第七話 「誕生日・前編」
愛美ちゃんの歩行デビューから、数ヶ月が経った。
あの日については、語りたくない。
アレは酷かった。
トラウマものだ。
一生、母さんとの思い出を思い返すとき、真っ先に出てくるだろうな。
インパクトが強すぎるんだよ。
残念な人に成り下がった綾香さん。
そして、一番酷かったのは、うひょーー、と声を上げていた母さんだ。
うぅ、思い出しただけで、頭が痛くなってきた。
この話は、やめよう。
数ヶ月経って、俺も愛美ちゃんも歩けるようになり、愛美ちゃんは少しずつ喋れるようになった。
愛美ちゃんが、しゃべれるようになったときも凄かった。
俺、母さん、父さん、綾香さん、愛美ちゃんのお父さんである利憲さん、そして愛美ちゃんのおばあちゃんとおじいちゃん。
この全員が、愛美ちゃんが喋るごとに騒いでいた。
そのせいで、元々あまり喋らない愛美ちゃんが鬱陶しがって余計喋らなくなってしまった。
騒ぎすぎて、すん、となってしまったのに。
それを見て、全員で騒いだ。
その日の夜は、ウチで宴だった。
翌日は、大人全員が二日酔いでダウンしていた。
かく言う俺も、騒ぎすぎて若干の筋肉痛になった。
なんで、こんなに筋肉痛になったんだっけ?
興奮しすぎて、記憶が曖昧だ。
まあ、そんな感じで大騒ぎだった。
とても楽しい一日だったが、動画や写真を撮られる側のことを考えると、申し訳ない気持ちになった。
俺も、撮られる側だったからな。
宴の翌日に、愛美ちゃんに謝った。
ごめんなさい、の意味を知っていたのか、愛美ちゃんは俺の謝罪を受け入れてくれた。
よかった、許してくれて。
もし、許してくれなかったら必殺のスライディング寝土下座をかますとこだった。
スラ寝土下座は、体への負担が大きいからやらなくてすんで、ほんと良かった。
愛美ちゃんが、ごめんなさい、の意味を知っていたことにも救われた。
知らなかったら、誠意を身体で示すしかないからな。
愛美ちゃんが、言葉の意味を知っていた理由は、
まあ、ある程度予想はつくが……。
恐らく、愛美ちゃんが本をよく読む子だからだろう。
しゃべることが可能になった俺は、今まで取れなかった本を両親や綾香さんに取ってもらい、読んでいた。
それを真似っこした愛美ちゃんの語彙は、グングン伸びていった。
あまりしゃべらない子なので、発音はまだたどたもしいが、今では、普通に大人と会話できるくらいにはなっている。
改めて、愛美ちゃんが天才だったことを感じさせられた。
赤ちゃんで、ここまで急激に成長するのは、愛美ちゃんぐらいなものだろう。
そう考えるアラタ。
しかし、
実はアラタが愛美ちゃんの急成長に起因しているのだ。
赤ちゃんは、環境などの外部情報に脳が反応し、無意識下で思考と脳の成長を起こす。
では、アラタという不思議の塊が、赤ちゃんである愛美ちゃんの脳をどれだけ刺激することとなっただろうか。
愛美ちゃんがご飯を大量に食べるのは、元々ご飯が好きというのもあるが、メインの理由は脳の使いすぎによる糖分不足だ。
それほどまでに、愛美ちゃんの脳は酷使されていたのだ。
睡眠時間が、成長しても変わらなかったのも同様の理由だ。
普通は、成長するにつれて睡眠時間は減少し、活動時間が伸びるのだが、愛美ちゃんは逆に睡眠時間が伸びた方だ。
そして、
アラタという不思議の塊から学びを続ける中で、
愛美ちゃんは、本という未知の物体と出会う。
その本という物体も、アラタ同様、不思議で溢れていた。
アラタが本を読みのを真似するにつれて、本という存在が日常の一部になっていった。
アラタが独り言でよく本を音読しているので、その声をアラタが読み終わった本を読むときに、脳内再生することで、文字を理解していった。
文字を理解してから、本にのめり込むのに時間は要らなかった。
本を読むのは、きっかけは俺の真似っこからだったが、それでも元々、愛美ちゃんは頭が良いので、真似っこしてなくても結局は本を好きになってただろう。
そう考えるアラタだが、本当は頭がより良くなったのはアラタのお陰であり、また本を好きになったのもアラタの影響が大きいことには、気づくことはない。
そして、
愛美ちゃんは着実に本好き無口っ子として成長していくのだった。
◇
今日は、2006年4月4日,
