戦闘
「殺されちゃう…」
赤髪長髪の少女に抱えられた金髪の少女がつぶやく。
肩の上で切り揃えられた髪が揺れ、覗かれた大きな目が、開け放たれた扉を見つめていた。
「やだ、死にたくない」
「大丈夫、大丈夫だから」
泣き崩れそうになる金髪の少女を、赤髪長髪の少女が宥める。
とその時、
ドゴォオーンっ!!!
これまでで一番大きな揺れだった。
船内に大きな衝撃が走り、檻の中にいた自分達も大きく体勢を崩し壁に叩きつけられた。
(っつ、いって)
身体中が痛む。
周りを見渡すと流血している者もいた。
「…っふざけんなよっ」
海水に濡れた髪を掻き上げ、悪態をつきながらその男が立ち上がる。
「…おい…あれ…」
体格のいい男が格子を指差す。
先ほどの衝撃で格子の一部が壊れていた。
木製の檻だったからだろうか。
(で、出られる…!)
檻の中に静かな歓声が上がる。
先ほど悪態をついていた男が格子の壊れた部分に歩み寄り、その部分をさらに蹴りつけはじめた。
人が通れるように穴を広げているのだ。
「おいてめえ、何してる」
低く、野太い声。
気付けば、開け放たれた扉の前に、恰幅のいい大男が立っていた。
先ほど扉の外で話していたうちの一人だろう。
背に大剣を一振り背負い、長く縮れた髪と髭を結えている。
先ほどまでの歓声は消え、全員が恐怖と絶望に後退る。
「おいおいなんだそりゃ、檻が壊れちまってるじゃねえか」
格子にあいた穴は蹴り広げられ、人一人なら通れるほどまでに広がっていた。
「おめえがやったのか」
大男は、穴を蹴り広げた悪態つきの男を睨みつける。
先ほどまで悪態をついていた彼も、さすがに気押されているようだ。
檻の中にいる全員が固唾を飲み、成り行きを見守る。
すると、
ぐらぁぁぁっ…
再び船内が大きく傾きはじめた。
立っていられないほどの傾斜まで傾くと、部屋にいる多くの者が壁に打ち付けられ、大男も耐えきれずに部屋の隅まで転がっていく。
「ぐあぁぁっ、くそ」
大男は顔を顰めながら立ち上がろうとする。
しかし、この傾斜ではうまく立ち上がることができない。
その隙を、悪態つきの男は見逃さなかった。
ぎぎぃぃ…
少しずつ船内の傾斜がゆるやかになりはじめる。
格子にしがみつき、先ほどの揺れに耐えていた悪態つきの彼は、空けられた格子の穴から這い出ると、まだ傾く部屋を駆け滑り、大男に飛びかかった。
「うぉぉぉぉおおっっっ!」
悪態つきの男が吠える。
二人は少しの間激しく組み合い、すぐにあたりは血の海に変わった。
しばらくすると、二人は動かなくなった。
「…お、おい…?」
自分は檻の中から声をかける。
如何せんあっという間の出来事だったのだ。
何が起きたのかすぐには理解できなかった。
血まみれの二人は動かない。
かろうじて肩で息をする音が聞こえるが、それがどちらのものなのかわからないのだ。
「…ぅうっ…うっ…」
呻き声と共に、もそりと体が持ち上がる。
起き上がったのは…悪態つきの男だった。
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