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マジュカは苦戦していた。
闇は集中して箒を狙って来ている。
なんとかその手をかわしながら飛び続けてはいるが、箒の速度が出ない為、直ぐに捕まってしまう。
用意させた箒は三十本。
ファイアムが後で追加が来ると言っていたが、もう既に五十四本の箒を壊された。
あと何本残っているのか分からない。
しかし、もう残りはほぼ無いと考えられる。
壊される度に呼び寄せる箒。
まだあったのかと、その度に安堵する。
伸びて来る闇の手を避ける為、運転に集中しなくてはならず、あまり高度な魔法が使えない事も、追い詰められる原因となっていた。
しかし、地上に降りて戦う訳にはいかなかった。
そんな事をすれば、一瞬の内に周りを囲み込まれてしまうからだ。
宙に浮いている事で、逃げ道がなんとか確保出来ている状態なのだから。
(一か八か!)
マジュカはクイッと箒の向きを変え、その手に魔力を集中させる。
発動された魔力は、激しい渦状の水流となって闇の手を押し返していく。
一気に本体まで押し返した水流は、今度はその大きな体ごと後方へと押していく。
闇との距離が取れたマジュカは、クルンと指を回し、水流の流れを即座に変える。
流れていた水流は、マジュカによって空中で堰き止められ、それは圧縮、かなりの圧力を掛けられていく。
体勢を立て直した闇は、再びマジュカに向かって闇の手を伸ばす。
マジュカがパチンと指を鳴らしたと同時に、堰き止められていた水流は一気に開放された。
勢いよく放たれた水流は、その形状を龍に変え、闇の塊に向かっていく。
闇の塊を捉えた水龍は、そのまま闇を突き破り、お腹に大きな穴を開けた。
「やったわ!」
穴の開いた闇の塊に、マジュカが歓喜の声を上げた。
しかし、それは次の瞬間、絶望へと変わる。
穴は即座に修復され、元の塊に形状を戻したのだ。
「そんな・・」
呟きを落としたマジュカに、一気に伸びた闇の手が迫った。
慌ててそれを回避していくが、箒は壊され、また新しい箒に飛び乗った。
次々と伸びて来る闇の手に翻弄され続ける。
なんとか避け続けていたマジュカだったが、またしても箒が壊された。
クイッと新たな箒を呼ぶが、反応がない。
(予備の箒が・・)
落下して行くマジュカを、方向を変えた闇の手が追い掛ける。
地面に着く瞬間、風を使って衝撃を抑えたマジュカだったが、見上げた空から迫る闇の手に、ギュッとその瞳を閉じた。
その時、満月の輝く夜空に、金色に輝く一つの星が流れた。
その金色の流れ星は、迫りくる闇から一人の少女を助け出し、空へと舞い上がる。
驚きながら瞳を開いたマジュカは、自分を乗せて浮く金色の箒を見た。
「ミーベル!!!」
「ギリギリセーフだったね、マジュカ。怪我はない?」
「うん。でも、なんで?だって、ミーベルは酷い怪我をしていたのに・・」
ミーベルの怪我は、こんな短時間で治る様な怪我では無かった。
目の前で起きている事だが、とても信じられない。
「昔あの城に、魔女だった人が住んでいた時代があったみたいだよ。あの中庭は、森を懐かしんだその人が作ったんだ。恐らく、弟子の力も使っているね。かなり強力なパワースポットになってた」
「それで怪我の修復が早かったのね!あの闇が城に入れないのも、きっとその所為なんだわ」
「多分そうだと思うよ」
広大な敷地を持つ東の森。
そこを守る魔女の力は代々強力だ。
そんな魔女が集中して作った、城という箱庭の中にある楽園は、かなり濃縮された高濃度の精霊術が施されている様だ。
