プロローグ
※注意事項
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
天の川銀河から130億光年彼方にある銀河「GN-z11」
その銀河のとある惑星。
その惑星は、赤き砂に覆われていた。
赤い砂が舞う荒野。
そこに、真四角な構造物がポツンと建っている。
◾️
謎めいた構造物の中。
実験器具があちこちに散らばっている部屋。
その部屋の金属製ドアが爆発した。
「動くな!この施設は、すでに包囲されている!」
銃を構えた軍服の男達が、研究所にドタドタと入ってくる。
男たちの先頭に、ニマニマ笑っている男がいた。
男は、すでに逃亡者を捕まえた気になっているのだろう。
――しかしそこは……もぬけの殻だった。
ニヤついていた男の顔が、徐々に赤くなっていく。
「探せッ!この惑星にいることは確かなのだ!!」
怒号が、廊下まで響き渡る。
「はっ、はっ、はっ、……!」
必死に駆ける白衣の青年は、廊下まで響く怒号を聞き、愚痴を漏らす。
「はっ、もう、ここまで追ってきたのかッ…………優秀なこった! これさえ……これさえ完成してれば――」
自身の持つキャッシュケースに似た魔導演算器に目を向ける。
この魔導演算器は世界をひっくり返す可能性を秘めている。
まだ実験は出来ていないが、理論上は時間移動が可能なのだ。つまりタイムワープできる。
しかし理論と現実は、また異なってくるため実験と改良をしないことには、実際に「できる」とは言えない。
だから、まだこれは使えない――
◾️
「はぁはぁ、もう……すぐでぇ……脱出ポッドだっ……はぁはぁ」
目的地に近づいたことで、青年は息も絶え絶えに安堵していた。
青年は、脱出ポッドのドアを開け、脱出ポッド内の椅子にドカッと座る。
青年が今乗っている脱出ポッドは、細長い筒状になっており、その端は丸みを帯びている。
「ふー……アレシア、起きろ」
脱出ポッドの一つしかない椅子に腰掛けながら、人工知能ロボに起動を命令する。
すると、席の横でコードに繋がれ充電中の大きなレンズのついた金属目玉が反応する。
『ピッ、ピッ、おはようございます。アラタ様』
「アレシア、魔法の使用は禁止だ」
『了解しました。 なぜとお聞きしても?』
「探知されるから」
『端的な説明をありがとうございます』
アレシアに命令だけ飛ばし、自身は息を整え脱出ポッドの発射に備える。
『では、脱出ポッドはどちらへ?』
「AKs-35銀河に目標設定」
『了解しました。 衝撃にご注意を』
―――3
―――2
―――1
『脱出ポッド、発射』
―――ゴゴゴゴゴ!!
◾️
一方、軍服たちと隊長らしき男は。
―――ゴゴゴゴゴ!!
