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第六話 「混沌は続くどこまでも」


「…………」(ジィー)


「…………あ、あう、あう。 あ、あう………」


 母さんに、発音練習を目撃された俺は、誤魔化すように声を発する。


(か、完全にバレた……もう、誤魔化せないくらいに…)


「…………」


「…………(大量の汗)」


 

 俺も母さんも固まったまま、お互い見つめ合う。


 俺が大量の冷や汗をかいていると、


 母さんの顔が、口角が上がり始める。


(え、なんでニヤニヤしてんの? こ、怖いよ?)


 母さんの口角が、完全に上がり切り、ニンマリとした口とニヤニヤとした目で俺を見てくる。


 そして、母さんがついに口を開く。


(くっ、くるのかッ)


 何が母さんの口から発せられるか、わからないが、思わず身構えてしまう。



「あらた、もしかして、この本読み上げてたの?」


 母さんが、自身の近くに落ちている本を拾い上げ、優しい声で、そう言う。


 口元は、ニヤついているのを抑えようとするが、ピクピクと口が動いてしまっているのがわかる。


 

 なんか、嬉しそうだな…。


 本当は、母さんと綾香さんの会話を再現してただけど…。


 あれ? 本読めるって、そっちの方がやばくない?



 

(これは、反応しないのが、正解ではないだろうか……)



 


 そう考えるが、母さんが嬉しそうにする姿に、なぜか嘘をつきたくなかった俺は……。



 

――コクリ、


 俺は、首を縦に振ってしまう。


 その瞬間、


「きゃー! やっぱりウチの子は天才だったんだわ!」


 母さんが嬉しそうに、悲鳴を上げる。


(あれ? 思ってた反応と違うな……) 


 予想とは、違った反応を示す母の姿に困惑してしまう。



 きゃー、きゃー、と嬉しそうな悲鳴を聞きつけた父さんがドタドタと2階から駆けつけてくる。



「何事だ! うおあっ……」



 2回から急いで階段を降りてきた父さんに、母さんが飛びついた。


「あなた! やっぱりウチの子は天才だったのよ!」


「ん? あぁ、そうだろう…な…?」


 上手いこと状況を飲み込めない父さんは、生返事をする。


「ちょっと、誠さん! 適当に流さないで、聞いてちょうだい!」


「ご、ごめんよ、なんで、そんなに驚いてるんだい?」


 母さんの勢いに気押されてしまう父さん。



「あらたが、しゃべったの!!」


「えぇ! そうなのかい!」


(この会話だけで、なんか親馬鹿度がわかるな)


 子供を持ったことのないアラタにとっては、子供がしゃべるのは当たり前だろう。


 何故そんなに喜ぶんだ。


 親が子供の成長を喜ぶのは普通なのだが、喜ばれる側に立つと、疑問を感じてしまうアラタ。


 そんなに喜ばなくても……。


 両親の会話を聞き、ふとそう思ってしまう。



 




 母さんに、発音練習がバレてから数時間後。



 俺はというと、


 げっそりとしていた。



 あの後、母さんと父さん主催の撮影会(俺の)が行われて、めっちゃ撮られた(事後)。



 もう、お嫁にいけない!



 パパ、ママと何回も呼ばさせられて、同じ絵本を父さんと一緒に読ませられた。


 そんなことをしていたせいで、父さんは会社に遅刻しそうになっていた。


 俺が言わなかったら、確実に遅刻してたな。



(確か、前もこんなことあったな。

 俺がハイハイとかトイレができるようになったときだ)


 あの時も、めっちゃ撮られたな、と思うアラタ。


 俺が和式に跨って立ち糞してる写真と動画がどれだけあるのだろうか、知りたくもない。


 あれは流石に羞恥心が復活したな。


 この身体になってからは羞恥心を捨てた、と思っていたアラタだったが、まだ完全には捨てきれていなかったみたいだ。


 


 母さんたちが、素直に喜んでくれたのは前回のトイレなどのお陰だな。 


 前々から、親とのコミュニケーションは、うめき声でトイレやご飯などのときに、とっていたので、

 

