覚醒
「ごめんなさい。わからないんです…」
彼女は悲しそうに俯いた。
「わからない…そっか…」
囚われていた部屋から脱した自分達は、5人で甲板を目指した。
しかし、甲板で待ち構えていたのは…。
(あんな…あんな怪物が…)
真っ二つにされた船体とともに、海の底に沈んでいく感覚。
たしかにもうダメだと思った。
ここで本当に終わりなのだと。
「よく…助かったよな…」
小さく呟くと、なぜかルナがモジモジし始めた。
「?」
「いや、えっと、実はその…これ…のおかげで…」
そう言いながら、彼女は両手を俺の前にかざした。
彼女は目を瞑り、何かに集中しているようだ。
「…?ルナ…?」
すると、目の前で信じられない光景が。
「な…なっ…なん…?!」
彼女がかざした両手の周りに、丸い水の玉のようなものが浮かび上がった。
それは次第に大きくなっていき、形を変えながらふよふよと彼女の周りを漂い始める。
「私、覚醒したみたいなんです」
「か、覚醒?」
覚醒。
どこかで聞いた言葉だ。
「はい。覚醒です。私の場合はこれ…」
そういうと、彼女は水の玉をつついてみせた。
「ちょ、ちょっと待って、待った、待ってほしい」
だめだ。
頭が回らない。
「そ、そうですよね。急にこんなもの見せられてもびっくりして…」
「あいや、そういうんじゃなくて…いや、そうなんだけど…」
回らない頭を必死に回転させる。
「えっと、確かあの時ルナは…」
まずはここまでの状況の整理だ。
「そう、私、ツバキの手を離して…甲板から海に落ちてしまって…」
荒波に揉まれ、海面に浮上することもできず、そのまま死んでしまうかと思われたその時、ルナは覚醒したことで、命が助かったのだという。
「覚醒した瞬間、息をするのが楽になって…」
「水中で息が…?それがその…」
「はい。あとは、それ以外にも水の中を自由に移動できたり…」
そう言いながら彼女は、目の前に浮かぶ水の玉に軽く触れてみせた。
彼女に触れられた水の玉は、はずみでふよふよと移動し始める。
「す、すごい…」
思わず声が漏れてしまう。
「実は私もまだよく分かってないんですけど…」
そういうと、彼女は困ったように笑ってみせた。
「え、ってことは、もしかしてルナが溺れている自分を助けてくれたの?」
ルナの姿が見えなくなってしまってすぐ、自分たちもすぐに海に投げ出されたことはしっかりと覚えている。
そう、あの海の怪物の手…もとい触手によって。
「…はい。私が覚醒してすぐに船が…。それで皆が落ちてきて…。本当は全員助けたかったんだ…ですけど…」
そこまで話すと、彼女は俯いてしまった。