「なな、なんだッ!!!!自爆システムでも起動したのかッッ………………!!!」
隊長らしき男が叫ぶと、周りの兵たちも騒ぎ始める。
「狼狽えるな!! AI解析の結果を言えっ!!」
命令を飛ばし、結果を急ぎ報告させる。
「は! ロケットなるものの発射音だそうです」
「はぁぁぁああああ!!!!?? ロケット、ッッ!!? なぜ旧時代のものなんぞ使っているんだ!」
ロケットとは違うが、脱出ポッドやロケットは、この時代では「教科書に出てくる」レベルの旧時代の遺跡なのだ。
実際に使われているものを見た者は、ほぼいないだろう。
「隊長!魔導探知の対策であると考えられるであります」
「ぐぬぬ………小癪なマネを!!お、追え!! 追うのだ!!なんとしても、ここで捕まえるんだ!!」
「「「「「は!」」」」」
兵士たちは、男の怒号に敬礼で応じ、廊下をドタドタと駆けていく。
◾️
宇宙を飛行中の脱出ポッド内。
「なぁ、アレシア、魔法使わないと、こんなに遅いんだな 亜光速にもならない」
『いえ、なるにはなります。 ただ、マスターの体が粉々になるだけですが』
「ちょっと、試してみて良い?」
『まあ、やってみても良いですよ、亜音速くらいなるんじゃないですか? 対価はマスターの命ということで……』
「ならば、よしッ、いけぇええええええええええええええええええええええ!!」
『よしッ、じゃないですよ、一人で盛り上がるの辞めて下さい、死にますよ』
「いや、どうせ蘇生で治せるじゃん、とりあえずやって――」
『そ・れ・よ・り・も、私をマスターから分離した理由もお聞かせ下さい』
「……なに怒ってんの?」
『…………理由をはよう教えろや、バカマスター』
怒っているところを否定しないあたり、本当に怒っているみたいだ。
早く理由を言わないとすね始めそうだな、と考えた青年は、素直に答えることにした。
「あぁ、それは多元宇宙理論を思考するとお前、バグるし……。
脳内コンピュータのお前にそれやられると、集中できないからさ……」
『いやいや、私がそんな低スペックな訳ないじゃないですか、この超超ハイテクロボであるアリシア様にしてみれば、多元宇宙理論など、お茶の子さいさいですよ……どれどれ…… ◎△$♪×¥●&%#?!』
「はいはい、デジャブデジャブ」
--
『…………マスター、ココはどこですか?』
「はぁー、だからイヤだったんだよ……」
『マスター、言っている意味が理解出来ないのですが』
「誰か、このクソ人工知能と替えてくれ」
『それは、無理です。 だって、私はマスターに創られ、マスターに一生付いていき、マスターのために働くためにあるのですから』
「誰だよ、コイツを改変不可の性格にした奴……」
『マスターです』
「マジで一発殴りたい」
『タイムワープ魔法が完成すれば出来るかもしれませんね。
ちなみに、完成はしましたか?』
「理論的には完成してる………」
『じゃあ、実験は出来てない感じですね デバイスをこちらに……仮想現実で実験してみます』
「頼む」
そう言って、アレシアにキャッシュケース型の魔導演算器を渡す。
ちなみに、完成させたタイムワープ理論の魔法を仮想現実で使用する際は、アリシアに思考させる訳ではないので、特にアリシアが故障する心配はない。
『前よりクマが酷くなっていますね マスター、寝た方が宜しいのでは?』
しばらく睡眠をとっていなかった青年の目の下にはクマができていた。
『以前は、健康こそ全て長生きが人生だっとかなんとか言ってたのに…カプセル(体を治療するための機械)で体は戻りますけど、精神は削れるんですから、ご無理はなさらない方が……』
「少し、長生きより大切なことを見つけたんだよ」
『そうですか……』
心配そうなアレシアの声を聞き、目をつぶると、安心したせいかドッと疲れが出てきた。
そのまま、疲れという錘と一緒に深い眠りへと沈んでいく。
◾️
宇宙艦隊、司令室。
AIの解析によって脱出ポッドの向かった方向へと飛んで向かう。
しかし、
全く見つからない。
イラついた隊長の男が声を荒げる。
「まだなのか!!まだ、奴は見つからんのか!!」
「は!只今、動く小物体を発見いたしました!」
「もう20回も、不発に終わっているんだぞ!!!」
「す、すみません!」
緊張した様子の別の兵が、敬礼したまま発言する。