 ウチの人は、一歳の子が喋り、意思疎通できることに疑問を抱かなかったみたいだ。



 ピンポーン、


 インターホンの音が家に響く。


 はーい、と母さんがインターホンに出る。

 そして、その足でそのまま玄関にいく。


 ガラガラ、


 玄関のドアが開く音が、俺のいるリビングまで聞こえる。


 ちなみに、俺の家のドアは引き戸で、ガラガラと毎回やかましい音を出す。


 防犯には、もってこいだ^^


 うるさい音もご愛嬌って感じだ。



「おはようございます、秋子様」


 綾香さんの挨拶が玄関から聞こえてくる。


 まだ、母さんの名前の後ろに「様」がついているが、前は奥様だったので、だいぶ綾香さんにしては砕けてきた方だ。


 一年以上の付き合いだが、まだ真面目な綾香さんは緩まない。

 綾香さんは、チョロくはないのだ。


 人たらしの母さんと毎日一緒にいて、未だにキッチリとできる人は、この人くらいだろう。



 ガチャ、


 リビングのドアが開き、綾香さんと抱えられた愛美ちゃんが入ってくるのが、ベビーベッド柵の隙間から見えた。


「あらた様、おはようございます」

「……………」


 ベビーベッドから俺が綾香さんたちを見ているのに気づいた綾香さんと愛美ちゃんが、挨拶してくれた。

 正確には、綾香さんだけ。


「……あう……」


 俺も挨拶し返す。


「あらた〜、こう言うときは、おはよーって言うのよ」


「……………」


 いや、一才ちょっとの子が「おはよう」とか言ってたら怖いからね、そこら辺わかってらっしゃいます?


 にっこり、


 あ、わかってないわ。


 綾香さんに自慢したいんだろうな。


 ドン引かれそうだけど……。


「ほら、絵本のときみたいに 私に続いて、

 おーはーよーう」


「……おーは、よう……」


 母さんの後に続いて少し口ごもりながらも、挨拶をする。


 えらいわねぇー、あらたー、と母さんに頭を撫でられる精神年齢500歳。


 こんな事で一々なでなで、すんなやぁ(*´Д`*)




 じぃーーーー、っと視線を横から感じる。



 ハッ、


 綾香さんたちがいたんだった!


 嬉しそうに撫でられている姿を見られ、羞恥心が呼び起こされる。


 くっそー、人の前でなでなでしやがって!(八つ当たり)


 心の中で母さんに八つ当たりをしつつ、綾香さんたちを見る。


 綾香さんは、す、すごいのですね……、と言って、ちょっと引いている。


 俺と顔を合わせてくれない。


 俺がトイレを一人でしているのを見られたときと同じ反応だ。


 一方で、愛美ちゃんは、


 相変わらず、俺を凝視している。


 さっき感じた視線は、愛美ちゃんだったか。


 

 じぃーーーー、


 母さんになでなでされる俺をじっと見ている。


 なぜか、急になんとも言えない羞恥心に襲われた。


 顔が赤くなり、


 その赤みは、耳まで達する。


 カァ、と恥ずかしさから、赤くなった俺は頭を撫で続ける母さんの手を掴み、自身の頭からどける。



「あら、なでなでは、いやだったかしら?」


 母さんがそう言う。


 俺は、謎の恥ずかしさから、黙ってしまった。


 俺の耳が赤いのを見て、何か察した母さんは、ははーん、と何か意味ありげな声を上げた。


「あらたは、成長が早いのねぇ」


 何か、しみじみとしている母さん。


(? 俺の体は、普通の子と同じくらいだと思っていたが、少し成長が早いのだろうか?)


 母の発言を、そのままの意味でとってしまうアラタ。


 やはり、母である秋子の察しの悪さは、ちゃんとアラタに引き継がれていたのであった。



 




 

 

 母さんと綾香さんは、家事に取り掛かり、俺と愛美ちゃんは普段通り、ご飯とトイレ、睡眠をとっていた。


 ちなみに、ご飯はもう離乳食だ。


 やっっっと、俺は、ミルクから解き放たれた。


 最近は、別になんの感情も湧かなかったが、ミルクか離乳食かを選択できるなら、俺は離乳食を選ぶ。


 もちろん、愛美ちゃんも離乳食だ。


 初めは、今までと違う食べ物に戸惑っていたが、


 そこは流石、(大食い)女王。


 ミルクとはまた違った味を体験して、


 自分の分を食べ終わり、俺の離乳食を欲していた。


 俺は、愛美ちゃんに自身の離乳食を「あーん」してあげ、新たに離乳食を貰った。


 愛美ちゃんは、綾香さんに叱られていたが、俺があーんをするので、全く聞いていなかった。


 流石、大食い女王と言わざるおえなかった。


 この子は、大物になるな(親バカ)。


 


 そんな普段通りの生活を送る俺は今、新たな挑戦をしている。

 

 それは――


 ハイハイからの脱却。


 つまり、歩行だ。


 生まれてから一年と数ヶ月が経った俺は、今日歩く。


 赤ちゃんは、一年で大体が歩けるようになるだろ、だって?