俺の誕生日だ。
俺は、今日で2歳になる。
前世では、歳をとるごとに喜んでいた。
誕生日パーティー(一人)をやっていた。
別に悲しくはなかった。
誕生日は、俺にとって「生まれてきてくれてありがと」の日ではなく「今年も生きれた」という達成感とご褒美だったからな。
一人でも別に、悲しくはなかった。
アリシアを作ったのも、誕生日を一人で祝うのが悲しくなったからじゃなく、ただ研究の助手が欲しかっただけだ。
決して、寂しかったわけじゃない。
しかし、
今年は、違う。
俺は一人から脱却し、家族あんど見取家でのお祝いだ。
今年は「俺が生まれて来てくれてありがとう」の日だ。
自分で自分を祝う日じゃない。
長生きできたことを祝う日でもない。
それに、今では長生きに大して興味がないしな。
前世では、長生きしすぎた。
今世は、量より質だ。
そんなことは、どうでもいいとして、
今日は、綾香さん家つまり見取家にお邪魔している。
見取家はウチの家とは違い、とても新しかった。
ピッカピカの新築だ。
どうやら見取家の元々の家が古かったことから、だいぶ前にこの土地を空き地にして売ることになってたみたいだが。
綾香さんの旦那の利憲さんが、祖父母と一緒に住めた方が良いのでは、と言ったのでココは空き地ではなく、新築が建つことになったらしい。
要するに、新築ってこと。
もちろん――
トイレは洋式だ^^
しかも、
ウォシュレット付き(小声)。
思わず、小声になるほど機能性が高い家だ。
ウォシュレットだけではなく、家全体から無駄を排除し、機能性と機能美を追求されているのが、わかる。
まあ、未来に比べたら機能美はまだまだだが、ウチと比べると雲泥の差だ。
もちろん、ウチにもウチなりの良いところはある……。
……和式トイレ……とか……?
……機能美と過ごしやすさが比例するわけじゃない……。
そう、過ごしやすさは人それぞれだ。
アラタの前世の家は、未来の最新機器をふんだんに用いた家だったので、本音を言うと、どちらかというと九条家よりも見取家の方が好ましかった。
まあ、正直言って、
洋式トイレ>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>和式トイレ
この不等式は、覆らん。
未来でも、トイレは洋式から進化してない。
つまり、洋式トイレはトイレの終着点なのだ。
500年前から来た俺にとって和式トイレは、昭和の負の遺産でしかない。
住めば都は、俺には当てはまらなかった。
都は、見取家だった。
ま、この話は置いといて、
現代で言う、モダンな家ってやつが見取家のイメージだ。
そして、
現在、俺と愛美ちゃんは高床式のベットで本を読んでいる。
愛美ちゃんは、ベビーベッドではなくベットに寝ているのだ。
俺は、いまだベビーベッドなのに……。
しかも、自分の部屋をすでに持っているではないか。
この差は、どうして生まれるのだろうか。
妬ましい。 貧富の差が……恨めしい。
多分、ウチの父さんの年収は800万を超えているので、収入に差はない……はずなのに……。
ちなみに、父さんは人の良さと母さん同様、人たらしを持ってして30歳にして課長の座を有している。
そのため、毎日忙しいそうだ。
毎日、ありがとうございます。
(しかし、何故だろう。
なぜこんなに、差があるのだろうか)
どう考えても、綾香さんを雇っているからなのだが、それにアラタは気づかない。
九条家の年収の三割を綾香さんは得ている。
それも、そのはず。
九条家はブラック企業なのだ。
12時間以上の労働。
もちろん、休みの日などない。
365日、毎日出社だ。
しかも、ボーナスなどない。
だが、真っ黒な九条家にも利点は一応ある。
まず、アットホームすぎる職場。
そして、お子さんを職場で育てても可。
有給はないが、申告すればいつでも休める。
最後に、給料が高い。
これを聞いただけでグラつく人もいるだろう。
ブラックとホワイトを両立させているのが、九条家なのだ。
グレーなどない。
きっちり、ブラックな部分とホワイトな部分をわける。
それによって、メリット、デメリットを社員に吟味させることで「本人の了解を得ている」という最終兵器を所持している。
なんて、ブラック!
でも、ホワイト!
