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第十三話 「アラタのトラウマ」



「お買い上げ、ありがとうございましたーー!!」


 店員さんの弾んだ声が、聞こえる。


 母さんは、両手に服屋の紙袋を持ち、綾香さんは片手にケーキの箱、もう片手に服屋の紙袋を持っている。


 そして、愛美ちゃんは、女装したままの俺と手を繋いでいる。



 帰りたいって、願ったけど……こういう意味じゃない…….°(ಗдಗ。)°.


 目から大量の汗が、出そうだわ(泣)。


 俺が、車に乗り込むと、

 姿は見えないが、アリシアが喋りかけてくる。


 脳内で喋っているのだろう。


『アラタくんアラタくん、君の面白い記憶あったから、見て良いかな? 見て良いかな?』


 好きにしてくれ……。

 その代わり、お前は後で撲殺する。


『じゃあ、見ちゃおっかなぁ〜』

「……………④ね」


 そう言って、アリシアは俺に、幻覚を見せてくる――


 


 ブワッ、と景色が変わる。




 元々は車の中にいた俺だが、突如として変わった景色に驚く。


 ソコは、俺の高校だった。



 その事に気づいた瞬間、アラタの脳裏に、

 封印されし、かつての記憶が、閃光の如く甦った。



 そうだ、確かあれは……。





 アラタの高校時代。


 まだ、アラタが自分のことを僕と読んでいた頃。


 肌寒いある秋の出来事……。



 僕たちはその日、文化祭だった。


 友達のいない僕にとって、どうでも良いイベントだったが、クラスの奴らは楽しみにしていたようで、

 みんな、興奮気味だった。



 その頃に僕は、勉強にハマっていたので「なぜ、こんな無駄なことに時間を使わなければならないんだ!」と思い、文化祭の一週間前から学校を休んで、家で勉強していた。


 文化祭も休もうと考えていたが、これ以上休むと進級に関わってくるので、文化祭の日だけは、行くことにした。

 

 休める日数を、数えていなかったのだ。  

 後になって、この時のことを死ぬほど後悔することとなる。 それは、おいおい話そう。


 文化祭は、朝礼さえ出れば、後は自由なので、

 行って顔を出して、すぐに帰れば良いだろう、などと考えていた。



 しかし、クラスメイトは、それを許さなかった。



 うちのクラスの出し物は「メイド喫茶」


 クラシカルなやつではなく、現代風なメイド喫茶だ。


 

 もう想像は、ついただろう。


 そう、僕は――女装させられた……。


 

 遊び半分で、着せられたメイド服。


 だったが、


 その頃、身長がまだ小さかった俺は、不運か幸運か、メイド服が、似合ってるしまったのだ。


 それに、興奮した女子が、

 僕にメイクやウィッグをつけさせた。



 その仕上がりに、クラス一同が驚愕した。


 僕は、鏡をもらい、自身の姿を確認する。

 

 驚きのあまり、俺も叫んでしまった。


 

 そこには、可愛い女子が、いた。


 ロングでストレートな髪型をしており、彫りが深く、清楚の子が、メイド服を着ている。



 これが俺かぁ、と一瞬見惚れてしまった。

 ナルシストになりかけた僕だったが、なんとか踏み止まり、服を脱ごうとする。


 しかし、


 そこで、気づいた。


 ――自身の服が無いことに……。



 いつの間に、僕の服は強奪されていたのだ。

 もちろん俺は抗議したが、俺の要求は拒否された。


 女子いわく、文化祭中、ずっとこの格好で働けば、返してくれるらしい。


 

 なんで、僕が……そう思ったが、文化祭の準備をサボったことをこれくらいの事で許して貰えるなら、安いものだ。

 そう思った僕は、一日メイド服を承諾した。

 いや、させられた。



 そうして、一日メイド服を着ることなった僕。


 

 これは、人生最大のミスとなることを、まだ僕は知らない。

   


 


「はぁー、なんで僕がこんな事しなきゃいけないんだ……スカートって、なんだか足がスースーするな……」


 僕がそう愚痴っていると、一人の女子から声がかかる。


「アラタくん! 三番のテーブルにコーヒーとミルク持ってって!」

「わかった」


 僕は、言われた通りに、コーヒーとミルクを三番と書かれたテーブルに持っていく。


 テーブルには、いかにもナンパしに来ましたって感じの男子高校生たちが座っていた。


「どうぞ、お客様。

 ご注文のコーヒーとミルクです。

 では、ごゆっくり」

「ねえねえ、君。

 可愛いね、何年生なの?」


「…………」


 ほらな、やっぱりナンパやろうだったか。

 僕の予想は、的中するんだよな。

 こう言う奴は、すぐにナンパしやがる……って、僕か!?



