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4話 ある青年の絶望

「っはは。・・・そう、その通りだよ!!陰口に介入したのも、玲子に近づきたかっただけだ!!彼女を助けてあげたいなんて、本当は少しも考えちゃいなかったよ!!」


震える喉をそのままに、またも声を荒げる。自分の非を認めることについては経験が薄かったから、自尊心がどうにかなりそうだ。


「・・・・・・でも、しょうがないかもね!折角助けてやったのに、全然僕になつかないんだからさぁ!!恩を仇で返す奴なんて、いじめられても仕方ない・・・ああ仕方ないよ!!」


だが、もう止まらない。顔面を溢れる涙でぐちゃぐちゃにして、僕は叫ぶように真情を吐露してしまうのである。


「だからさ!!・・・玲子が裏で何をされようが、知ったことじゃあないね!!だいたい悪いのは僕じゃなくて、自分の不甲斐なさを人に押し付けるような奴らと、自衛も出来ない惨めなお人好しの方だろう!!」


「・・・・・・」


彼は、黙っている。いや、自分がやっていることが醜い責任転嫁に他ならないことなど、とうに僕も分かっているのだ。だが、悪いのは僕じゃないとでも吐きこぼさなければ、心が自己嫌悪に潰されそうなのだ。ところが、吐いても吐いても楽にはならない。むしろ彼女の姿が頭の隅にちらつき、『お前が悪だ』と訴えるだけなのだ。それがあまりにも苦しくて、僕は黙っている彼に向け、ついには汚れた槍を投げつけてしまった。


「っとぉ、みんなに報告したくなったよね!?多分無駄だと思うけど、まあみんなが信じるのがどっちか、せいぜい試してみると良いよ!!玲子を殴ったのは隣のクラスの女子で、道明寺は正義の心なんて、何処にも持ってなかったってね!!」


我ながら、何と醜い事か。だがもう、仕方ないのである。脈打つ度に泣き叫ぶ心臓をどうにかするには、むしろ息を止めてしまえばいいのだ。自己嫌悪に殺されるくらいなら、むしろ悪意と苦しみで満たしてしまった方がましだ。


「っははは、ハハハハハ!!なんてっ・・・醜い世界なんだろうなぁっ・・・・!?君の濡れ衣は晴れないし、玲子だって苦しみ続けるんだ・・・ぁぁあっ!!もう、全部終わりだよ!!正しさなんてもの、何処にだってありやしないじゃないかっ・・・!!」



人それぞれに穢れた都合があるだけで、社会正義もまやかしに過ぎない。玲子のことだって、生物学的に優れた容姿を、生物学的に好んだだけなのだ。ああ、そうだ。希望なんて無かった。全てが等しく、最も醜い。醜悪だけが、ヒトの本質だ。


見上げた空も虚しくて、あるのは頬を伝う水の感触だけだ。自分でも吐き気のするような嗤い声を上げ、むせ返った僕は息を切らした。




「───いや、違うな。」



「・・・は・・・?」



ずっと黙っていた男は、この時ついに口を開いた。


「俺を殴ったお前の面は、そんなじゃなかったぞ」


「ッ──!!」


見ると、死んだ目をしていたはずの男の瞳に、刃物のような光が宿っていた。


「なあ、おい道明寺。お前はあの時、『怒って』たよな?」


「っ・・・だから・・・なんだよ・・・!」


僕は怯み、一歩後ずさる。しかしその鋭利な眼光は、むしろ迫ってきているような気さえした。


「雨宮が裏で何をされようが、知った事じゃあないのなら。・・・お前が『怒る』理由は、何処にあるんだ?『雨宮を殴ったからなんだ』という風に開き直って見せた俺を、お前が殴った理由はなんだ。」


「それはっ・・・彼女を傷つけて悪びれもしなかった君が、許せないと思ったからで・・・!!」


「ああ、そうか。まあそれでもいい。・・・それならお前に、一つだけ問おう・・・。──正義が、何処にも無いだと?───」



次の瞬間、その光は僕を刺した。



「──冗談じゃない。」


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