広大な敷地を守って来た魔女にとって、あの小さな敷地に精霊が立ち寄る休憩所のような場所を作る事は、容易い事であっただろう。
しかも今日は満月。
いつもはその力を隠されている秘密の場所も、満月の光を浴びて力を増したと考えられる。
迫って来る闇の手をクルンッと回って避けたミーベルに、マジュカが安堵の涙を流す。
精霊達が癒してくれているから大丈夫だとは思っていても、やはり自分の目で無事な姿を見ない事には、不安が拭い去れなかったのだ。
「ミーベルが無事で、本当に良かった!」
「感動の再会はこれで終わり。それより、あいつをなんとかしよう」
「うん!」
マジュカは涙を拭い去り、前を見つめた。
「かなり強い攻撃魔法を叩き込んだけど、全然効果が無かったわ」
「マジュカ・・。僕の話、ちゃんと聞いてた?」
「えっ?話?城の魔女の事?」
マジュカは戸惑いながら首を傾げる。
「違うよ。最初に戦った時の事!アイツは、満月の光を媒体にしているって言ったでしょ?満月の力を取り込む為に、光を使っているんだよ」
「うん。それは分かってる。でも、満月からの力をどうやって遮れば・・。あっ!そっか!」
「もう・・。しっかりしてよ」
「ごめんね、ミーベル」
そうだった。ミーベルはきちんと精霊喰いの情報を伝えてくれていたのだ。
ミーベルが怪我をした事で、冷静さを失ってしまっていた。
「マジュカは、僕が付いてないと駄目なんだから・・。でも、僕がいるから、もう大丈夫でしょ?」
「うん。ミーベルと一緒なら絶対に負けないわ!」
「よし!それじゃあ、あの闇の手は僕に任せて」
「分かった!頑張って逃げてね、ミーベル」
「うん。いくよ、マジュカ!」
次々と伸びて来る闇の手を、ミーベルは上手くかわし続けていく。
マジュカはミーベルを信じて、技に集中した。
(まだ駄目だ。もっと・・。もっと大きく)
マジュカは、魔力をドンドンと高めていく。
ようやく魔力の準備が出来たマジュカは、パチンッと指を弾く。
光の球が四方八方に飛んで、闇夜を照らし出した。
光の玉を出したのは明るさの確保と、辺りが闇に包まれた事で、奴に有利に立たれる事を避ける為だ。
全ての準備が整い、マジュカは両手を天に向ける。
そして、高めた魔力を一気に放出させた。
右手には火、左手には水。
攻撃をした時の数十倍の量があるであろう魔力で作った火と水は、空中で激しく衝突を繰り返した。
魔力同士の衝突によって出来た魔力のカケラは雷雲となり、空一杯に広がりを見せる。
そしてそれは、夜空に輝く満月を覆い隠す程に広がった。
月の光が遮られ、満月の力を取り込めなくなった精霊喰いは、怒りで闇を増幅させた。
闇の手を引っ込め、攻撃の為の力を溜める。
闇の手が止まった事で、ミーベルは宙に停止した。
「マジュカ。アイツは長い年月、精霊達を食べ続けて来た。だからアイツに四大精霊守の・・森の魔女の力はダメージを与え難い」
「うん・・。でも怖い。怖いの、ミーベル」
「大丈夫。マジュカには、僕が付いてる。ちゃんと制御出来る筈だ」
「でも・・」
「マジュカ。僕を信じて。二人でアイツを倒すんだ!」
「・・うん。分かった。私は、ミーベルを信じるわ」
ミーベルの上に立ったマジュカは、地上にいる精霊喰いを見下ろした。
そして内に秘めし力を解放させる。
「私は東の森の魔女。でもその呼び名は、二つ有るうちの一つでしかない・・」
マジュカの雰囲気がガラリと変わる。
冷んやりとした冷気が彼女から発せられ、空気中の温度を一気に下げて行く。
血の気を失った雪のように白い肌、吐息は全て冷気となる。
