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第十二話 「母さんの企み」


 使えねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!


 サムズアップとウィンクをしているアリシアの顔が浮かぶ。

 

 サムズアップしている親指をへし折りたい^^


 とりあえず、愛美ちゃんがアイコンタクトを取りたいのは分かったので、

 脳内でアリシアを100回ぼこし、落ち着きを取り戻す。



 ふぅー、落ち着いた。 

 やっぱり、アリシアサンドバッグだな。



 次は、愛美ちゃんの無表情(パーカーフェイス)から何をしたいか、見抜かなければならない。

 

 俺に残されたデッキは、トイレ、本屋、睡眠の三つしかない。

 

 そのデッキの中から、俺は選ぶしかない。


 数が少ないので、消去法でいこう。


 まず、睡眠はないだろう。


 愛美ちゃんは、眠くなると目がとろん、としてくる。

 だが、今見る限り、目はまだシャキッとしている。

 元々、眠そうな顔をしているので、分かりにくいが幼馴染の俺は、わかるんですよね。


『ドヤ顔をするな』


 何やら聞こえるが、空耳だろう。

 アリシアが、再び現れ、俺の周りに浮いている。 


 とりあえず、アリシアにアイアンクローでもして落ち着こ。

 俺は、アリシアの頭が潰れんばかりに、アイアンクローをする。



 次に、トイレだが、これもない。


 トイレをしたいときや、我慢しているときは、愛美ちゃんはイライラしてくるので、表現に出やすい。

 今は、そんな様子もないので、ないと考えて良い。


 最後に残された、本屋の選択肢。


 これは、愛美ちゃんに断られた提案だが、気が変わって行かなくなった可能性もあるからな。


「愛美ちゃん……本屋、かな?」


「んん、違う」


 ――ガクッ、


 俺は、自身が膝から崩れ落ちる。


 俺の誰よりも愛美ちゃんを知っていると自負していたが、そんな根拠のない自信は、一瞬で崩れ去った。


『ザコが』


 そう言い残して、アリシアは消える。



 愛美ちゃん……が、何を伝えたいか……わからない……。


 誰か……わから人はいないのか……。

 

『僕の力が、ひつよ――』


 お前は、黙ってろ。

 今、大事なとこなんだ。

 俺の命がかかってる。


 アリシアが脳内で喋りかけてくる。

 

 使えない脳内コンピュータは無視するとして。

 


 もう、聞くしかないか……。

 すまない、愛美ちゃん……不甲斐なくて……。


「くっ……愛美ちゃん……なんて言おうと……してるの……?」

「んん、やっぱりなんでもない……ご飯屋さん行こ」


 俺が待たせたばっかりに………。


 ずーん、と落ち込む。


「うん……行こっか……ご飯食べに……」

「ん」

 

『無自覚も怖いねぇ、釣った魚に餌をあげないタイプか、まあ面白いから良いかな』


 なにやら、アリシアが呟いているが、聞こえない。

 どうせ、良からぬことでも考えているのだろう。

 もしくは、タイムワープ理論でバグってるのどっちかだな。


 アリシアの呟きをアラタは無視して、ランチしに向かうのだった。










 ショッピングモールにあるフードコートで、ハンバーガーを食べている俺たち。


 愛美ちゃんは、大食いタレントなのでハンバーガー3個目だ。


 大物(デブ)化を阻止せんと、立ち向かった俺だったが、愛美ちゃんの食べる姿には、全く歯が立たなかった。



 にゅひょーーーーーーーー!!


 もにゅもにゅ、口を動かすの、かわぇえええええ!!


『おいおい、そんなことしてて良いのかい?

