、帰り道の意味はあまり分からない。(コフィン)の外に出る事を想像するとそれがすでにホラーなのである。VR上の移動はマーカーで選択するか、頭に思い描くだけで移動できる。帰るとか、道とか、概念そのものが希薄なのだ。

 帰り道というものを体験できるアプリは存在する。直近の2000年程からシチュエーションを選択でき、

・昔存在していたという学校から制服を着て一人で帰る。

・実際の知人とリンクさせ、数人で冥王星観光を終えて宇宙船で地球に帰る。

など。評価は☆1.2。娯楽は突き詰めるところまで行っていると思うので、このようにアプリを起動させた側に行動や感情を委ねるものは流行らない。ただ130歳を越えるような層は☆5を多くつけているので私も年を重ねれば良さが分かってくるものなのかもしれない。



 私は世界的なプロジェクトの「棺」(アークコフィン)の創始者でもあり管理者でもある人物。Kとでも呼んでくれたまえ。(コフィン)の外で基本的に活動を行なっている。本日、世界各国の(コフィン)のある地域で(おも)(コフィン)の外で管理している200人をすべて同時に葬った。それは続けて(コフィン)に入っている人物を全員火葬するためだ。元々このプロジェクトは人を特定の施設の一か所に集め、漏らさないようにするためのものである。さながら砂糖という名の便利さに()かれた蟻のようだ。一網打尽のため長い計画と期間がかかったが今日それを実行する。(ひつぎ)は入ったらもう出られないものだろう?…理由?別に無い。強いて言えば2222年はゾロ目だからかな。

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