第十七話 「夏だ!海だ!大食いだ! 前編」
青い空、白い雲、熱い砂浜。
照り付ける夏の日差し。
白く大きな入道雲。
そして広く青い海原。
「「「うわ〜〜〜ーーーー!」」」
俺と母さん、綾香さん、そして、愛美ちゃんの4人で、ここまで車で来た俺たちは、感動に心が湧き、声を上げる。
耳を澄ませば、ざぁーざぁー、と波が寄せ返す音が聞こえてくる。
「きれーーーー〜〜」
「ほんと、そうねぇ」
「今日、来れて良かったですね」
「…………(読書中)」
みんなが、海から感銘を受けている中、若干1人読書をしている方がいた。
愛美ちゃんだ。
愛美ちゃんは、海なんぞに興味はないみたいだ。
今日、家を出るときでさえ「……私は留守番してる」と言い、来ないつもりだった。
最近ハマっている本が、今いいところなので、ゆったりと家で読みたかったらしい。
それだと、水着を買った意味がなくなってしまうし、俺の犠牲も無駄に終わってしまうので、
俺が、愛美ちゃんに頼み込んだ。
そうして、なんとかOKを獲得したから今がある。
今日は、愛美ちゃんに存分に楽しんでもらわねば! と意気込み、色々と準備したが、徒労に終わりそうだ。
^^ かなちぃ。
水鉄砲や浮き輪、砂遊び用のスコップとバケツ、バレーボール、BBQ、手持ち花火――全て、無駄になる可能性が……。
水鉄砲ならいけると思ったんだけどなぁ……(泣)。
そんな事を考えつつ、愛美ちゃんの方を見る――
真剣な表情で、本と向き合っていた。
まるで、何かと戦っているように。
じっと、本を見て。
ざぁーざぁー、と穏やかな海の波音。
海風が、ほのかに海の匂いを連れてくる。
そんな中、
愛美ちゃんは、紙面に顔を近づけ、一字一句漏らさないように本文を読んでいる。
さざ波の音なんか、聞こえてないみたいに。
自分の世界に、本の世界に、入り込んでいる。
その姿に、吸い込まれるように、見入ってしまう俺。
愛美ちゃんは、偶にこんな感じで、とても魅力的な雰囲気を出すことがある。
その姿を見たことで、俺は「まあ、いっか」と開き直った。
準備したものが、使われなかったとしても、良い。
愛美ちゃんが、楽しんでくれているようなら良いんだ。
ただ、今日は暑いので、パラソルだけは先にやっちゃおうか。
今日の気温は、30度。
ジリジリと肌が焼かれるのがわかる。
こんなくそ暑い中で、よく愛美ちゃんは集中して本を読めるな。
「パラソル、先に立てちゃおうか」
「そうね、日差しが強いしね」
「……うん」
愛美ちゃんも、やっぱり暑かったみたいだ。
「愛美、本ばっかり読んでないで、お手伝いしなさい」
「……ん」
愛美ちゃんと綾香さんの会話は、短く質素なものが多い。
俺も母さんも、最初は戸惑っていたが、しばらくして、見取家にとってのコミュニケーションである、と分かった。
愛美ちゃんと綾香さんは、短い会話で、相手が言いたいことを真に理解し、心で会話してる。
それが分かった時は、いいなぁ、と少し羨んだ。
俺も母さんも、察しは良い方なので、真似しようとすれば出来るが、
やっぱり会話が少ないのは、悲しいので、おしゃべりな母さんと俺には無理そうだ。
「アラタ? ぼーっとしてどうしたの?」
「いや、ちょっと考えてただけだよ」
「それなら良いけど……熱中症だと怖いわね」
「大丈夫だよ、母さん」
「はい、水飲みなさい」
そう言って母さんが、バックからペットボトルを取り出し、渡してくる。
「ありがとう、でもほんと大丈夫だからね?」
「しっかり者のアラタだから、大丈夫だとは思うけど……まさかがあるからね」
母さんの教訓だ。
母さんいわく、人生には3つの坂があるらしい。
上り坂、下り坂。
そして「まさか」だ。
上り坂も下り坂も、気をつけないことはあるが、ある程度、対策がとれる。
しかし「まさか」だけは、出会ってしまえば、対策の取りようがない。
