表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/60

21

マジュカは苦戦していた。

闇は集中して箒を狙って来ている。


なんとかその手をかわしながら飛び続けてはいるが、箒の速度が出ない為、直ぐに捕まってしまう。


用意させた箒は三十本。

ファイアムが後で追加が来ると言っていたが、もう既に五十四本の箒を壊された。


あと何本残っているのか分からない。

しかし、もう残りはほぼ無いと考えられる。

壊される度に呼び寄せる箒。

まだあったのかと、その度に安堵する。


伸びて来る闇の手を避ける為、運転に集中しなくてはならず、あまり高度な魔法が使えない事も、追い詰められる原因となっていた。


しかし、地上に降りて戦う訳にはいかなかった。

そんな事をすれば、一瞬の内に周りを囲み込まれてしまうからだ。

宙に浮いている事で、逃げ道がなんとか確保出来ている状態なのだから。


(一か八か!)


マジュカはクイッと箒の向きを変え、その手に魔力を集中させる。

発動された魔力は、激しい渦状の水流となって闇の手を押し返していく。

一気に本体まで押し返した水流は、今度はその大きな体ごと後方へと押していく。


闇との距離が取れたマジュカは、クルンと指を回し、水流の流れを即座に変える。

流れていた水流は、マジュカによって空中で堰き止められ、それは圧縮、かなりの圧力を掛けられていく。


体勢を立て直した闇は、再びマジュカに向かって闇の手を伸ばす。

マジュカがパチンと指を鳴らしたと同時に、堰き止められていた水流は一気に開放された。


勢いよく放たれた水流は、その形状を龍に変え、闇の塊に向かっていく。

闇の塊を捉えた水龍は、そのまま闇を突き破り、お腹に大きな穴を開けた。


「やったわ!」


穴の開いた闇の塊に、マジュカが歓喜の声を上げた。

しかし、それは次の瞬間、絶望へと変わる。


穴は即座に修復され、元の塊に形状を戻したのだ。


「そんな・・」


呟きを落としたマジュカに、一気に伸びた闇の手が迫った。

慌ててそれを回避していくが、箒は壊され、また新しい箒に飛び乗った。


次々と伸びて来る闇の手に翻弄され続ける。

なんとか避け続けていたマジュカだったが、またしても箒が壊された。

クイッと新たな箒を呼ぶが、反応がない。


(予備の箒が・・)


落下して行くマジュカを、方向を変えた闇の手が追い掛ける。

地面に着く瞬間、風を使って衝撃を抑えたマジュカだったが、見上げた空から迫る闇の手に、ギュッとその瞳を閉じた。



その時、満月の輝く夜空に、金色に輝く一つの星が流れた。


その金色の流れ星は、迫りくる闇から一人の少女(マジュカ)を助け出し、空へと舞い上がる。


驚きながら瞳を開いたマジュカは、自分を乗せて浮く金色の箒を見た。


「ミーベル!!!」

「ギリギリセーフだったね、マジュカ。怪我はない?」

「うん。でも、なんで?だって、ミーベルは酷い怪我をしていたのに・・」


ミーベルの怪我は、こんな短時間で治る様な怪我では無かった。

目の前で起きている事だが、とても信じられない。


「昔あの城に、魔女だった人が住んでいた時代があったみたいだよ。あの中庭は、森を懐かしんだその人が作ったんだ。恐らく、弟子の力も使っているね。かなり強力なパワースポットになってた」

