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第五話 「本と発音練習」


 生まれてから一歳と数ヶ月が経った。


 現在、ハイハイを習得した俺と愛美ちゃんは、家の探索を行っていた。


 愛美ちゃんは、元々連れてくるつもりはなかったんだけど、勝手についてくるので、最近は二人で探索している。


 もちろん、愛美ちゃんの安全は第一に考えている。


 愛美ちゃんは、ベビーベッドを出た後に、そこら中に行くのではなく、俺の後ろを素直についてきてくれる。


 多分、ベビーベッドを出るのも、家の探索をするのも、俺の真似っこをしているだけなのだろう。


 話は変わるが、なぜ家の探索を行なっているかと言うと。


 この世界が、仮想世界でないことの確認と、仮想世界である確率を下げるためだ。


 前にも言った通り、過去を再現しようとした仮想現実は、粗がどこかに出てしまう。


 それは、行動エリアの限定、人の性格、本の内容、などの細かいところだ。



 物理法則的なことは基本、現実と変わらない。



 俺も実際に、前世では実験などは現実の物理法則を完全に再現した仮想現実で行なっていた。



 だから、現実と仮想の差は、あまり出ることはない。


 だからこそ、目立つ詳細(ディテール)


 必ず、そこに違和感を感じる。


 逆に言えば、俺はその違和感さえ見つければ良い。


 

 そんな事を考えていると、


 目的地の本棚に到着だ。


 俺は、棚の一番下にある本を引っ張り出す。

 

 そして、本の内容を確認する。


 時代にあった話か、内容の矛盾、それらから生じる違和感に注意しながら。



 

 俺が必死に内容を確認する一方で、

 愛美ちゃんは、というと、

 

 俺の真似っこをして、本を引っ張り出し、広げ、ページをペラペラとめくって遊んでいる。


(あれは、遊びになっているのだろうか)

 

 ふと、疑問に思ってしまう俺だが、本の内容確認に再び意識を向ける。


 

 




 ベビーベッド。


 俺たちのベビーベッドは、床に布団をひいて、その上から柵で四方を囲うような形になっている。


 そのため、柵を越えても、そこまでの高さはない。


 だから、安全&簡単に抜け出せる。


 俺だけなら、これで良かった。


 その方が良かったのだが、


 現在、俺は愛美ちゃんと一緒に寝ているため、


 愛美ちゃんが、勝手にベビーベッドから抜け出さないか監視しなければならない。


 しかし、


 寝ている時は、さすがの俺でも無理だ。


『さすがの俺でも……ぷっ、笑笑、自己評価高杉www』


 アリシアの声が、聞こえてくる気がする。


 空耳、空耳、といつも通りに流しつつ、頭の中で「今度おんなじように空耳が聞こえたらアリシアとは別の人工知能でも用意しようかな」と考える。


『……………………』


 声が、聞こえなくなり静かになる。


 ヨシッ、と今度からコレでいこう、と頷くアラタ。




 話を戻すけど、


 愛美ちゃんの安全のために、俺も一緒にいる時は起きていたいが、幼児期の体にそれは無理な話で、どうしても眠くなるし、意識が強制シャットダウンさせられる。



 そこで、俺が考えたのが、愛美ちゃんの服を掴むことだ。


 寝てたら、寝る前に掴んでても手を離しちゃうでしょうが、と言われたかねないので、言っておく。


(安心しろ死んでも、この手は離さない)(イケボ)


 イケボは、全てを救う……。


『……………』


 ちょくちょく出てくる空耳(アリシア)が何か言いたげにしてそうだが、さっきのが効いたみたいだ。


 まあ、冗談はさておき。


 俺の真似っこ大好き愛美ちゃんが、コレを真似しないわけない。


 俺が、愛美ちゃんの服を掴む。


 それに気づいた愛美ちゃんが、俺の服を掴む。


 ふふふ、俺、天才だな……。



 俺は、早速実践する。


 さっき、探索から帰ってきたばかりなので、まだ起きている愛美ちゃん。


 その愛美ちゃんの服をキュッと掴む。


「……………」(じぃーー)


 掴まれたことに気づいた愛美ちゃんが、俺を無言で見つめてくる。



「……………」(ニカッ)


「……………」(じぃーー)


 愛美ちゃんとじっと目に耐えられなくなった俺は、ニカッと笑顔で返す。

 母さんと父さんにめちゃウケの笑顔だ。


「……………」(じぃーー)


「……………」(プルプル)


「……………」(じぃーーー)


「……………」(ガクガク)


「……………」(じぃーーーーー)

 

「……………」(ガチガチ)


 渾身の笑顔を、無視されるについて、俺の顔の筋肉がプルプルしてきて、次第にカグガクと痙攣し、最後には筋肉の痙攣によって上下の歯が当たりガチガチと音がなる。


 引き攣る笑顔とじっと目の闘いがいま、ここに起こった。


「……………」(じぃーーーーーーーーーーーーーーー)


「……………」(がくっ)


 勝敗は、一瞬でついてしまった。


 ミス・愛美の勝利で、勝負は終わった。


 

 どうやら、俺の渾身の笑顔が通じるのは、両親だけみたいだ。

 

 俺は、愛美ちゃんの服から手を離す。


(全ッ然、真似しねぇじゃねぇかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!)


