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『贋作』


 読みかけのままで放置された小説の山が陽光を遮り、迷いを孕んだ筆運びで醜く色付いたキャンバスがなんとも中途半端に照らされている。


 不恰好なスポットライトを浴びているのは、観る者に特段これといった印象を与えない退屈な油彩画。ただただ何か綺麗なものを作りたくて一心不乱に塗りたくった青は、今や色を重ねる度、反比例的に美しさを失っていく濁りと化した。

 作品として仕上げる価値など既に無くなっているが、期限が迫っている以上今更やり直しは効かない。泣く泣くこれを展覧会に持っていく他ないだろう。まぁ、素通りするには丁度良い完成度だろうか。


「……やってらんねえなぁ、クソ」


 吐き捨てるように呟く。

 鼻腔を染め上げる絵具の油臭さにも、集中が切れた事により気が付いた蒸し暑さにも、傑作には遠く及ばない自分の作品にも、頭の中を埋め尽くすそういった全ての情報とやるせなさに月永(つきなが)は辟易していた。


 眼窩の裏側に射影された抽象的かつ完璧なイメージを全く以て再現できず、創作者としての強烈な衝動を無駄死にさせてしまったこの徒労感と虚脱感は、何度経験しても堪えるものだ。


「そりゃあやってらんないよね。狭いし暗いしさ、アトリエとしては最悪の環境だもん、ここって」


 茫然と立ち尽くしていると、背後から天羽(あもう)のふわりとした声が届く。あえて渋面を浮かべたまま振り返れば、そこには棒アイスを口に突っ込んで自身のキャンバスと向き合う女性の姿があった。

 華奢な身体を草臥れたタンクトップとショートパンツでなんとか覆い隠し、伸ばしっぱなしの、しかしどこか幽玄な美しさを帯びた暗緑色の長髪を躊躇うことなく汚れた床に落としたまま、彼女は不敵な笑みを浮かべている。


「勝手に上がり込んどいて何言ってんだ……俺のアイスも食ってるし……! マジで全部請求するからな、そのうち」


「わー嘘嘘ごめん〜、許しておくれよぉ」


 暗い色彩を湛えたパレットを片手に、へらへらと誠意の無い謝罪を口にする天羽に返す言葉も気力も無く、月永は大きめの溜息を吐いた。


 勝手に上がり込んだ、と前述した通り彼女とは別に恋人関係であるとか、同棲関係にあるとかそういった事ではない。本当に単なる聖域の侵入者である。

 それにも関わらず、天羽をここから無闇に追い出せないのにはとある理由があった。


「もうすぐ完成するからさ、それまでは置いといて? ね?」


 ────天羽はどういう訳か、彼女の作品のモデルに月永を抜擢したのである。



 ◇◇◇◇◇



 彼女との出会いは大学入試の日。

 たまたま隣に座っていた天羽が、「生活費を全部画材に使っちゃったせいで今晩食べる物が無いんだぁ」などと馬鹿げた理由で助けを求めてきたのが馴れ初めだった。

 とはいえ状況を知ってしまった以上冷たくあしらうわけにもいかず、恩でも売っておくか、ぐらいの気持ちで一度手料理を振る舞って以来、彼女はしょっちゅうこのアトリエに入り浸るようになってしまった。

 一応自らの住居も有るみたいなのだが……なんというか、野良猫に懐かれてしまったようなものなのだ。


「……さっさと完成させてとっとと出てってくれよ、こんな狭くて暗くて臭ぇウサギ小屋なんぞ天羽さんだって嫌なんだろ」


「別にそこまでは言ってないけどさ……折角大きな窓があるのに光を遮るなんて勿体無いよ、って事を伝えたかったの。鈍感だなぁ」


「分かるわけねぇだろ……」


 会話の最中にすっくと立ち上がった天羽が窓際の本の山をせっせと片付け始めると、次第に薄暗かった空間の隅々まで光が満ちていく。


 アトリエ、とは名ばかりの狭い部屋の中には、弦の切れたアコースティックギターや埃を被ったオルガンなど、ついぞ結実することのなかった夢の残骸が散在したまま腐臭を放っていた。