「それで怪我の修復が早かったのね!あの闇が城に入れないのも、きっとその所為なんだわ」

「多分そうだと思うよ」


広大な敷地を持つ東の森。

そこを守る魔女の力は代々強力だ。

そんな魔女が集中して作った、城という箱庭の中にある楽園(中庭)は、かなり濃縮された高濃度の精霊術が施されている様だ。


広大な敷地を守って来た魔女にとって、あの小さな敷地に精霊が立ち寄る休憩所のような場所を作る事は、容易い事であっただろう。


しかも今日は満月。

いつもはその力を隠されている秘密の場所も、満月の光を浴びて力を増したと考えられる。


迫って来る闇の手をクルンッと回って避けたミーベルに、マジュカが安堵の涙を流す。

精霊達が癒してくれているから大丈夫だとは思っていても、やはり自分の目で無事な姿を見ない事には、不安が拭い去れなかったのだ。


「ミーベルが無事で、本当に良かった!」

「感動の再会はこれで終わり。それより、あいつをなんとかしよう」

「うん!」


マジュカは涙を拭い去り、前を見つめた。


「かなり強い攻撃魔法を叩き込んだけど、全然効果が無かったわ」

「マジュカ・・。僕の話、ちゃんと聞いてた?」

「えっ?話?城の魔女の事?」


マジュカは戸惑いながら首を傾げる。


「違うよ。最初に戦った時の事!アイツは、満月の光を媒体にしているって言ったでしょ?満月の力を取り込む為に、光を使っているんだよ」

「うん。それは分かってる。でも、満月からの力をどうやって遮れば・・。あっ!そっか!」

「もう・・。しっかりしてよ」

「ごめんね、ミーベル」


そうだった。ミーベルはきちんと精霊喰いの情報を伝えてくれていたのだ。

ミーベルが怪我をした事で、冷静さを失ってしまっていた。


「マジュカは、僕が付いてないと駄目なんだから・・。でも、僕がいるから、もう大丈夫でしょ?」

「うん。ミーベルと一緒なら絶対に負けないわ!」

「よし!それじゃあ、あの闇の手は僕に任せて」

「分かった!頑張って逃げてね、ミーベル」

「うん。いくよ、マジュカ!」


次々と伸びて来る闇の手を、ミーベルは上手くかわし続けていく。

マジュカはミーベルを信じて、技に集中した。


(まだ駄目だ。もっと・・。もっと大きく)