「ちょっとちょっと、無視しないでさぁ。

 名前は……アラタちゃんって言うんだ……」


 俺の胸についている名前を見て、名前を把握された。

 

 コイツ、僕が男だって、分かってないのかな?


「いや、僕、男なんですけど……?」


「そんなわけないでしょ、そんな嘘つかないで、連絡先でも教えてよ、アラタちゃん」


「いや、だから男だって言ってんだろ」


 中々、信じないナンパ共に怒りを隠せないアラタ。


「低い声だしても、その見た目じゃあねぇ?

 女の子なの隠しきれてないよ?」


 うぜぇ。


 女子から見たナンパ野郎は、こうもウザいのか。


 ナンパの鬱陶しさを痛感したアラタであった。


「なんだい君たち、チ◯ポでも見せれば納得するのかい?」

「女の子が、そんな汚い言葉使っちゃ駄目だよ」


 俺は、キレそうになるが、怒りを抑え、スカートをめくり、もっこりボクサーパンツを見せる。


「「おぉーーーー」」


 初めは、パンツを見れて歓声を上げていたナンパ共だが、次第にその声は、疑念の声に変わっていく。


「え?」「な、なんか付いてね?」

「あの、もっこりしてんのなんだ!?」

「あ、アレは!! ま、まさか!?」

「「チ◯ポ!?」」

「や、やめてぇくれ! 俺にそんな趣味はないんだァーーーーーーー!!」



 お代も払わずに、ナンパ共は逃げていった。


「ど、どうしたの? アラタくん!?」


 俺にさっき指示をくれた女子が事情を聞いてくる。


「いや、アンタさっきからいただろ。

 面白がって見てたの知ってるからな」


「な、なんの事かなーー、知らないなーー(棒読み)」


 この子は、委員長こと只野もぶ子。

 メガネをかけていて、髪は三つ編みにしている。



「まあ、良いけどさ。

 とりあえず、アイツらに校内放送で、金払えって呼びかけに放送室行ってくるね」


「アラタくん……そう言って逃げようとしてるのは、分かってるよ! でも、良いのかな? 

 その格好で、逃げるってことは、全校生徒にアラタくんのメイド姿を見られることになるけど……?」


「ぐぐぐっ……委員長に……校内放送は……任せるよ……」


 僕は、そう言って仕事に戻る。









 

 僕と委員長の会話から、しばらく経った頃。


 僕たちのメイド喫茶には、とてつもない量の客が集まっていた。

 何故だか、誰も知らない。


 だが、


 みな思っていることは、同じであった。


 ――忙しい……。


 人生初めての接客。

 人生初の労働。

 想像を絶する忙しさ。


 それら全てが、アラタたちを苦しめていた。



 な、なんて忙しさなんだッ!

 大人たちは、毎日こんな事をしているってのか!


 労働の辛さを、痛感するアラタ。


「アラタくん! 4番テーブルのお客様に紅茶とケーキのセットを持ってって!」


「わかった!」


 委員長からの新たな指示に、俺は了解の意を返す。


 

 俺は、急ぎケーキセットを持って、4番テーブルに向かう。

 メイド服にも、慣れたため、アラタの動きはテキパキとしていた。


「お待たせいたしました、お客様。 紅茶、ケーキセットでございます。

 どうぞ、ごゆっくり」


 アラタは、素早く、次の客の元へ行こうとするが、


 手を掴まれたせいで、

 

 グッ、と後ろに引っ張られる。


「お、お客様。こ、困りますよ、お仕事の邪魔されちゃ………はは、は(苦笑)」


 手を掴んでいる奴のことを見て、アラタはそう伝える。


 手を掴んでいる奴をよく見ると、


 清潔感のない髪型。

 丸メガネ。

 タンクトップ。

 

 ヲタクだ。

 しかも、汚い系の。


 なんか、デュフデュフ、言ってるし、汚ねえ。


「アラタ氏、ぼ、僕は、Tmitterツミッターを見て、きたのでしゅが……デュフフ、アラタ氏は、パンティーなんものを、見せてくださると、デュフフ」


 は? 何言ってんだコイツ?

