無謀な賭け
部屋を出る直前、自分たちはその後の行動について話し合った。
「いいな?散らばるなよ?!まとまって甲板を突っ切るんだ!少しでも生存率を上げるためにな!」
ひとまとまりになって、甲板を突っ切って船首へ。
そして襲ってくる男たちに抵抗しながら、どこかに備え付けられているであろう救命船を奪って逃走する。
悪態つきの男が立てた作戦は、作戦と呼ぶにはいささか強引な、一種の賭けのようなものだった。
「誰が捕まっても足を止めるな!見捨てるんだ!わかったな!」
悪態つきの男からのゲキに全員の表情が引き締まる。
彼のこの非情な作戦に反対する者もいた。
しかし、結局代わりとなる代案を見つけることができず。
(あいつ、怖くないのかな)
とくにツバキは最後までこの作戦に反対していたのだが、言い出しっぺの本人が先頭を走るという、一番危険な役回りをかって出たことで、他の者も何もいえなくなってしまったのだ。
雷雨の音が大きくなる。
男たちの声も聞こえる。
甲板までもうすぐだ。
(甲板に出たらまた戦って…相手の人数は…いや、いい…とにかくやれることを…!)
外へと続く扉が見えた。
俺たちは勢いよく甲板へ飛び出した。
「うをぉぉぉぉおおおっ!!!」
悪態つきの男は雄叫びを上げる。
甲板で待ち受けているであろう船員たちへの威嚇、そして自分自身を鼓舞するために。
彼の雄叫びを聞いた瞬間、不思議と自分の中から恐怖や不安という感情が消えていくのを感じた。
「おおおおおっ!」
「うおーーーーっ!」
悪態つきの男に続いて、自分たちも叫ぶ。
大声をあげると、どこからか力がみなぎってくるような感覚が。
これで少しでも相手が怯んでくれたら
しかし、甲板で俺たちが目の当たりにした光景は、意外なものだった。
「おい!大砲急げ!」
「ダメだ!雨で火薬が…っ!」
「マストは守りきれよ!積荷は捨てろ!」
甲板を忙しなく走り回る男たち。
10人…いや、20人はいるだろうか。
しかし、誰一人として甲板に出てきた自分たちに目を向けようとはしない。
「えーっと…」
あまりの出来事に自分たちは拍子抜けしてしまう。
「好都合だろ!いくぞ!こっちだ!」
悪態つきの男に続いて、揺れる甲板の上を走り抜ける。
ぐらーーーーーーっ!
ボコーーーーーーーんっ!
「うわっ!」
甲板が大きく傾き、何かが船体に直撃した。
突然の衝撃に、自分たちも含めて甲板にいた者たちは大きく体勢を崩す。
中には、
「ぎゃーーーっ!」
荒れ狂う海へ投げ出される船員たちも。
「くっ…なんだよこれ、ただの嵐じゃねえのかよ!」
悪態つきの男が体を起こしながら吐き捨てる。
幸い、今のところ自分たちは一人もかけることなく…。
(あれ?)
誰かが足りない。
「ルナ!ルナが…!いない!!」
ツバキが叫ぶ。
ルナ…というのは、おそらく金髪の少女のことだろう。
目覚めてからは、常にツバキのそばにいたはずなのだが。
「さっきの揺れで…もしかしたら海に…!ルナ!ルナ!」
それまで冷静だったツバキは、取り乱したようにそう叫ぶ。
自ら海に身を乗り出そうとするが、ゼンがそれを取り押さえていた。
「ルナ!ルナーっ!」
その時だった。
ザバーーーーーんっ!!!
「…え…」
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次話もお楽しみに!