漂流
(…あれ?なんか…目の前が…)
鼻をつく潮の香り。
「…ッグ…バー…」
頭がいたい。
喉が乾く。
「え?!ユウくん?!ユウくんっ!!」
聞き慣れない声、女の子だ。
いや、どこかで聞いたような気もする。
「ユウくんっ!起きて!お願いっ!」
女の子にそこまでお願いされてしまっては起きないわけにはいかない。
目を開けて体を起こし、ご要望にお応えしようじゃないか。
(あれ?目が開かない。体も…おかしいな。そういえば俺、いつもどうやって起きてたっけ)
眠りからの目覚め方を忘れてしまったのだろうか。
頭は起きているのに、指先ひとつ動かすことができない。
ふと、何かが胸の辺りを圧迫する感覚が。
一定のリズムで胸を強く押され、そして、
(…ん?なんだ?甘くて柔らかい…)
何かが唇に触れたのを感じた。
「…っゲホッゲホゲホッ!ゲッホっ!」
激しくむせながら、大量の海水を吐き出す。
すると、今度は、目を灼かれるような強い光を感じた。
「ゲホッ…うっ…まぶしっ…」
「あ、そうだよね。ごめん。こっち。日陰になってます」
声の主に導かれるまま、木陰へと移動する。
次第に目が慣れ、あたりの様子を確認する。
どうやらここはどこかの海岸のようだった。
「ここは…」
「私たち、近くの島に流れ着いたみたいで」
そう言われて初めて俺は彼女に視線を向けた。
肩の上で綺麗に切り揃えられた金色の髪の毛。
目が合うと、彼女は少し顔をあからめながら視線を逸らした。
(あれ?えーっと…)
だめだ、まだ頭がぼーっとする。
彼女は確か…。
そうだ!確か彼女は、同じ檻に囚われていた…。
「えーっと…」
「あ、私、ルナ…」
ルナ…。
そうだ、ルナ…!
確かあの時、ツバキが最後に甲板で叫んでいた名前。
「あれ?なんで…だって…」
俺がそこまでいうと、ルナは困ったように微笑んだ。
「無理しないで…ください。少し休んで、話はそれから…あ、これ、お水…」
そういうと、彼女は皮袋のようなものを取り出した。
「水…み、水…っ!!」
思い出したかのように、喉の渇きを潤す。
身体の渇きが癒やされ、ホッと一息つく。
「そんなに慌てないでください。お水は汲んでくればまだたくさんある…ので…」
「あ、ご、ごめん…」
夢中になって、渡された水を飲み干してしまったことに恥じらいを感じる。
「ありがとう。助かった。まじで死ぬかと…」
「はい。本当によく…生き残れたのは本当に奇跡だと思います」
彼女のその言葉を聞いて、記憶が蘇る。
「あれ、そういえば俺達…船の上で…」
「はい…」
「み、みんなは…?!ゼンとツバキ、それに…」
「そのことなんですが…」
読んでいただきありがとうございます!
次話もお楽しみに!