だから、常に「まさか」に注意を払い、対策を事前にとる。
そうすることで「まさか」は「まさか」じゃなくなる。
この教訓から、すれば、水を飲むことは「まさか」を防ぐことが出来る。
「わかったよ、母さん。 ありがと」
「いいえ、どういたしまして、ふふ」
母さんが、微笑んだのは「まさか」の話を俺が思い出したのを、察したからだろう。
そんなやり取りを終え、俺は水を飲み。
その後、パラソルを立て、レジャーシートを引き、荷物を置いた。
そうすると、
早速、愛美ちゃんがレジャーシートに体育座りをし、本を読み出す。
「愛美、水着に着替えに行きますよ。
準備しなさい」
「……うん、わかった」
珍しいな……愛美ちゃんが、面倒くさそうなこと(水着へのお着替え)を読書より優先するなんて……。
「……暑い」
あ、そういうことね。
水着に着替えれば、今よりは涼しくなると思ったみたい。
「アラタ、アラタも行くのよ?」
「うん、行くけど、その水着は着ないよ?」
俺は、母さんが持っている前回買った水着を、指差す。
家用の水着は、家限定ではなかったみたいだ。
「アラタ、男の子だって女の子の格好していいのよ? だからアラタが、このビキニを着ても、いいのよッ!!」
バッ、
母さんが、ビキニを片手に持ったまま、捕まえようとしてくる。
それを俺は、避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
永遠と、避け続ける。
「はぁはぁはぁ、手強いわね、アラタ……」
「母さんこそ……はぁはぁ」
避け続ける俺と、追い続ける母さんは、息を荒げ、お互い肩で息をしている。
ザッ、ザッ、
砂を踏む音が聞こえる。
こんな事をしているうちに、愛美ちゃんと綾香さんは、更衣室で着替えを、済ませて帰って来ていたようだ。
「母さん、2人を待たせたら悪いし、着替えて来たら?」
ニヤリ、
俺は、ほくそ笑む。
「くっ……」
悔しそうに、歯を軋ませる母さん。
馬鹿めぇ!!
すでに母さんの性格、行動パターンを読み切っている!
母さんは、根は優しい人なので、人に迷惑をかけるのを嫌うし、かければ罪悪感を持つ。
だから、その罪悪感を刺激するように、言ってあげれば、母さんは、従わずにはいられない。
くくく、
笑いが止まらないなぁ〜(^^)ニマニマ。
「いってらっしゃ〜〜い」
「ぐぬぬ」
母さんが、水着を鞄にしま――
「秋子さま、その必要はありません」
「ん、ない」
ガシッ、
肩と腕を、掴まれる。
え? (・Д・)
チラッチラッ、と両サイドを見ると、綾香さんと愛美ちゃんに、拘束されていた。
「アラタさま、覚悟を決めた方がよろしいかと」
「アラタ、覚悟決めて……」
水着姿の2人が、俺のことを押さえ付けながら、死刑宣告を耳元でしてくる。
その囁きを聞いた俺の心臓は、バクバクと音を立てながら、血液を脳に送り、死を回避しようとする。
心臓をフル稼働し、生き残る術を模索する。
混乱しているが、そんなの後だ。
今は、ここから逃れることだけを考えろ!
俺は、ずるずると引きづられながら、思考する。
整ったーーッ!!
両脇に通されている腕を、跳ね除け、俺は脱出に成功する。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ダッシュ! ダッシュ!
砂を足で掻き、俺は、走る。
ダッダッダッ、と砂を踏み締める音がする。
――そろそろ来るッ!
『アラタくぅ〜ん、分かってるじゃないかぁ』
来たな! 悪魔め!
アリシアが、姿を現す。
走っている俺と、宙に浮きながら並走している。
『チェックメイト』
アリシアが、そう耳元で囁くと、四肢に制限がかかり、動かなくなる。
ザザーーーーッ、
砂に頭から、ダイブする。
すごく痛い!