 僕は、Tmitterと言われて、気づく。


 あっ……そうか、あのナンパ野郎たちか……。

 金を払わされたからって腹いせに………。


「ぼ、僕も、アラタ氏の真っ白なパンティーが見たいとでしゅが、よ、よよろしいでしょうか?……デュフ」


 き、気持ち悪い……。


 ゾクゾクと、嫌悪感が背筋を走る。


 こ、コイツ……まさか、僕のこと……女の子だと思ってる……。


「僕は、男なので、そうゆうのは、無理です。

 なので、即刻、この手を離してください」


「デュフフ、パンティーを見せていただくまで、離しませぬぞ……ニチャ」


 おえぇ、きっしょ。


 どうしよ……委員長でも、呼ぶかな……。

 


 そう思って委員長を見ると、



 忙しそうに動き回っている委員長が見えた。


 他のクラスメイトにも目を向けるが、みんな同じ感じだ。


 

 ……無理っぽいな……。


「はぁー、わかったよ、パンツみせればいいんだろ?」


 委員長たちに迷惑はかけられない、と思った僕は、パンツを見せることを決意する。

 まあ、ボクサーパンツを見せれば、逃げるでしょ。


 ちなみに、ナンパ野郎共からは、倍の金をふんだくった。

 ボクサーパンツを見た料金が、上乗せされている。


「デュフフ、デュフフ……」


 くくくっ、笑っていられるのも、今のうちだよ。

 僕のボクサーパンツを喰らえっ!!


 僕は、スカートをめくり、ボクサーパンツを見せつける。


「にょほぉーーーーッ!……にょ、にょぉ?……」


 気持ち悪い声を出すが、

 次第にヲタクの声に疑問符がつき始める。


 馬鹿めッ!! 僕のパンツは女物の白パンでなく、ピッチピチのボクサーパンツだぁああ!! ハハハハッ!!

 

「こ、これは………ぼ、ボクサーパンツっ!!」


 気づいたようだなぁ!?


 だが、遅い! 女の子だと思った子が、実は男だったというトラウマを持つが良いぃ!!


「ぼ、ぼ……僕ッ――」

 

 聞こえてくるなぁ。


 「僕を騙したなぁ!よくもよくもぉおおお!」って声が。


 あぁ、愉悦。


 僕は近い未来を想像し、くくくっ、と笑う。


 だが、僕の予想は覆される――


「僕っ子あんど男の娘、あぁぁぁんどぅぅぅメイドォォォォ!! 最高ぉおおおおおおおおおおおお!! うひょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」


「最高でごさる!! 最高のコンビネイション!! こ、これは同士たちに報告せねば!! デュフフ」

 

 こ、コイツ!! へ、変態だぁあああああああ!!

 

 僕は、カンターを逆に喰らうこととなる。


 僕は勘違いしていた。

 男は全員、女の子が好きだと。


 そして、キモヲタの不穏な発言を聞いた僕は叫ぶ。


「や、やめろぉおおおおおおおおお!!!」


 しかし、時はすでに遅し。


「アラタたん、もう送ってしまったでござる、デュフフ…」


 いつの間に撮られていた僕のメイド写真と、共に「パンツ見せてくれます」の一言が、世界中に発信される。


「ノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!! お前ぇええええええええええええええ!! どうしてくれるんだぁあああああああああ!! あと名前に、たんを付けるなぁああああああああああああああ!!」


 僕はキモオタの胸ぐらを掴み、揺さぶる。


「アラタたん、大丈夫でこざる。

 ほら、みんな『いいね』を押してるでごさる」


 ヲタクが、スマホの画面を見せてくる。

 僕の写真が投稿された下記の部分にハートのマークと、リプのマークの横に、『1万』と書いてある。


「大丈夫じゃねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!(拳)」


 叫びながら、ヲタクをぶん殴る。


「でじゃふ!! ぐぉ、それがしの眼鏡がぁ!」


 騒ぎを聞いた委員長やクラスメイトが集まってくる。


「ど、どうしたの!? アラタくん!!」


 心配そうにしてくれる委員長。

 優しみに溢れている委員長に、思わず、涙がこぼれる。

 そんな僕を抱きしめてながら、頭を撫でてくれる委員長に僕は、かくがくしかじか、でと話を伝える。


 

