第五話 監禁
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筒香という人が示した工場には、すぐに着いた。入り口の門には、何やらプレートのようなものが付いているが、先の鋭いものによって文字が読めなくなるほど傷つけられているので、読むことができない。
「ここ………だよな………?」
「はい、筒香という人物からの情報が正しければこの場所で間違いないです。何があるかわからないので慎重にお願いしますよ、颯大様」
「あぁ、わかってるよ」
門にあったプレートはひどい有様だったが、工場自体はきれいだった。大体建てられてから十年といったところだろうか。にもかかわらず、人は誰一人としていなかった。
門から少し進んだところの右側に、小さなドアがあった。詳しく調べたわけではないが、それ以外に入り口らしきものがないので、そこから入れば良さそうだ。
ドアノブに手を掛け、開けてみる。どうやら鍵はかかっていないようだ。中に入ってみると、内側は鍵が壊されていた。
そこは、一直線の廊下のようになっていて、その左右に一つずつ扉がある。しかし、左側の扉は大破していた。
「この工場………何があったんだ」
「颯大様、調べてみますか?」
「あぁ、頼むよ」
こういうときにMetisがいると凄い助かるな。
「GPS情報と、筒香という人物名から検索しました。まず、筒香という人物の詳細からお伝えします。本名は筒香雅樹、『TSUTSUGO Tech株式会社』の"元"社長です」
「元?」
「はい、この会社は二年前に倒産しています。そしてこの工場は、TSUTSUGO Techの工場です」
もしかしてお父さんの会社が倒産に追い込んだのだろうか。それで狙われているのか。
「ちなみに、その会社の製品ってもしかしてお父さんの会社のと似たものだったりするか?」
「えぇ、しかしSpiderRelationsの製品は生産者用の機会にAIを組み込むといったことを軸にしていますが、TSUTSUGO Techは機能面を最重視したものです」
しかし、使う場面が同じとなると競合するのは必然だよな。
「とりあえず、今は奥に進もう」
「わかりました。重ねていいますが、くれぐれも慎重にお願いします」
「分かってるよ」
さて、どっちの扉から行こうか。左側の扉を見ると、開けなくても中の様子を見ることができた。しかし、扉の目の前に壊れた農業用の大型の機械があり入れそうになかった。だから、右側の扉へ進むしかないようだ。
ドアノブに手を掛ける。入り口と同じように鍵は掛かっていなかった。中に入ると、さっきと同じ農業用の機械が左右に並んでいた。そして、その真ん中に男が一人立っていた。その男は、薬物でも吸っているかのように狂っている目をしていた。
「お前が筒香か」
「あぁ、そうだ。そしてお前は大槻颯大。だろう?SpiderRelationsの息子」
やはり筒香の会社はお父さんの会社に何かされたのだろう。
「愛梨を返してくれ」
「君はObedienceを連れてきたようだが、そんなものは俺のものに比べれば塵と同等の存在だよ」
無視か。
「颯大様、近くにObedienceを制御するための電波が飛んできていますが、姿を見ることができません。もっと高い性能があればよかったのですが、私にはこれが限界です。何が起こるかわかりませんので、気をつけてください」
Metisの話が本当なら、姿のないObedienceがここにいることになる。しかしそんなことはあり得ないはずだ。
「君のObedienceではそれが限界のようだね。市販のものは性能が低くて困るな。俺のようにもっと良いものを買わないとな」
「で、どうしたら愛梨を返してくれるんだ」
「うるさいな。そんなことはどうでも良いだろ。俺は今俺のObedienceの素晴らしさを伝えてあげようとしているのに」
「どうでも良いだと?俺にとって愛梨がどんな存在なのか、想像できるだろ!」
「話を聞いてくれればよかったものを。残念だよ、君はお父さんより優秀だと思ったんだがな。ガキはガキだったようだね」
話を聞いてるだけでイライラしてくるな。本当に薬物をやってるんじゃないだろうか。
「しょうがない。予定より早いが、やれ、Lily」
そういった瞬間、目の前に今にも殴ろうとしている黄緑色の妖精が現れた。一瞬の出来事に何が起こったのかがわからなかった。だが、その拳が当たるまでの約三秒間、必死に思考を巡らせた。
Obedienceはオーナー以外には原則触れないはずだから、殴られても通り抜けるだけのはずだ。しかし、今までの言い方だとそんな原則すらも破る奴なのかもしれない。
そこまで考えたところで、妖精の拳が左の頬に命中した。案の定痛かった。しかも、生身の人間に殴られるのに比べて十倍くらいの痛みだった。目の前がクラクラしてきた。やばい、気絶しちまう。
「颯大様、大丈夫ですか!」
離れてく意識の中で、Metisの声が聞こえた。あぁ、AIにまで心配されるなんて、俺はなんて間抜けなんだろう。
「Lily、そいつの………」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…に……ん、お兄ちゃん!」
どこだろう、ここは。
確か、愛梨が誘拐されて、その犯人の指示に従ったら………
あれ?その愛梨が目の前にいる。もしかして、ここは天国か?
