第三話 「天使と新たな目標」
逆行転生してから数ヶ月後。
やっとハイハイくらいは出来るようになった俺は、家中を探索する。
視界もまだ少しボヤけているが、問題のないレベルだ。
今は、本を探している真っ最中。
母さんは2階の掃除をしている。
俺の家は、一軒家で、そこそこ広いので、掃除が大変そうだ。(他人事)
昔ながらの家だが俺は、かなり気に入っている。
この家は、父の父、つまり俺の祖父の家を継いだらしい。
父さんの祖父母は、どちらも他界しているので、家にはウチの家族しかいない。
ちなみに、母さんの祖父母は、どっちも健在らしい。(前世では一度も会ったことないけど)
昔ながらの家なので、家の床は、無垢フローリングのように木で出来ていて、壁は、土壁だ。
もちろん、トイレは和式だ。^^ニッコリ。
素晴らしい家だよな(遠い目)
住み慣れれば問題ないさ……多分。
(和式のトイレって、どうやってう◯こすんだっけ……?
確か、ミスると、パンツにう◯こが付くのは覚えてるんだけど、付くことは思い出せても、付かない方法がわからない……いっそ、下半身丸出しでするか……)
前世から数えれば、この家に住むのは450年ぶりなので、クソの仕方に不安を覚えてしまうアラタであった。
詳しい家の紹介は、後々するとして。
では、
そんな素晴らしい家に住む家族を紹介しよう。
父親の九条誠。
母親の九条秋子。
九条は、母さんの苗字だ。
父さんは、サラリーマンで。
母さんは、専業主婦だ。
二人とも、とても優しい。
底なしの善人だ。
善人オーラが全開だ。
二人の後ろに後光ように見えるのは、俺だけでは無いはずだ。
人が良さそうな顔をしていて、
少し、ぽわぽわとした雰囲気を持ち、
でも、ちゃんと自分のことを考えて厳しくしてくれる。
だから、人によく慕われる。
俺の尊敬する人は今でも、父さんと母さんだ。
これを話すと、大抵の人がファザコン、マザコンのダブコン野郎と思われるか、小学生で精神年齢が止まった人と勘違いされる。
これをテレビで話したときは、雑誌やニュースで「実は、アラタさんは、マザコンあんどファザコンだった!」と謎に騒がれた。
別に弁解しようとも思わなかったので、放って置いたら事実として一般に受け入れられてしまったので、さらに人は近づかなくなった。
その様子をみて、俺は「平和な世界だな〜」と思ってたくらいだ。
母さんも父さんも、ほんとうに優しく、尊敬できる人たちだ。
ただ、そんな親を見て育った俺だが、何故か親と同じ性格にはならなかった。
多分、自己犠牲の精神で自身の心身を削る親を、反面教師として育ってしまったのだろう。
それに、一人っ子だったこともあるだらう。
それも相まって、俺は少し我儘だ。
別に自覚は、ないんだけどな……。
アリシアに「ご主人様は、意地っ張りだし、我儘だ」と言われたことをよく覚えている…。
やっぱ、アリシアに感謝するのやめようかな。
だって、アイツ、主人である俺に対して、扱いが酷いんだよ。
今までに「ご主人様は、欲まみれのゴミです、ロリコンです、胸で人を判断する獣です、百合を見てニヤニヤする変態です、オタクの拗らせの極限です、人工知能にもっと優しくしろ」とか。
いや、ほんと酷いな。
こんなの全部、嘘じゃん。
そんな事を考えていると、
辺りが暗くなる……。
いや、俺が影に覆われただけだ。
(もぉおおおおおおおおおしわけぇえええええありませんでしたぁああああああああああああああああ!!す、全て!全て、事実でしたぁあああああああああああ!!)
咄嗟に、アリシアの亡霊が出たと思った俺は、謝罪をしてしまう。
………ん?
いや、待てよ……
……人影だ。
なんだ、ビビらずなよ……。
……んん?
母さんは、2階だったはず……じゃあ……後ろに立ってるコイツは……誰だ……?
アリシアではないことに気づき、ホッとするが、母親で
はない何者かがいると、瞬時に、察するアラタ。
アラタは、恐る恐る、後ろを振り返る。
「…………」
見知らぬ女性が立って、俺をじっと見ている。
(……誰?)
俺の脳裏に、誘拐犯の三文字が浮かぶ。
そう考えた瞬間、その女性が俺を抱き上げる。
(ヤバいッ、誘拐される!)
瞬時に、危機を感じた俺は、泣き声を上げ、母を呼ぶ。
「うぎぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああ!! うぎぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああ!!」
泣き声というか、叫び声を上げる俺を抱いている女性は、焦る様子もなく、母を待っているような素振りすらある。
(……あれ?)
その姿を見て、俺はうめき声を上げるのをやめ、じっと、その女性を見つめる。
「……………?」
「……………?」
お互いに首を傾げながら、不思議そうな顔をして見つめ合う。
女性の髪は、綺麗な黒髪で、顔はキリッとしている。
長い髪を後ろで結き、ポニーテールになってる。
綺麗な顔の人だなあ、などと考えていると。
2階から心配そうな顔をした母さんが駆け降りてきた。
「見取さん、お乳ですか?
