遭遇
(さすがにトイレにまでついてきてもらうことはできないからなあ…。ふぅ〜)
草むらで放尿していると、
ガサッガサッガサガサッ
奥の方で草むらを掻き分ける音が。
(え?!ルナ?!ちょっ!待っててって言ったのにっっ!)
随分と溜まっていたのか、まだ残尿感が否めない。
「ル、ルナっ!?もうちょっと!すぐ終わるから待ってて!!」
音のした方へそう声をかける。
しかし、草をかき分ける音は止まず、どんどんとこちらへ近付いてくる。
(ええっ?!聞こえてない…はずはないんだけど…)
全てを出し切ると、急いで息子をしまう。
「ご、ごめんごめん…結構溜まってたみたい…で…」
次の瞬間、恐怖に全身が強張る。
目の前に現れたのは、濃い口髭を生やした大男だったのだ。
といっても、船内で撃破した2人組の男よりは、一回りほど体が小さい。
「あっ…」
思わず声が漏れる。
口髭の男は大股でこちらに歩み寄ってきた。
そして、
「おまえ…」
口髭の男が口をひらく、その瞬間、自分はその男の脇をすり抜け走り出した。
(やばい…!こんなところで…!)
背後の口髭の男から全速力で逃げながら、自分は船の中での戦闘を思い出していた。
自分たちは船乗りの男たちを二人倒している。
しかし、あの状況で大男を二人も倒せたのは奇跡のようなものだ。
(早く…早くここから…!)
控えめに見積もっても、自分一人で口髭の男を倒せる可能性は限りなく0に近い。
機転を効かせて大男を討ち取った悪態つきの男とは違い、自分の場合は死にそうになりながら、気付いたら相手が草まみれになって倒れていたのだ。
「はぁっ…はぁっ…」
逃げよう。
どう考えても、自分にあの口髭の男は倒せない。
であれば、一刻も早くルナと合流して、ここから離れないと…!
「あれ?ユウくん?どうしたんです?そんなに慌てて…」
来た道を全速力で駆け戻ると、木陰で休んでいたルナが、きょとんとした表情でこちらを見つめていた。
「ルナ!」
「え?!は、はい!」
「け、怪我は?!なんともない?!」
「け、怪我?!別に私は…。そ、そんなことよりちょっと近…」
「いたんだ!さっきそこで!」
「いた?いたって何が…」
「あいつだよ!船で…俺たちを攫った…!」
「え?え?あの、ちょっと、落ち着いて…」
「いいから!いったんここから離れよう!詳しい話はそれから…」
「ま、待ってください。どうしたんです?そんなに焦って…」
「だから!さっきそこで…!」
「なあんだよ、急に走り出して。びっくりしちまったでねえか」
「うわっ…!」
気付けば、口髭の男が自分たちの後ろに立っていた。
(まずい!)
自分はすぐにルナを庇うように身構えた。
身構えたところで、何ができるわけでもないのだが…。
(どうする…どうしたら…)
読んでいただきありがとうございます!
次話もお楽しみに!