 その通り(エグザクトリー)


 では、なぜ俺は歩かなかったのか。


 もちろんそんなの決まってる、愛美ちゃんの安全のためだ。


 俺が歩けるようになれば、愛美ちゃんは真似っこをして歩こうとするだろう。

 俺は前世の記憶もあり、二足歩行などお茶の子さいさいだ。


 だが、愛美ちゃんはどうだろう。


 まだ、生まれてたったの一年ちょっとしか経ってない。


 ハイハイや、立つのはすぐできても、歩くことが出来るとはすぐ歩けるようになるとは、限らない。


 しかし、いつまでもハイハイでいる訳にもいかない。


 そこで、俺が行き着いたのが、


 歩けるくらいの筋力になってからの挑戦だ。



 探検は毎日行っていたので、ハイハイや立つ動作で、背筋やバランス感覚は身についてきた。


 ここまですれば、大丈夫だろう。


 本音を言えば、怪我をして欲しくないので、もっとハイハイと立つ練習をしてほしいが、そんなことを言っていると歩けないまま、2才になりかねない。



 俺も、心の準備が出来た。

 今日は、母さんと綾香さんにもスタンバって貰ってる。



 今朝は、少しトラブルはあったが、愛美ちゃんの今日の調子が過去一なので、


 やるなら、今日しかない。



 いつも手を握って一緒に寝ているので、基本的にベッドで横に並んで横になっているときは、手を繋いでいる。


 愛美ちゃんの意識をこちらに向けるために、手をにぎにぎして、呼びかける。

 

「まなみちゃん、おれのうぎょきを、よくみてちぇね」


 愛美ちゃんに呼びかけ、手を離し、柵につかまりながら立ち、そのまま柵を掴み、てくてくと歩き始める。


 ベビーベッド内で、二、三歩あるき、くるっと反転して再び、二、三歩あるく。


 元の位置に戻ったところで、愛美ちゃんを見る。



 すると、愛美ちゃんは興味深々といった感じで、目をキラキラとさせていた。


「まなみぃちゃんも、やってみりゅ?」


「あい!」


 たぶん、俺の言っている意味はわかっていないだろうが、普段は滅多に出さない大声を出し、返事をしてくれた。


 愛美ちゃんが、ベビーベッドの柵に掴まり、立つ。


 このとき、俺はドッキドキだった。

 普段も愛美ちゃんが怪我しないように注意しているが、今日は普段以上に注意しているせいか、ド緊張している。


(だ、大丈夫、?)


 そのまま、愛美ちゃんは柵を掴みながら、歩き始める。


 俺の心臓は、バクバクと音をたてる。


 一歩。


 また、一歩。


 とて、とて、と


 愛美ちゃんが一歩ずつ歩く。


 三歩あるいたところで、くるっと体を反転させ。


 また、一歩ずつあるく。



 俺は、いつでも支えられるように待機している。



 再び、三歩あるき元の位置に戻った愛美ちゃんは、にへらっと、笑い、こちらを見てくる。



 俺は、緊張していたせいか、いつもの様に「きゃわいぃいいいいいいい!」などとは言わず、ホッと息を吐く。


 

 緊張の糸が切れ、俺が油断しているとき。


 愛美ちゃんが――まさかの行動に出る。


 

 柵に掴まらず、歩き始めたのだ。


 ベビーベッド内なので、転んでも大丈夫ではあるが、柵などに頭をぶつけたりしたら、と思うと、俺はじっとしていられなかった。



 俺の方に、歩き始めた愛美ちゃんの元にすぐさまよる。


 あぶない!!


