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死の淵



半裸の男に向かって勢いよく駆け出す。

しかし、すぐに水に足を取られそうになってしまい、その音で男が振り返った。



「っっつ!」



しかし構わずに自分は、自分より二回りも大きな男に半ば抱きつくように飛びかかった。



「うおぉっ」



男は驚いたようだが、多少よろめいた程度でダメージはない。



「くそっくそっっ」



顔や腹、急所になりうる部位を殴りつける。

気付けば自分の拳だけが血まみれになっていた。



「っつっっ…!」



痛みはない。

興奮しているからだろう。

しかし奮闘も虚しく、半裸の男は自分を軽々とつまみ上げた。



「なんだ、威勢のいい奴らばっかだな」



男はニヤリと笑う。



(だめだ、殺される!)



必死にもがくが、相手は背丈も筋力も自分の倍以上ある大男だ。

自分のような子供の力で振り払えるわけがない。



「どうせ海に投げ捨てるんだ、全員殺しちまってからでもいいか」



半裸の男は冷たく言い放つと自分の首を締め上げた。



「っっっっっっつっっっ」



声にならないうめき声。

男は楽しそうに笑った。



「ほれっほれっ、苦しいだろ」



徐々に首を絞める手に力がこもる。

遠のく意識の中で、自分は意外と冷静だった。



(ああ、これが死か)



こんなわけのわからない場所で、今から自分は死ぬんだ。


視界の隅に体格のいい男を捉える。

何か自分に向かって必死に叫んでいるようだが聞き取れない。



(そういえば…どうして自分達はこんなところに…)



そもそもここはどこなんだ。

親は、家族は、なぜ誰も助けに来ないんだ。



(家族…?)



思い出せない。

自分にだって家族はいたはず。

なのに、父親の顔も母親の顔も何も思い出せない。

それに自分達の年頃であれば学校にだって…。



(がっこう…)



学校…そうだ、学校。



(そういえば…今日は数学の…)



おかしい。

そうだ、何もかもおかしい。


思い出せないのだ。

断片的な記憶はある。

だが、思い出せない、なにも。

この船の中で、檻の中で目覚める以前の記憶が全くない。


記憶がないので、走馬灯も走らない。



(まあいいか…どうせもう死ぬんだし…)



活動を止めようとする脳で、思考にならないそんなことを考える。


その時だった。



ドサっっ



それまでの浮遊感が消え、身体がかすかな重さを取り戻す。

肺がそれまで枯渇していた空気を取り込み、全身に酸素が巡る。

感覚が蘇り、ぼやけていた視界が色を取り戻していった。



「がはっっ!」



激しく咳き込みながら涙目であたりを見回した。

なぜか自分以外の全員が、驚いた顔で半裸の男を見つめていた。



(なに…何が…)



涙で滲む目で、先ほどまで自分の首を締め上げていたその男を見上げる。

するとそこには、奇妙な光景が広がっていた。

読んでいただきありがとうございます!

次話もお楽しみに!

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