 愛美くんのプレゼント探しが目的だろ?』


 ――ハッ、そうだった。


 あやうく、目的を失うところだった。


 愛美ちゃんの食事シーンは中毒性があるからな。


 

 俺は、食事中の愛美ちゃんを横に、母さんと綾香さんに次にどこに行くか聞く。


「次は、どこに行く?」


「そうねぇ、明日も来れるし、全部今日のうち行こうとせずに、二軒くらいにしましょ」


「そうですね、今日は何だかんだ遅いですし」


 方針が決まったが、どこに行くか決まってない。

 どこ行くって聞いたのに………。

 俺は、再度母さんたちに聞くことにする。


「じゃあさ、どこ行く?」


「メインは、明日にしましょ。

 メインは時間がかかりそうだし、それにゆっくりしたいでしょ? 

 それ以外の二軒だから、お洋服屋さんとケーキ屋さんね」


「先にお洋服を見に行きましょう。

 ケーキ屋さんで、絶対にケーキを買うことになるので……すみません……」


 そう、愛美ちゃんは普段、感情を表にあまり出さないが、食事、睡眠、本のこととなると、目に涙を浮かべ始めてしまうのだ。


 普段はそのようなことだないため、こちらも涙に対する免疫がない。

 泣き止んで貰うために、何かしなければ、という気持ちにはやし立てられる。

 

 そして気づけば、愛美ちゃんの要求を聞いているのだ。



 愛美ちゃん、恐ろしい子ッ!



 そんな感じで、愛美ちゃんが食い付きそうなことは、後回しにして、要求を飲める体勢になったら、行うようにしている。



「そうね、ケーキを持ちながらお洋服は見たくないわね……」

「うん、確かに……」

「すみません……」


 俺たちは、それを知っているため、すぐさま同意する。

 愛美ちゃんの方を見ると、


「?」


 惚けた顔をしていた。


 かわいい。



 ハンバーガーを3個食べ終えた愛美ちゃん。


 かわいい。



『君の語彙は、かわいいしかないのかい?』



 かわいい。



『きっしょ』



 残念だったな!

 愛美ちゃんパワーを吸収した俺には、そんな罵倒は効かんッ!! ふん!!


 俺は、愛美ちゃんパワーでアリシアの罵倒を跳ね除ける。


 

 悔しそうに、ぐぬぬ、と唸るアリシアを横に、俺は空になったトレーを、返却口に戻し、服屋に向かおうとする。


「アラタ、デザートがまだ」


 デザートがまだだった。


 







 デザートを食べ終え、俺たちは服屋に来ていた。

 女の子専用の服屋だ。

 

 普通の服もあるが、

 ヒラヒラが沢山ついている服が目につく。

 女の子が好きそうな服だ。

 

 絵本のお姫様が着ているような。


 母さんと綾香さん、そして俺の三人で、手分けして愛美ちゃんに似合う服、もしくは好きそうな服を選んできた。


 母さんと綾香さんのセレクションは、愛美ちゃんが嫌がったので、ボツとなった。


 次は、俺の番だ……!



 愛美ちゃんの反応は……ッ!!




 ――無。




 無表情だった。

 俺のセレクションは、ボツとなった。


 俺のも、ダメだったかぁー。


「「「はぁーー」」」


 思わず、店員さんの前でため息をついてしまう。


「? お客様、何かお探しでしょうか?」


 お目当ての服がなかった人みたいになってしまった。


「いえ、だいじょ――」

「すみません、この子たちに似合う服ってありませんか?」


 俺が、店員に断りを入れようとすると、母さんがそれを遮る。


 え? なんて……? この子たち……。


「わぁ可愛いお子さんですね、わかりました。

 腕によりをかけます!」


 え、この女の人、なんでこんなにイキイキしてるの……?


 女性店員が、意気込む姿に疑問を覚えつつ、母さんを見る。


 ニヤリッ、


 はっ、謀られたッ!!


 このBBA☆!! 俺に女装させる気だ!!


 バッ、


「と、トイレ行ってくるねッ!!」


 体を翻し、トイレに行くフリで、逃走をはかる。


 しかし、


 動かない。


 肩をガッチリと掴まれている。


 後ろを振り向くと、カメラを片手に持った母さんが俺の肩を掴んでいる。


「母さん……は、離してよ……これじゃあ、トイレに行けないよっ!!」

「トイレはお店の中の方が近いのよ……うふふ」


 凄まじい力だ……ッ。

 いや、それだけじゃあない!


