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7話 ある少女の痛み

掴まれた肩を壁に叩きつけられる。来なければよかった。心底そう思う。またため息をついて、ちょっと痛む胸を仏頂面で隠す。私が何かをすれば気が済むのなら、本当に教えて欲しい。私だって好きで好かれたわけじゃないし、嫉妬されて嬉しかった事なんてない。


「っ・・・!!いっ、たいな・・・!!」


慣れてないのかグーできた。殴られた頬と、あとは胸が苦しい。


「痛いっ・・・て!顔ばっか狙うなっ・・・!!」


不快なのかもしれないけど、ふつー体育館裏に呼び出して顔面殴ったりするか。地面の名無し草もジメジメ不貞腐れてるこの時勢に、ベタな暴力なんて流行らない。校長の娘なんて立場で好き放題やるとか、コミックかっつの。


「うるせぇっての!」


「──ッ!」


鼻がつーと唸って、目元に涙が滲む。あー痛い、悲しくなってきた。その場のみんな引きつった顔で、全部から目を逸らしても太陽は見えない。


「アンタが、顔が良いからって調子乗ってるから悪いんだろ!!」



痛い、苦しい。もう全部いやになる。少しだけ、助けて欲しい。



「別に・・・見た目で得したことなんてないしっ・・・!」


顔が良くても得しない、嘘じゃない。主張の激しい男子だって、こういう時に薄情だったなら世話がない。薄い顔の皮に釣られてくる人なんて、いくらいたってしょうがない。


「ッ・・・そういうとこがムカつくんだっつの!!道明寺君を『いいなづけ』にする直前に、すました顔して尻尾振りやがって!!」


そのいいなづけられそうだった道明寺は、今私を助けられない。いつでも頼ってほしいとお願いした次の日に、家族旅行でフランスに飛んだのだ。


私は都合が合う時に好意的に接してくれる相手よりかは、今みたいな苦しいときに、喉の痛みを止めてくれるような人が欲しかった。


「やめて、ってぇ・・・!」


詰まった息を吐きださせて、涙も全部救い上げてくれる人が良かった。



「鬱陶しく喚くなって、この!」


「ふぐっ・・・ぅっ!!」



そういう人は不細工相手、青あざで顔がでこぼこになった私のことだって、受け入れてくれるはずだから。


まあそんな聖人みたいな奴、一人だって現れないかもしれないけど。



「───何してんの?」



そうして虚しく見上げた空が、一瞬止まった。


「なっ、てめえどっから!!」


角から男子生徒が一人、遠目で声をかけた。


「・・・普通に飯食おうと思って来たんだが。・・・お取込み中だったか?」


「っ・・・。」


意識して着崩してる私に並ぶ程だらしない身なり、体格はしっかりしているが猫背で覇気がなく、そして目が死んでいる。私は一瞬希望を抱いて、けれど再び口をつぐんだ。誰でもいいから助けて欲しいと願ったが、思い直した。助けを呼ぶ声は、喉が痛くて出なかった。



私は知っている。今ここで止めてもらっても、こういうのは無くならない。ここはなんでか、陰口を注意すると暴力に発展するような世界だ。多少デリカシーがあったって、相手が悪くて救えやしない。気持ちは繊細だから、親切心では救いきれない。私を殴るこの女子だって、道明寺に焦がれて仕方なかったのかもしれない。


だから助けてなんて言うのは、私のわがままだ。だから、痛くて痛くてしょうがないのに、声だけは出なかった。


「権力で有名な女子一行が、美人で有名な女子一人を囲んで暴力。・・・撮影機材も無いし、()()()()()で間違いないんだろうが。・・・これを見てしまった俺に、お前らはどうして欲しいんだ。」


「てめえには関係ないだろ、ああ!?」


ドスの効いたがなり声、小鳥はすぐ止まり木を離れる。男子生徒は目を見開いて立ち止まり、少し怯んだ様子である。


「怖いな、そう怒鳴るなよ。・・・まあでも、関係ない、か。お前らがそう言うなら、一旦はそう受け取ろう。お前確か、校長の愛娘なんだろ?俺も色々後が怖いから、チクるような真似もしない。・・・とにかくこの場は穏便に済ませたいんだ、どうか逆恨みはよしてくれ。」


ところがどうして、自分が助かるための懇願は流調に出てくる。この通り、やってきたのは無情の傍観者だ。助けを望むのは、少し的外れなのだ。その証拠に、男子生徒はため息をついて踵を返す。


「話が早いじゃねえか。でも言っとくけどあたしのパパ、ヤクザにも通じてるから。親にだって言うんじゃねえぞ。」


「・・・わかった、次両親の墓参りに行く時も、言いやしないと誓おう。」


棒読みでてきとうな誓いを立て、睨みを利かせる女子と無様に泣く私、関わりたくないと言わんばかりにニ、三歩歩き───



「で、そこの泣いてる方はどうなんだ。」



──ところがどうして、振り向いた。

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