社員は、この思考にすでに捉えられている。
ただ、この企業には問題がある。
社員の労働によって、企業は儲けることは出来ない。
大問題だ。
社員の給料の全てを、社長が出している。
会社は、大赤字だ。
もちろん、得れるものもある。
それは、母さんの家事スキルだ。
それ以外はない。
元医師の母さんは、頭は良いのだが、家事に関しては苦手の域を通りこして、事故になっている。
ただ、最近は家事スキルMAXの綾香さんといるお陰で母さんの家事スキルのレベルも上がってきた。
でも、綾香さんいらずになるのは、もう少しあとになりそうだ。
話を戻そうとしてまた話が脱線してしまったので、話を戻そう。
現在、母さんたちは誕生日パーティーの準備をしているため、俺と愛美ちゃんは愛美ちゃんの部屋で待機中だ。
二人で、愛美ちゃんのベットで横になりながら本を読んでいる。
愛美ちゃんの部屋の本は、絵本が大半だった。
まあ、一才なので仕方ないが、本の内容が、つまらない……。
なので、俺は本を読むフリをして、横目で愛美ちゃんを眺めている。
かわよす (*´-`)
うへへへ、
うひょひょひょ、
ちゃんと、母親の遺伝子を受け継いでいるアラタ。
アラタに、母さんと同じことをしている自覚はない。
愛美ちゃんの顔は前までぽけーっとしていたが、本を読んでいるせいか凛々しい顔つきになってきた気がする。
綾香さん似の顔立ちになってきた。
ただ、性格はお父さん似なのか、綾香さんとは似てない。
無口で無表情、本ばかり読んでいる。
本を読んでいるときは、いつもより若干表情が明るい。
それに、凛とした顔をしている。
現に今も俺の横で、そんな顔をしながら本の虫と化している。
そんな愛美ちゃんを見て、
将来、愛美ちゃんは清楚美人になりそうだなぁ、と
俺は思っていた。
愛美ちゃんの将来かぁー、
歩きながら、本読んだり、ご飯食べながら、本読んだり、ベットで寝てるときでさえも、本を読んでそうだ。
それで、本の趣味が合う人と付き合って、そのまま……。
そして「じゃね、あらた」って言うんだ……。
もう、涙腺崩壊しちゃうよ。゜(゜´Д`゜)゜。
愛美ちゃんが幸せなら良いけど、絶対に愛美ちゃんと付き合う奴は、俺の審査を通った者しか許さん^^
そんな悲しいことは考えず、今に感謝し、愛美ちゃんを愛でよう。
黒髪ショートで、サラサラとした髪。
子供特有の見ただけでわかるぷにぷにのほっぺ。
クリクリとした目。
ほんのりピンク色の唇。
真剣に絵本を読んでいる表情。
普段は無愛想で無表情だが、時折見せるにへらっとした笑い。
自慢したいときに、見せる「むふぅ」としたドヤ顔。
怒ったときに見せる「すん」とした拗ねた顔。
見ているだけで幸せになる。
この全てに感謝します。神よ……。
俺は、神に感謝を込めてお祈りする。
そんなことをしているうちに、パーティーの準備が終わる。
母さんが呼びにきた。
最近、愛美ちゃんを眺めていると時間が溶けるな。
脳がバンバン刺激されているせいか、暇を全く感じない。
愛美ちゃんを見たいるだけで、脳の成長を感じる。
愛美ちゃんが課金アイテムさながらの効果を発揮するため、もう元には戻れない。
俺はそんなことをかんがえながら、愛美ちゃんとリビングに歩いて向かう。
俺の身長だとまだドアノブの方が高いので、腕を上に伸ばしドアノブに掴まり、
ガチャ、
リビングのドアを開ける。
パパンッ、パァン、パァン。
いくつものクラッカーが爆ける音と共に紙ふぶきが舞う。
そして、
「「「「「誕生日、おめでとーーーーーーー!!」」」」」
母さん、父さん、綾香さん、利憲さん。
そして、愛美ちゃんのおじいちゃん、おばあちゃん。
全員が、お祝いの言葉を口にする。
(なんて、リアクションしていいかわからなくなるな、泣いておくべきだろうか)
こうなるのは、わかっていたので心の準備はしていたつもりだったアラタだったが、いざ祝われてみるとリアクションのとり方に迷ってしまう。
ここ二、三日、誕生日パーティーのためにドタバタしていたのは知っている。
(みんなの頑張りに、報いたいな)
そんなことを考えていると、