 自身のガバガバ天才理論が通じず、思わず心の中で叫んでしまうアラタ。


(ま、まさか、俺の計画(プラン)に穴があっただと……)


 真理に辿り着くアラタだが、そんな訳はないと首を振る。


(いや、そんな訳ない。

 生きる伝説、現代に生きる偉人、人類史上最も天才だと思う人100年間ナンバーワンの俺の計画に、穴があるはずが。

 そ、そうか!! 俺の天才っぷりに嫉妬した余剰次元の住人()が、邪魔してるんだ!!)


 まさかの結論に、行き着く、自称天才。


(くそがぁ!! 嫉妬に溺れた狂人がッ!!)


 八つ当たりに近い暴言に晒される神。


(ッ! 落ち着け、落ち着け、俺は賢い(クレバー)、俺は賢い(クレバー)……。


 ――ふぅー、だいぶ落ち着いたな)


 ナルシスと、自身を褒め讃え、落ち着きを取り戻す。


(こういう時は、文句をいうべきじゃないな。

 敬い、崇め、(こうべ)を下げ、願うべきだ)


 俺は、心の中で神に願いを――。



(神よ、聞こえていますか……。

 今、あなたの心に話しかけています………◯ね)



 愛美ちゃんに、真似して貰えなかった絶望を、全て怒りに変換して、神にぶつかるアラタ。



(コレで、願いは通じたはずだ。

 も、もう一度、もう一度ためそう)


 初めの一回で、自信を損失しかけたアラタは、震える手で愛美ちゃんの服を、再び掴む。


「……………」(ニチャァ)


「……………」(じぃーーーーーー)


 自信を損失しかけたせいか、渾身の笑顔は、湿った粘着質なものが擦れ合うような音を出す。


「……………」(じぃーーーーーーーーー)


「……………(大量の汗)」


「……………」(じぃーーーーーーーーーーーー)


「……………(絶望)」


「……………」(じぃーーーーーーーーーーーーーーー)

 

「……………(頭に鳴り響く聖歌)」


 終わった、天使(まなみちゃん)に見放された……と、絶望するアラタに、お迎えの天使が見え始める。


 新たな天使の手を掴もうと、天使(まなみちゃん)の服を離すと、


 手を掴まれる。



 あぁ、本当に触れるお迎えだなぁ、などと思うアラタだが、目を開け、その手を見ると。


 その手は、横から伸びている。


 

 俺は驚いて、横をバッと向く。


 愛美ちゃんが俺の手を握っている。






 ズキューーーーーーーーーーン!!


 ズキュキューーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 パァーーーーーーーー……(昇天の音)


 昇天しかけると、愛美ちゃんが手をにぎにぎしてくる。


 ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!(消滅の音)


 魂がデトックスされすぎて、消えかけた俺はそのまま意識を失い、愛美ちゃんと手を繋ぎながら寝た。


 その後、その手を繋ぎ寝る姿を母さんと綾香さんに見られ、写真を撮られていたことを、アラタは知ることとなる。


 それは、数年後の話。



 




 見事、愛美ちゃんの安全を確保できた俺は、神に感謝を伝えていた。


 神よ、聞こえていますか……天使を、遣わして下さり、ありがとうございます……(泣)


 あまりの嬉しさと感謝の気持ちから涙が出てアラタ。


 よし、神様にも感謝を伝えれた。


 今日は、新たなことをやろうと思います!!


 愛美ちゃんとの手繋ぎによって、活力を得たアラタは、新たなことに挑戦しようとしていた。


 今日することはァアアアアアアア!!


 発音ッ練習です!!!


 今までは、喉が発達してなかったから、簡単な「あ」とか「う」とかしか発音出来なかったけど、声帯がある程度、発達した今なら!! 

 

 あ、う、からの卒業ができるゥウウウウウ!!

 

 ヤッフゥウウウウウーーーーー!!