顔面が、砂まみれになり、口の中にも砂が入る。
ぺっ、ぺっ、
口の中の砂を、吐き出す。
四肢の動きに制限がかかっているため、顔を拭うことは出来ない。
しかし、
ここまでは、予想通り。
同じ手には、かからねぇえええんだよぉおおおおお!!
馬鹿がぁあああああああああああああああああ!!!
叫びながら、足と腕に目一杯、力を込める。
オォラァアァァァァァァアアァア!!
ぐんっ、と立ち上がることに成功。
『な、なにぃい〜〜!?』
三度も同じ手には、引っかかるわけねぇだろぉがぁあ!
身体操作は、俺とアリシアで、綱引きをしているような状態で、体の主導権をお互いに奪い合っている。
前回や、前々回のときは、それが分からず、頭や首以外の主導権は、ないものと思っていた。
しかし、
主導権を奪い返せると、知った今、俺はアリシアの身体操作に抗う術を得た。
つまり!
アリシアに身体操作され、母さんたちに連行ルートを逃れることが出来るのだ!
デジャブは、デジャブじゃなくなる!
アリシアに心を読まれないようにする事も、出来るようになった。
これにより、事前に作戦がバレることもなく、手足の拘束もなんとか、対処できる。
はははははははは、ははっ!!
俺は、笑いながら地獄からの逃亡を果たすのであった。
うっしゃっ! オラァ!!
満面の笑みで、追いかけてくる母さんたちを、突き放し、俺は、砂浜の彼方へと消えていく。
◇
はぁ、はぁ、はぁ……。
母さんたちの姿が見えなくなったのを周りを見渡すことで確認し、息を整える。
ふぅーーー。だいぶ、突き放したな……。
20分くらいしたら、戻るか……。
20分くらい経てば、変態たちも大人しくなるだろう。
少し、頭を冷やして欲しいが、
母さんたちも、それ以上逃げてると、心配するからな。
パラソルの位置もわかってるから、大丈夫だ。
アリシア、20分タイマー。
『君に、遅れを取るなんて……くっそ……こんなアホに、負けたなんて、生涯の恥だ……。
しくじったよ……今回の恨みは、次回晴らさせてもらうからね……』
俺の指示を無視して、ブツブツと愚痴を垂らすアリシア。
20分、測っとけよ?
『はいはい、わかったよ。
今回は、負けたから大人しく従ってあげるよ』
俺に勝てると思ってんの?
お前ごときが、俺に勝とうなんて一万年早いから。
じゃ、一万年の間は、パシリな。
『そんな事が言えてのも、今のうちだよ、アラタくん。
1 2 3 4 5 6 7――』
くくくっ、と不敵な笑みを浮かべ、アリシアが秒数を数え始める。
それにしても20分か……どうしようかな……。
海でも見て黄昏るのも良いけど……脳の処理能力を、少しでも上げなきゃだしな……んー、何かせねば……。
海に、入るのも良いけど……泳げるほど、筋力ないしな……。
ただ海に入って、20分経つのを、待ってもなぁ……。
砂遊びでもしてようかな……。
いや、そんな2歳児がやるようなこと……。
『ナンパでもしてみたら、どうだい?
人とのコミュニケーションは、脳のスペック向上に役立つよ』
母さんが、見たら悲しむから、却下。
もっと、マシな案を出せ、マシなやつを。
『だいぶ、マシだと思うんだけどね……。
別に全裸で走り回って、新たな境地を開け、とか言ってるわけじゃないんだし……』
うん、それと比べたら全部、マシ。
ナンパより、マシなのを出せ。 カス。
『僕に対しての態度が、露骨にクズなのは、なんなんだい?』
今までの自分の行動を振り返ってみろ、まあ、もしそれで分からないなら、いっぺん〇ね。
『一回、勝ったからって、ずいぶん強気じゃないか。
今から、夢の中みたいに戦っても良いんだよ?』
はいはい、強がりはいいから。
お前が、現実世界で、俺に攻撃出来ないのは、知ってるから。
『ふんっ、意気地なしが。
負け犬は、砂遊びでもしてるんだな』
「……………」
逆さまで。
頭から砂浜に突き刺さったアルスハリヤの腹に蹴りを浴びせた俺は、近くにある砂を集め始める。
ふぅー、小さいな手では、砂を集めるのも一苦労だ。
んー、時間かかりそうだな……。
スコップか、何かあれば効率的に集められるんだがなー……何か、もっと効率化できないと……それか、いっそのこと……集めなくて済む方法を……。
地味に、砂遊びって、頭使うんだな……舐めてた……。
砂を集めながら、どんなものを作るか考える。
お城でも作ろうか、それともカラクリ仕立てのものを作ろうか……。いや、どっちもだな。
よし! じゃあ、とっとと砂を集めちゃおう!