(…………これだから嫌なんだ)


 月永はそれらと目を合わせぬよう顔を伏せ、筆を握る手の力を緩める。画家の心臓はするりと手から零れ落ちて、からんからんと、存外軽々しい音を立てて視界から消えたのだった。




 自分がこうなったきっかけは何だったか。月永は考える。

 描いた絵を友人に絶賛された時。

 何気なく聴いた音楽に衝撃を受けた時。

 貴方の選ぶ言葉は綺麗だ、と先生に褒められた時。

 教科書に載る彼らの数奇な人生と美しい生き様に初めて触れた時。


 恐らくそのどれもが少しずつ影響を与えたのだろうが、月永はいつしか漠然と“芸術家”を志していた。

 

 音楽、文学、デザイン、映像────そして絵画。

 学生として暮らす過程で月永は手当たり次第に挑戦し、その全てにおいて惨たらしい程の大敗を喫してきた。早い話、“天才”として生を享けた訳ではなかったのである。

 何を生んでも、何を表現しても箸にも棒にも掛からない。月永の創作はこの世界の誰にも求められず、興味を持たれず、そしてどうしようもなく不必要だった。

 尊い時間を浪費して作ったそれは天才の発明の二番煎じか、或いは比べるのも烏滸がましいほどの下位互換でしかない。


 恒星のような引力と輝きを放つ“天才”達の創作と比較すれば、自身のそれが発する光など月光にさえ満たない。月永がいかに凡人であるかなど、こうして月並みな比喩で全てを表現できてしまう事が全てを表していると言えるだろう。


 純粋すぎた衝動はゆっくりと死に絶え、今や余熱と惰性だけがこの鈍い身体を突き動かしている。

 それでもなお、満たされない承認欲求と自己実現欲求は醜く肥え太り、腐り落ちる事なく増殖していく。

 而して、月永の芸術家に対する漠然とした憧れは、もはや狂気と呼んで差し支えない程の執着と化していた。


「……あーごめん、今片付けるわ」


 小説の行き場を探してまごまごとしだす天羽を見兼ね、彼女が抱えているそれを受け取り、とりあえず隣の部屋に置きに行く。

 それを何往復か繰り返している間、暇になった天羽は月永の描いた絵画をじっくりと鑑賞しているようだった。


「どう思う? 良ければ天羽さんの感想が聞きたいんだけど」


「……どんな言葉が欲しいの?」


「……今後の作品をより良くする言葉、かね」


 そう伝えると、彼女は軽い気持ちで頼んだ事に申し訳なさを覚える程、真剣な面持ちで作品を精査し始めた。



 ……深海を思わせる退廃的な青の中心には、顔を失った女性が一人、静かに佇んでいる。そこに表情は無くともそれは確かに凛とした横顔であり、真白の肌に紺色の髪が映える。

 辺りには瞳を思わせる鱗を持った熱帯魚がしなやかに漂っていて、女性の心象を知った風な様子で、場違いに鮮やかな発色の涙滴を零す────。



「……」


 自身で内容を反芻しながら、月永は肩を竦めた。我ながら目が滑るというか、どの描写に主眼を置いて作ったのかあまり判然としない。


 それから暫くして、天羽が(おもむ)ろに口を開いた。


「うーん……超現実主義(シュルレアリスム)象徴主義(サンボリスム)を意識してるのは分かるけど、その観念に囚われすぎだと思うな。色々な要素を積極的に取り込もうとする姿勢はキミの魅力だけど、同時に弱点でもあるんだよ。経験値が足りないと、全ての完成度がイマイチになっちゃうから」