凄い声でしたけど……」
「いえ……新おぼっちゃまがハイハイで何処かに行こうとしていらっしゃったので、ベットまでお連れしようかと……」
「もー、あらた、勝手に何処かに行こうとしちゃダメでしょ、ごめんなさいね見取さん」
「これも私の仕事ですので」
「ふふ、ありがとね」
「いえいえ」
(え? 結局、見取さんって誰? 前世でもあったことすらないんだけど……?)
「どうしたの、あらた? 気になる事でもあったかしら?」
「奥様、新おぼっちゃまが気になっているのは、私のことではないかと…」
「あ! そうね! そういえば、あらたにまだ紹介してなかったわね。
あらた、家政婦兼、ベビーシッターの見取綾香さんよ」
「今後、おぼっちゃまの身の回りのお世話をさせていただきます。見取綾香と申します。何ぞと、宜しくお願い致します」
顔にハテナマークをつけていた俺に母さんが紹介をし、見取さんが挨拶してくれた。
(見取綾香さんか……知らない名前だな……。
赤ちゃんの頃の記憶がないから知らないだけか?
それとも、バタフライ効果みたいに、俺の行動が過去を変え始めているのか?)
「見取さん、そんなに固くならないで、私やあらたのことは、奥様とかおぼっちゃまじゃなくて、呼び捨てにしていいのよ? ほら、秋子、あらたって呼んでみて」
「あう、あう」(呼んで下さい)
「ほら、あらたもよんでぇーって言ってるし」
(ドンピシャ)
「あう、あう、あう?」(あれ、通じてます?)
「ほら、また言ってる」(通じてない)
おぼっちゃまなんて、
ケツがむずむずするような呼び方は嫌なので、俺も母さんの後押しをするように、声をあげる。
しばらく、無言になった見取さんだったが、ふんす、と何か決心した様子になる。
「………………」(ごくり)
「………ごくり」
(母さん、口に出しちゃダメぇえええ)
………………30秒経過。
「…………」(ためが、長いと言いにくくなるやつな)
「…………」
「……あ、秋子…様……新様」
まだ、名前の後ろに様がついている。
そんなぎこちなく母さんと俺の名前を呼ぶ見取さんを見て、母さんと俺は微笑んだ。
「ふふ、よろしくね、綾香さん」
「あう、あう!」(よろしくです)
◾️
「そうだ、綾香さん、ひつこいようのだけども愛美ちゃんのお世話はいいの?」
「はい、両親と一緒に住んでいるので、大丈夫です」
会話の内容から推察すると、どうやら、見取さんも俺と一ヶ月違いのお子さんがいるようだ。
さらに、見取さんはうちの隣人だそうだ。
このとき、俺は「バタフライ効果って本当にあるんだなぁー」と関心していた。
俺の前世では、隣のうちに俺と同い年の子なんていなかったし、それに隣は空き地だったはずだ。
(いやー、俺の記憶力、すげ〜)ドヤドヤドヤ顔^^
「家も隣なんだし……あらたの良いお友達になれそうだし……」(じぃーー)
「そんな、ご厚意に甘えるわけには……………」
「……………」(じぃーー)
「……………」
「……………じぃーーー」
(母さんのそんな姿を見るなんてキツイおo(^o^)o)
アラサーがやることではないな、と思いつつ、俺は話に耳を傾ける。
「……わ、わかりました……ご厚意に甘えさせていただきます」
「わぁーーい!」
「あう、あう!」(ちょっと、俺の意見は!?)
「あらたも、嬉しいわよねぇー」
「あう、あうう、あう!!」(毎日泣いたりするから、やだッ!)
泣く赤ちゃんに睡眠や、思考の邪魔をされたらたまったものじゃない、と思い断るアラタ。
しかし、そんなことは、伝わることもなく。
「嬉しいの〜、よかっねぇーー」
「あうあう、あぅーあう、あう」(どうせ言っても通じないんでしょ、はぁーもう、好きにしてくれ)o(`ω´ )o
「どうせ言っても通じないんでしょ、もう好きにして?」
(通じた、!!)((((;゜Д゜)))))))
驚異の以心伝心というか、もはやテレパシーが起こったことに、驚いていると。
そんな、わけないわよねー(笑)と頬を突っつかれた。
(はぁ? なに笑ったんねんBBA☆!)(反抗期)
「あう、あうあう、うぅー!」(人権侵害だぁーー!)
よしよし、と俺の講義も虚しく頭を撫で撫でされる。
(クッソー、全然伝わらん、もういい!)( *`ω´)
むすーっとしていると、
「ふふ、うふふふふふふ、、、ふふふ」
見取さんが俺と母さんのやりとりを見て、笑いを堪えられず、お腹を抱えて、くすくすと笑い始めた。
母さんも、それにつられてニコニコと笑う。
そして、俺も――。
――笑わない。
(いや、俺、怒ってるからね?
