少年少女
ぎいぃ…ぎぎぃ…
部屋が軋む音で目が覚めた。
あたりは薄暗い。
目を凝らし周りを見回すと、自分以外にも人がいるのがわかる。
ぎぎぎいぃぃ…
大きく軋む音と共に部屋が傾く。
「うわっ」
何人かが床を転がり、自分も体勢を崩す。
何か掴まれるものはないかと手を伸ばすと木製の格子のようなものを捉えた。
体勢を持ち直し部屋の様子を観察する。
「これは…檻?」
どうやらここは檻部屋のようだった。
一つの檻に、自分を含めて数人が収容されているようだ。
みんな擦り切れた布をまとい、薄汚れた格好をしている。
見たところ全員が10代前半から後半くらいの同年代のようだ。
グラっっっっ!
バシャーンっ!!
突然部屋が大きく傾き、勢いよく開け放たれた部屋の扉から大量の水が流れこんできた。
檻の中にいる者達は驚き悲鳴をあげる。
「っつつっっっ!」
水の勢いに流され、そのまま壁に叩きつけられた。
突然の出来事に驚き、壁に打ち付けられた衝撃に顔を歪める。
ぎいぃぃ…ぎいぃぃ…
水の流れは止まったようだが、あたり一面水浸しだ。
悪態をついている者もいれば、啜り泣く声も聞こえる。
「…しょっぱい…」
格子にしがみついていた体格のいい男が口にする。
しょっぱいとはどういうことだろう、自分も口の周りを舐めてみた。
すると口に含んだ磯臭い水分の塩気が口一杯に広がった。
これは塩…海水だ!
「海水…ということはここは海の上…?」
壁際で体勢を立て直そうとする少女がつぶやく。
自分よりも背が高い、歳上だろうか。
長い赤髪が先ほどの衝撃で乱れている。
その腕の中で一回り体の小さい少女が震えていた。
「ぐすっ..ぐすん…」
おそらく歳は10代半ばくらいか。
自分と同じくらいの歳であろうその少女は、赤髪長髪の彼女の腕の中で啜り泣いている。
先ほどの啜り泣き声の主もおそらく彼女だろう。
赤髪長髪彼女のいう通り、おそらくここは海の上。
一定のリズムで傾く部屋、独特のこの浮遊感から、ここが航行中の船内であることは間違いなさそうだ。
(海…船…?なんで自分達はこんな…)
すると、先ほど開け放たれた扉の外からかすかに雷雨の音と、船内を慌ただしく駆け回る男達の声が聞こえてきた。
大時化にでも見舞われているのだろうか。
ドガンっっ!バッキィっ…
突然部屋全体に大きな衝撃が走り、体が一瞬宙に浮いた。
(うわっっ…!!!)
周りの者達も悲鳴をあげる。
尋常ではない出来事が起きているようだった。
その衝撃が船体に与えたダメージは大きかったようで、ひび割れた天井や壁の隙間から水が入り込んできている。
(や、やばいやばいやばい…!とにかく助けを!外に連絡…スマホ…スマホ?あれ、スマホってなんだっけ)
「っち、んだよこれ」
前髪をかきあげながら、男は悪態をつく。
顔つきはまだ幼い…しかし、近づき難い雰囲気からか大人びて見えた。
「航路は合ってんのか?!クソっ、話と違うじゃねえかっ、今回は安全って話だっただろ!」
先ほど開け放たれた扉の外から、船乗りと思われる二人の男の話し声が聞こえてくる。
「知らねえよ、カシラに言ったらどうだ?」
「ひとまず積荷を減らさねえと、陸は見えてんだ、そこまで辿りつきゃあとはどうにでもなるだろ」
「チッ、せっかくの稼ぎが、大体荷を積み過ぎなんだよ」
男達は苛立っているようだった。
あまり良い状況ではないのだろう。
もしかすると、この船は長く持たないのかもしれない。
「しょうがねえだろ、覚醒前のガキは高く売れんだ、カシラもそれをわかって無茶したんだろ」
「そいつらも今から海に投げ捨てんだろうが!クソっ、この旅が終わったらこんな船降りてやる」
檻の中で自分達は顔を見合わせた。
薄暗い船内にも目が慣れたのか、今ではお互いの表情までなんとか読み取れる。
なぜ自分達はこんな格好で、今にも沈みそうな船、それも牢の中に囚われているのか。
誰一人として、この状況を理解している者はいなかった。
しかし、男たちの会話を聞いた瞬間、部屋にいる全員が悟ったのだ。
そう、今から自分達は殺されるのだと。
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次話もお楽しみに!