 立て板に水を流すように、彼女は的を射た批評を次々と繰り出していく。


「正直に言うと……ごめんね、技術的な面で言えば構成が余りにシンプルすぎて面白味が無い、と思う、かも。色使いは上手だと思うよ。あ、でも涙はもう少し鮮やかに描いた方がメリハリが付いたかなぁ」


 同じ学生の身分にしてはかなり個人的かつ厳しめな評論に聞こえるかもしれないが、月永がそれに対して不快感を抱くことはない。

 それは芸術家としての彼女が、間違いなく“天才”だったからだ。


 小さな頃から殆どのコンクールを総なめにし、学生の頃に描いた絵画が数百万で取引された事もあるらしい。

 月永の目から見ても彼女の技巧は驚異的であり、観察力、描写力、想像力どれを取っても化け物じみていた。


 天羽の創作は革新的で、この世界に必要不可欠だ。

 当然結果が全てではないが、結果を出している以上、彼女の審美眼は信頼に足るものだと月永は判断している。


「キミの強みはデッサン力と写実性だと思うから、やっぱりハッキリした輪郭線があった方が一枚で見た時に纏まると思った。この女の人と、魚と、瞳もそう。構成要素がこれなら、素直に写実的な絵が観たかったかな……あぁでもそれだと涙が活かされないのか……」


 それ以降も、天羽は考察を交えつつ正直な評価を淡々と下していく。

 勉強になるとはいえそろそろ精神的に限界が来そうなので、もう十分だと彼女に告げようとした瞬間、最後に、と天羽が細い人差し指を突き立てて見せた。


「……さっき言った二つの芸術性は、作者の表現したい意志とかメッセージが特に大事だよ。内容を軽視したオートマティスムみたいな技法もあるけど、これは無意識でも、かといって確固たる訴えがあるわけでもない」


 そう言って、彼女は細い塀の上を闊歩する猫のようにしゃなりと月永に歩み寄った。

 艶々とした小ぶりな唇が、嗜虐的な弧を描く。


「ねぇ、キミってさ」


「待って、」


 言わないで。




「本当は表現したい事なんて一つも無いんでしょう?」




 凡そ分かっていた。

 予測できた。


 それなのに────いや、だからこそ月永はその言葉を受け、途方も無い絶望に押し潰されたのだろう。


 誰にでも思い浮かぶ浅薄なアイデア。

 陳腐なテーマ。それに伴う安直な感情表現。

 女性、眼、魚、()()()()()だけで選んだモチーフ。


 描きながら、凡そ分かっていた。

 直向きに夢を追う最中で、予測できた。


 この作品は“芸術”ではない。

 月永の創作は、月永がこの世に存在しなくても成立してしまうのだ。


 この絵画に近しいものは、きっと凡人のしょうもない衝動か或いはAIの自動生成なんかであっという間に量産されることだろう。

 月永の葛藤は所詮、常識の域を出ないのである。


「でも……マオは好きだよ、この絵。もっと自分の創作に自信を持つこと、それがマオからのアドバイス」


「……丁寧にありがと、刺さりすぎてキツいわ」


 茫然自失の脳内で、自分の創作に自信を持つ、という天羽の言葉を反芻する。

 ……彼女に指摘された通り、月永自身も涙の色はもう少し明るくて、印象的な青を使いたかったのだ。


 ウルトラマリン、という顔料がある。

 フェルメール・ブルーとも言われるその色彩は、目を見張るように鮮やかで、美しい透明感を秘めた真の青色だ。

 宝石の一種でもあるラピスラズリを砕いて作られる天然のウルトラマリンは、金よりも貴重と謳われるほどに高価な代物だが、唯一無二の発色を持つという。


 そんな青を、月永はイメージしていた。

 だが、こんな駄作にウルトラマリンを使うほどの価値など無いと決め付け、安価なインディゴで妥協したのだ。


(……もう、終わりだ)


