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海の怪物



どうして誰も、気付かなかったのだろうか。

よく見ると甲板は穴だらけ、帆はズタズタに破け、船は沈んでいないのが不思議なほどボロボロだった。

囚われていた部屋から、広い船内を走って甲板までやってきたが、途中で他の船員と遭遇することもなかった。

そして今、甲板にいる男たちは逃亡を図る俺たちに目もくれない。



「こ、これって…」



自分たちは息を呑んだ。

船がボロボロだったのは嵐のせいではなかった。

男たちが自分たちに目もくれなかったのは、船がそれ以上の脅威に晒されていたからだった。



「おいおい、マジかよ」



悪態つきの男も目を丸くしている。

しかし、口元には笑みが溢れていた。



「…クラー…ケン…?」


「え?」



ゼンがボソリと呟く。


クラーケン、どこかで聞いた名前。

巨大な八本の足で、海上を行く帆船を海底に引き摺り込む海の怪物。

その怪物が今、自分たちを見下ろしていた。



「なんで…こんな…」



架空の、おとぎ話にしか登場しない伝説の生き物のはずだ。

そう、この世界には存在しない…はずなのだ…。



(この世界…には…)



「ブォォォォォオオオオオッ!!!」



空気を震わす怪物の咆哮。

八本あるうちの一本の巨大な触手が振り下ろされる。

甲板はおもちゃのように真っ二つに割れ、その衝撃で自分たちは宙を舞った。



「…っ!!ユウっ!!!」



ゼンが自分の名前を叫ぶ。

しかし…。



ザバーーーンっっ!!



次の瞬間には、冷たい海の中に投げ飛ばされていた。


そして、深くて暗い、暗い海の底へと沈んでいった。



・・・・・・・・・



「え?数学って宿題出てたの?!」



朝の通学路、 梅雨が明け、カラッとした日差しの暑さが心地良い。



「いやお前…あんだけ言われてたのに…」



このクラスメイトは、今日も数学の宿題を忘れてきたようだった。



「終わったーっ!数学は二限目…もう間に合わないーっ!死んだーっ!」


「んー、まあどんまい」


(いちいち大袈裟なやつだ。宿題を忘れたくらいで死んでたまるか。死ぬっていうのはもっと苦しくて、辛くて、暗くて…あれ?)


「ユウくぅん?」



物欲しそうな顔で俺を見つめるクラスメイト。



「…俺は見せないからな。忘れてきたお前が悪いんだろ?」


「おねがーーーいっ!お願いお願いお願いおねがーいっ!!この通りだから…!!!」


「やだね、ほら行くぞ」


「…ビッグバーガー」


「…」


「二つ」


「三つだな」


「うっ…二つと…ポテト!」


「サイズはL」


「お願いします!」


「ったく、しょうがないなあ」


「ううっ…持つべきものは親友だよ!」


「都合のいい親友だな、ったく」



とはいえ、宿題ひとつでビッグバーガー二つにLポテトがついてくるのはありがたい。

何せ食べても食べてもおかなが空いてしょうがない食べ盛りなのだ。



(あー…なんかお腹空いてきたなあ)



照り返す日差し。

次第に目の前が日差しの強さに霞んでいく。

読んでいただきありがとうございます!

次話もお楽しみに!

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