 僕の話が終わると、クラスメイトが何やら議論し始めた。

 僕は、議論に参加させてもらえず、一人、いやキモオタと二人で、待たされた。


 コッチ見んな、豚野郎ぉ。

 そんな目で見ると、ヲタクがはぁはぁ、言い始めた。


 もうダメだコイツ……早くなんとかしないと……。



 そんな事を考えている内に、議論は進んでいく。


 コソノソコソ、うんそうだね、コソノソコソ。

 

 僕に聞こえないくらいの声で喋るので、議論の内容は、全くわからなかった。


 議論が終わったのか、声は少なくなり、委員長の「うん、そうだね!」という弾んだ声で、話はまとめ上げられた。



 委員長が、僕に近づいてくる。


 ん、なんだろう……。

 ヲタクの処分が決まったのかな……?


「アラタくん! アラタくんの力で、文化祭を成功させない!?」


「なにを、言ってるんだい、君は?

 僕の力って、なに? フォース? ジェダイと戦えば良いのかな?」


「違うよ! アラタくんの写真(チェケ)を商品化しようってことだよ!」


「待って、それってこのキモヲタみたいな奴と写真を――」

「良い案で、ござる!! それは売れること間違い無しでごさる!!」


「でしょー!!」


 僕の話は遮られ、話が勝手に進んでいく。

 そして、謎にヲタクが参加した。


「これなら、絶対に成功するよ!! みんな、ファイトぉ!!」


「「「「おぉ!!」」」」


 クラスが一団となった。

 僕を除いて。


「ちょっと、委員長、僕やるとは一言もいってない――」

「大丈夫!! 絶対、成功するから!!」


 肩をガッチリ掴まれ、キラキラした目で委員長が見てくる。


 もうヤダ……この人たちぃ……。

 全然……人の話聞いてない………。

 

 僕は、口元を手で押さえて、涙をこぼす。


 



 文化祭は大成功に終わった。


 学校から感謝状が届くレベルだ。


 僕らのクラスだけで、全学年の赤字を黒字に変えてしまうぐらい、儲かった。


 しかし、


 その代償は大きかった。


 僕の写真が、全校生徒にばら撒かれるだけでなく、世界中に広がった。


 男の子なのに、女の子みたいな子がいるとネットで騒がれ、ヲタクたちが、学校に群がったのだ。


 多くの人が、わが校を訪れた。

 ケーキや紅茶などは、在庫がなくなったが、僕の写真会だけは続いた。

 そのお陰で、学校は出費ゼロの収入MAXで、従業員(僕)に対して発生する経費は、ゼロ。

 しかも、働いているのは僕一人つまりワンオペ体制だ。


 ――儲からないはずがない。


 学生でありながら、6時間のぶっ続け労働をした僕は、労基に電話しようか悩んでいた。


 電話しても当てにされないので、やめた。

 もうこれ以上、事態を大きくしないためだった。

 

 早く、この黒歴史をみんなが忘れてくれるように……僕は、ただただ願うだけだ。


 しかし、それもミスだと後に、気づく。


 この時、少しでも訴えを起こしていれば……。


 



 僕の人権を生贄に、文化祭は大成功を終わった後日。


 僕が、学校に行くと、テレビの取材が来ていた。


 何か、今日はイベントがあっただろうか……。


 そう思って教室に入ると、


「アラタくん! テレビの人が取材に来てるよ!」


 何やら、興奮気味の委員長が、俺に駆け寄ってくる。


「うん……知ってるよ、委員長……そんな興奮しなても――」

「違うよ! うちの高校を取材しに来たんじゃなくて! アラタくんを取材しに来たんだよ!!」


 ………………………………へ?