和やかな雰囲気にして、誤魔化そうったってそうはいかないからね!?)
怒る俺を見て、さらに笑う二人を見て、俺はさらに怒る。
そして、二人が――。
笑いと怒りの無限ループやぁー(^ω^)
◾️
バンッと、鼻に強烈な一発をくらい、強制的に目を覚めさせられた。
あまりの痛さに、怒ってふて寝していた俺も流石に起きた。
(いてて、なんだ?)
目を開けると、目の前に、赤ちゃんの手。
その手の主を、探るべく、横を見る。
ベットで寝ていた俺の横には、
可愛らしい赤ちゃんが寝ている。
ちゅむ、ちゅむ、と指をしゃぶっている。
ズッキューーーーーーーーーーン!
特大のハートの矢が、俺の胸にぶっ刺さる。
(グワァァアアアアア! 撃たれたぁああ! ハートの矢が胸にぃ!!)
闇属性の俺を苦しめるほどの輝きを放つ、赤ちゃん。
瞼を閉じているが、瞼から目が大きいことがわかる。そして、ぷにぷにのほっぺ。
髪の毛、サラサラ。
むにゃむにゃと、口を動かしている。
はぁー(喜びのため息)
最高かよ。
赤ちゃんってこんなに可愛いの?
もう、天使が舞い降りてんだけど。
あれ、俺、もう死んでた?
あ、死んでたわ。
いや、そうじゃなくて。
はぁー、まじ最高峰。
エベレスト級だよ。
今日という日に感謝します。
神に、感謝を念を送るほどに、興奮しているアラタ。
守りたい、この寝顔――。
◾️
寝顔を眺めること、10分、経過。
(あー、この子、見取さん家の子かぁー)
心をデトックスしてくれる寝顔に癒されること10分が経ち、やっと誰の子か気づくことができた。
(確かにそう、見取さんの子だなー。目元がそっくりだ)
俺の横で寝ている赤ちゃんは、綺麗な黒髪で、
目元は、ママである綾香さんそっくりだ。
おそらく、
母さんの提案によって、綾香さんが連れてきたのだろう。
(よく寝る子だなぁ、俺が心配しているようにはならないかもしれないな)
俺が心配していた事とは、綾香さんの子の愛美ちゃん?が、よく泣くせいで睡眠や、思考の邪魔をされることだ。
だが、どうだろう。
この子からは、そんな感じはしない。
どっちかっていうと、落ち着いてる感じだ。
寝ているのが幸せそうだ。
全く、泣き叫んだり、喚いたりする気配はない。
そして現に、俺のベビーベッドで今まさにすやすやと寝ている。
かわいぃなぁ〜〜〜〜〜〜(*´Д`*)
そう言いながら、俺は愛美ちゃんを愛でる。
◾️
寝顔を眺めること、さらに20分。
(はっ! 癒されすぎた。 この寝顔、危険だな。
時間を忘れるほど、眺めてしまうとは……。
あ〜、癒されるぅ〜〜)
パァーーー……(心が浄化され、昇天する音)
…………………。
(って、また引き込まれるとこだったわ……あぶないあぶない)
また、意識を持ってかれそうになっていたアラタは、頑張って意識を保ち、現在進行中の問題について考える。
(どうしよう、バタフライ効果……マズイな……。
過去改変が鬼のように起こってる……まだ、何もしてないのに……)
バタフライ効果とは、非常に小さな出来事が、最終的に予想もしていなかったような大きな出来事につながることだ。蝶々の羽ばたき方が違えれば、予想できない事を引き起こる。
そう、今現在、俺が体験していることだ。
前世とは違う行動をとる俺という蝶がいる事で、前世ではいなかったはずの隣人や赤ちゃんが生まれた。
つまり「これからの未来、俺の予想外のことが起こりまくる」ってことだ。
はぁー、どうしよう。
未来知識で、楽勝未来改変! とか言ってた俺をぶっ飛ばしたい。
未来を変えたのは、良いけど、俺の予想外の方向に進むのは、よろしくない。
このままだと、破滅&大量虐殺、特急列車になりかねん。
ある程度、レールを引いて戦争回避せねば。
まあ、あと数世紀ほど先の話しだが。
(とりあえず、アリシアと会ってから考えようかな)
そう心の中で呟きながら、
俺の横で、すやすや寝ている子を見る。
さらさらの髪に、白い肌、綾香さん似の顔。
保護欲を、掻き立てられる。
『保護欲を、駆り立てられる、じゃないですよ、ゴミご主人』
ん?
なんかアリシアの声が聞こえた気がする…。
まあ、空耳だろう。
アイツが出て来れるのは、最低でも後5年はかかる。
てか、それより先に出てきたら、俺の脳がショートしちゃうから、マジでそれだけは勘弁。
頭の中で、聞き慣れた声がした気がするが、それを無視し、愛美ちゃんの寝顔を眺める。
………うん。
絶対に、護ろう……。
この寝顔も、世界も――
全力で。
新たに目標ができたアラタであった――。




