深窓令嬢と侍女
薫子は、「わたくしのことを話しても良いかしら・・・?」と聞いた。
リリーが静かに頷くと、薫子は話し始めた。
「わたくしは、この世界を知りません。そのような事例はわたくしの知る限りはないのですが、きっと「違う世界からきた」ということなのでしょう。皆さんの世界ではマリエッタ様が2回も同じことが起きているのですから、よくあることなのかもしれません。わたくしは、16歳です。学園に通っておりました。ある日、わたくしは背後から刺され倒れました。気がつくとリリーが背中をさすっていてくれたのです。そういえば、あの時、刺された記憶で痛いと言ったのですよ。」
薫子が思い出したように笑うと、
「そうでしたか、私ったら取り乱していましたね。今思い出しても恥ずかしいです。」
続けてリリーは、「不躾な質問で恐縮ではございますが・・・その・・・カオルコ様は、貴族でしょうか?」と遠慮がちに聞いてきた。
「あら違うわ。わたくしたちの世界では、貴族という階級はありません。わたくしの世界は、平等な世界でした。そのため、王国ではなく市民の代表が集まり国を治めています。わたくしの家は、政治に干渉しているわけではないですが、わたくしの許嫁は代々政治に関わる家柄です。確かに裕福な家だったと思いますので、平等な世界ですがそうですね。この世界に照らすと貴族のようなものかもしれません。」
「カオルコ様のマナーがお出来になるのは、貴族だからなのかと思いまして・・・」
「あら、さすがリリーね。ということは前の方はマナーができなかったのね。ちなみに前の方は何というお名前だったのですか?わたくしの世界では、名前によってある程度住んでいる地域がわかるのです。」
「そうでしたか。前の方はハナエ様と言います。何かご存知でしょうか?」
「!!!」
薫子は、驚くと「同郷かもしれませんね。」と呟いた。
リリーはさらに、
「そうでしたか・・・何も知らないはずのハナエ様は、最初「なんでマリエッタになるのよ!!最悪だわ!!」とお怒りでした。私たちは、ハナエ様がこの世界を知っていたと考えています。」
「そうね、そう思うわ。」と答えた薫子はニコリと笑うと、「でもわたくしは知らないのよ。」と続けた。
「わたくしは、この世界を知りません。ハナエさんとわたくし、何が異なるかわかりませんがハナエさんはご存知な世界だったのですね。この世界をご存知なハナエさんは、なぜ奇怪な行動をとっていたのかしら。わたくしなら、ハナエさんがした行動はとりません。」
苦笑いをしたリリーが「私も同感です。」と相槌をうつ。
「実は、ハナエ様は、日記のようなメモを残されていました。ですが、言語が異なり私たちは全く読めませんでしたのでハナエ様は堂々とテーブルの引き出しに仕舞っておられました。ハナエ様のメモをお持ちしましたのでご確認ください。もしかしたらカオルコ様なら読めるのではないでしょうか・・・」
薫子は、リリーからメモを受け取ると内容を確認した。