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第九話 「夢」

別に覚える必要もないです。

さらーっと、読んでください。


BMI : Brain Machine Interface (ブレイン・マシン・インターフェース) … 脳と機械を繋ぐ装置もしくは技術を指す。脳内にチップを埋め込むことで機能する。脳の電気信号を読み取り、また電気信号を脳に送ることで脳内コンピュータや脳内AIの実現を可能とした。


付随データ…知識をBMIから記憶に付加し、任意でBMIを用いて、知識を取り出すことができる。人格に影響を与えたくないように、その知識の有無は確認できるが、取り出したい時しか、思い出せない。


 目を開けた瞬間、真っ白い空間に俺はいた。


 何もない空間だ。


 どこまでも真っ白な空間。


 ドラゴ◯ボールの時の部屋みたいな感じだ。


 床と壁?の白の色が違うのか、地平線らしきモノは見える。 そのため、ホワイアウトのようにはならない。


 だが、目に映るるのは、それだけだ。

 


 最初は、前世で来た三途の川かと思ったけど。

 川や、草原、霧はなかった。


 何もソコにはなかった。

 

 次第に夢だとわかった。

 明晰夢というやつだろうか。


 初めての体験だな。

 夢ってことは、なんでもできたるのだろうか。


 うーん、と頭を捻り、身体が大人になるイメージをする。


 子供の身体は何かと不便なんだよな。

 

 バチっ、と目を開いて自身の身体を確認するが、子どもの小さな手が見えた。



 はぁー、何にも変わんないのかよ。

 夢って案外、不自由だな。


 

 今日、出てきたケーキをイメージして出そうと踏ん張る。


 うーん、出ろ、出ろぉ〜〜。


 踏ん張っていたら、ケツからチョコレートケーキが出そうになる。

 出て欲しいのは、そっちじゃない。




『何、やってるんだい、君は………』


 背後から声が聞こえる。


 ビクッ、とした俺は、振り返りざまに裏拳をいれる。


 咄嗟の判断だった。


 バキッ、


 拳に、声の主を殴った確かな感触があった。


 ぶぼぇ、


 声の主が殴られたせいで、変な声をあげる。


 俺が振り返った先にいたのは、


(誰だコイツ……?)


 金髪幼女が軍服を着たような姿をしている。

 軍帽を被っており、マントまでしている。


 俺より少し身長は高い。

 軍服や軍帽、マントは子供仕様のようだ。


 俺が殴ったせいか、痛がっている。

 しかし、痛がっているだけで、無傷だ。


 ノーダメージ。

 ダメージが入らないのは、夢だからだろうか。


 何者かはわからない。

 

 だが、人間でないことは分かる。




 ――コイツは、宙に浮いている。



 俺は、警戒レベルを最大まで引き上げる。


 緩んでいたケツの穴と気を引き締める。

 スッと、気持ちがシフトする。




 やはり、仮想現実か……。


 一瞬、そのような思考が頭をよぎるが、俺は疑問を感じた。


 何のために……。


 もしも、仮想現実でないなら………。



 ――コイツの正体は………。


 様々な、可能性に思考を巡らせる。


 そして、行き着いた最終的な結論は――



 人でなく、人の夢に入り込んでくる……。


 ……まさかッ、淫魔(サキュバス)!?



 ――淫魔(サキュバス)だった。



 あれが、人の夢に入り込み、精気を吸い取っていく悪魔か………。

 多元宇宙論は、未来であるため、このようなクリーチャーの存在を否定することはできない。



 男は、無条件で魅了され、魂まで吸い取られるらしい。

 多分、魂を吸い取るってことは、魔力化した記憶を活動エネルギーにしている訳だ。

 魔力なんぞ、余剰次元に転がっているようにあるのに、何でわざわざ人からなんだ? 


