7
虚な《うつろ》目で窓を見る。
そこには、傷んだ髪を結い上げた痩せ細った娘が映っていた。
「ばかみたい……私……」
何のために生きているんだろう……。
窓に映る自分と見つめ合う。奥二重の目元は母に似ている。
大好きだった母の眼差しを思い出し、思わず泣きそうになる。
否が応でも、幸せだった過去の記憶が流れ込んでくる。
貧しくても母の優しさに包まれていた日々、
かけがえのない思い出──。
溢れそうになる涙を、そっと手で拭う。
その瞬間、手元からふわりと清潔な香りが漂う。
「いい匂い」
この邸に来てからは、水で濡らしたタオルで拭くくらいだったので、入浴したのは実に6年ぶりのことだった。
綺麗に体を洗われたことは、とても嬉しい。
けれど、義姉の気まぐれによるものだから……。
本当に死ぬまでこのままの生活なのだろうか。
予期せぬことだったとはいえ、こうして、邸の外に出られた。
今なら、もしかして?
窓から外を覗くと、 馬車の外には数名の見張りがいた。
とても振り切って逃げられそうにない。
いったい義姉は、私をどうしたいんだろう?
可能性に賭けて、逃げてみる?
でも、もし、捕まったら……。
恐怖が体に染みついていて、どうしても震えてしまう。
それでも、このままここにいるのはいや!
今のうちに──。
腰を浮かしかけた時、馬車が動きだした。
飛び降りようか、どうしようかとぐずぐず悩んでいるうちに、馬車は停止した。
結局飛び降りる勇気が出なかった。
扉が開かれ、アンさんの案内で、庭園で待ち構えていた義姉の元へと連れて行かれた。
「うふ、待っていたわ。さぁ、行くわよソフィア、ほら、さっさとしなさい!」
「あ、待ってください」
半ば引きずられるように歩かされる。
華やかな雰囲気を醸し出している邸が見えてくると、煌びやかな衣装を身に纏った人達が多勢集まっていた。
義姉は、私から手を離すと、黙ってついてくるようにと命じる。
胸元を強調した派手なドレスを着た義姉は、魅惑的な笑みを浮かべて歩いていく。
周囲の男性は、義姉に見惚れていた。
言われた通りに黙って歩いていると、義姉が突然よろける。
「きゃぁ!」
近くの男性に、まるで抱きつくように寄りかかる。
「ごめんなさい、足を引っ掛けられまして……。
実は、私、嫌がらせを受けていますの。
以前雇っていたメイドの娘から……うぅっ……。
身寄りがなく路頭に迷っていた所を、父が引き取りましたの。
それなのに……父の優しさにつけ込んで……うぅっ。
あろうことか、平民の自分を養女にするようにと強要してきたのですわ。
断ると、今みたいに私に危害を加えてきますの。
いつも、うぅっ……」
涙なんて出ていないのに、泣くふりをする義姉。
身体を密着されている男性は、義姉に優しい言葉をかけて慰める。
そして、私に嫌悪の眼差しを向ける。
違う、そんなことしていない、と言いたいのに、言い返すこともできない。
ただ黙って、手を握りしめてこの時が過ぎ去るのを待っていた。
その様子を見て、義姉はニヤリと口元を綻ばせる。
声を出さずに、 「いい気味」と、私に向かって口元を動かす。
耐えられなくて、その場を離れようとしても、側に控えていた方から義姉の元に連れ戻される。
何度も何度も、同じようなことを繰り返し、男性に寄りかかる。
そして、周囲に聞こえるように私を貶める話をしている。
いつまで続けるつもりなの……。
暴れたら、逃げ出せないだろうか?
そんなことをしたら、やっぱり気が狂っているのね、と、義姉の思うつぼになるのかな。
ずっと黙って耐えるしかないの?
こんな自分が情けない。
思わず涙がこぼれそうになる。
私の様子に気づいた義姉が、耳元で囁く。
「泣くことは許さないから! あなたが泣いたら、台無しじゃない!
せっかく、あなたが悪女だと知らしめる時なのに。ちょっと、外に行くわよ!着いてきなさい」
「あっ……」
周囲の目から隠すように、取り囲まれて、ずるすると引きづられるように人気のない庭園の一角へと連れて行かれた。