で、作ったのが、道が入り組んだお城の滑り台。
初めて作ったものにしては、上出来だろう。
滑り台は、泥団子を転がすためのものだ。
見て楽しむだけじゃ、つまらないしな。
お城は、半分くらいが地面に埋まっている。
砂を集めるのに相当時間を盗られると、予想できたので、ある程度、砂の山ができたところで、周りを掘って高低差をより出した。
集めるより、掘る方が早い。
掘った砂も、城作りに、活用できるしな。
ただ、めっちゃくちゃ疲れる。
2歳児にとっては、砂を掘るのも一苦労なのだ。
そんなことを考えつつ、俺は、こねこねと砂を丸めていく。
もちろん、転がすための泥団子作りだ。
しばらく待つと、泥団子から水気が取れ、完成した。
では、早速、泥団子を転がしてみよう!
そう思って、作った泥団子に手を伸ばすと――
(*⁰▿⁰*)キラキラ
キラキラ、と目を輝かせ「やりたい」というオーラを漂わせている男の子がいた。
黒いシャツと、紺の海パンを履いている。
髪は、長めのショートくらいだ。
そして、前のめり過ぎる姿勢。
キラキラとした目。
うずうずしているのが、手に取るように分かる。
やってみたい、と声が聞こえてくるほどに。
「君も、やってみる?」
俺は、その子に声をかけてみる。
「いいのか!?」
「うん……いいけど、あんまり壊さないでほしいかな……」
「わかった!」
元気が良すぎて、若干引いてしまった。
元気が余って、せっかく作ったお城兼滑り台が、壊されそうだ。
一応、注意したので大丈夫だろう……大丈夫だよね?
わかった! って言ってたしな……この子の言葉を信じよう。
俺は、その子に手に持っていた泥団子を渡す。
「ここに、泥団子を転がすんだよ」
「ココか!?」
「……うん……ここだよ」
愛美ちゃんとは、正反対の性格っぽいな、愛美ちゃんに慣れてたから、ちょっと疲れちゃうわ。
いや、これが普通なのか……?
まあ、愛美ちゃんの大人しさが、普通ではないので、コッチが普通なのだろう。
これも、これで、元気で良いか……。
「てー、はなしていいか!?」
「うん、いいよ」
「いっけーーー!!」
男の子が、泥団子から手を離すと、お城の頂上付近から、勢いよく泥団子が、転がり始める。
スルスル、
トンネルをくぐり、渡り廊下を渡り、
城の周りを、ぐるぐる回り、
最後は、城の周りに作った城壁の上を転がり、男の子の前に戻って来た。
「おおーーー!! すげぇーーー!!」
「コレ、凄いじゃないかい……」
「あぁ、そうだな……ここまでのものは大人でも作れないぞ」
男の子の上から、膝に手をつき、2人の大人がお城を見ていた。
1人は男の人で、熊のような図体をしており、もう1人は女の人で、金髪のポニーテイルでヤンキーっぽい格好をしている。
ん? 貴方たちは? あ、この子の親か。
アラタは、察しが良かった。
「かあちゃん! コイツすげえーんだよ!
コレ、1人で作ってたんだぜ!!」
「へーー、1人でかい? 凄いじゃないか」
「大したもんだな……」
なんか、分かってきた気がする。
この家族の構成が。
お父さんは、硬派な柔道家か、建設業の人で、
お母さんは、元ヤンの女番長、
そして、子供は、元気っ子って感じかな?
