悪役令嬢の幼なじみ
翌日から、薫子は、午前中歴史と地理の授業を、午後ダンスとマナーのレッスンをハインツから習った。
薫子は、歴史、地理は初見ではあるものの歴史が浅いのであまり問題はない。
むしろ社交に必要な各領地の特産、今流行しているもの、力のある有力貴族たちとその家族を昨日に続き時間をかけて覚えていった。
ハナエがこのゲームを知っていたので、日本制作だろうか。トイレに音姫がある時点で間違いないだろう。
この世界は、音姫が動いているので電気があると思っていたが、電気はなかった。照明はLEDのように熱くなくいつでも電気のように使える。ただし料理は、薪オーブンが使われており、電化製品はない。リリーに聞いてもお湯がでる件、電気が使える件について理解しておらず、日常にあるものだから説明ができないの一点張りだった。この世界は、大変都合が良い世界だ。
勉強が終わると、授業でコール家がでてきたのでハインツにも確認をした。
「ハインツ、マリエッタ様はコール家のご兄妹とは仲良くされていたのかしら?」
「はい、幼少から交流がございました。ですがハナエ様になられてからは数度お会いして以降、会われていないかと思います。」
(なるほど、好感度が低いのね)と薫子は苦笑する。
「侯爵様から社交についてご依頼されたので、コール家の皆さんにお会いしたいのだけど・・・難しいかしら。」
「そうですね、アルシャード様とレックス様は仲良くされていらっしゃるようですので・・・アルシャード様へお願いしてみるのはいかがでしょうか?」
「ありがとう、ハインツ!アルシャード様とゆっくりお話ししたこともないし、一度そうしてみるわ。」
にっこりと笑うと、リリーに続きハインツも「お嬢様の笑顔に慣れていないのです。」と照れてしまった。
(マリエッタ様が可愛らしいから皆さん照れてしまうのね)
マリエッタが愛されていることが嬉しく、薫子はうふふと笑った。
「アルシャード様は学園へ通われていますので、レッスン後にお声かけされるとお時間よろしいかと思います。」
ハインツはそう言うと、午後のレッスンを始めた。
薫子は、この日本人が考えたであろう世界でのマナーは完璧だ。
ただしダンスは別だった。
「カオルコ様・・・姿勢や所作は良いのですが・・・」
ハインツは言いにくそうにカオルコヘ告げる。
(わたくし、日本舞踊を主に習っていたから重心が下になるのよね・・・社交ダンスは難しいわ)
「実は、わたくしが習っていたダンスは少し特殊なの。重心が下になるから身体を引き上げるダンスに慣れていないのよ。ごめんなさいね。」
薫子が謝ると、ハインツは首をふって否定した。
「いえいえ、カオルコ様は素晴らしいですよ。ダンスだって所作は綺麗なのです。練習すれば皆様の目を引くダンスを踊られると思います。」
薫子は、ダンスは特訓と頭のメモに残した。
リリーは事前にアルシャード付きの侍女へ、アポイントを取れるか確認しており、薫子はそのままアルシャードの元へ向かう。
「お兄様、マリーですわ。」
薫子がノックし入室する。
念の為、マリエッタの兄弟には真実を伝えていないのでマリエッタとして振舞う。
「やぁマリーよく来たね。ゆっくり時間を取ったから座ってよ。」
アルシャードは、ハナエのメモとは違い優しげに薫子を迎えてくれた。