マジュカは、魔力をドンドンと高めていく。

ようやく魔力の準備が出来たマジュカは、パチンッと指を弾く。

光の球が四方八方に飛んで、闇夜を照らし出した。


光の玉を出したのは明るさの確保と、辺りが闇に包まれた事で、奴に有利に立たれる事を避ける為だ。


全ての準備が整い、マジュカは両手を天に向ける。

そして、高めた魔力を一気に放出させた。

右手には火、左手には水。

攻撃をした時の数十倍の量があるであろう魔力で作った火と水は、空中で激しく衝突を繰り返した。


魔力同士の衝突によって出来た魔力のカケラは雷雲となり、空一杯に広がりを見せる。

そしてそれは、夜空に輝く満月を覆い隠す程に広がった。


月の光が遮られ、満月の力を取り込めなくなった精霊喰いは、怒りで闇を増幅させた。

闇の手を引っ込め、攻撃の為の力を溜める。


闇の手が止まった事で、ミーベルは宙に停止した。


「マジュカ。アイツは長い年月、精霊達を食べ続けて来た。だからアイツに四大精霊守の・・森の魔女の力はダメージを与え難い」

「うん・・。でも怖い。怖いの、ミーベル」

「大丈夫。マジュカには、僕が付いてる。ちゃんと制御出来る筈だ」

「でも・・」

「マジュカ。僕を信じて。二人でアイツを倒すんだ!」

「・・うん。分かった。私は、ミーベルを信じるわ」


ミーベル(金色の箒)の上に立ったマジュカは、地上にいる精霊喰いを見下ろした。

そして内に秘めし力を解放させる。


「私は東の森の魔女。でもその呼び名は、二つ有るうちの一つでしかない・・」


マジュカの雰囲気がガラリと変わる。

冷んやりとした冷気が彼女から発せられ、空気中の温度を一気に下げて行く。


血の気を失った雪のように白い肌、吐息は全て冷気となる。

体から溢れ出した魔力は、全て雪へと変わっていった。


「私は、氷冷雪花(ひょうれいせっか)の魔女。全てを凍らせ、全てを終わらせる。終焉を司る魔女」


力を溜めた精霊喰いは、全ての力を一本の手に集結させる。

太くて大きくなった闇の手が放たれ、物凄い速さでマジュカに迫る。


右手を前に出したマジュカは、その力を一気に解放させた。


伸ばされた闇の手は、ピキピキと音を立てながら、先端から一気に凍り付いていく。

本体にまで到達した氷は、そのまま精霊喰いの本体までをも完全に凍らせた。


精霊喰いは地面から空へと聳え立つ、巨大な氷のオブジェとなった。

全てが完全に凍り付き、もう二度と動く事はない。


マジュカから発せられる氷雪の魔力が、巨大な氷に纏わり付いていく。

空の上では、未だ行き場を無くした雷撃が、バリバリと音を立てて止まっていた。


マジュカは空に向かって、人差し指を真っ直ぐ立てた。

彼女の氷雪の魔力が、稲妻の行く道を示す。


振り下ろしたと同時に、激しい稲妻が巨大な氷へと落とされた。

大きな雷鳴が轟き、そして氷漬けになっていた精霊喰いは、粉々になって崩れ落ちていった。


ガラガラと崩れ落ちていく氷を、マジュカは何も映さぬ瞳で見つめていた。


ゆっくりと地へと降りていったミーベルは、地面にマジュカを下ろすと猫の姿に変わる。


「さ、寒っ!」


ブルブルッと震えを起こしたミーベルは、寒さを我慢しながらマジュカを見た。


「マジュカ、しっかりして。もう終わったよ!」


ミーベルの声は、マジュカに届かない。

マジュカから絶えず溢れ出る魔力が、周りの景色を凍らせていく。


「マジュカ!起きてよ、マジュカ!」


マジュカの足元にミーベルが飛び付くと、マジュカはゆっくりと仰向けのまま倒れていった。


体内から発せられる魔力が衝撃を吸収する。

地へと倒れ込んだマジュカは、自身の体をも凍らせ始めた。


「マジュカ!!」


このままでは、マジュカが危ない。

しかし、ミーベルの声はマジュカに届かない。


考え込んだミーベルは、ハッとして顔を上げた。

そして、ピョンッとジャンプをすると、マジュカの顔の上に飛び降りた。


尻尾と体をくねらせ、マジュカの顔に押し付け続ける。

モフモフとした毛の感覚が、眠りに就いていたマジュカの意識を覚醒させた。

自身を襲うモフモフと、息ができない苦しい状況に、寝ていた体をガバッと起こした。


ゴホゴホっと激しく咳き込み、なんとか呼吸を整えたマジュカは、目に涙を浮かべながら顔を上げた。


「なに、今の。凄く気持ち良くて、凄く息苦しかった!」

「フッ。僕の身を挺したモフモフ攻撃だよ。氷冷雪花の魔女も、この僕のモフモフには勝てなかった様だね」


自信満々に答えるミーベルに、マジュカは怒りの視線を向ける。


「モフモフは良いけど、なんで口と鼻を塞ぐのよ!死ぬ所だったじゃない!」

「それがモフモフ攻撃の唯一の弱点だよ。体をくねらせているから、モフモフする場所を選べない」

「もう、ミーベルったら!私の心を癒すから、大人しくモフモフさせなさい!」

「ゲッ!嫌だよ。もう、してあげたでしょ」

「問答無用!」


マジュカはミーベルを捕まえると、その体に顔を埋める。

そして顔をグリグリと動かし始めた。


「嫌だぁ!もう止めてよ。僕の美しい毛並みがボロボロになっちゃう!」


嫌がるミーベルを、マジュカは絶対に離さない。

その代わり、顔から胸元へと移動させて抱き締めた。


「助けてくれて、ありがとう。ミーベル」


クスッと笑ったミーベルは、マジュカの顔を見上げた。


「お疲れ様、マジュカ」


体を伸ばしてマジュカのホッペをペロリと舐める。


二人は見つめ合い、そして笑い合った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