「あんた、親御さんはどうしたんだい?」
「一緒に来てないのか……?」
どうやら、心配してくれてるみたいだ。
「えっと、一緒に来ては居るんですけど……」
女装させれるから逃げて来たとは、言えない男。
「じゃあ、迷子だね」
「あぁ、そうだな」
「え〜〜、コイツまいごなの〜?」
「コラッ、アオイ! コイツって言うんじゃないよ!」
「イデッ」
お母さんの拳骨を、喰らい男の子が、口からうめき声を漏らす。
そんな光景を、見ていると、
『はい、20分たったよ』
アリシアから、タイムアップの知らせがきた。
もう20分たったのか……ま、ちょうどいいタイミングだったな。
「じゃあ、俺、もう行かなきゃなんで……!」
そう言って、その場を去ろうと、3人に背を向け、走ろうとする。
すると、
ガタッ、と腕を掴まれる。
「待ちな! アタイたちもついて行くよ!」
ギラついた目つきのヤンママさんが、見てくる。
目が赤黒く光って見えるんだけど……怖すぎるでしょ……。
「あ、はい」
殺気のようなどす黒いオーラを発しているヤンママの提案? いや、脅しに俺は、屈した。
◇
俺たちのパラソルがある方向に、しばらく歩いていていると、母さんたちの姿が見える。
「アラタ!」
母さんが、心配そうに駆け寄ってくる。
少し、心配をかけすぎただろうか……まあ、母さんは変態だけど、親バカで過保護でもあるからな……。
「良かった……心配したんだから……」
「ごめんよ、母さん……ん?」
なんで俺が謝ってんだ?
どっちかって言うと、謝るのは母さんたちの方じゃ――
「やーっぱり、迷子だったのかい。
良かったよ、一人で行かせなくて」
ヤンママさんが、納得している。
違うんだけど……説明するの面倒くさいし、いいや……。
釈然としないアラタだったが、女装させられそうになって逃亡した、と説明するのも、なんだな、と思ったので説明を放棄したのだった。
「ありがとうございます! 何かお礼でも……」
「良いよ、子供が迷子になるなって、よくある事さ。
だから、今度から子どもの行動には、気をつけるんだよ?」
「はい! 本当に、ありがとうございました!
あ、でも、お礼はさせて下さい」
やけに食い付くな、母さん……。
『子どもがお世話になった方に、お礼をするのは、普通じゃないのかい?』
確かに、そうだけど……。
なんか、嫌な予感がするんだよなぁ……。
なんだろう……この胸騒ぎ……。
「じゃあ……この子と一緒に、遊んでくれるかい?」
「え!? 一緒に遊んで良いの、母ちゃん!?」
「まだ良いかは分かんないんだから、そんなにはしゃぐんじゃないよ」
「えぇーー……」
母さんが、俺と愛美ちゃんを見て、許可を取ろうとしてくる。
「アラタ、愛美ちゃん? 良いかしら?」
「まぁ、俺は全然OKだけど……チラッ」
そう、俺は全然、良いんだけどな……愛美ちゃんは、この子と正反対の性格っぽいし……。
愛美ちゃんの方を一瞥する。
…….コクリ、
首を縦に振り、OKサインを出してくれる愛美ちゃん。
それを見た、男の子が叫ぶ。
「よっしゃーーーーーーーーーー!」
喜んでくれて、何よりだ。
「アオイッ! 喜んでないで、自己紹介の一つでもしな!」
「いでぇッ、あっ! そっか!!
俺の名前は、田口葵!!」
拳骨を頭に食いながらも、自己紹介をしてくれた。
アオイくんって言うのか……。
元気な子だな……。
俺の名前は! なんて主人公みたいな自己紹介、人生で初めてだな。
「俺は、九条新。
アラタって気軽に呼んでくれたら、嬉しいかな……?
よろしくね、アオイくん」
俺は、アオイくんに手を伸ばす。
「?」
何で、手を伸ばしたかよく分かってないみたいだ。
「アオイ、握手だよ、握手」
「あくしゅ? あくしゅ、ってなんだ?
