もう1人の漂流者
クラーケン。
まさか自分たちの乗っていた船が、あんな怪物に抱かれていたとは。
「覚醒したおかげで、岸まで辿りつくことができたんです。何人かは途中までたぐり寄せながら…でも…」
彼女は今にも泣き出してしまいそうな声でそう呟いた。
優しい子なのだろう。
彼女のせいではないのに。
(そうか…ということはつまり、ルナが覚醒していなかったら、自分は今頃…)
「…でもルナのおかげで俺は助かったんだよ」
「え?いや、私は…そんな…」
「…そういえば、なんで名前…」
「あ、えっと、甲板に向かっている途中のツバキとの会話で…」
「ああ、なるほどね。」
「ツバキ…無事だといいんだけど…。」
辺りを軽く見回す。
海岸には、大破した船の残骸が打ち上げられていたが、死体のようなものは見当たらない。
「大丈夫だって。きっとすぐに再会できるよ」
「そう…ですね!」
もちろん、ツバキたちが無事である保証はない。
この状況で、簡単に再会できるとも思っていなかった。
おそらくそれは、ルナもわかっているのだろう。
(それにしても…)
前方に広がるのコバルトブルーの海を眺める。
背には緑鮮やかな草木の生い茂る森が広がっている。
ここは無人島なのだろうか。
こんな状況でもなければ、この美しい大自然を楽しみたいところなのだが。
「あの…それで、私たち、これからどうしましょう…」
「うーん…」
その時、ふと自分の中で小さな疑問が浮かんだ。
「あれ、っていうかさ、その覚醒?についてなんだけど…」
「え?あ、そっか、私まだ言ってませんでしたね」
彼女は嬉しそうに続ける。
「私とユウくんの他に、助かった人がもう一人いるんです。その人に教えてもらったんですよ」
「助かった人が?!もう一人?!誰?!どこにいるの?!」
辺りを見回しても人影は見当たらない。
俺はすぐにゼンの顔を思い浮かべた。
「ジャックさん…という方です」
「ジャック…そっか、ジャック…」
「私が浜辺まで引き上げられたのはユウくんとジャックさんだけで…」
「それで、そのジャックっていう人はいまどこに?」
「たしか食料を探しに行くと言っていたような…」
なるほど、利口だ。
確かにこの島で生き延びるためには食料が欠かせない。
水を調達できる場所はすでに確保できているという話だったことを考えると、あとは食料さえ調達できれば…。
そのジャックという…名前からしておそらく男なのだろうが…どうやら頼りになる人物のようだ。
「そっか!俺たち以外にも助かった人がいるのか!」
安心すると、急に尿意が。
「えーっと、ちょっと俺も森の中を見てこようかな」
「え?!一人でですか?!」
「ん?まあ、そうだね、一人で…」
「わ、私もついて行きます!」
「え?!」
「だ、だって、一人で待っているのは…」
不安げな表情でこちらを見つめるルナ。
そんな顔をされてしまっては、こちらも言い出しにくい。
「いや、ちょっとその…トイレに…」
「あ…」
みるみる赤くなっていく彼女の顔。
「だ、大丈夫!ほんと!すぐ戻ってくるから!ここで待ってて!」
俺は急いで森の中へ駆け込んだ。
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