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「これなんかどうかしら?
ねぇ、あなたたちはどう思う?」
「とてもお似合いです。 アンジェリカお嬢様。」
「お嬢様は何をお召しになってもお綺麗です。」
「皆さんお嬢様に見惚れることでしょう」
「うふふ。も~う。みんな正直なんだから。そうよね、まぁ、当然ね。」
アンジェリカは、夜会に着て行く為のドレスを数十着も注文していた。本日屋敷に届いたので、明日の夜会に来て行くドレスを侍女達と選んでいた。
鏡の前に立ち、ドレスの裾を軽く持ち上げポーズをとる。 まだ少しあどけなさの残る顔立ちではあるけれど、豊満な胸と細くくびれた腰が妖艶さを醸し出している
アンジェリカはとても綺麗だった。
また、本人も自分の美しさを自覚しており、いつも自信に満ち溢れて、自分以外を見下していた。
「そうね、これにしようかしら。このドレスに似合うアクセサリーと靴を用意しておいて。」
「承知致しました、お嬢様。」
アンジェリカは、試着したドレスから着替えると、上機嫌で食堂へ向かった。
食堂には既に伯爵である父が座っていた。
「今日も綺麗だな。アンジェリカ。
ドレスが届いていたようだが、おまえは何を着ても似合うからな。」
「うふ。お父様ったら。いつも本当のことばかり。嬉しいですわ。
ところでお父様…お願いがありますの。」
「なにか欲しいものでもあるのか?」
「さすがお父様。欲しいものはあるのですけれど、今回は少し違いますわ。
私ももうすぐ18になってしまいますの。それで少々焦っておりまして…」
「結婚の事か?お前ももう適齢期になるのだな。
心配せずともお前には最高のお相手を探しているところだ。
今までも多数の婚約の申し入れがあったのだが…どうにも決めかねてな」
「うふふ。お父様は私と離れることが寂しくてお断りしてるのではなくて。
お父様、出会いというのはいつ訪れるか分かりませんわ。明日訪れるかもしれませんし…
それで、明日の夜会には最高の状態で臨みたいのです。
なので、あれを一緒に連れて行こうと思いますの」
「なぬ?お前の言うあれとは、もしかしてあの娘のことか?」
「えぇそうですわ」
「いや、しかし…」
「大丈夫ですわお父様。わが家の名誉を傷つけることなんて決していたしません。
ふふ。むしろ逆ですわ…
路頭に迷った平民の娘を引き取って面倒をみているのは美談ですわよね?」
「平民…?」
「えぇ。ふふ」
アンジェリカは不気味な笑みを浮かべていた
「えぇ。だってお父様。あれの顔をご覧になって?お父様とは全く似ていませんわ。きっと父親が誰か分からないくらい遊んでいたのではないかしら。お父様も騙されてるのではなくて?」
「ア、アンジェリカ…
あの娘を人前に出すのはまずい…あれは…」
父親は何か言いかけ、口籠もる
「いいえ。お父様。お願いを聞いてくださらないのなら私、お父様とはもう口を聞きませんわ」
「アンジェリカ…」
「本気ですのよ。」
「だが…」
「お母様はいつも私にこうおっしゃってました「あの女さえいなければ」と。
私ずっとそのことで心を病んでおりますの。あの女の娘も同罪ですわ。お父様、ご心配なさらないで。
全てアンジェリカにお任せください」
「アンジェリカ、あれは━━」
父親が言い終わらないうちに、アンジェリカは食堂を後にした。