パァン、
クラッカーの大きな音と共に俺の目の前に紙ふぶきが舞う。
そして、
「あらた、おめでとぉ」
舌足らずながらも、愛美ちゃんがお祝いの言葉が言ってくれた。
嬉しさでほほが緩んむ。
そして自然と「ありがとう」と微笑みながら感謝の気持ちを伝えた。
愛美ちゃんも俺の反応を見て、満足そうに顔をほころばしている。
ブフッーーーーーーーッ! と綾香さんが鼻血を吹き出し、倒れた。
今日も今日とて、綾香さんは鼻血を噴く。
今日は、よそ様の家なので、母さんのうひょーが炸裂する機会は失われた。
しかし、母さんのほほはピクピクしている。
(母さん、ほほがピクピク動いちゃってるよ)
隠そうとも、隠しきれていない。
でも、よかった。 父さんがアレを見なくて済んで。
母さんのアレは驚きを通り越して、トラウマになるからな。
母さんのイメージは、アレによって破壊され、俺の脳も破壊された。
何が母さんを、そこまでさせるのか俺には理解できなかった。俺がこの世で理解できない初めてのモノかもしれない。
あのぽわぽわした雰囲気と普段は見せないクールで凛とした一面を見せる母さんは、ドコに行ってしまったんだ……。
鼻血を出してダウンした綾香さんに旦那さんの利憲さんが助けに入る。
利憲さんに抱きかかえられて、しばらくした頃。
綾香さんが復活して、スッと立ち上がり「ご心配をおかけしました、もう大丈夫です」と言っている。
「綾香さん、鼻血出てるよ……(残念な人を見る目)」
俺が注意してあげると、シュタッとすぐさま鼻にティッシュを詰め、止血する。
綾香さんは、なんでこんなに残念な人になってしまったのだらうか。コレも俺が理解できないモノの一つだ。
人たらしの母さんの攻撃にも耐える真面目なあの綾香さんは、どこに行ってしまったんだろう……。
◇
綾香さんの鼻血が止まってしばらく経った頃。
俺たちは、ご馳走を食べていた。
だいぶ前に離乳食をやめ、俺と愛美ちゃんは普通の食事をとっていた。
初めて大人が食べている食べ物を食べた愛美ちゃんは、感動のあまり無我夢中で、食べていた。
そして、今も
初めてのご馳走に、無言で食べていた。
今日は、綾香さんと母さんが腕によりをかけて、作ってくれた料理でいっぱいだ。
しかも、幼い俺たちがどれだけ食べても胃もたれしないように、料理をしてくれている。
俺も、あまりの美味しさに感動していた。
(う、美味い! どれもこれも、うますぎる!)
ガツガツと、俺たち子供組が食べる様子を大人は見て、嬉しそうだ。
特に、母さんと綾香さんは嬉しそうにしている。
「あー、美味しかったぁ」
「おいしかった」
滅多に「美味しい」と言わない愛美ちゃんも今日の料理は満足したみたいだ。
「うふふ、それは良かったわ」
「腕によりをかけた意味がありました」
母さんと綾香さんは、ご機嫌顔だ。
「じゃあ、デザートのケーキを持ってくるわね」
「私も手伝わせていただきます」
ご機嫌な母さんと綾香さんは、そう言ってキッチンに向かう。
デ、デザート! じゅるり、
お腹いっぱい食べて、もう食べれないと思っていたのに、よだれが出てくる。
「でじゃーと?」
愛美ちゃんは、デザートが何かわかっていないので何が出てくるのか不思議そうな顔をしている。
「愛美ちゃん、お菓子のことだよ」
「おかし?」
そうか、お菓子も食べたことがないから、わからないのか。
どうやって説明しよう……。
俺が悩んでいると、愛美ちゃんのお父さんの利憲さんが助け船を出してくれた。
「愛美、あまーい食べ物で美味しいんだ」
「あみゃいの!!」
「うん、甘いよ」
利憲さんの説明を聞いた愛美ちゃんは、口からよだれが垂れていた。
そんな会話をしていると、
母さんがろうそくのついたケーキを持って来てくれた。
縦長のろうそくは2本しかたっていないが「2」と形作られた大きなろうそくがケーキの上で火を灯していた。
綾香さんが部屋の電気を暗くしてくれたお陰で、凄く雰囲気がある。
母さんが暗い中、火を灯したケーキを持ってくる途中。
あの曲が流れる。
「「「「「ハッピーバースデートゥユー、ハッピーバースデートゥユー
