予期せぬ勝利
「おいっ、なんっ、なんだこりゃあっ!」
男はそういうと顔を掻きむしる。
今や男の顔は、緑色の植物で覆われていた。
小さな若葉や苔のような植物が群生し、男の顔を覆う。
「やめっ…!たすっ…!助けっ…!」
よく見ると、腕や胴からも局所的に植物が生えてきている。
男の顔の上で勢いよく生い茂る植物は、男の目や鼻、口や目など、穴という穴の中に入り込んでいった。
「ごひゅっ、ごふぉっっっ」
男はその場に倒れ込み、しばらくの間激しくのたうち回る。
しかし、しばらくするとやがて事切れ、動かなくなった。
揺れる船内で少年少女達は茫然としている。
「死んでんのか…?」
悪態つきの男が体をさすりながら半裸の男に近づく。
動かなくなった半裸の男の顔は、今や生い茂る植物で肌も見えない。
「…これ…お前が…?なにを…したんだ…?」
体格のいい男がそう言いながら歩み寄ってきた。
「え…?俺…?あの、いや…」
まだ頭が回らない。
俺が殺されかけている間に、一体何が起こったのか。
「その、えっと…」
「俺には…お前が…」
そう言うと、体格のいい男は半裸の男の顔に覆い茂った植物に視線を落とす。
「お前が…これをやったように…」
「え?…えっ…?!」
「…違う…のか…?」
「いや違うっていうか、えっと…」
「…?」
「どうでもいいだろうが、そんなことは」
悪態つきの男が吐き捨てるように割って入ってきた。
「とにかく今はこっから逃げ出すのが先だろ。どこに売り飛ばされる予定だったかは知らねえが、俺は奴隷なんてごめんだからな」
「奴隷?」
「そうに決まってんだろ。奴隷かなんかなんじゃねえのか?どっからか攫われてきたんだよ、俺たちは」
「攫われたって、どこから?」
「どこって、それは…」
悪態つきの男は首を傾げる。
「確かに。なんで俺たちはこんなところに…」
「ね、ねえ、その人、もう…死んでるの?」
赤髪長髪の少女は、おそるおそる半裸の男に近づく。
「見りゃわかんだろ。動かねえってことは、そういうことだ」
「…うっ…うぅっ…」
金髪の少女が咽び泣く。
「ったく、おいおめえ、なに泣いてんだよ。うるせえから黙ってろ」
悪態つきの男は苛々しながら金髪の少女に向かって吐き捨てる。
「ちょっ…あんたねえ…!」
赤髪長髪の少女が金髪の少女を庇う。
無理もない。
この短時間に、目の前で人が2人も死んだのだ。
むしろ、金髪少女の反応の方が正常だといえる。
「お…おい…二人共…今は…言い争っている…場合じゃ…」
体格のいい男が困ったように2人の間に入ろうとする。
その時だった。
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