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第一話 都市伝説

 桜庭里菜と須藤美月は教室でゲームについて語っていた。終礼の直後で、部活に向かう人、すぐに帰宅する人、友達と駄弁る人で教室はごった返していた。


 この高校は進学校として地元ではそれなりに通っていて、部活に入っていない人も多い。里菜も美月も部活には入っておらず、学校が終われば家に直行しネトゲをするという生活を送っていた。


「そういえば美月、前に買ったTower of Babylonってゲーム今もやってるの? 最近あまり話してないけど」

鞄を背負いながら里菜が言う。


「一応はクリアしたかな。里菜はプレイしてないからあんまり話してもつまんないかと思って」

「クリアしたんだ。で、どうだった? 面白かった?」

「うん、面白かった。最近プレイした中ではかなりよかった方だと思う」

「そっかー、私もやってみよっかな」

「里菜がやるんなら私も都市伝説の検証がてらもう一回やるかな」

「都市伝説?」

「最初から一度も起き上がらずにゲームをクリアすると特典がもらえるっていう噂だよ。眉唾物だけどね」

「特典って?」

「詳しくは分からないけど想像も出来ないほどすごい物なんじゃないかな。都市伝説が本当ならね」

「想像も出来ないほどすごい物か……決めた。私それやってみるよ。帰りにゲームソフト買って今日からやる」

「じゃあウチは里菜のサポートしながら二周目を楽しむとしますか。今は特に気になってるソフトもないし。スタート地点の始まりの村にある中央広場に集合ね」

「おっけー、そうと決まれば早くゲームショップに向かわなければ」


 そう言い残すと里菜は鞄を抱えて教室を飛び出していった。美月はあまりの速さにあけにとられていたが、すぐに我に返り教室を後にした。




「はぁ、はぁ……」

 ゲームショップでソフト『Tower of Babylon』を手に入れた里菜は息をはずませながら玄関のドアを開けた。


 一息つく間もなく階段を駆け上り、二階の自室へと向かった。自室に入るなり、手慣れた手つきでVRMMOのハードウェアをセットし電源を入れる。


 立ち上がるまでの時間に買ってきたソフトを開封し、ハードウェアに押し込む。そしてハードの準備が出来ていることを確認し、ベッドに横たわりヘッドギアを装着する。


 間もなく、里菜の意識は『Tower of Babylon』へと吸い込まれていった。




 気が付くと、リナはベッドの上に横たわっていた。天井は木で出来ているようで、いかにもファンタジー世界の宿屋のようだ。


「なるほど、この状態から起き上がらずに移動しなきゃいけないのか」

 リナはベッドの上で横向きに転がり、躊躇なく床へと落ちた。


「何回味わっても不思議な感覚だな」

 VRMMOでは、ほとんどのゲームで痛みを感じないようになっている。このTower of Babylonも例に漏れず、痛覚がシャットアウトされているようだ。


 ベッドから出たことだし、とりあえず部屋の外に出ようとリナは考えた。そこでリナは大きな問題にぶつかる。


 今、転がっている状態で頭の方向にドアがあり、このまま少し進めば辿り着けそうだ。しかし、そこまでどう進めばいいのか。


 リナは二つ移動方法を思いついた。しゃくとりむしのように移動するか匍匐前進で移動するかだ。


 迷ったが、接地面積が大きく、高さも低いので匍匐前進の方がより寝転がっている状態に近いと思い、ずるずると横ばいで移動した。


これで一安心かと思ったが、リナは大きな問題を忘れていた。転がったままではドアノブに手が届かないのだ。


 ドアノブはレバーのように押し下げるタイプだったので、手が届きさえすれば開けられそうだ。試しに手を伸ばしてみるが、届きそうにない。


 何かを投げてドアノブを一瞬でも下げられれば、ドアを押して外に出られそうだ。床には特に投げられそうなものはないので、自分のアイテムストレージを見てみる。


「ストレージ」とコールし、手元に現れた半透明のディスプレイをタッチして操作する。ストレージの中には少額のお金、簡素な剣、盾、杖の三つの武器があった。


 リナは慣れた手つきで杖を取り出し、オットセイのように上体を反らしながら杖を引っかけた。するとガチャリ、と音がしてドアが少し開いた。


「あ、開いた……!」

 ただドアを開けただけなのにリナはそこそこの達成感を味わっていた。


匍匐前進で部屋から這い出ると下に続く階段があった。どうやらここは一階ではなかったようだ。


 リナは階段のそばまで移動し、腕の力だけで後ろ向きに階段を下り始めた。現実ではとてもそんな腕力がある訳ではないが、ゲーム内の腕力のステータスはそれなりに高かったようだ。


 階下にたどり着くと受付のカウンターと小さなレストランがあった。何人かがレストランで食事を摂っていたが、リナがもぞもぞと匍匐前進をしているのを見るなり、全員が目を逸らした。


 リナは一瞬むっとしたが、自らの姿を顧みるとそれも当然かと思って気にせず這い続け、宿屋の外に向かった。




 先ほどと同じ要領で杖を使って宿屋のドアを開けると、そこは広場だった。石畳が隙間なく敷かれ、中央には小さな噴水がある西洋風の広場だ。至るところで数人が談笑していて、始まりの村なだけあってどのプレイヤーも希望とやる気に満ちた表情をしている。


 しかし談笑していたプレイヤーもリナが宿屋から這い出たのを見ると怪訝そうな表情をして、ひそひそ話し始めた。


「結構心にくる……宿屋に戻ろうかな──でも美月との待ち合わせ場所は広場だし──広場に出るしかないか……」

「おーい」

「あ、み──リアルネームはご法度だった──お、おーい」


 お互いに名前を呼べず、おーいと何回か返していたら美月がリナのところまで来た。


「いや~、思ったより周囲の目が冷たいね」

「いや~じゃないよ、どこ行ってもこれだったら流石に辛いよ」

「たぶんだけどここには初心者が多いからじゃないかな。ある程度初期からやってる人は例の都市伝説知ってると思うからこんなことにはならないと思う」

「だったらいいんだけど……」

「とりあえず視線も痛いし早いところこの村をでちゃおうか」

「そうしよう、出来るだけ早く、割とマジで」


 周りの視線を感じながら私は全力で回転して村を出た。隣を歩く美月を見ると無表情だった。


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