 自分でさえ自分の創作に期待できなくなるなど、芸術家として死んだも同然だろう。


 これを以て、画家はきっぱり諦めよう。今回のこの妥協に妥協を重ねた凡作を遺作として、月永は芸術家の夢を捨て去ることにした。


「……アンタは楽しそうに描くよねぇ、羨ましいよ」


 月永の絶望を知ってか知らずか、天羽は鼻歌交じりに自身の作品を眺めている。

 無邪気に、愛おしそうに、月永とは真逆の表情で。


「ふふ、マオはキミを描いてるんだもん。キミも可愛い女の子を描いてみれば、案外楽しいかもよ?」


 そう言って、天羽は可愛らしいポーズを見せ付けてくる。


「それは芸術品足り得ないからなぁ……別に描くだけならいいけどさ」


 バイトの時間が迫ってきたので、着替えながらなんとなく返事をしていたら、あえっ、という声と共に天羽の座っていた椅子が倒れる音が響いた。


「……えっ、本当にいいの? じゃあ絶対、絶対描いてよ! 言質取ったからね!」


「そ、そんなに必死になる事か……? いやまぁ分かった、いつか絶対描くから。約束する」


「約束……やった、えへへ」


 画家を諦めるとか言ったそばから……などと考えながら小指を差し伸べれば、天邪鬼な天羽にしては珍しく、素直に嬉しそうな表情を浮かべてそっと小指を結んでくる。


 その一連の所作になんとも言えない感情を催しつつ、変な雰囲気になる前に月永は玄関へ向かった。


「……バイト行ってくるわ」


「あ、行ってらー。マオもそろそろバイト探さないとヤバいかもなぁ」


「そうしてくれるとありがたいね。自費で二人分のご飯を作るのにもそろそろ嫌気が差してきた頃だ」



 ◇◇◇◇◇



 結局、作品を完成させても天羽がアトリエを離れることは無かった。

 当分は二人分の食事を用意し続ける羽目になったが、今度からは食費と家賃を払うと天羽が言うので、その点に関しては円満に解決した。



「うわ上手っ。真緒ちゃんやっぱやべーなぁ」


「素晴らしい……! やはり彼女は天才だ!」


「……ダメだ、こんなの、描ける訳ない」


「天羽 真緒……彼女は間違いなくこの国を……いや、この時代を代表する芸術家になるぞ」


 十人十色、多種多様な反応だが、それらは全て畏敬と絶賛に基づく言葉である。


「……ありゃまた高く売れそうだな」


「いやぁ良かったよ。これで当分はまた二人で暮らせるね」


「金払えばずっと家に置いてやるなんて一言も言っとらんが……? てか天羽さんの家は今どうなってんだよ」


「ん? あー、結構前に解約したよ? やっぱりマオに一人暮らしは向いてなかったね」


「アンタはさぁ……もう……」


 展覧会当日。

 月永は結局あの作品を提出した。


 あんなものを芸術品として世に出すのはどうかと思ってキャプションは『無題』としたのだが、そんな気遣い必要無かったと痛感するほどに月永のブースは閑散としている。


 人集りを作っているのは、やはり天羽の作品だ。


「マジで才能とコネはあるんだし、売り方さえ考えればもっと有名になれそうだけどな」


「そんな器用に色々出来ないよ……マオは出来ることしか出来ないもん」


 そう言って恥ずかしそうに笑う天羽を、月永は直視する事ができなかった。


 本来、画家というのは絵を描いているだけでは暮らしていけない。当然それを売り、次々と買い手を探し続ける必要がある。

 画家に求められるのは直接的な才能だけでなく、セルフプロモーション能力やコミュニケーション能力、活発に自身をアピールする積極性が求められる。

 