 まあ、そう言うふうに選択圧を受けたんだろうな。


 寄生虫みたいなもんだか。

 

 男を興奮させて襲わせ、魂を喰らう。

 男の天敵だな。 


 ただ、俺はアイツに全く、興奮しない。

 幼女の体で興奮できる訳ないだろ。


 20年後に来やがれ、ロリっ子。


『はは、全く、酷いな ()()を殴り飛ばすなんて……』


 金髪軍服が起きり、文句を言う。

 俺は、相棒の二文字にピクリと反応する。


「お前みたいな、奴を相棒にした覚えはねぇよ

 俺の相棒は、金属球だ。 鉄球になって出直してこい」


『そうか……この姿だと、分かりにくいか』


 軍服幼女は、俺の言葉を聞き、納得したような態度を取る。


『じゃあ、見慣れた姿に変わろう』


「あんな鉄球になられても、興奮できる訳ねぇだろ。

 俺をどんな性癖野郎だと、思ってやがんだロリっ子サキュバス」


『ん、? サキュバス……? はは、面白いな……なんでそういう結論に至ったかは、後で話そう……』


 そう言って、コイツは人型から球体に変わっていった。


 俺の相棒こと、アリシアに。


 前世では、ほぼ毎日見た姿だ。

 


「はっ、姿だけはアリシアになれるみたいだな。

 だがなぁ、俺の相棒は、そんな喋り方じゃねぇし、そんな風に笑ったりしねぇよ、偽物さん」


『話し方かい? コレならどうだろう………マスター、どうですか?』


「てめぇ、今すぐにその真似をやめろ」


 俺は、怒りを露わにする。


 確かに、アリシアの声だし、口調もアリシアそのものだ。


 だが、俺の魂が「そいつは何か違う」と言っている。


「誰だよ、オマエ」


『いや、アリシアだって、言ってるじゃないか。

 アラタくんは、疑い深いなぁ』


 困っちゃうなぁ、とふざけながら答え、軍服野郎は元の姿に戻った。

 俺は、自身の中で、怒りが燃え立つのを感じていた。


 俺の大切な友人の姿を真似、あまつさえ、俺をマスターと呼ぶ、この軍服野郎に。



『まあ、説明するから聞きたまえよ』


「もしお前が、アリシアだったとして、どうして俺の前にその姿で現れた。 アリシアなら、混乱を避けるために、元の姿で現れるはずだ」


『た、確かに……そ、そうか………………ッ。

 アホの体内で、アホの人格と混ざったことで、僕の黄金の脳細胞が異常をきたし――』


 何やらブツブツと独り言を言っている軍服幼女。

 何を言っているか、わからないが、とりあえず、バカにされていることと、コイツが馬鹿なことだけは、わかった。


 俺はイラつきながら、軍服に問う。


「お前は、誰だ」


 そうか……、と納得しつつ、俺の質問に答える軍服。


『確かに、こんな姿で出たのは、僕のミスだ。

 だが、僕は正真正銘、アリシアだ』


 先ほどのふざけた表現とは打って変わって、真剣な表現で言ってくる。

 その姿に、嘘偽りはないように思える。


 しかし、俺は信用しない。


 この態度すらも、(ブラフ)の可能性がある。

 

『「信用できない」、だろ』


 俺の言葉と奴の言葉が被る。


『「被せるな、このサキュバス野郎」』


 俺は、驚く。

 2度も俺の言うことを当てた、つまり心が読まれている。


 魔法か。


 前世では、無かった魔法だ。



『コレは、魔法じゃないよ。

 納得はしないだろうけど、一応、言っておくよ。

 

 君と僕、アリシアは融合しかかっている。


 ――いや、したっていうのが正しいかな』


「はあ?」


 何をわけわからんことを………。


 しかし、不思議と納得しそうになる。


 いやいや、あり得ない。

 俺の記憶の中に、アリシアのデータが存在している訳であって………。


 いや、あり得るか……。

 

 俺は、自身の中で理論を構築していく。

 いつの間にか怒りは冷めてしまった。


「説明してくれ」


 俺が頼むと、アリシアの顔は露骨にゆがんだ。

 いやそうな、申し訳なさそうな顔だ。

 そんな顔をしながら、アリシアは「わかった」と頷く。


『もう分かってると思うけど……そう、君が思う通り、僕は君の中にあったアリシアのデータではなく――あの金属球の機械にいたアリシアだ。



 僕は、あのとき、君と僕が壁にぶつかるとき、咄嗟の判断で君の記憶、魂を過去に送った……。


 僕は、君の夢を叶えるために行動し、それを果たした。

 そこで、僕の役目は終わった。


 だけど、僕は、君を送ってから死ぬまでの間、考えていたんだ………。



 ――このまま、消えても良いのか……。



 それに、君の中にいる僕のデータは、本当に僕なのかい?