――そう、Happy birthday to youだ。
ハッピーデイ、デア、アラタ〜〜♪♪ ハッピーバースデートゥユーーー
ふぅー、と、ろうそくの火を消す。
……あらたーー! おめでとーー!」」」」」
俺が息を吹きかけ、ろうそくの火を消すと、全員から祝言をもらった。
愛美ちゃんも、練習したみたいで途中から一緒に歌ってた。
愛美ちゃんが、俺のために練習してくれたことや、
こんなにも、祝ってくれる人がいることに、
自然と筋肉が緩み、口角が上がる。
ありがと、と短くお礼を言い、
愛美ちゃんがもう我慢できそうにないので「ケーキ、食べようか」と微笑みながら言う。
「うん、食べりゅ」と平静を保とうとする愛美ちゃんだが、口元はケーキを前に緩んでしまっている。
その姿は、綾香さんに非常に似ていた。
それを見ていた、利憲さんが「愛美は、性格もあやちゃん似だね」と笑っていた。
綾香さんと愛美ちゃんを除いた全員が、笑って確かにと頷いた。
綾香さんは「そうでしょうか?」と疑問を口にしていたが、ほんとうによく似ている。
みんなで、笑っていると愛美ちゃんが、
「むぅー、ケーキ」
と、ゴネ始めたのでみんなでケーキを取り分け、食べることにした。
ケーキを前に、目を輝かせる愛美ちゃん。
ケーキをよそってらもらう前から子供用のホークを握ってスタンバイしていた。
愛美ちゃんが、ケーキにぶすりとホークを刺し、崩れて小さくなったケーキを食べる。
「ーーーーーッ! んーん、んんッ!」
ケーキを指差し、何かを伝えてようとする愛美ちゃん。
興奮していて、何を言っているかはわからないが、言いないことはわかった。
俺も愛美ちゃんに続いて、ケーキをキレイに切り、ホークで食す。
口の中に、生クリームの強烈な甘みとイチゴの甘酸っぱさが広がる。
滑らかな生クリーム。 スポンジは、ふんわり。
おっきいイチゴ。
イチゴのつぶつぶを潰すたびに口の中が心地いい。
これが口の中で順番にくる。
生クリームとふんわりスポンジ、そして最後に甘酸っぱいイチゴ。
最高だ……。
イチゴがあることで、口がサッパリして
また、ケーキを食べたくなる。
コレを、愛美ちゃんは伝えたかったのか……。
俺は、愛美ちゃんの言いたかったことを代わりにケーキ製作者の母さんと綾香さんに伝える。
「これ……うまいよ…(小声)」
人は、本当に美味いものを食うと小声になるのだろうか。
まあ、要するにそう言うことなので良いだろう。
俺と愛美ちゃんのリアクションを堪能した、大人たちはケーキを食べ始める。
みな口々に、おいしー! と口にした。
そんな姿を見ていると、俺のケーキがいつの間にか無くなっていた。
(……アレッ!? 俺のケーキがない! もう食べ切っちまったのか……)
俺は、自身の皿に新たにケーキをよそるべく、残ったケーキに目を向ける。
(んん!!!? ケーキがない! 皿ごと!)
さっきまで3分の1は残っていたケーキが、突如として無くなったのだ。
大人たちが取ってしまったのか、と思い、皿を見るが、大人たちの皿は、空だった。
それに、大人たちは、まだ美味しいわねー、と喋っていた。
――と、いうことは……。
俺は、愛美ちゃんの方を見る。
元々の三分の一ほどのケーキが、皿ごと愛美ちゃんの元にある。
俺は、一応で愛美ちゃんに確認をとる。
「まなみちゃん、それ……食べきれそう……?」
コクリ、
返事は早かった。
デザートの前に俺と愛美ちゃんは大量のご馳走を食べた、と思っていたが、俺の勘違いだったようだ。
あんだけ食べた後に、ホールケーキの三分の一も食べたら吐くどころじゃ、すたないもんな。
普通、お腹が爆発する。
もし食べれるのなら、別腹の次元を超えている。
三次元を超えて、四次元に突入している。
100年かけて開発されたワープの技術は、ココにあったことになる。
そんなことを言っている内に、
ホールケーキは、全て愛美ちゃんの胃の中に入ってしまった。
満足そうな顔をする愛美ちゃん。
よくその小さな体に、あの大きなケーキが入るもんだ。
ほんとうに、胃が四次元ポケットにでもなっているんじゃないだろうか。




