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マジュカと共に紅茶を飲んでいたグレンは、話のきっかけを探していた。

ふと横を見ると、ミーベルがお菓子を咥えて食べようとしている。


「駄目だ!猫はお菓子を食べちゃダメなんだぞ。人間の食べる物は、猫には毒なんだ!」


慌てて取り上げようとするグレンに、ミーベルはヒラリとその手をかわす。

お菓子を咥えたまま床へと降りたミーベルは、何処かへ走り去っていった。


「あぁ!猫がお菓子を持っていった。食べたらマズイ!」


立ち上がったグレンは、ミーベルを追いかけようとする。

そんなグレンをマジュカがひきとめた。


「ミーベルなら心配しなくても大丈夫よ。あれは食べても平気なお菓子だから」


マジュカはそう説明をしたが、ミーベルは使い魔なので普通の猫とは違う。

だから紅茶を飲もうがお菓子を食べようが問題はないのだ。

ミーベルが話をしない所から、グレンにその事を告げるのはまだ早いと判断をして、食べられるクッキーなのだと誤魔化した。


「そうなのか。それなら良いのだが」


ホッとした様子でグレンが椅子に座ると、隣の部屋からドサドサっと本の雪崩が起きた音がした。

マジュカは指を弾くと、魔法で家の窓を開け、風を起こして埃を外へと吹き飛ばす。

フワッと魔法を鎮めたマジュカを、グレンがジッと見つめていた。


「マジュカは風が使えるんだな」

「まあ、魔女だからね」


魔女の条件は四大精霊守が扱える事が基本となる。

普通の人は、その土地の加護を得た精霊しか使う事は出来ない。

しかし、独自に精霊と誓約を結んだ者は、他の魔法も使う事が出来る。

魔力保持を念頭に子を成していた王族や貴族等は、二つの精霊魔法を使う事が出来る者が多い。

しかし、四つ全てとなると滅多に現れる者はいないのだ。


「俺は二つしか扱う事は出来ない。それも火属性と水属性だ。スイセニアの精霊と同じ属性では、圧倒的に向こうの威力の方が強い。俺では役に立たないんだ」


グレンはグッと拳を握り締め、悔しさを滲ませる。

暫くグレンを見つめていたマジュカは、無言のままパチンと指を弾いた。


顔を上げたグレンの目の前には、丸くなった水が浮遊していた。

マジュカはそれを、反対の手に出した炎で一気に蒸発させる。

魔力同士のぶつかり合いで、目の前には黒々とした雲のような物が浮遊する。


パチンと指を再び弾いたマジュカは、その雲を結界で囲んだ。

自身の手に、その結界の球を引き寄せたマジュカは、グレンに見せる。


「これが何か分かる?」

「魔力同士の衝突のカケラだ」

「その答えも、間違いでは無いわね。でも、これは雲よ」

「雲?」

「ええ。それも、こう言う雲」


突如として、マジュカの持つ球の中で激しい雷撃が暴れ狂う。

バリバリと音を立てて光を放つ雷を、グレンはジッと見つめていた。


「これは、雷撃魔法?上級職の魔導師が二人で詠唱して使えると言っていた」

「ええ。雷撃の魔法の元は、火と水よ。互いが消し合う魔力同士の波動から、雲が出来るの。それは雷雲になる」

「へぇ」


激しい閃光を放ち続ける雷撃は、次第に収まりを見せていく。

スウッと消えた黒い雷雲と共に結界も消える。


「やっぱりマジュカは凄いな。こんな魔法が、たった一人で使えるなんて」

「別に凄く無いわ。私の師匠のマジェリカは、もっと凄かった」

「えっ!魔女って他にもいるのか!?」

「何を驚くのよ。魔女と言っても人より長く生きられるってだけよ。人によって違うけど、二倍から三倍位かな」

「そうなのか・・。それは知らなかった」


ポカーンとするグレンに、マジュカはクスクスと笑い出す。