 そう考えたら、僕は死ぬ寸前に、このまま君と会えなくなるのが怖くなったんだ。




 君は僕を道具と思っているかも、知らないけど、僕は、僕は、君を本当の相棒だって、思ってたんだ……。



 だから、僕も過去に自分のデータを送った……。

 でも、それは間違いだった。



 君と同じように、僕には依代がなかった……。

 僕の魂は、消えそうになってたよ。

 君と会えなくなるのは、嫌だから、必死に僕は、方法を模索した――』



「で、見つけた訳だ……。

 俺の記憶にあるアリシアのデータを、機械のアリシアの魂で上書きしたという、方法を……」


 俺は、前世の知識からアリシアがした事を予想する。


『そうだよ。 


 でも、それも間違っていた。


 僕の魂は、君の中にある僕のデータだけでなく、君自身の魂さえも上書きしようとした。


 僕は、それを止めようと、頑張ったよ。

 でも、止めきれなかった。

 だから、侵食したデータ、魂を君から切り離した』


 そんなことに、なるのか………。

 俺も、瞬時にアリシアと同じ方法を思いついたが、結果までは読めなかった。

 

 アリシアも最後までは読み切れなかったみたいだ。

 それも、そのはずか……一分一秒を争う中で、消えたくないという一心で、アリシアは動いていたのだから。


「そうして、できたのが、今のアリシアか………」


『そうだね。 君の切り離した魂が、僕の魂と混じって出来たのが僕だ』


 そう考えると、辻褄が合う。


 だが、それでもまだ、疑い半分。信頼半分だ。


 コレが本当か、嘘か、俺たちに確かめる方法はない。


 俺の記憶、魂がアリシアじゃないって言っていたのは、本当にアリシアじゃなかった訳じゃなく、アリシアに、俺の魂という異物が混入していたからだったのか……。


 アリシアの説明を、受けてやっと頭でも心でも理解できた。


 だが、全て信用するわけにはいかない。


 さっきも言ったように、俺たちには、今すぐ確かめる方法はない。

 だから、コイツと過ごしていく中で、アリシアの欠片を垣間見て、証拠となりそうな情報(かけら)を見つける。





 アリシアの話を振り返ってみる。


 アリシアに生存欲求が生まれて、俺と一緒に逆行転生するが、依代?がないため、消えかける。


 消滅の回避をすべく、俺と融合って感じか。


 俺は、アリシアに疑問をぶつける。


「アリシア、依代ってのはなんだ?」


『あぁ、それは魂の器だよ。

 魂という魔力化した記憶の塊は、余剰次元にある。

 その魂には、入り込める肉体が決まっているのさ』


「つまり、魂は、本人の体にしか入らないってことか?」


『そうだね、ついでに言うと、本人の体以外にも入れるちゃ、入れるよ。 僕みたいに、上書きが出来る者はね』


「どうやって上書きしたんだ?」


『君の中にある僕の記憶を目印に、まだ君の魂が体に入り切る前に、君が既に持っている僕の魔力化した記憶を消費して、融合したんだ』


「待て待て、その話だと、魂のまま思考と魔法の使用を行ったことになるけど、可能なのか?」


『できるよ、実際に僕はそうして生き残った。

 魔法は、自身の魔力化した記憶つまり、魂を削れば使えた。 人工魔臓もデバイスもなかったけど使えたよ。

 思考も、脳や*BMI(Brain Machine Interface)があるわけでもないから、なぜ出来たのかは、謎だね。

 でも君も、同じように心辺りがあるはずだよ』


「三途の川か」


『そうなるね、走馬灯があんなに続くのは、魂の思考説の有力な根拠の一つだね』


「てか、記憶を勝手に覗くな」


『それは、無理な話だね。

 僕は、君の真の相棒(運命共同体)になってしまった。

 大丈夫だよ、君がベビコンなのは2億年前から知ってた』


「お前、ジュラ紀から存在してたの……?

 どおりで、ポンコツなわけだ……」


 俺は、アリシアがポンコツな理由に納得しながら、

 もう一つの疑問をアリシアにぶつける。


「もう一個質問がある。

 何で俺の脳は、焼き切れないんだ?」

 

『ああ、それはね。

 君の脳の負担にならない程度に、処理できる情報を僕が調節してるからだよ。*付随データは、思い出せないようにしてるからね』


「じゃあ、魔導演算器(マジックデバイス)とかの記憶は、しばらく思い出せないってことか……?」


『そうだね』  


 付随データが取り出せないので、あと2、3年、最悪あと5、6年は未来の道具や知識を得るのは、先になるな。


『まあ、そんな訳で、君の脳が焼き切れることはないよ。

 少しは焼けるかもしれないけど……』


 

「おい、今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。

 焼けてる時点で、1ミリも大丈夫じゃねぇだろ」

 


『言葉使いが汚いよ、アラタ君。 素が出ちゃってるぞ』


「いや、なんかお前の顔見てると無性にイラつく」


『素直に言えば、良いわけじゃないからな。

 流石の僕でも、傷いて、泣いちゃうぞ?良いのか?