 それを巨大な絵の才能のみで、全てを解決してしまえる彼女が羨ましくて、妬ましいのだ。


「……」


 醜い感情を持ったまま彼女と向き合うのはうんざりなので、月永は天羽の作品を鑑賞しに向かった。

 今までも何回か見る機会はあったのだが、それこそやる気を失いかねないのですぐに目を逸らしてきたのである。


「お、モデルじゃん」


「おう、実質俺の作品だぜこれは」


「ははは、よく言うわ」


 同級生と雑談を交えつつ、月永はついにそれを目の当たりにする。


 それは暗い部屋の中で、自分の作品を前にただ呆然と立ち尽くす月永を鮮麗に描いた天羽の作品。

 ぱっと見ただけで陰影の付け方や構図に天と地ほどの技能の差を思い知らされ、つくづくこの日まで認識しなくて良かった、と月永は強く思う。


 こだわりにこだわり抜かれた天羽の創作を上からゆっくりと眺めていくと、最後にキャプションが目に入る。


 題名は。


「あ……っ」


「……悔しいけど、やっぱりキミを描けるのはキミだけなんだね。これは所詮贋作でしかない……どれだけ精巧に美しく模写しても、それがオリジナルを超えることは無いんだ」


 すぐ隣で天羽の声が聞こえてきても、月永はその作品から目を離せなくなっていた。

 ぐちゃぐちゃのパレットのようだった絵画は、天羽の手によって完璧に整えられた上に、作品の中の月永がゴミでも眺めるかのように見下ろすそれは、小さいが間違いなく鮮やかなウルトラマリンで描かれていた。


「芸術は、何も表出されたイメージだけが本質じゃない。キミのその葛藤も苦悶も全て含めて芸術だ。少なくともマオはそう思ったから……これを描いたんだ」


 天羽の言葉も耳に入らない。

 自分の作品が、他人の手によって完成された。

 自分が生んだ世界が、違うフィルム越しとはいえ芸術に昇華されたその感覚はまるで、自分が芸術家になれたかのような錯覚さえ起こして。


「……俺みたいな存在に、芸術性が宿るなんて」


「……キミはそう受け取るんだ。あーあ、鈍感だよねほんと。マオのメッセージがなーんにも届いてないや」


 どうしようもなく、満たされてしまった。

 満たされてしまったのだ。

 創作者としての月永は殺したはずだったが、まるでそれが成仏したかのように安らかに、憧れが浄化されていく。




 端的に言えば、夢が叶ってしまったような──


「じゃあヒカリくんはもう描かないの?」


 その瞬間、天羽が咎めるように言い放つ。

 心を見透かしたようなその言葉の羅列が、月永を現実に引き戻した。


「仮初でも満たされれば良かったの? 誰かが代わりになれば満足なの? そんな簡単に諦められる執着なら、キミは今頃こんな所にいないよね」


「……俺、は」


「……ヒカリくんの代わりはいないよ。どれだけ陳腐でも、偽物でも、無価値だと思えても、それがこの世界に唯一あるキミという存在なんだよ」


 天羽は、月永に何かを手渡した。

 それは暗い青の滲んだ、あの日床に落としたままにしていたはずの画筆だった。


 月永にとってひたすらに疎ましかったそれが、今は目を奪って離さない。


「……迷ったっていいよ。どれだけ時間がかかってもいいの。音楽でも、文学でも、デザインでも、映像でも絵画でも……キミにしか創れない世界を、いつまでも待ってるヤツがここにいるからさ」




 月永は、迷いなくアトリエへ走った。

 眼窩の裏側に射影されたイメージはハッキリとしていて、モデルの到着を待たずとも完成させられるような全能感が脳を支配している。


 幸い時間はある、描けるまでやり直せばいい。

 きっといつか満足のいく創作に手が届くはずだ。 


 アトリエの扉を力任せに開き、勢いあまってイーゼルを倒しそうになりながら、真っ白なキャンバスを立て掛ける。

 画家の心臓をしかと握り、パレットには相変わらずの安価な画材をいっぱいに広げ。


 月永 光は、二作目の遺作の製作に取り掛かった。




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