希望と現実
「え?近くに人の住む大陸が?」
ジャックと行動を共にすることが決まってすぐ、自分達は今後のことについて話し合った。
「んにゃあ。海の怪物が出たってことは間違いねえ。今回の航海自体はあと2日で終わるところだったんだ。おそらく海域としては…」
ジャックの見立てでは、この島は航路の途中にある島らしい。
「ってことは、他の船が…助けが来るかもしれないってこと?」
自分は思わず興奮してしまう。
「かもしれないっつうよりは、来るだろうな。この島はおそらく、物資の補給のために開発予定だった無人島だあ。ただ、最近この海域にクラーケンが出るっつうもんだからなかなか開発が進まなくてな。痺れを切らした商人ギルドが、討伐依頼を出したって話を聞いちょる」
「そっか。俺達が遭遇したあの…ってことは…」
「ま、数日ってとこだな。俺らの船の帰りが遅けりゃギルドが捜索隊も派遣してくれるだろうしな」
「そっか、よかった…」
思わず胸を撫で下ろす。
やることは決まった。
まずは助けが来るまでこの島で生き延びねばならない。
それについては、ジャックがいればあまり心配はしなくてもいいだろう。
ひとつだけ、気がかりなのは…。
「…ツバキ…」
悲しそうな声でルナが呟く。
そう、この島に漂流してからずっと気がかりだったこと、それは、同じ檻にいた三人の行方だった。
「ん?どうした?」
ジャックが不思議そうな顔でルナを覗き込む。
「いや、実は俺達の他にも…その、同じ檻に入っていた仲間がいたんだけど…」
「仲間…?あーそうか、なるほどな、そういうことかあ」
ジャックはバツが悪そうな顔をしながら、しかしハッキリと言い放った。
「こんなこと言いたかねえがな。そいつらのことは諦めた方がいい。おめえらも見ただろ?あの怪物を。それにあの嵐だ。変に希望を持たん方がおめえらのためってもんだ」
ジャックのその言葉に、堪えきれずにルナは泣き出してしまった。
自分も気持ちはルナと同じだった。
頭のどこかでわかってはいたし、心のどこかで覚悟はしていた。
しかし、こうもはっきり現実を突きつけられると、さすがの自分も堪えるものがある。
「あーまあーそのだなあ…」
そんな自分達を見かねてか、居心地の悪そうな表情でジャックは続けた。
「あれだ、これからのことはまた明日考えようや。今日はもう遅い。お前さんらも疲れたろ。もう寝ちまえ。寝て起きたら、頭もスッキリするだろ」
ジャックの言葉に従い、俺とルナは、その日ジャックがとってきてくれた何かの肉を分けてもらい、食事を摂るとすぐに眠りについた。