脱出
ドーーーーンっっっ!
「きゃっ」
「うおっ」
何かが船体に衝突したような、大きな衝撃が走る。
「いつつ…しょうがねえ、ひとまずここから出るぞ」
「で、でも…」
今にも泣き出しそうな金髪の少女。
「もしかしたらこの人みたいな、怖い人たちが外にも…」
「知らねえよ。だったらお前はこの部屋にのこりゃいいだろ」
「ううっ…」
「そんな言い方ないんじゃない?」
赤髪長髪の少女が悪態つきの男を睨みつける。
「はっ!なんだよ」
悪態つきの男も赤髪長髪の少女を睨み返す。
「そこまでに…してくれ…今は喧嘩よりも…まずはここから出よう…とりあえず…後のことは…それから…」
体格の良い男が二人をなだめるように仲裁する。
「そうだね。水位も上がってきてるし、まずはこの部屋から出ないと」
自分も体格のいい男に同意する。
彼のいう通り、今は仲間割れをしている場合ではない。
「…申し訳ない、2人のいう通りだよ」
長髪赤髪の少女は申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「はんっ、それでいいんだよ」
悪態をつきながら、悪態つきの男は扉に向かう。
自分たちも彼の後に続いた。
「あいつ…っ!ねえ、あいつ、なんであんなに偉そうなの?!」
赤髪長髪の少女は、悪態つきの男の背を睨みつける。
「ま、まあまあ。こんな状況だし、あいつも気が立ってるんだよ」
「…そう…だな…たしかに…素行は悪いが…でも、あいつに…助けられたのも…事実だろ…」
「そ、それは…そうだけど…」
体格のいい男の一言に、赤髪長髪の少女も渋々引き下がる。
たしかに、彼の粗暴さは目に余るものがある。
しかしこの状況では、彼の勇ましさほど心強いものはなかった。
こうして自分たちは、囚われていた部屋を後にした。
・・・・・・・・・
(意外と大きな船なんだな…)
部屋を出るとすぐに長い廊下に出た。
他の船員たちと遭遇しないよう、急ぎながらも、慎重に船内を移動する。
辺りに人の気はないが、上方から、慌ただしく走り回る足音や男たちの怒声が聞こえる。
どうやら船員たちは皆、甲板に出ているようだ。
「ねえ」
赤髪長髪の少女に声をかけられる。
「え?」
「君、さっきのあれは、やっぱり君がやったんじゃないの?」
あれ…というのは、倒した男の全身を覆っている植物?のことだろう。
部屋を出る時には、生い茂る植物で彼の体は見えなくなってしまっていた。
「えっと…それが自分にもわからなくて…というかその時自分は死にかけていたから…」
すると彼女は申し訳なさそうな顔で、
「も、申し訳ない…本当は助けたかった…んだけど…」
「えっ!?いやいや、そんな!別にいいよ謝らなくて。自分だってめちゃくちゃ怖かったし…」
「…ツバキ」
「へ?」
「私の名前、ツバキ。ツバキって呼んでほしい」
「あ、名前…。俺はユウ。ユウでいいよ」
「…ゼン…だ…」
前方で自分とツバキの話を聞いていた体格のいい男が会話に割って入る。
「ユウ…さっきは…助かった…ありがとな…」
「だ、だからいいって本当に。俺もあの時は何が何だか…」
ツバキにゼン。
二人に名前を聞いて思ったが、よく考えたら自分は彼らの名前を知らなかった。
同じ檻に囚われられていたというのに、誰一人として顔も名前も知らなかったのだ。
(奴隷…ってことは、みんな違う場所から攫われてきたのかな)
「おい!甲板だ!作戦通り、このまま突っ切るぞ!」
悪態つきの男が威勢よくそう叫ぶ。
気のせいだろうか。
この状況を楽しんでいるのか、悪態つきの男は笑っているように見えた。
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次話もお楽しみに!