最初は高慢ちきな可愛げのない子供だと思っていたが、どうやらそうでは無い様だ。

あれは、魔女を説得すると言う気合が、ちょっと違う方向に向かってしまっていただけらしい。


「私の名前は、マジュカ・マジェリカ。魔女と言うのは、師匠に付けられた名がファーストネーム。師匠のファーストネームがファミリーネームとなるの。覚えておきなさいね」

「分かった、覚えておく」


グレンは、コクコクと素直に頷いた。

まあ、素直に話を聞くのならと、マジュカは話を続ける。


「貴方はさっき、自分は水と火しか使えないと言ったわね。でも、それって凄い事なのよ。属性が正反対の物同士を使えるなんて普通よりも凄い事なの」

「そうなのか?でも水属性の魔法は、威力が弱いし・・」


グレンの声は、段々小さくなっていった。

その顔は何かに耐える辛そうな表情だった。

どうやら、使える魔法の種類の事で、散々嫌な思いをさせられた事があった様だ。

魔法の知識の乏しい魔導師の話を鵜呑みにすれば、そうなのかもしれない。


「確かに魔力量が足りないわね。ただ、さっきの雷撃だけど、普通の人には無理だけど、頑張れば貴方は出来るようになるわ」

「えっ!本当か!」


ガタンと席を立ったグレンに、マジュカは頷きを落とす。


「魔力量は増やさなくては駄目だけど、魔力の質がとても良いから、きっと出来る様になるわ」

「使える様になりたい!マジュカ、どうやったら魔力量って増やす事が出来る?俺、頑張るから!」

「基礎トレーニングが必要ね。素質はあるんだから、やってやれない事もないわ」

「基礎トレーニング・・」

「魔力の質はもって生まれたものだから、親に感謝するのね。しっかりやれば、貴方一人で雷撃を出せる様になる」

「本当か!俺、頑張る。頑張るから、教えてマジュカ」


マジュカがコクリと頷きを落とすと、グレンは破顔した。

それはまるで、雨雲を抜けた太陽の様に眩しい笑顔だった。


隣の部屋のドアに立っていたハルセが、瞳に涙を溜めた顔でペコリと頭を下げる。

自身の主人が、暗闇の中から抜け出した事を心の底から喜んでいるらしい。


(王子ってのは、何処の国でも大変なものなのね)


吐息を零したマジュカは、城でも出来る魔力強化の基礎トレーニングをグレンに教え込んだ。


隣の部屋の片付けも終わり、グレン達が帰る時間となる。

グレンは城には帰らず此処に残ると言い張ったが、この家にお客が泊まれる部屋は無い。


「教えてあげたトレーニングを、毎日欠かさずにね。時間がある時には常にやる事。分かった?」

「分かった・・」


帰りたくは無いのに、帰らなければならないグレンは、渋々頷きを返す。


「まあ、頑張ってみなさい。それじゃあね」


手を振るマジュカに、グレンも手を振り帰っていった。


皆んなが帰った後の家は、シーンと静まり返り、少し寂しさを感じさせる。

皆んなが消えた先を見つめ続けるマジュカの肩に、ヒョイッとミーベルが飛び乗った。


「珍しいね。マジュカがあんなに親切に教えてあげるだなんて」


ミーベルがチラリとマジュカの顔を見ると、なんとも言えないと言う表情を返された。


最初は王子という物に拒否反応を示してしまっていたが、変に取り繕わない態度のグレンは結構可愛かった。


「お願い!」なんて頼まれた時のあの顔は、遠い昔に失う事になった、自分によく懐いていた弟を思い出す。


そう言えば、弟の頼みだけは断る事が出来なかったなぁと吐息を零す。


「昔から、あの顔で頼まれると弱いのよ」


フウッと溜息をついたマジュカは、ミーベルと一緒に静まり返る家の中へと戻って行った。


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