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念の為、R15を指定しました。


特に話の内容的に問題は無いと思うのですが、戦闘シーンも出てくる予定なので保険で、となってます。

大きな木の根本に一人の少女が倒れていた。

豪華なパーティードレスに身を包んだ十六歳の少女の瞳は、何も映し出していない。


まだ残暑が続く季節の夜に、少女の体はカチンコチンに凍り付いていた。

流れ落ちたであろう涙でさえ、完全に凍り付いている。


そんな少女の元へ、一人の妙齢の女性が歩み寄った。


「精霊達の声が気になって来てみたら・・」


歩み寄った女性は、その場に膝をついた。

血の通わない青白い顔の少女。

女性が優しく触れた場所から、少女の体を凍らせていた氷が急速に溶けていく。

「ハァーッ」と深く息を吸い込み、少女は呼吸をし始めた。


真っ赤なルージュが際立つ唇を、女性はニコリと引き上げる。


「ようこそ、魔女の世界へ・・」




◇◆◇◆◇




カチュリナ王国の東の領土には深い深い森が広がっている。

そこは、(いにしえ)の時代より魔女が暮らしている森であった。


他国からの侵略は、森に踏み込んだと同時に終わりを告げる。

カチュリナ王国最大の戦力である。

しかし、魔女は森から出てこない。

彼女は世捨て人だからだ。

彼女が守るのは国ではなく、この太古の森だけなのだから。



大きな水晶玉の前に1匹の黒猫が座っている。

目を細めながらペロペロと右手を舐めていた黒猫は、水晶玉に映し出された人間達を見て動きを止めた。


左目はエメラルド、右目はゴールドの不思議な瞳をした黒猫は、ジッと映し出された人間の姿を見つめ続ける。


暫く水晶玉を見ていた黒猫は、顔を上げると部屋のドアの方を見た。

開かれたままのドアの向こう側からは、全く人の気配がしない。


手入れの行き届いたフサフサの長い毛を波立たせて立ち上がり、黒猫は歩き出した。


無造作に置かれた本や書類の束が積み重なり、足の踏み場もない机の上だが、慣れた足取りでピョンピョンと進んでいく。


軽い身のこなしで机から飛び降りた黒猫は、開いているドアから隣の部屋を覗き込んだ。


そこには沢山の書物や薬剤に囲まれたまま、床に座り込んで本を読んでいる1人の少女がいた。

まだ幼さの残る顔立ちの少女。

その藍色の瞳は、忙しなく上下に移動している。

水色のワンピースの上で、フワリと緩いウエーブのかかった亜麻色の長い髪が、風で静かに揺れた。


「マジュカ、お客さんだよ」

「今、手が離せないの。ミーベルが追い出しておいて」


パラッとページを捲るマジュカは、本に夢中だ。

その姿にミーベルは小さく溜息をつく。


「ねえ。部屋の掃除をするんじゃなかったっけ?」

「これが読み終わったらするわ」


絶対に掃除はしない。

ミーベルは確信を持っている。

先週から始めたこの部屋の掃除は、今でも床が見えないくらいだ。

片付けるどころか、日々物が増えているような気がする。

小言の一つも言いたくはなったが、今はそれどころでは無かった。


「ねえ。お客さんだってば」

「だから追い返しておいてって言ってるでしょ!」

「それがそうも行かなそうなんだよね」


チラリと水晶玉の方を見たミーベルに、マジュカが顔を上げた、その時だった。


「ちょっと、マジュカ!いつまで歩かせるのよ!疲れちゃったじゃない!」


水晶玉から1人の女性の声が響いてくる。

これは近くの村に住むルイサの声だ。


「ルイサじゃない。何で通してあげないのよ」

「ルイサだけじゃないんだよね」


踵を返したミーベルは、また水晶玉のある机へと戻って行く。

マジュカは本を置き、その後を追うと一緒に水晶玉を覗き込んだ。


最近また少し丸くなった肝っ玉母ちゃんのルイサが、空を見上げながら両手を腰に当てて怒っている。

そんなルイサの後ろには見慣れない数人の男達が立ち止まっていた。


フードの付いた茶色のマントを頭から被っているが、腰には剣の柄が見えており帯剣しているようだ。

身なりはキチンとしているようなので、野盗などではないだろうが、何故ルイサと一緒にいるのかが分からない。


「ほらね。これ、どうする?」

「このまま帰って欲しいけど、そうなるとルイサがねぇ・・」


マジュカは溜め息をこぼす。

歩き疲れたルイサをこのまま帰すと後が怖い。

仕方がないかとミーベルを見た。


「通してあげて」

「あいつらも?」

「仕方がないわよ。ルイサが連れてくるくらいだから、平気でしょ」


歩き出したマジュカは、家の外へと出て行った。

踏み出した古びた木製の階段がギシギシと音を立てながら軋む。


(この階段も、そのうち直さないと)


マジュカはまた一つ溜め息を零しながら、庭の向こうにある木で作られた柵を見つめる。

それと同時に薄っすらと大きな光の輪が現れ、その中からルイサが姿を現した。


「なんで直ぐに通してくれなかったのよ!」


ルイサは苛立ちを見せながら、簡素な庭のゲートの入り口から入ってくる。


「本を読んでいたのよ。だって、今日は来る日じゃ無かったでしょ?それに・・」


無言になったマジュカは、ルイサの後ろから来る男達に視線を移す。

その視線に気が付いたルイサが、笑顔で彼らを招き寄せた。


「聞いて驚きなさいよ、マジュカ。なんと、この国の第一王子様をお連れしたのよ!」


右手を広げて彼らを示したルイサに、マジュカは眉間に皺を寄せた。

ルイサの手を引き、体を寄せると小声で話し掛ける。


「何でそんなのを連れて来たのよ」

「だって、王子様なのよ?逆らったりしたら、村の人がどんな目に合うか分からないじゃない」

「だからって連れてくる事ないでしょ」

「仕方がないじゃない。案内役を用意しろって言われちゃったんだから」


小声で言い合いをする二人の前に、フードを脱ぎながら男達が歩み寄った。

背の高い鍛え抜かれた体をしている男達は、見るからに城の騎士だ。

そんな彼らの後ろから、背の低いフードを被った者が歩み出る。


被っていたフードを外すと、金色に輝く美しい髪がハラリと零れ落ちた。

深緑色の瞳の十歳くらいの男の子は、仕立ての良い服に身を包み、品の良さそうな大人しめの印象を与える顔をしていた。


(あら。結構可愛い顔をした王子様ね。まあ、話くらいは聞いてあげてもいいかしら)


マジュカが笑顔を見せようとした、その時だった。


「お前が東の森の魔女か。俺はカチュリナ王国、第一王子グレン・ローガル・フォディウスだ。お前を我が国の魔導師として迎え入れてやる。有り難く思え」


口を開いたと同時に高飛車でクソ生意気な子供へと変貌した王子に、マジュカは前言撤回をする。


「そろそろティータイムね。それじゃあ、御機嫌よう」


踵を返して家へと戻って行くマジュカに、グレンが目を丸くする。


「待て!俺を誰だと思っている。この国の王子だぞ!」


慌ててマジュカを呼び止めようとするが、マジュカの足は止まらない。


無言のままルイサと共に家の中へと入って行ってしまった。


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