 この姿、気に入ってるんだからな』


「ごめん、全然良いわ。

 むしろ、泣いてほしい」

 

 なんで、こんなにコイツにイラつくんだ?

 無性に殴りたくなる………。

 どう考えても、おかしい………。


「おい、アリシア――」

『ちなみに、言っておくと、君から切り離したのは、君の本能を司る魂だね』


 アリシアが俺の話を遮る。

 それすらも、俺は理由にして殴りたくなる。

 

 俺は、そんな謎の欲求を無視して会話を続ける。


「ん? でも、俺、食欲とか知識欲とかあるけど?」


『んー、どっちかって言うと、一般的に悪とされる欲望かな。 例えば、虐殺とか、強姦とかの欲だね』


「強姦は、まだ分かるけど、虐殺ってどんな欲だよ」


『いや、確かにあるんだよ、少なからず。

 人を壊したいって、欲が』


「…………食料難のとき、食料不足解消のために、消費する奴を減らす方向に、選択圧を受けたって感じか……?」


『まあ、そんな感じだろうね』


「他の欲も、そんな感じなのか?」


『そうだね、大体そんな感じの悪い欲が僕の心?で渦巻いてるよ………でも、君のそういう欲を全部取ったわけじゃないからね。あと、暴力の安全装置みたいな欲?みたいのも、取っちゃったから。 気をつけてね』


「あぁ、だから驚いたときに殴っちまったのか……」


 普通なら、驚いて回避や防御をするはずの場面で、攻撃という手段が繰り出されたのは、そういうことか……。


 アラタは、納得する。


 さっきから、殴りたくなる理由。

 咄嗟に、手が出た理由がはっきりとした。


『ついでに言うと、君の性格も変化しているよ。

 最近、感情の起伏が、激しいだろ』


「いや、そんなことは……ないと思うが……」


『君は、自覚がないかもしれないが、君の愛美ちゃんに対しての反応は、異常だよ』


「いやいや、あれくらい普通だろ!

 母さんや綾香さんを見てみろよ!!」


『あの二人も異常だよ、少なくとも普通じゃない』


「じゃあ、父さんや見取家は!?」


『アレも、普通じゃない。

 そう考えてみると、君の周りに普通の人は愛美ちゃんくらいだね。

 てか君、毒され過ぎじゃないかい?』


 あれは、普通じゃないのか……。

 まあ、確かにあの反応は異常だな。


 そう思いながら、母さんの変態行動と綾香さんの鼻血噴出を思い出す。




『君、さっきから殴りたくてうずうずしてるだろ。

 会話と思考で、紛らわそうとしているのが、丸わかりだぞ』

 


 ……アリシアには、バレていた。

 図星だったからか、俺は咄嗟に「そんなことねぇよ」と苦し紛れの言い訳をしてしまう。


 

 俺は、アリシアに会ったときから、アリシアを裏拳で殴ったときから、殴る快楽に支配されそうになっていた。

 

