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張り詰めていた空気が和んだ部屋の中で、一人だけ眉間にシワを寄せたままジッと考え事をしている男がいる。


男が見せる表情に気が付いたマジュカは、苛立ちを覚えた。


「なんなのよ、デュオ。言いたい事があるのなら、はっきり言って頂戴」

「・・アーティー。さっきの壺の話なんだが、魔女が関わっていると言うのは、間違い無いのか?」

「ええ。間違いないわ。魔女以外であの壺を使う事なんて出来ないもの」

「・・そうか」


デュオンレルの眉間のシワが、より一層深くなった。

それを見たマジュカは、呆れた表情を見せた。


デュオンレルは魔女と聞いて、自身の生みの親を疑っているようだ。

それも可能性が全く無いわけでは無いが、根拠がない。


可能性がゼロでは無い以上、容疑者として警戒する事は別に構わないが、彼は完全に決め付けているのが見て取れる。


「貴方の考えている事は、おそらく間違っていると思うわ」

「はあ?何の話だ」

「だから、貴方が今考えた仮説は、おそらく間違っていると言っているのよ。馬鹿の浅知恵ね」

「なんだと!」


デュオンレルは激しい怒りを見せる。

しかしマジュカは全く気にしない。


「魔女と聞いて、貴方の知っている知識の中で直ぐに結論を出そうとしたでしょ?それが馬鹿だって言っているのよ」

「俺と言う存在がいるこの国で、魔女が仕掛けて来ているんだぞ!普通に考えて、行き着く答えは一つだろ」

「じゃあ、カチュリナはどうなのよ。カチュリナの方がフウタラナよりも十年以上も前から被害に遭っていたのよ?それはどう説明するの?」

「さあな。いちいち考えるよりも、取っ捕まえて聞いてみたほうが早いだろ」

「単細胞・・」

「なにぃ!」


二人は机を挟んでバチバチと火花を散らす。


「兎に角、俺はドチセラのクソ魔女を取っ捕まえて来る。そうすれば全てが終わる」

「勝手にすれば良いと思うわ。的外れだと思うけど!」

「二人とも、少し良いかな」


白熱していく二人の言い争いに、レイフォードが堪らず口を挟んだ。


言い争いの中で、マジュカはフウタラナ側の秘密を守りながら話をしていた。

グレンの本当の身分を知らないデュオンレルも、やはり他国の者がいるという認識の元で話をしていたが、頭に血が上り、ドチセラの魔女の事を口に出してしまっていた。


デュオンレルの生みの親が魔女であると言うフウタラナのトップシークレットとなる話題を、カチュリナの王子の前でされるのは国王として許可出来なかった。


「その言い争いは、これ以上認められない。理由は言わなくても分かっていると思う。二人とも、もう少し冷静になって欲しい」


レイフォードに窘められた二人は、素直にその話題を終わらせた。


「ごめんなさい、レイフォード」

「すまん・・」

「分かってくれればそれでいい。壺を使っている魔女の事は確かに警戒すべきだと思う。しかし、まず先に精霊達を襲っている精霊喰いをなんとかしよう」


レイフォードの言葉に皆が頷きを落とした。

何はともあれ、神出鬼没の精霊喰いを見つける為の打開策が見つかったのだ。


マジュカ達は、決戦に備えて急いで準備に入っていった。



◇◆◇◆◇



作戦の準備を任されたレイフォード達は、限りある時間の中で急いで支度をし始めた。

ここは三人に任せるべきだと判断したマジュカは、グレン達と共に中庭へと戻って行った。


中庭に着くと、またしてもミーベルがグレンを使って中庭の散策に出かけて行く。

先程、とても良い案を出した事で、ミーベルは鼻高々だ。どちらが王子なのか分からない位の侍従関係が見て取れる。

クスクスと笑いながら見つめるマジュカに、ハルセが歩み寄った。


「解決策が見つかってよかったですね。カチュリナ側としても、フウタラナの危機は是非とも回避したい物ですので」

「そうね。本当に良かったわ」


戦いはこれからだが、負ける気はしない。

精霊喰いを見つける方法を思い付いた事で、マジュカは余裕のある笑みを見せた。


「マジュカ様。城から出る前に、国王から伝言を預かっております」

「伝言?」

「はい。『今朝の話は無かった事にして下さい。二人の決断を出来る限り応援致します』との事でした」


唖然とした表情を向けたマジュカは、国王の言葉の意図に気が付き、クスクスと笑い出した。


「私の身分の所為なのね。だからグレンがフウタラナに来る事も反対しなかったんだわ」