なぁ、父ちゃん! あくしゅ、ってなんだ!?」
アオイくんが、熊のような図体のお父さんに質問し、お父さんが返答する。
「アオイ、握手ってのはな……手を握り合うんだ。
こんな風に……」
アオイくんのお父さんが、自分の手で握手を再現する。
「? なんで、そんなことするんだ?」
「そ、それはな……」
言い淀んでしまうお父さん。
俺は、すかさず助け舟を出す。
「仲良くなれる『おまじない』だよ。
だから、仲良くなりたい人とか、初めて会った人とかに、挨拶のときに一緒にするんだ。
そう言うことが、言いたかったんですよね……?」
俺の問いかけに、アオイくんのお父さんは「あぁ」と首肯する。
「そういうことか! じゃあ、アラタ! あくしゅだ!」
そう言って手を差し出してくるアオイくん。
「よろしくね、アオイくん」
俺は、伸ばされた手を握る。
「おお! なんかいい感じだな! あくしゅ、って!」
「そんだね。 仲良くなっても握手する人たちは、多いしね。 それくらい、握手はいいものだよ」
外国だと、握手として手でコンボをしたりする。
映画とかで、よく観るやつだ。
ハイタッチからのグータッチとか。
自分たちの特別な握手を、作り出すことで、親密度をあげられる。
カッコいいし、少し憧れる。
「じゃあさ、今度から毎回、握手しようぜ!」
「うん、しようか」
前世では、友達がいなかったので、出来なかった。
「漢=硬派」という思い込みが、強かったせいで、高校に女装させられてからは、ずっと孤独だったからな……。
だけど、今世では、アオイくんと出来るようになるかもしれないな。
そう考えた俺は、ぎゅっと握手に想いを込めた。
握手していると、横から声が聞こえた。
「あんたん家の子、頭がいいんだねぇ」
ヤンママさんが、母さんと話してるみたいだ。
「そうなんですよぉ〜、ウチの子、かしこいんですよ〜」
おぅ、その返しは初めて聞いたな。
すみません、ウチの親、親バカなんです……。
「ウチの子に、その頭を少し、分けてほしいよ……」
「なんか、言ったか? 母ちゃん?」
「勘だけはいいんだけどねぇ……」
ヤンママさんも苦労しているみたいだ。
まあ、母さんたちの話を盗み聞きするのは、ここまでにしといて。
次は、愛美ちゃんの紹介かな。
「アオイくん。 この子は、見取愛美ちゃん。
仲良くしてくれると、嬉しいかな」
「わかった!!」
素直な子なので、愛美ちゃんとは仲良くなれるかもしれないな……。
「よろしくな! まなみちゃん!」
「………………」
声を張り上げ、握手のために手を差し出すアオイくん。
無言で、俺の袖をきゅっと掴んで隠れてる愛美ちゃん。
実を言うと愛美ちゃんはちょっぴり人見知りなところがある。
普段も綾香さんの陰に隠れがちだ。
またその姿が可愛らしいんだけど。
それをやられると、おぅふ。
鼻血出そう。
ここで鼻血を出したら悲惨なことになる。
落ち着け俺。
「愛美ちゃん、大丈夫?」
「……うん」
まぁゆっくりでいいよな。
自然とアオイくんとも、仲良くなれるだろう。
でもアオイくんが仲間になりたそうに愛美ちゃんを見ている。
そして、
伸ばした手が、プルプルと震えたまま、握手したくれる手を探している。
アオイくんの目がだんだんと潤ってきた。
可哀想だな……。
俺は、アオイくんの手を握り、握手の形をとる。
すると、
パァーーーーーッ、とアオイくんの顔が、目に見えて明るくなり、目に溜まっていた涙を消えた。
よかったよかった。
握手から話題を逸らした方が、いいよな?
「じゃあ、自己紹介が終わったところで! みんなで遊ぼっか!」
「おおーー!!」
それを聞いた愛美ちゃんは、スタスタとパラソルの下に避難し、体育座りになる。
「…………………」
パラパラパラ、と愛美ちゃんは本を読み出した。
「「…………」」
まあ、こうなることは、予想していた。
しかし!
今日は、愛美ちゃんが興味を持ちそうな遊び道具を、たくさん持ってきた!
「じゃあ、水鉄砲で遊びたい人ーーっ!」
「はいはーーい!」
「!」
愛美ちゃんが、ピクッ、と動く。
すかざず、攻める!