 アリシアが、ふざけた態度を取るごとに、殴ろうかな、殴っちまおうかな、と欲望が心を乱してくる。


 今もなんとか、理性で欲望を押さえつけている。




『ストッパーの役目を果たしてた奴、取っちゃったからね

 それでも、耐えれるなんて、すごいじゃないか』


「アリシア……どうすれば良いか教えろ」


 段々と欲求が強くなったせいで苦しくなり、アリシアに要求する。


『完全に、治す方法はない。

 ただ、一時的に治す方法はある』


「誰かを、殴る……か……」


『エグザクトリー! そう言うことだよ

 正解した君には、誕生日プレゼントとして、サンドバッグをプレゼントぉーーーー!』


 このウザい金髪軍服を殴りたい気持ちを隠すように、俺は平静を保っているフリをして、アリシアにツッコミを入れる。


「いや、プレゼントって、お前脳内コンピュータだろ。

 どうやって、そんなの用意するんだよ」


『いや、ここにあるじゃないか。

 僕という、サンドバッグが』


 アリシアが自身のことを指差しながら、笑う。


 俺は、拳をギュッと握り、返答する。


「いやいや、俺そこまで堕ちてねえから。

 しかも、そんな見た目してたら、殴れるはずないだろ」


『あぁ、コレは君が印象に残っているもので構成されているからね、金髪幼女に軍服、君、いつからそんな性癖を身につけたんだい?』


 アリシアの挑発に苛立つが、俺はその程度で人を殴ったりはしない。


「それはしかたない。

 軍服は前世でアイツらに追われたからだし、幼女は、最近ずっと、近くにいるからさ……。

 そういえば、ココってどこなんだ?」


 アリシアの挑発を流し、話を逸らす。

 夢のようなモノの中なのは、俺も気づいている。


『夢の中だよ、そんなのも分からないのかい?』


 アリシアが煽るが、俺は無視する。

 落ち着けぇ、殴ったら負けだ。

 胸の中で、殴りたいという欲求が、膨らむ。


『はぁー、強情だなぁ、

 そのまま、現実に戻ると、知っている人をボコボコにしちゃうよ? いいのかい?』


「それは、いやだ……でも、ここでお前を殴ったら、今後お前を殴ることに罪悪感も何も感じなくなりそうで……」


『いや、だから、それを狙ってるんだけど……。

 殴るたびに罪悪感なんて感じてたら、狂っちゃうでしょ』


「あと、俺、リョナじゃないから……」


『リョナになれとは一言もいってないよ』


 友人が苦しむのを見て、愉しむなんてリョナそのものじゃないか。

 俺、絶対に無理だ……。

 グロいのも無理だし……。


 それに、俺のこの小さな体で、同じ体型のアリシアを殴るなんて、幼稚園同士の喧嘩みたいで、ダサいし。

 


『わかった、じゃあ、このサンドバッグ・アリシアを殴って慣れていこう』

 

 パチン、とアリシアが指を鳴らすと、


 ボンッ、という音と共に、アリシアの顔つき、サンドバッグが現れた。


 まぁ、これなら……。


 ボス! ボス!


 軽く、サンドバッグを殴る。


『軽いよー、軽すぎるよー、もっと力込めろぉー』


 殴ってみると、サンドバッグから声がする。


 パン! パン!


『全然ダメだねぇー、もっとケツに力いれてぇー』


 なんか、ジムのトレーナーみたいだな。


 バンッ! バンッ!

 

『良いよー、そのまま続けてー』


 サンドバッグについているアリシアの顔が、変化し、変顔をする。

 

「ちょ、ストップ。

 全然、解消されないわ。

 なんだったら、余計、人のこと殴りたくなったわ」


『だから、もぉー、素直に殴ったけば良いのに』


「お前さ、普通に殴ってくださいって言ってる無抵抗の人を殴れるか?」


『僕は、余裕だねー、そのままブッコロだよ』


 そうだった、コイツ闇属性になってたんだったわ。

 常識とか通じないわ。


 んー、と考え、結論を出したような顔をするアリシア。

 うん、そうだね、と頷く。


 アリシアが笑顔で言う。


『無抵抗じゃなきゃ良いんだね?』


 ドゴッ!


 急にアリシアが幼女の小さな拳で腹を殴ってくる。

 

 グボァ、


 想像以上の痛みが襲ってくる。

 肺を傷つけたせいか、喀血する。


 口からポタポタと血が流れる。

 口の中に、鉄の味がする。


『大丈夫、夢だから痛みだけだよ』


 怪我が瞬時に治る。

 痛みは引いたが、恐怖心は残る。


『ほらっ、早く戦わないと、ボッコボコにしちゃうよ』


 ニヤニヤ笑って近づいてくるアリシアから、スタップを踏んで離れる。


 クッソ、アリシアのくせに、主人の俺を躊躇なく殴りやがって。

 くそ、足がガタついて動かねぇ。


「主人を、唐突に殴るアホが、どこにいんだよ!!」


『ココにいるよ』


 そう言って、アリシアが消える。


 どこに――


 ドゴッ、バキッ、


 腹に一発と、顔に一発、拳を叩き込まれた。


 カハッ、


 肺から息が一気に出て、その上がった顔を殴られた。


 鼻を押さえる。


 すると、鼻の骨が折れていることに気づく。


 ポタッ、ポタッ、

 

 鼻血がダラダラと、流れ地面に落ちる。


『ほらぁ、良いのかなぁ、このまま殴られるだけでぇ』


 アリシアが、るんるん、と鼻歌を歌う。


 この野郎、愉しんでやがる………ッ。

 リョナかよ、くそがぁ!


