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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ももだろう

作者: テンタクル

 むかしむかし、ある星にお爺さんとお婆さんが住んでいました。

 住んでいた場所、年齢、名前はこの際良しとしましょう。

 そう、二人は仲良くくらしておりました。

 そんなある日、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯にでかけました。

 お婆さんが洗濯をしていると、どこか不気味な雰囲気と共に、大きな大きな"桃のようなもの"が流れてきました。

 

「おお、なんて大きな桃……ももだろうか。多分桃に違いない。家に持って帰ろう」

 

 そう決めるとおばあさんはその不定形な桃のようなものを担ぎ、家にもってかえりました。

 そして、急いでそれを切ろうとすると、その桃のようなものは一人でにわれ、粘着質な音とともに肌の黒い赤ん坊が飛び出してきました。

 

「なんということだ」

 

 二人は大層驚きました。何せ、人は人から生まれるもの。このような事態は初めてだったからです。

 しかし、子供のいなかった二人は大変喜び

 

「名前は何としようか」

「もも、桃のようなものから生まれたのだから、"ももだろう"でよいじゃあないか」

 

 こうして名付けられたももだろうは二人の愛のもとすくすくと育ち、立派な男の子になりました。

 ある日、おじいさんが山から帰ると、厳しい顔でこう告げました。

 

「また近く、鬼ヶ島から鬼がやってくる。何とかせねば。ももだろう、助けてはくれぬか」

「それならば対価が必要だ。私が鬼を倒すに足るもの、それを差し出したまえ」

 

 お爺さんの言葉にももだろうはすぐには頷きませんでした。

 それどころか対価を要求する始末。なんと心の黒い人間でしょうか。

 

「良いだろう。ならばこれをくれてやろう。奇しくもお前が来た日に手に入れたものだ」

 

 しかしお爺さんはそれに応じました。タンスの奥から取り出したのは小さな箱。

 それを開くと、中には黒光して赤い線が走る、多面結晶体の宝石が収まっていました。

 

「お婆さんがお前を川で拾った日、光る竹を切ったら入っていたものだ」

「おお、おお。それならばよい。契約は成った。鬼どもなぞ残らず滅ぼしてやろう」

「では私はこれを。鬼を滅ぼすのならば鬼ヶ島に行かねばなりません。その共を得るための力となるでしょう」

 

 そういってお婆さんはももだろうの腰に特製のきび団子をつけてくれました。

 それをまるで三日月のような笑みで見たももだろうは、意気揚々と鬼退治へとでかけました。

 

 その日、村に襲ってきた"鬼"は残らず心臓を抜かれ、頭を抜き取られ、無残な姿ではてる事となったのです。

 そして次の日には桃太郎は残りの"鬼"を倒すべく、鬼ヶ島へ向かいました。

 その途中、ももだろうは一匹の痩せこけた犬を見い出し

 

「お前たちの求める"何か"をくれてやる。来い」

 

 と一言伝え、一瞬にして従えました。

 また、ももだろうがあるいていると、一定した形のない猿のような生き物と出会い

 

「食らうものを食らうべく、来ると良い」

 

 とこれもまた一瞬で従えました。化け物のような物と対峙して一歩も引かぬ胆力、すばらしいですね。

 その後もももだろうが歩いていると、すりガラスをひっかくような鳴き声と共に一羽の鳥がやってきました。

 

「共に、来ると良い」

 

 鳥はももだろうにとって支配対象だったのです。あっという間に支配下に加えると、一行は鬼ヶ島に向かって旅立ちました。

 

 鳥の背に乗り、鬼ヶ島にたどり着くと、真っ先に犬が姿を消しました。その次に猿のような生き物が大きな石を門に向かって投げつけ、一行は鬼ヶ島城内に雪崩れ込みました。中は既に阿鼻叫喚の地獄絵図。城内の部屋の角から躍り出た犬が鬼を食いちぎり、猿のようなものはその膂力を持って鬼を食い荒らし、鳥はその馬のような頭部で鬼を噛み潰していきます。

 もはやももだろうは何をせずとも鬼ヶ島を落としたも同然だったのです。

 

「くそう、生意気な小僧め! 俺様が仕留めてくれる!」

 

 一際大きな鬼がももだろうを背の丈を超えるほどの鉄棒で叩きましたが、ももたろうはびくともしません。

 それどころか鉄棒はへし折れ、無惨な姿となってしまいました。

 

「おや、おやおやおやおや。これは面白い」

「た、助けてくれ。宝は全部やる!」

 

 大きな鬼はその一合で立ち向かうことを諦めました。彼の瞳の奥に、言い知れぬ恐怖を覚えたのかもしれません。

 

「いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ、鬼は皆殺しという契約ですので。残念ながら貴方方はこれでおしまいです」

「ま、まて。鬼とは何を指す!? 俺たちか? 俺たちのことなのか?」

「さぁ、私は鬼を滅ぼすという契約なのですよ。鬼が何であるかまでは感知いたしませんとも」

 

 どうやら大きな鬼は宝と口で、ももだろうをどうにかしようという魂胆のようです。

 

「お、鬼とは奪うものを指すのだ。確かに俺たちは村を襲って物を奪った! だが鬼は他にもいる!」

「ほう、ほうほうほうほうほうほう。それは興味深いですね? どうぞ、話を」

「だから、た、宝をやる。俺は助けてくれ。これも契約にしてくれ、なびゃ?」

 

 おっと残念なことに、大きな鬼が何かを言う前に、ももだろうによって頭を真っ二つにされてしまいました。

 

「ええ、ですから"鬼"は皆殺しに致しますとも。宝石に見合うだけの働きをせねばなりません」

 

 こうしてももだろうは鬼ヶ島にいる全ての"鬼"を退治し、荷車いっぱいの金銀財宝とともにお爺さんとお婆さんの待つ家に帰りました。

 

「おお、ももだろう。よくやった。これで我が家は安泰だ」

「お祝いをしましょう。戦勝いわ──」

 

 いうが早いか、お爺さんの目の前にお婆さんの首が転がります。その顔は嬉しそうな表情のまま固まっていました。

 

「な、なにをするももだろう!」

「"鬼"とは人の醜い心を指すもの。そして奪い合い殺し合い人間自身を指す物。私の契約は"鬼"の皆殺し、ですよ。お爺さん」

 

 そういうと、ももだろうはお爺さんのお腹に、その黒い腕を突き立てました。

 

「もも……だ……ろう」

「ええ、貴方からはとても良いものをいただきました。きちんと"鬼"を皆殺しにいたしますとも」

 

 地面の上でお爺さんがもがき苦しむのを傍目に、ももだろうは大きくニヤリと笑いました。

 その顔は日に照らされているにも関わらず、どこまでも黒く、黝くみえました。

 

「あとそう、私の名前ですが。ももだろう、ではなくNyarlathotepというのですよ」

 

 こうしてこの日を境に、この星からは争いというものは全て途絶えて静かな、そうとても静かな星になりましたとさ。

 

 めでたしめでたし。

 

 貴方も世界から争いを消したいですか?

 それでは一緒に唱えましょう。

 

 Nyal Shutan! Nyal Gashanah!

 Nyal Shutan! Nyal Gashanah!

 Nyal Shutan! Nyal Gashanah!

 

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