 テンションが壊れたアラタは、声帯の発達を促進すべく、発音練習に手をつけ始めたのだった。

 


 ちなみに、俺の隣には、愛美ちゃんはいない。


 現在の時刻は、5:20なので、まだ愛美ちゃんも綾香さんもうちに来てない。

 どうでもいい情報として、うちの時計は5分ズレているので、正しい時刻は、5:25だ。

 

  



 ということで、本日は一人で発音練習をしてゆくぅ。


 母さんが、6時には起きてくるので、あと40分は練習できるな。


 40分、短いな。

 ま、慌てる必要はないか。


 では、初めに、と。


 いつも言っている「あ」を口に出す。


 そして、続けて、「ぃい、う、えぇ、おぉ」と発音する。


 ぉお! 結構、発音できる!!


 舌足らずな声だが、俺はだいぶ、発達している声帯に驚く。


 じゃあ、じゃんじゃん練習していこぉ!


「か、きぃ、くぅ、けぇ、こぉ。 さ、しぃ、すぅ、せぇ、そぉ。 た、ちぃ、つぅ、てぇ、とぉ。 な、にぃ、ぬぅ、ねぇ、のぉ。 は、ひぃ、ふぅ、へぇ、ほぉ。 ま、みぃ、むぅ、めぇ、もぉ。 や、いぃ、ゆぅ、ぃえ、よ。 ら、りぃ、るぅ、れぇ、ろぉ。 わ、をぉ、ん」


「よぉしぃ、だいぶぅ、はちゅおんできるようになっちぇるじょ」


 発音練習なので、思ったことをなるべく口に出すようにする。


「こにょ、ままつじゅ、ければ、あるてぇいじょ、までいけぇるじょ!」


 40分フルで練習をすれば、普通に喋れるくらいは出来るようになりそうだ。


「じゃぁ、こんどぉは、かあしゃんと、あやかしゃんのかいわのしゃいげんだ!」


 今日、盗み聞きしていた母さんと綾香さんの会話を、発音の練習としてやることを決めた俺。


 なぜ、会話を再現するかと言うと、脳の成長を促進させたいからだ。

 俺の脳は、普通の赤ちゃんよりも、成長が遅い。


 幼少期の脳は使えば、使うほど、脳の神経回路が成長する。


 なら、転生してる俺は有利じゃないかって?


 ノンノン。


 幼少期の脳を使うってのは、別に自分で思考することだけじゃない。


 幼少期の脳は、環境などの外部情報から刺激を受けて、自動的に成長するのだ。


 つまり、赤ちゃんは思考しなくても、何かの音を聞いたり、見たりするだけで勝手に脳が成長する。


 赤ちゃんにとって、この世界は不思議で溢れている。


 だから、脳が不思議を解析しようと働く。


 でも、俺の世界は、不思議じゃなく、当たり前で埋め尽くされている。


 だから、赤ちゃんとしてベビーベッドで寝ている時に、暇に感じてしまう。


 暇を感じる、ってことは、脳が働いてないわけだ。


 脳が働かない、もちろん脳は成長しない。


 そうなると、アリシアに今は思い出さないようにして貰ってる俺の膨大な記憶を、思い出すことが不可能になる可能性がある。

 アリシアにも、二度と会えなくなる。



 それは、なんとしても回避しなければならない。

 あ、アリシアは別にいいや。


(今、マスターの記憶を全部、思い出させてあげましょうか?)


(すみません! まじ、勘弁してください!! それやられると俺、死んじゃうんで!)


 アリシアからの脅迫を受けつつも、謝罪し回避する。


 ちゃちゃが、入ったな。

 話を戻そう。


 まあ、以上のことから、俺は脳を働かせるために、一人語りしたり、母さんたちの会話を記憶したりする。


 それと同時に、発音練習をして、喋れるようにもなろうって戦法だ。



 じゃあ、練習しようか。


「あきこしゃま、あらたしゃまが、あんにゃに、かしこいのは、にゃにか、してらっしゃるのですか。よろしければ、おしえてぇいただけないでしょうか。うちのまなみは、あらたしゃまに、なにんでも、やってもらおうと――」




 



 

 

 20分ほど練習したところ、分かったことがある。


 めちゃっ、覚えとる。


 気持ちぐらい、スラスラ記憶が鮮明に出てくる。


 前世では、脳をいじくって完全記憶できるようにしてたけど…。


 それと、同じような感じだ。


 赤ちゃんの脳って、スゲェー。


 頭の中で、母さんと綾香さんの会話が、動画として流れてる感じ。


 モチベ高まるわぁー。 もっと練習したくなるな。


 モチベーションが高まった俺は、より一層、練習に力を入れてやろう、と気合いを込める。









 はい、俺、バカでした。(唐突)



 いま、どうゆう状況かと、いうと。


 しゃべってるのを、母親に聞かれました。

 

 

 

 

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