 しょ、しょんな……バカな………。


「アレは、ネットで広まっただけで………」


「今の時代、ネットもニュースも変わんないよ、アラタくん。

 実際、よくネットで話題になったことをテレビで取り上げるじゃない」


 た、確かに最近よくテレビで、ネットで話題になった動画の特集とかやってる………。

 テレビ局の奴ら、サボりやがって………。

 ネットから動画引っ張ってきてるだけで、金をもらってんじゃねえ。


 そんな事を考えていると、校内放送で、校長先生に呼ばれる。




 コンコンコン、


「どうぞ」


 部屋の中から校長先生の声がする。


 ガチャ、


 校長室の扉を開ける。


「失礼します」


 俺は、一礼をし入室する。


 そこには、椅子に座る校長先生と、その向かいに座る取材班の方が、いらっしゃった。


 俺の頬は、ピクピクと引きつく。


 は、はは(乾いた笑み)


「アラタくん、君を呼んだのは――」

「失礼しましたッ!」


 僕は、テレビの取材から逃亡すべく、校長先生の言葉を遮り、一礼して、

 180°回転し、扉に向かう。


 部屋の外に出――られない。


 部屋出た瞬間、


 バッ、と目の前に腕が現れる。


 突如として現れた腕に、避けようとも避けれず、首が当たる。


 ぐぇ、


 口から変な声が漏れる。


 腕の主を見ようと、横を見ると、笑っている委員長がいた。

 僕と委員長は身長が同じなので、俺と委員長は正面から肩を組むような形になっている。

 委員長の腕は、僕の首、そして肩にかかっている。


 委員長が、僕の耳に顔を近づけ、囁いてくる。


「アラタくん、逃げようとするなんて駄目じゃない。

 テレビ取材の人達が、来てるのよ」



 委員長によって僕の逃亡は阻止された。


「はは、は、緊張しちゃってさ………」


 咄嗟に、下手くそな言い訳をしてしまう僕。


「大丈夫よ、私も一緒に受けるから」


「な、なんで、委員長も?」

「アラタくんが、緊張しないようにね♡」


 う、嘘だぁ! その顔はぁ!!


 委員長が、笑顔でサムズアップとウインクを俺に向けてくる。


 しかし、


 その口角は、ピクピクと動いており、

 ウィンクしている瞼も、また痙攣している。


 その笑顔は、不気味だ。



「い、委員長……僕さ……所用の腹痛があるから……ちょっと、腕をどけてくれる……?」


 そう言って僕は、委員長の腕をどけようとする。


「アラタくん、緊張しすぎよ。 

 所用の使い方を、間違えているわ」


 ギュッ、


 委員長の僕を抑える力は、さらに強まる。

 段々と首が締まっていく。


「ぐぅ、委員長……わ、わかったから……ギブギブッ……」


 パンパン、と委員長の腕をタップする。


「あら、ごめんなさい!

 じゃあ、座りましょっか!」


 委員長に連れられ、僕は校長と取材班の前の席に座らせられる。

 

 ポスッ、


 ダラダラ(汗)


「アラタさんに今日は、テレビへの出演とその許可についてお話させて貰いたいと、思いまして……」


「いや、僕はテレビには――」

「アラタくん、出たなら、出たいって言わなきゃだめじゃ無い」


 モブ子ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 僕の試みをまたもや潰してくる委員長の名を、僕は叫ぶ。


 なんで、僕の挑戦をことごとく、潰すんだ!

 委員長は、そんな子じゃないだろ!!

 

 ハッ、そうか……委員長は、勘違いしているんだ。

 僕が本当はテレビに出たいけど、緊張で出るのを避けようとしてるって、思ってるんだ!


 ちゃんと、僕の本心を委員長に伝えよう。

 誤解が生まれぬように。


 僕は、小声で委員長に言う。


「委員長、僕さ、本当はテレビに出たくもないし、まずまず女装もしたくないんだ……(小声)」


 僕は、委員長の反応を見る。


 委員長が、プルプルと震えている。


 ほっ、やっと分かってくれたか……。

 今、委員長は今までの誤ちを顧みて、自身の愚かさに震えているところだね。


 はぁー、これでやっと邪魔されずに、断れる……。


 ん? 委員長が、何か小声で言ってるな。

 何だろう?


 僕は、耳を傾ける。


「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ、アラタくんの可愛い姿をもう見れないなんてダメダメ、みんなに見て貰って私たちでアラタくんをもっと可愛くするの、そのために、テレビには出てもらわないとダメ、ダメダメ――」



ヒェッ、


 心臓が口から飛び出そうになる。


 委員長の目には、闇が確かに存在していた。


「や、やります!! テレビへの出演をお願いします!!」


 僕は、咄嗟にテレビ出演を宣言する。

 

 このままだと、マズいことになりそうだったので、僕の判断は間違ってなかったはずだ。

 最悪、僕が委員長のどちらかが、この世から退場していた可能性すらある。


 委員長の目に光が、戻ってくる。


「おぉ、やってくれるかアラタく――」

「ほんと!? アラタくん!?」


「あぁ、本当だよ、委員長」


「やったぁーーーーーーーー!!」


 こうして委員長の手によって、僕はめでたく、テレビへの出演が決定した。







 テレビ局にて。


「アラタくん! 緊張するね!」


「なんで、委員長がついて来てるの?