体から溢れ出した魔力は、全て雪へと変わっていった。
「私は、氷冷雪花の魔女。全てを凍らせ、全てを終わらせる。終焉を司る魔女」
力を溜めた精霊喰いは、全ての力を一本の手に集結させる。
太くて大きくなった闇の手が放たれ、物凄い速さでマジュカに迫る。
右手を前に出したマジュカは、その力を一気に解放させた。
伸ばされた闇の手は、ピキピキと音を立てながら、先端から一気に凍り付いていく。
本体にまで到達した氷は、そのまま精霊喰いの本体までをも完全に凍らせた。
精霊喰いは地面から空へと聳え立つ、巨大な氷のオブジェとなった。
全てが完全に凍り付き、もう二度と動く事はない。
マジュカから発せられる氷雪の魔力が、巨大な氷に纏わり付いていく。
空の上では、未だ行き場を無くした雷撃が、バリバリと音を立てて止まっていた。
マジュカは空に向かって、人差し指を真っ直ぐ立てた。
彼女の氷雪の魔力が、稲妻の行く道を示す。
振り下ろしたと同時に、激しい稲妻が巨大な氷へと落とされた。
大きな雷鳴が轟き、そして氷漬けになっていた精霊喰いは、粉々になって崩れ落ちていった。
ガラガラと崩れ落ちていく氷を、マジュカは何も映さぬ瞳で見つめていた。
ゆっくりと地へと降りていったミーベルは、地面にマジュカを下ろすと猫の姿に変わる。
「さ、寒っ!」
ブルブルッと震えを起こしたミーベルは、寒さを我慢しながらマジュカを見た。
「マジュカ、しっかりして。もう終わったよ!」
ミーベルの声は、マジュカに届かない。
マジュカから絶えず溢れ出る魔力が、周りの景色を凍らせていく。
「マジュカ!起きてよ、マジュカ!」
マジュカの足元にミーベルが飛び付くと、マジュカはゆっくりと仰向けのまま倒れていった。
体内から発せられる魔力が衝撃を吸収する。
地へと倒れ込んだマジュカは、自身の体をも凍らせ始めた。
「マジュカ!!」
このままでは、マジュカが危ない。
しかし、ミーベルの声はマジュカに届かない。
考え込んだミーベルは、ハッとして顔を上げた。
そして、ピョンッとジャンプをすると、マジュカの顔の上に飛び降りた。
尻尾と体をくねらせ、マジュカの顔に押し付け続ける。
モフモフとした毛の感覚が、眠りに就いていたマジュカの意識を覚醒させた。
自身を襲うモフモフと、息ができない苦しい状況に、寝ていた体をガバッと起こした。
ゴホゴホっと激しく咳き込み、なんとか呼吸を整えたマジュカは、目に涙を浮かべながら顔を上げた。
「なに、今の。凄く気持ち良くて、凄く息苦しかった!」
「フッ。僕の身を挺したモフモフ攻撃だよ。氷冷雪花の魔女も、この僕のモフモフには勝てなかった様だね」
自信満々に答えるミーベルに、マジュカは怒りの視線を向ける。
「モフモフは良いけど、なんで口と鼻を塞ぐのよ!死ぬ所だったじゃない!」
「それがモフモフ攻撃の唯一の弱点だよ。体をくねらせているから、モフモフする場所を選べない」
「もう、ミーベルったら!私の心を癒すから、大人しくモフモフさせなさい!」
「ゲッ!嫌だよ。もう、してあげたでしょ」
「問答無用!」
マジュカはミーベルを捕まえると、その体に顔を埋める。
そして顔をグリグリと動かし始めた。
「嫌だぁ!もう止めてよ。僕の美しい毛並みがボロボロになっちゃう!」
嫌がるミーベルを、マジュカは絶対に離さない。
その代わり、顔から胸元へと移動させて抱き締めた。
「助けてくれて、ありがとう。ミーベル」
クスッと笑ったミーベルは、マジュカの顔を見上げた。
「お疲れ様、マジュカ」
体を伸ばしてマジュカのホッペをペロリと舐める。
二人は見つめ合い、そして笑い合った。