「そうだと思われます」


カチュリナの国王は、東の森の魔女がフウタラナの国王の元婚約者、しかも公爵家の長女であると聞き、内心穏やかではなかった様だ。

同盟国とは言え、他国に魔女を取られるくらいなら、グレンとの仲を推し進めたいと判断したという事なのだろう。

国王と言う立場の人なら、当然とも言える判断なのかも知れない。


ただ、短時間で目まぐるしく変わっていく自分の立場や状況に、少し戸惑いがある。

今はまだ判断すべきでは無いと考えたマジュカは、国王の言葉を胸にしまった。

そして、ふと疑問に思っていた事を思い出した。


「ねえ、ハルセ。貴方、私がフウタラナの公爵家の長女だと分かってもあまり驚かなかったわね。それはどうして?」

「あの舞踏会前のやり取りです。ドレスに合う髪型の選び方、侍女の使い方、招待客のリストに、貴女の立ち振る舞い。どれを取りましても、かなり高レベルな教育を施された淑女であると判断致しました。フウタラナの国王の婚約者であったと言う事は、全ての事に納得がいく物でした」

「成る程ね。まあ、貴方なら気が付いてもおかしく無いわね。グレンの側に貴方がいる事が、どれだけ心強かったか」

「有り難き評価に感謝致します。わたくしも、殿下のお側にお仕え出来る事を誇りに思っております」


頭を下げたハルセにマジュカが微笑みを向ける。

そんな二人の元にグレンが戻って来た。


「何を二人で話しているの?」

「大した話では無いわ」


マジュカが右手を差し出すと、ミーベルがその手を伝って肩に座る。

そしてマジュカの顔を覗き込んだ。


「ねえ、マジュカ。この国の風は気持ちが良いから、空の散歩をしに行こうよ」

「駄目よ。もうじき出かけるんだから」

「ええ!精霊達も増えて来たから、物凄く気持ち良さそうなのに・・」


ミーベルはガッカリと肩を落とした。

後で出かける時に空を飛んで行くからと、マジュカが宥め賺す。

渋々それを受け入れたミーベルは、マジュカと一緒に中庭の端の方にある展望台に移動して風に当たり始めた。


そんなマジュカとミーベルを見つめていたグレンに、ハルセが歩み寄った。


「殿下。マジュカ様を他国に渡したく無いと願うのは、カチュリナだけではございません。ご注意を」

「そうだろうね。特にあの国王かな。元婚約者なだけに、マジュカへの未練タラタラだ」

「ええ。あのお方のマジュカ様へのお気持ちは間違い無いかと思われます。それと、デュオンレル将軍と言う方も警戒すべきかと」

「あの人は、どちらかと言うと国の為に動きそうだな。警戒すべきだけど、マジュカのあの人への対応を見る限りは平気そうだ」


マジュカの態度を見ていれば、その人の大体の立ち位置が分かる。

デュオンレルに対して、マジュカは割と思ったままの素直な言葉をぶつける。

だがそれは、辛辣なものが多い。

彼は親しいには親しいが悪友と言ったところだろう。完全に恋愛対象には無い事が見て取れた。


「油断は出来ません。彼らには彼らしか知らないマジュカ様とのお時間があったのですから」

「分かっている。はぁ・・。覚悟を決めて動き出したら、これだもんな。なかなか思い通りにはいかない物だ」

「大嫌いな牛乳も我慢して沢山飲みましたのにね・・」

「それを言うな。思い出して気分が悪くなりそうだ」


身長はいまだ伸びてくれている。

目標だったマジュカの背を超した事で、牛乳はたまに飲む位にしたが、やはり未だに好きにはなれない。


牛乳を思い出して身震いを起こしたグレンは、自分の横で考え込むハルセに気が付いた。


「どうした?ハルセ」

「フウタラナの闇は、もう少し深いような気がします」

「お前の勘か?」

「ええ」

「お前の勘は当たるからな・・。まあ、誰がなんと言おうとも、誰が何をしようとも、俺はマジュカを手放す気はない。必ずマジュカの一番になってみせるよ」


マジュカとフウタラナの人達の間には、グレンの知らないアレスティナとしての歴史がある。


グレンがマジュカに勝負を仕掛けたのは、たった数日前の事だ。しかし、六年という長い年月を無駄に過ごして来たわけでは無い。

彼らに負けないくらいの、マジュカとグレンの歴史だってあるのだから。


「さて、邪魔者が居ないうちに、もう少しマジュカに甘えておこうかな」

「弟様の事ですか?」

「ああ。俺の当面の敵はあの人だな」

「確かに、そう思います」


グレンとハルセは、クスリと笑い合った。


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