ジャックという男
こちらは2人だが、ルナはおそらく戦えない。
檻の中にいる間、ルナは泣きながらずっと震えていた。
そんな彼女に戦いを強いるのは無理があるだろう。
(武器…武器…だめだ、武器なんてどこにも…)
こうなったら、自分が体を張ってルナを逃すしかない。
回らない頭で、ルナを一人ここから逃すための算段をつける。
しかし、良い案が出てくるはずもなく。
(よし、俺があいつに飛びかかる間にルナを逃して…やべ、めちゃくちゃ怖い…!)
合図を送ろうとルナの方を振り返る。
しかし、なぜか彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
「ル、ルナ…?」
「あ、ジャックさん」
「…え?」
ルナが視線を向けた先にいるのは、口髭の男。
「じゃ、ジャック…さん…?」
「おうルナ。こいつがユウだな?」
そういうと、口髭の男は大股で近づいてきた。
「はい、彼がユウくんです」
「…え?」
「なんだ、まだ俺のことは話とらんかったのか?」
口髭の男は呆れたようにそういった。
「はい、すみません。ちょっと言い出せるタイミングを逃しちゃって…」
口髭の男とルナが親しげに話しているのを見て、自分は少しづつ状況を理解し始める。
「えっと…ってことは…つまりこの人が…」
「はい!先ほどお話ししたジャックさんです!」
「おう!ジャックだ!よろしくなションベン小僧!」
自分は腰が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。
・・・・・・・・・
「ンガハハっ!そうか!お前ら、あいつらを二人も殺ったのか!そりゃあすげえな!」
焼いた何かの肉を頬張りながら、ジャックは豪快に笑う。
「あ、いえ、殺ったっていうか、なんていうか、あれは本当に事故のようなもので…」
「事故だあ?ガハハっ!」
「いや、本当に、自分達も何が何だか分からなくて…」
「そうかそうか。ま、運も実力のうちってやつよ!」
ジャックは、意外にもあっさりとしていた。
「その…怒らない…んですか?」
「んん?怒る?オイラが?なんでだ?」
ジャックは大きく首を傾げる。
「いや、だってその、ジャックさんのお仲間を自分たちが…」
「ああ、そういうことか」
頬張っていた肉を骨まで綺麗にしゃぶりながらジャックは答える。
「怒るもなにも、別にオイラはあいつらの仲間ってわけじゃねえからなあ」
「え?そうなんですか?」
予想外の返答だった。
なぜなら、ジャックの体格や風貌は、身につけているものに至るまで、あの船乗りの男たちにそっくりだったからだ。
「俺たちゃ海の戦士、ヴァイキングだがあ…」
自分の心中を察してか、二本目の骨付き肉を手に取りながらジャックは続けた。
「今回はたまたま同じ船に乗ってたがよ。俺はそいつらのことはよく知らねえしな。まあなんだ、こんな見た目してっからあれかも知れねえが、俺たちヴァイキングも出身地が違うとあんま仲が良くなかったりもするんだあ。そもそも…」
二本目の肉の骨を食べ終えると、ジャックは物足りないといった様子で手についた脂を舐め始める。
「おりゃあ荷運びのための雇われだったからよ。この船に乗ったのも今回が初めてだったしな。別にあいつらを仲間だなんて思っちゃいねえさ。だからお前さんらがあいつらを殺したところで、憎んだりしねえよ!ガハハハっ!」
そういうと、唾を飛ばしながらジャックは豪快に笑った。
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