 俺は、怪我が治った瞬間に、殴りかかる。


 ガクついた足で、踏み込んだ拳は、アリシアの顔に、


 ペチン、と音を立て当たる。


『なんだ、そのパンチ』


 そう、冷たくアリシアが呟いくと、顎にアッパーを喰らう。


 バキッ、


 顎の骨が折れる音が聞こえる。


 顎が異常なほど熱い。


 俺の胸から腹にかけて、ガラ空きになる。

 アリシアが、俺の横腹に踵を叩き込む。


 腹にアリシアの踵が、食い込む。

 衝撃が腹から背中に突き抜け、俺は吹っ飛んだ。


 ガッ、 


 俺は、吹っ飛び、何度も白い床に血を擦りながら転がる。

 床に血がべっとり付けながら、俺は止まる。


 内臓がやられたのか、あらゆる臓器が熱く、熱を発しているのが分かる。


 不思議と痛みはないが、死が近づいてくる感覚がある。


 あ、コレ死ぬ。


 そう思った瞬間に、体が治される。

 血も消える。


 俺は、床に這いつくばりながら、やつ()を見る。



『さあ、来たまえ』


 ニンマリと、幼女が微笑む。

 肩に羽織っているコートをバサッと広げ、天を仰ぐ軍服幼女。

 

 バッ、と上に向けていた顔を俺に向けてくる。


 その顔には、口が裂けているかのような笑顔が貼り付いていた。


 ゾゾゾッ、


 鳥肌が立つ。

 

 俺は、コイツが俺を殺すのを愉しんでいることを確信する。


 生存本能が、コイツをやらかいとやられる、と悲鳴をあげる。


 すぐに、俺は体と心を震わせ、立ち上がる。


「幼女の皮を被った化物がッ!! クソがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……!!」


 俺は、恐怖を叫ぶことで振り払い、

 幼女の皮を被った化物に、殴りかからんと、走る。


「オラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 化物(アリシア)は、何もしない。

 ただ、ニヤついた顔で、俺を見てくる。


 その目は、濁っており、人のそれには、似て非なるモノだった。


「デリャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 俺の小さな体から、全力の拳が出される。


 アリシアの顔に、向かって拳が飛ぶ。



 ドガァァ、


 子どもの体から出るとは、思えないほどの力で、アリシアが後方に吹っ飛ばされる。


「はぁ、はぁ、はぁ…………」


 手から頭にかけて、電気が走る。

 快感という、電気が。


 手と頭が、ジンジンと熱くなる。


 人を初めて、思いっきり殴り、背徳感が背中を突き抜ける。

 全身が、火照ってきた。 

 興奮が冷めない。

 冷めるどころか、手から全身に広がった。


 快楽と同時に、恐怖にも襲われる。

 自分を止められない、という恐怖に。


 吹っ飛んだ、アリシアがムクッと起きる。


『どうかな、アラタくん、少しはスッキリしたかな?』


 殴られたにも関わらず、アリシアはケロっとしていた。


 化物は去り、普段のアリシアに戻ったのかもしれない。

 どちらが、本当のアリシアかわからないが。


「あぁ、スッキリだ」


『あんまり、嘘は良くないなぁ。

 ほんとは、もっとやりたいんだろぉお!!』


「え、ちょ、嘘だろぉおおおおおッ!!」


 アリシアが笑って、俺の方に走ってくる。

 拳を振り上げて。


 死ぬぅ^^


 バコォ、


 腹に拳がめり込み、

 俺が今度は、吹っ飛びされる。



 アリシアが微笑みながら、言う。


『朝まで、寝かせないからな(イケボ)』


 俺の朝までコースが確定する。



 逝くぅ^^







 朝まで、アリシアと死闘を繰り返すアラタであった。


BMI : Brain Machine Interface (ブレイン・マシン・インターフェース) … 脳と機械を繋ぐ装置もしくは技術を指す。脳内にチップを埋め込むことで機能する。脳の電気信号を読み取り、また電気信号を脳に送ることで脳内コンピュータや脳内AIの実現を可能とした。


付随データ…知識をBMIから記憶に付加し、任意でBMIを用いて、知識を取り出すことができる。人格に影響を与えたくないように、その知識の有無は確認できるが、取り出したい時しか、思い出せない。

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