「水鉄砲で、合戦したいなぁーー」
俺は、わざとらしく「合戦」を強調し、大声を出す。
愛美ちゃんが、本を閉じ、スタスタと戻ってきた。
「アラタ、私もやる!」
計画通り(ニチャァ)
『え、キモ』
愛美ちゃんは、本の内容に影響され易い。
そして、愛美ちゃんが最近読んでいる小説「僕らの合戦」には、水鉄砲ゲーム(合戦)があるのだ。
よってぇ!愛美ちゃんは自然と水鉄砲をしたくなるぅう!
いやぁーー、自分の頭の良さが、怖いっ! くぅ!
『うん、僕も怖くなってきたよ……』
ドン引くアリシアを(砂に埋めて)放置し、水鉄砲をとって来りにパラソルに向かう。
パラソルに着くと、母さんとヤンママ、綾香さんが仲良くお喋りに勤しんでいた。
一人、アオイくんパパが、放置されている。
アオイくんパパが仲間になりたそうにあなたを見ている。
仲間にしてあげますか?
する/しない の選択肢が見えるようだ。
このまま、見過ごすわけにもいかないので、俺は誘うことにした。可哀想だしな……。
「お父さん……水鉄砲、一緒にやりませんか? ちょうど人数が足りなくて……」
「……あぁ、それならしょうがないな……」
見事、アオイくんパパを救出したかのように思えたその時――
「アラタくん?だっけか? 水鉄砲で遊ぶんだってなぁ。
私たちも混ぜてくんねぇかなぁ?」
ヤンキーに絡ませた。
肩を組まれ、頬をくっつけてくる。
「アラタ〜、トモさんは元警察官でね。
それで、さっき水鉄砲でみんなで遊んでたのよ」
え!? この見た目で!?
『人は見かけによらないね〜〜』
いつの間にか、地面から脱出していたアリシアが、そう呟く。
まったく、同意だ。
金髪で、この口調、うんこ座り、肩組み。
どこからどう見ても、
「先ほどの水鉄砲捌き、見事でした」
「そんな、褒めるんじゃないよ〜〜」
によによ、と笑いながら俺にヘッドロックをかましてくる。
ぐ、ぐるじい………。
ヤンママの胸に、顔が埋まり、息ができな……。
パンパン、と腕をタップする。
「おお、すまんすまん」
パッ、腕から解放される。
ぶはぁーーーーっ……。
大きく息を吸う。
はぁ、はぁ、殺されかけた……。
息を整えた俺は、3人に提案した。
「じゃあ、3人も参加するってことでいいんですよね?」
「あぁ! もちろん!」
「楽しみです」
「楽しみね」
やる気に満ち溢れた母さんたち。
そんなガチでやらんでも……と考えている俺。
そんな俺の考えを見抜いたのか、母さんが一言いう。
「あ、そうね。アラタが負けたら、あの写真をトモさんに見せちゃおうかしら……うふふふ」
トモさんとは、あのヤンママさんのことだろうか?
……ん?
あの写真……?
あの写真かぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?
このクソババァ……。
脅迫してきやがる……。
これ以上、俺の女装写真を、拡散されるわけにはいかない……くっ、飲むしかないのか……。
「勝ったら……?」
「アラタが、勝ったら処分しなくもなくもないわぁ」
「よっしゃーーーーッ!! やってやんよ!!」
「よかったわ、説得できて」
説得じゃなくて、脅迫の間違いだろ!!
こうして、俺は全力で水鉄砲ゲームに挑むこととなる。
◇
そんなこんなで、全員で水鉄砲の合戦をすることになった。
ルールは、シンプルに殲滅戦だ。
チームに分かれて1人1ライフでポイが破れた人から脱落していくという殲滅戦。
どちらかのチームの人員がゼロになるまで、もしくは時間制限を設けて終了時に残っている人の数を競う。
制限時間は、60分。
2チーム、青と赤チームに分かれる。
青チームのメンバーは、俺、アオイくん、アオイくんパパ。
赤チームは、愛美ちゃん、綾香さん、ヤンママさん、母さん。
バトルエリアと、陣地を設け、陣地の砂は、好きなようにイジることが出来る。
水鉄砲デスゲーム開始。