 今日、学校だよね? 学校行ったら?」


「学校にアラタくんのテレビ出演を手伝うって言ったらOKが出たの!! これからも手伝ってくれって言われちゃった!! ふふ」


「いや、これが最初で最後だよ!?

 もう出ないからね!!」


「そうなのッ、ダメよ!! アラタくんの可愛いさは世界で共有しないと!!」


「ワォ、ワールドクラス……じゃないよ!

 規模が大き過ぎるし、僕の意思が入ってないよ!!」


「た、確かに……アラタくん、やってくれるよね……ね、ねねね?」


 君っ! 絶対、委員長じゃないだろぉ!!

 委員長は、こんなメンヘラ系女子じゃない!!


 僕たちの優しい委員長をかえせぇ!!


 ここでまたOKを出すと、行け行けGOGO状態になるので、NOと委員長に伝える。


「いや、委員長……それは、無理……」


「そ、そうなのね……アラタくんの意思が大事だしね………わかったわ」


 何とか納得してくれた委員長。


「アラタさん、時間です」


 テレビ番組のスタッフさんが、出演の時間が近づいているのを教えてくれる。


 委員長の説得をするのが遅すぎた僕は、こうしてテレビ出演を果たしてしまう。





 テレビが放送されてからの反響は、凄まじかった。


 学校では、女装を許容され、女子に女装を強いられ、ホモ・サピエンスからは「男でも良い!」と言われる始末だ。


 僕の日常は、非日常と化していまった。


 その間に、僕は、自分のことを「俺」と呼ぶようにし、少しでも男らしく見せるようにした。


 筋トレも毎日した。


 そのお陰で、身体は成長し、女装したとしても、もう女とは思われないくらいには、「漢」になることが出来た。


 そうして、俺は3年間を過ごし、高校を卒業した。


 これで、やっと解放される。

 もう、この事に触れられる事はないと思っていた。

 いや――思い込んでいた。


 それは、医師を引退し、俺がダークマターを魔力と名付けた頃だった。


 俺は、多くのニュースで取り上げられ、讃えられた。


 しかし、


 誰かが、俺の女装写真をリークしたせいで、俺への尊敬の目は、痛い人を見る目に変わっていった。


 可愛いと、言ってくれる人もいたが、そんなの嬉しくないし、もう取り上げないで欲しい。


 普通の人は、離れて行き、変態が集まってきた。


 その事実は、俺にトラウマとして残り、一時期は眠れぬ日々を送った。  


 そうして、俺はトラウマを自身の記憶の奥深くに封印したのだった。







  その記憶が、今。


 アリシアによって思い出させようとされていた。




『これが! 君の封印してきた記憶だぁああああああ!!』


 嬉しそうに叫びながら、記憶を見せてくるアリシア。


 しかしッ!!


 アラタに反応はない!


 無反応!!


『な、なんだとぉおおおお!!』


 アリシアもこの事態には驚きを隠せない!


 アラタにアラタ自身の黒歴史を見せ、からかってやろうと思っていたアリシアだったが、

 

 アラタと反応は――無ッ!!


 ピクリとも動かないアラタ。


 全く、アリシアの攻撃ごとき効かぬ、と言わんばかりに動かない!!


 

 しかし、ここで、アリシアが気づくッ!


『し、死んでる…………………………………』


 そこには、真っ白に燃え尽きたアラタがいた!


 灰のように真っ白になっている!


 そう! 


 アリシアの攻撃は、クリーンヒットを超えてクリティカルヒットだったのだ!!


 

 黒歴史によるダメージか人に死を与える危険行為であることが、今日アラタとアリシアによって立証された。


 アリシアは、やりすぎた、と焦った様子で姿をくらませ、アラタをそのままにした。




 アラタは、アラタたちを乗せた車が家に着くまで、気を失っていた。

 

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