 愛美ちゃんが、ベビーベッドのシーツに躓いてしまった。


 あらかじめ、近づいていたため、愛美ちゃんが転ぶ前に、助けに入れた。



 ぱふっと、俺の胸に顔をうずめる愛美ちゃん。


 あっぶねぇー、はぁ、よかったぁ。

 このときだけは、この豊満ボディーに感謝だな。


 慌てて助けに入ったせいで、愛美ちゃんを抱き上げるような感じなってしまった。


 抱き着くような形となっている幼女(まなみちゃん)が見上げてくる。


 幼女(まなみちゃん)は俺の顔を確認するとひしっと抱き着いてきて、胸に顔をうずめてぐりぐりした後、もう一度見上げてにへらと笑いかけてくる。

 











――パァーーーーーーーーーーーッ(天界への道が開く音)










 ^^




 胸に、感じる温かみを抱いたまま、俺は消滅――


  






 


 

 ――は、しねぇええええええええええええッッ!!



 なんとか、気合いと根性で意識を食い止めることに成功した。


 一旦、愛美ちゃんを下さねば逝けぬ。


 なぜか逝くこと前提に話しているアラタだが、そこに疑問は持たない。


 俺が抱きかかけている愛美ちゃんを下ろそうとするが、出来ない。



 なぜなら、


 愛美ちゃんが、離してくれないからだ。


 うへへ、はなしてくれにゃいなー、困っちゃうよー。


 口角が自然と上がる。


 喜びを隠しきれないアラタ。


 そんな主人を、主人の脳(アラタの中)から見ていたアリシアは、ガチでコイツ、ベビコンだな、と思っていた。

 

 ん? なんか聞こえた?


 まあ、どうでも良いやー、うへへ。



 白い肌をしたぷにぷにの両手でガッチリと俺をだいしゅきホールドしている。


 あ、やばい……鼻血でそう。



 感動のあまり、鼻から血がでそうになる俺。


 決して、興奮からの血ではない。


 感涙ならぬ感吐血だ。


 

 このまま、鼻血を出すと、愛美ちゃんにかかるため、顔を上に向ける。



 すると、愛美ちゃんが胸に顔をぐりぐり押し付けてきた。


 


 鼻から血が飛び出そうになる。


 まずい、このままだと天使にかかる……。


 おれは、天を仰ぐのは意味がない、と気づき、横を向き完全に鼻血の発射口を愛美ちゃんから離す――






 パシャ、パシャ、


 カメラのシャッター音がする。


 横を向くと、


 よだれを垂らしながら写真を撮る母さんと、すでに鼻血を流している綾香さんがいた。



 え、なにやってんの?(真顔)



 さっきまでの興奮は、一瞬で冷め、真顔になる。


 母さんは、うへへ、と言いながらカメラで俺たちを撮り、その後ろで、真顔のまま鼻血を垂らしている綾香さん。


 え、まじなにやってんの?(真顔)


 

 その場は、混沌(カオス)だった。


「うへへへへへへへ(涎ダラダラ)」


「………………………(鼻血ダラダラ)」


「………………………(頭ぐりぐり)」


「………………………(真顔)」


 え? なにこの状況……?









 しばらくして、俺は母さんたちがいるのは、俺が頼んだからだったのを思い出した。


 そうだった、俺がスタンバって貰ったんだ。


 冷静になった俺は、母さんたちがココにいる理由を思い出す。

 焦りすぎて、普通に忘れてたわ。

 カメラで撮ってたのは、知らなかったが。




 ちなみに、まだ混沌(カオス)な状況は続いている。


 うへへ、鼻血、ぐりぐり、


 そして、真顔な俺。


 

 一旦、母さんたちは放置しよう。


 鼻血も母さんたちのお陰で収まったので、愛美ちゃんを見る。


 また幼女(まなみちゃん)は俺の顔を確認するとひしっと抱き着いてきて、胸に顔をうずめてぐりぐりした後、もう一度見上げてにへらと笑いかけてくる。





  ^^ 愛美ちゃんの笑顔は、いずれガンにも効く。





 その瞬間、ブフッーーーーーッ! と綾香さんが鼻血を勢いよく吹き出した。


 母さんは、ダラダラとよだれを垂らし、うひょーー、と言いながらカメラをパシャパシャ撮っている。



 

 床で、ピクピクと痙攣しながら鼻血を流す綾香さん。


 うひょーーー、とキャラ崩壊も良いところの母さん。

 あの、ほのぼの&クールキャラの母さんはもういない。


 いるのは、うひょーー、と興奮しながら激写する変態だけ。


 どんなに母さんに感動することを言われても、一生コレを思い出すだろうな、と近い未来に絶望するアラタ。


 そして、


 にへらっと起爆剤を投下し、アラタの体温で眠気を誘われ、寝ている愛美ちゃん。


 

 混沌(カオス)は続く………。







 


 





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