「なあ、えり………」
「お兄ちゃん!起きた!」
だいぶ興奮気味だ。
「愛梨、聞いていいか」
「何?」
「俺は死んだのか?」
「何わけのわからないこと言ってるの。熱でもあるの?」
どうやらここは天国じゃないらしい。良かった。
「じゃあ、ここはどこだ?」
「知らない」
天国は否定しといてここがどこかは知らないのか。
とりあえず、俺は体を起こして周りを確認する。コンクリートでできた学校の教室くらいの大きさの部屋だった。筒香の工場の床と壁と同じだから、きっと同じ工場内だろう。扉もあるが、とても壊せるようには思えないような見た目をしている。
「そういえば、愛梨はいつからここにいるんだ」
「目が覚めたらお兄ちゃんが横に寝てた」
ということは、今まで気絶させられていたのだろうか。
とにかく、この状況をどうにかしなくてはいけないので、Metisを呼び出すか。
そう思い、左耳のあたりを触るが、あるべきはずのものがそこにはない。
PARSが奪われていた。
まあ、よく考えれば当然か。PARSは外部との連絡手段にもなるし、そりゃ奪われるだろう。
ここから脱出する手段があるわけではない。今はあったことを確認するべきだろう。
まず、筒香のObedienceだ。確かLilyと言ったか。Lilyは、Obedienceにはできないように設定されている『オーナー以外との接触』ができる。もしかしたら、タイミングよくエアガンで撃たれたということもないわけではないが、それは考えにくい。おそらくLilyはオーナー以外との接触が可能なObedienceだ。
しかし、そんな話は聞いたことがない。そんなことができれば、Obedienceは壁を通過することも一応はできるし、あの威力が出せるのだから、Obedienceによる暴行事件が横行することだろう。
「お兄ちゃん、そんな怖い顔してると、私まで不安になるよ」
愛梨が話しかけてくれた。このまま考え続けていたら抜け出せなくなりそうだった。
「あぁ、ごめん」
「それより、この状況、どうにかならないの?」
「そんなこと言われてもな………」
「ちょっと見ただけでしょ、もしかしたら何か落ちてるかもしれないじゃん」
そんな都合の良いことが………と思ったら、何かのMicroSDが落ちていた。小さすぎて気が付かなかった。
「なんなんだろ、このMicroSD?」
「調べてみる?」
MicroSDの中身を調べるって、生身の人間には無理だろ。
「できるわけ無いだろ」
「え?普通にPARS使えばいいじゃん」
………ぇ?
「PARS盗られたんじゃないのか?」
愛梨の左耳をよく見ると、PARSがしっかりと付いていた。
「え?お兄ちゃん盗られたの?まあいいや。私が調べれば良いね」
愛梨が調べたところでわからないことだらけじゃないのかと思うのだが。
「えっと、確か『電子機器調査』の項目だよね」
「あぁ、そうだ」
「あ、出てきた。って、これ、FYOPの知能モデルが入ってるって」
知能モデルが入ったSDカード。しかし何故そんなものがここに。
「ちょっと愛梨のPARSに入れてみてくれないか?」
「えぇー、やだよ。タマチャンと別れるなんて」
タマチャンって………あぁ、愛梨のObedienceか。
「しかし、愛梨の以外にPARSなんてないだろ」
「もっとよく探したらあるかもしれないじゃん」
そんなことを言われたって、そもそも探す場所自体そんなに多いわけじゃないのに。
「ほら、ポケットの中とか」
「そんなんだったらとっくに………って、あった」
俺のPARSとは色が違うので、俺のものではない。こんなものいつポケットに入れたんだ。
「お兄ちゃん、もっとよく確認しないとだめじゃん」
「まさかポケットの中にあるとは思わないだろ。えっと、このPARSは………MicroSDが空だ。とりあえずそれかしてくれ」
「はいよ」
愛梨から拾ったMicroSDを受け取り、PARSに差し込む。そして、左耳に掛ける。
そして、手慣れた手つきでObedienceを呼び出す。流石に初期設定は多少時間がかかったが、殆どは自動なのでそこまでではなかった。
その、初期設定のときに見たのだが、どうやらこれは『Strategy Model』というらしい。英語の意味もわからないし、聞いたこともない。
とりあえず、呼び出してみると、火の妖精といった感じの小柄な女の子が出てきた。
「初めまして、新たなオーナー」
「颯大でいいよ」
「わかりました。颯大様」
ここは、Metisでも同じだった。
「お兄ちゃん、このObedienceは何?」
「知らないよ。今ここで拾ったものだぞ」
「私は、Strategy ModelのObedienceです。私にはまだ名前がありません。名付けてください、颯大様」
そうか。名付けがあったか。これがちょうどいいかな。
「よし、Hestia。君の名前はHestiaだ。いきなりで悪いが、俺達がこの部屋から出る方法を考えてくれないか?」
「そんなに上手く行くものかな?」
「わかりました。では、あの扉を壊してもよろしいですか」
「できるのか?まあやってみてくれ」
「無理じゃないの?Obedenceってオーナー以外に触れないんでしょ」
愛梨がそう言い終わるのと同時、HestiaはLily同様拳を振るい、いとも簡単に扉を壊した。
もしかして、筒香もこのモデルなのか。
「すごい。Obedienceって、こんなこともできるんだね」
「Hestiaが特別なんだと思うけどな。さあ、扉もなくなったし、部屋を出るぞ」