二人目、急襲
まずい。
この状況を見られるのは非常にまずかった。
檻の中にいるはずの自分達は全員檻から出ており、様子を見にやってきた船員は死体になって部屋の隅に転がっているのだ。
まずくない要素が一つも見当たらない。
自分達はお互いに顔を見合わせる。
幸いなことにやってくる船員は一人のようだ。
こちらは5人。
しかし、内一人は満身創痍、二人が女子であることを加味すると、戦力では向こうに軍配が上がる。
「下がれ、俺がやる」
悪態つきの男が大剣を担いで扉に歩み寄る。
殺した大男から奪ったもののようだ。
「おいっ!いつまでかかってんだっ!」
扉の外から男が叫ぶ。
自分達は部屋の隅で息を潜める。
大剣を担いだ悪態つきの男と体格のいい男は、扉の横で身構えていた。
扉が開き半裸の男が大股で部屋に入ってくる。
同時に悪態つきの男が大剣を振り上げ、部屋に入ってきた半裸の男に向かって振り下ろした。
死角からの急襲、完全に不意をつかれた半裸の男に、振り下ろされた大剣の一撃を防ぐ術は無い。
そう思われた。
ガチィン!
本来なら切り落とされていたはずの腕から鈍い金属音がした。
大剣の刃はたしかに半裸の男の腕に突き立てられている。
しかし、なんと半裸の男は刃を腕で受け止めたのだ…!
「はあっ…?!」
大剣をはじかれた衝撃で、悪態つきの男はふき飛ばされた。
大男は、大股で悪態つきの男に歩み寄る。
するとその背後から、身構えていた体格のいい男が半裸の男に襲いかかった。
手には木片のかけらが握られている。
「っっっっつ!」
木片のかけらを半裸の男の腋腹に突き立てるも、またもや皮膚に刃が通らない。
半裸の男は体格のいい男を殴り飛ばし、ニヤリと笑い呟いた。
「惜しかったなあ」
半裸の男はあたりを見回した。
「なんだよ、全員檻から出ちまってるじゃねえか」
そう言うと、ふき飛ばした悪態つきの男へと向かっていく。
絶望的だった。
5人の中で、最も腕っぷしの強そうな2人でも歯が立たなかったのだ。
そもそも刃を腕で受け止めるとはどういうことだ?
鋭利な木片のかけらも半裸の男の体には通らなかった。
一体何が起きたのか。
「お前ら全員覚醒前なんだろ?」
(覚醒?)
「この船旅も長かったからな、何人かは、と思っていたんだが」
半裸の男はそう言うと、倒れていた悪態つきの男を蹴り飛ばす。
「ごはぁっ!」
勢いよく蹴り飛ばされた悪態つきの男は床に転がった。
「こいつをやったのは、お前だな」
血まみれになった船員の死体を指差す。
「ったく、面倒な仕事増やしやがって」
そういうと床に落ちていた大剣を拾い上げた。
(や、やばい…!殺される…!)
他の者達を見回すが、全員が恐怖でかたまってしまっていた。
(なにか…なにかないか…)
殴り飛ばされた体格のいい男もまだ床でうずくまっている。
(どうしよう…どうしたら…)
自分には筋力があるわけでもない。
体格に恵まれているわけでもなく、どちらかというと小柄な部類に入るだろう。
(でも…このままじゃ…)
心臓が熱くなるのを感じる。
全身の血管が脈打つ。
どこか懐かしような感覚。
半裸の男は拾い上げた大剣を担ぎ、悪態つきの男へと歩み寄っていた。
(…?!…っ!!)
気づいたら自分は、半裸の男に向かって全力で駆け出していた。