 こ、これは……!

 

 体が……操られている……!?

 


『ぷっ、ぷぷ、おとなしく、服を着たまえよ……アラタくん……前世で、女装がネットに流出したからって、今世でもそうとは、限らないだろ……ぷっ』


 アリシアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 アリシアの身体操作のせいで、体が動かない。

 しかし、ある程度は主導権が残されているようで、まだ首から上は動く。



 す、救いは………。


 首を動かし、救いを求める俺。


 綾香さん!


 バッ、


 綾香さんがいる方に顔を向ける。


 母さんの人たらしに唯一対抗できる人だ。

 救いに足る人だと、俺は信じて――


「綾香さッ………」



 そこには、鼻血を流す凛とした綾香さんがいた。


 

 俺の望みは、砕け散った。

 

 

 もう取り込まれていたか……。


 唯一の対抗手段と思われた綾香さんは変態(かあさん)の手によって、取り込まれていた。

 

 いや……あの人は……元々か……。


 元々、取り込まれていた人を唯一の対抗手段と思い込んでしまったアラタだった。



 もういい、他に……ッ!他に……だ、誰か……いないのか!!


 俺は、最後に残された唯一の救いに手を伸ばす。


 愛美ちゃん!


 俺は、天使に救いを求めた。


「愛美ちゃん! 俺! 女の子の服なんか着たくな――」

「愛美ちゃん、アラタが女の子の服着てるのみたくない?」


 俺の伸ばした手は、悪魔によって払われることとなる。


 母さんが俺の話を遮り、あまつさえ愛美ちゃんに「俺の女装」を提案したのだ。



 この悪魔めッ!! 

 


 愛美ちゃんは「うーん」と考える。


「まな――」

  

 バシッ、


 俺の訴えを愛美ちゃんに伝えないために、母さんが俺の口を押さえてくる。


「ん〜〜〜ッ!! ん〜〜〜〜ッ!」


 口を押さえられているせいで、伝えられない。


 

 愛美ちゃんの中で、アラタの女装姿が思い浮かべられる。

 

 

 愛美ちゃんが、なにやらモジモジし始めた。

 


 悪寒が――走り抜ける。



 息が早くなり、呼吸がし辛い。

 

 心臓が跳ねて、汗が滲み、世界が遅くなってゆく。


 

 う、嘘だろ……嘘だと言ってくれ……嘘だと……。

 

 ほ、ホントは……トイレに行きたいだけなんだろ……?


 そ、そうだと、言ってくれ………。


 

 愛美ちゃんが、チラチラとこちらを見てくる。



 俺の顔は次第に歪んでいく。



 そんな期待した目で……見ないでくれ……。


 

「ふふ、まなちゃん、見てみたいでしょ」


 母さんが愛美ちゃんに問いかける。

 悪魔の囁きだ。


「……うん、アラタのみてみたい……」


 俺を視てから手に持つ本で顔を隠し、顔を赤らめる。


「…………」


 呆然と。


 天井を仰いだ俺は、爆笑するアリシアを横目に涙を流した。


 あとでアイツは殺す、そう心に決めながら、どこか虚しい心で、俺は………。


 ――抵抗することを……諦めた……。



 俺は、ずるずるとお店に連れて行かれる。



 ニコニコとした母さんと店員さん、鼻血を流す綾香さん、そして、期待した目の愛美ちゃんと共に。



 せめて、せめて、一思いにやってくれ。



 じゃあ、バイバイ、みんな……。



 俺は、最後の別れをする。



 






