真実⑤
アンジェリカの合図を受け、アンさんは
外へと出ていった。
入れ替わるように三人の男達がはいってく
る。
ニタニタと下卑た笑いを浮かべる男達を見て、心に警鐘が鳴る。
口を開いて相手を刺激してはいけないと思い、ようすを窺う。
その間も必死に縄が解けないかと格闘していた。
ロープがこすれて皮膚が痛い。
寝転がる私を舐め回すように男達の不躾な視線を感じる。
来ないで!
「これは、また随分な上玉じゃないか」
「あぁ、楽しめそうだな」
「商品として売るなら…手は出さない方がいいか…いや、一人くらいは楽しませてもらうか、なぁ」
「あぁ、ただ働きはわりにあわねえよなぁ」
「ちょっと!あなた達、この女は好きにし
ていいけど、さっさと代金を払いなさい!
急いでるのよ!」
アンジェエリカは男達に詰め寄る。
「まぁ、そんなに急ぐことはないぜおじょうさんよ」
「あぁそうだそうだ、まだ夜は長い」
「俺たちの相手をしてからでも遅くはないだろう、なぁ?」
「下品な手で触らないで!私を誰だと思ってるの!売れそうな女を連れて来たら代金を払うって約束したじゃない」
「はぁ、そんな約束したっっけなぁ、お前知ってるか?」
「いいや、知らないな。それよりよ、お嬢さんよ、こいつをここまで連れてきたのは俺たちなんだぜ? その労力の代金を支払ってもらわねぇと困るよ、なぁそうだろ」
「はぁ!平民の分際で!」
「なるほど、落ちぶれた貴族か、ぐはは、貴族落ちは遊んだ後でも高く売れる、押さえろ!」
「ちょ!ぎゃー離しなさい!アンアン!」
アンジェリカは必死にアンの名前を口にする。
けれどアンの姿は現れなかった。
男達はアンジェリカを二人がかりで取り囲み床へと押し倒す。
「ぎゃあーやめて!」
「喚くな!うるせぇ!」
バンと鈍い音が室内に響く。
男がアンジェリカの頬を叩いたのだ。
暴れ狂っていたアンジェリカの動きが止まる。
今まで暴力をふるうことはあっても、ふるわれたことはないから、ショックにより放心状態となっていた。
「腕を押さえろ」
「あぁ、終わったら俺にもやらせてくれよ」
大人しくなったアンジェリカの上に男が跨る。
「おっと、お嬢さんの相手は俺だよ。余所見してもらったら困るなぁ」
残りの一人の男が目の前に迫っていた。
「やめてください!こんなことして、何とも思わないのですか!」
「ははは!また随分といい子ちゃんだね、お嬢さん、俺が楽しいことを教えてやるよ。ゆっくりとな」
「んん!」
横向きに転がっていた身体を仰向けにされる。
後ろ手で縛られているので、体制もきつい。
横からビリビリと布の破ける音がする。
男達がアンジェリカの衣服を脱がすのがもどかしくなり、破っているようだ。
「あぁ、ほんとにかわいいなぁ」
いや!やめて!こないで!グレッグ様たすけて!
あまりの恐怖から声も出せないでいた。
男が跨ってくる。
現実から目を背けるようにかたく目を閉じ顔を横にむける。
男がスカートの裾をたくし上げようと手が伸びてきた時、ふっと跨る男の重みが消えた。
「ぐわぁ」
「なんだ!」
ドスドスと人の倒れるような音がした。
「ソフィア!」
固く閉ざした瞼を持ちあげると、そこにはグレッグ様がいた。
殴り飛ばしたのか蹴り飛ばしたのか、壁際に積み重なるように男達を放置していた。
「…グレッグ様」
グレッグはソフィアのロープを解き、ゆっくりと上体を起こして、抱きすくめた。
「あぁ、ソフィアすまない、危ない目にあわせてすまない、ソフィア…」
「グレッグ様、こわ…かった…」
「あぁ、もう大丈夫だソフィア」
強く抱きしめられて、安心したのと同時に涙が溢れてくる。
グレッグ様にしがみついて、声を押し殺すように泣いていた。
しばらくすると複数の足音が聞こえた。
「ちょっと、グレッグ先輩早すぎっす」
「あぁ、キースか、後は頼む。さっさとそのゴミ共を処理してくれ。
「ゴミって、それ聞かれたらまずいですからね、問題発言ですからね、世間の目は厳しいんですからね」
「死体になっていないだけましだろ」
「ちょっ、こわっ、先輩まじ笑えないっす。了解です。こいつらは俺たちで連行しときます。
そちらの被害者のお嬢さんも丁重に連れていきます」
「あぁ、頼む、その女性は手配中のアンジェリカ嬢だ。」
複数人の声がしたのは数分のことだった。
その間ずっとグレッグ様の胸に顔を埋めていたので、何があったのかは分からなかった。
グレッグ様の会話のやり取りから、騎士のかた達が助けに来てくれたのだと思った。
いつのまにか小屋の中にはグレッグ様と二人きりになっていた。
しばらくしてからグレッグ様に三日月亭
へ送ってもらった。
(二人きりの小屋の中でのエピソードは番外編へ)