「報告させていただきます!銀河AKs-35に向かう金属飛行物体を発見! しかし、このままでは逃します」
「もういい!!ワープッ、ワープだッ!ワープを使え!!!!!!」
その号令に、近くにいた兵士が意見する。
「た、隊長、、無理です!小惑星と被ったら、墜落します! しなくてもエネルギー切れになってしまいます!」
「うるさい!私は、将官になるべき男なのだッッ!!!」
邪魔をしてくる兵士を押し退け、目の前に投影されたホログラムを操作し、テレポートを開始する。
宇宙艦隊が、魔力の蒼い光に覆われ、消えた。
◾️
薄暗い草原、乳白色の薄霧、そして横にずっと続く大きな川。
(………ココは……)
困惑する青年だが、
現在地を確認するべく、周囲を見渡す。
すると、
向こう岸で、誰かがこちらを見ているのが見えた。
顔は見えないが、小さい頃に亡くした両親のように見える。
(あぁ、父さんと母さんか……)
不思議と納得してしまう青年。
川の向こうを見ていると、
背の高い男の人が、手を振ってくる。
そうすると、横にいた女性が彼の腹に拳を入れる。
ははっ、と
自然に口から笑いが溢れる。
溢れた笑いに疑問を持ちながら、向こう側にいる両親を見る。
父さんと母さんは、俺に背を向けて去って行こうとする。
「父さんッ、母ッ………」
思わず、去り行く両親を止めようとしてしまう。
止めたからって、そっちに行けるわけでもないのに……。
止めたい気持ちをグッと抑える。
俺は、去って行く家族に向かって
心の中で
(まだ、やることがあるから、そっちにはまだ行けない)
と、呟く。
思いが伝わったのか、両親たちが足を止め、振り返る。
二人とも、こちらを見て微笑んでいるように思えた。
まるで、気にするな頑張って、と言っているようだ。
目の奥が熱くなる。
ずずっ、と涙ぐみながら鼻をすする。
そんな俺を見ている両親は、名残惜しそうにしつつも俺に背を向け、再び歩き始める。
両親が歩いて行く方をよく見ると、奥に多くの人影が見える。
なんとなく、わかった。
あの人たちは、自身の開発した魔法が原因で亡くなった人たちだと。
(すみません まだ、そちらには行けません 貴方たちと同じ人を生まないためにも、俺は……)
そう心の中で呟くと、
次第に、霧が濃くなっていく。
両親の姿は、もう見えない。
全身が霧に覆われることで、視界が真っ白になる。
そして、自身の身体の感覚が消え、霧と一体になっていく。
目の前は真っ白で、何も見えないし、何も聞こえない。
何も聞こえないはずなのに、何か聞こえる。
ビィー、ビィー―――
なんの音だ…………。
ビィー、ビィー、ビィー、ビィー――――
霧の中で目がカッと開く、サイレンの音と気づいた瞬間、夢から現実に引き戻される。
「はっ、はっ、はっ、」
荒げた息を、整えようとするが、それをアリシアは許さない。
『寝坊助マスター!手伝ってください!! マスターのことが大好き兵士たちが片道切符で追ってきてくれましたよ!!ここら一体、ワープエリアです!!』
ワープエリア、ワープの目的地にワープ直前に、現れる時空の歪みが広がる場所。必ず、ワープエリアのどこかにワープする。
「アレシア!! 魔法の使用を許可する! 緊急離脱!!」
そう叫んだ瞬間に、
脱出ポッドの前のカメラ一面に、突如として金属製の壁が現れた。
真っ白な金属製の壁。
段々と、その壁に近づいているのがわかる。
そして、俺がその壁が宇宙艦隊のものだと気づくのに1秒も掛からなかった。
しかし、気づいたときには、もうすでに手遅れだった。
時速1000kmの俺らは、考える暇もなく壁にぶつかる。
宇宙で爆発が起きる。
その爆発は、エネルギー切れでバリアも張れてない宇宙艦隊を、沈めるには十分な威力だった。
青年と人工知能を乗せた脱出ポッドは、宇宙艦隊に穴を開けながら、粉々に散り、宇宙の藻屑となった。
爆発の後には、
堕ちてゆく宇宙艦隊と、粉々になった脱出ポッドの破片。
そして、蒼い光だけが残った。
魔導演算器…高度な魔法を実行する上で必要不可なものであり、人が高度な魔法を使用する際、補助的な役割を果たしている。
脱出ポッド…本来は大型船や宇宙船が火災や爆発などの緊急事態に晒された際の避難に用いられる小船舶だが、逃亡者が逃げることにもよく使われる。