 ずるずると母さんに引きづられて試着室にぶち込まれた。  

 俺には、もう抵抗する気力は残っていなかった。


 母さんの早着替えの(スキル)で、様々な服を着せられた。

 もちろん、全て女の子用だ。


 ちなみに、愛美ちゃんは着替えていない。

 俺の女装鑑賞に専念するためだそうだ。 


 俺の心を、癒す手立ては、その時点で途絶えた。



 そして、現在進行中で着せられている服は――



 フリフリのついた白いカチューシャ。

 メイド喫茶のメイドがつけるようなやつだ。


 そして、フリフリのついたワンピース。

 とても動きずらい。

 オシャレのために、合理性を捨てた服。

 

 全体的に、白とピンクで装飾されている。


 

 そんな服を着ている俺の目の中には、絶望の色がうつろいでいる。


『くく、似合ってるぞ、アラタくん……ぶっ』


 絶望の色に染まった俺の鼓膜には、その声は届かない。

 


 俺は、写真を撮られている現実から、意識を遠ざけるために深い思考の海に潜った。

 

 


(母さんと綾香さんが、ケーキ屋さんを最後にしようとした時点で、おかしかったのか――いや、今日の目的は、愛美ちゃんのプレゼントではなく、コレがメインだったのか……


 明日も来れるしって、母さんは言っていたが、家を出る時には、そんなこと言ってなかった。

 つまり、今日出かけてしまった時点で、俺の女装は確定していた訳だ……

   

 ははっ、やるじゃないか(プルプル)それに、店員さんの反応も微妙におかしかった気がする


 そこも仕組まれていたのか……


 ははっ、やるじゃないか(強がり)

 ハッ、もしかして、愛美ちゃんもグル……。

 いや、それは無いか……。

 

 いや、しかし――)


 もう全てが疑わしく思えてくるアラタであった。





 そんなことを考えるアラタは、現在進行中で写真を撮られている。


 

 

 

 思考に潜っているはずのアラタの耳に、微かながら音が聞こえる。

 

 


 

 パシャ、パシャ、


「はぁはぁ、はぁ……ぐふふふ」


 カメラのシャッター音だ。



 母さんが写真を撮りながら、キモい声を上げている。

 母さんの声じゃなかったら、ニチャ、と聞こえてきそうだ。


 最近の母さんは、見取家や他の人がいる所でも、(変態)を出すようになってしまった。

 もう、引き返せない所まで来てしまった母さん。




 ブシャーーー!(鼻血噴出)


 ドサッ、


「お、お客様! だ、大丈夫ですか!?」


 綾香さんが鼻血を噴き出して、倒れた。

 毎回のことなので、みんな無視している。

 ただ今回は女の店員さんが居たため、助けてもらっていた。

 その人のことは、放っておいて大丈夫ですよ……。





「ーーーーーーッ!」

 

 愛美ちゃん……愛美ちゃんも……そっちに……いってしまったか……。


 愛美ちゃんが、声にならない叫び声を上げていた。

 無口無表情キャラはどこに行ったのだろうか。


 愛美ちゃんが、過去一で興奮してくれている。

 それなら少しは、やった甲斐があるというものだ、と思えてくるアラタだった。



 そして、俺は少し先の未来を視る。


 愛美ちゃんの誕生日で女装する俺の姿を。



 母さんの計画にまんまとハマった。




 そんな俺を見て、アリシアがささやく。


『な、なんだか……ぷっ、可哀想になってきたな……その、なんだ、元気を出せよ……これから誕生日会もあるんだぞ……僕は愉しみで仕方ないが……ぷぷっ……あ、すまない、ちょっと笑っちゃった……』


「…………」


『笑顔、笑顔。 笑わないと……可愛くないぞ……ぷっ』


「…………」


『君のその表情を見てると、濡れちゃうよ』


「…………」


 どこが? とは聞かない。

 俺にそんな余裕は無かった。


 アリシアが母さんのカメラに映る写真を見て、耳元で囁く。


『恍惚としちゃうね』


 そう言い残して、アリシアは消える。





 こうして、俺の黒歴史は、永遠に残されることとなる。


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