第三話 講義
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昨日と同じ病室のドアの前に俺は立っている。
あの後お父さんから、『明日は午後の一時半に来てくれ』とメールが来た。きっとこの時間に俺と会わせたいという人も来るのだろう。
左腕につけた腕時計を見ると、一時二十五分を指していた。約束の五分前、ちょうどいい時間帯だ。
俺は病室のドアを開けた。
「こんにちは。君が大槻颯大君かい?」
お父さんの病室の中には二人の男性がいた。変に緊張してしまうからできればお父さんだけが良かった。一人はもちろんベッドの上にいるお父さん、もう一人は俺の知らない人だ。しかし、どこかで見たような気がする顔だ。
「えぇ、そうですけど。お父さんこの人は誰ですか?」
どこかで見たような気がするのに思い出せない。そこまで重要じゃないと思ったか、機会が少ないか、デジャブかのどれかだろう。いやデジャヴはないか。
「あぁ、この人は『SpiderRelations』と共同開発をさせてもらっている『Pionea』という会社の社長の稲留弘典だ」
稲留弘典、Pionea……あっ!PARSを開発する会社だ。見覚えがあると思ったのもインタビューとかで見たからか。お父さん凄い知り合いがいるんだな。さすが大企業社長と言ったところだな。
「初めまして。君のことは智社長から聞いていてね、今時珍しい人だと思って、会えればと思っていたよ」
「いえ、俺はそんなに凄い人ではありませんよ」
お父さんもしかして親バカなのかな。普通息子の話とか人前でしないと思うのだが。
「挨拶は早々に、本題に入るとしよう。まず、颯太君は工学に興味があると私は聞いている。その中には私の会社の開発するAR関連の技術も含まれる。合っているかな?」
「えぇ、合っていますよ。といってもほとんどが独学でそこまで広く知識を持っているわけではありませんよ。まあ、一番はAR関連です」
「智社長の話が本当で良かったよ」
「私は嘘を話したつもりはないよ。まあ、愛息子の話だから無意識に誇張はしていたかもしれないがな」
おい、今しれっと大変なこと言った気がするんだが。というか愛息子とか言うなら家に帰ってくればいいのに。
「颯大君、これから話すことの目的は、私の後継者となる人を作るためだ」
後継者、どういう意味だろう。俺はPionea社に入る予定はないし、もちろん社長になるなんてことは考えたこともない。
「弘典君、颯大は私の息子だぞ」
「分かっていますよ。後継者というのは、跡継ぎという意味ではありません。科学の発展に従事する人という意味での後継者ですよ」
つまり、研究者としての俺への将来への期待と取って良いのだろうか。
「いずれは、私も死ぬときが来るんだよ。そのときに、私の技術が将来有望な若いものに引き継がれていたら後悔なく死ぬことができるというものだ。生憎私には息子どころか妻すらもいないものでね、その技術を引き継ぐ若い記憶媒体が存在しないのだよ。颯大君にはピッタリだと思ってね。それに颯大くんも私の技術を知ることができる。悪い話ではないだろう」
「まっ、そういうことだ。どうだ、颯大。颯大には私の会社を継いでもらいたいものだが、やはり好きこそものの上手なれというしな。好きなことをやってもらったほうが良いだろう。話だけでも聞いて欲しい」
もちろんすごく興味がある。俺が必死に理解しようとしてできなかったPARSの仕組みについて知ることができるかもしれないチャンスだからだ。しかし、ここで話を聞いた時点で「将来のPionea社の社長」が確定するなんてことにならないだろうか。
「そんなに悩まなくたって良いんだよ。別に取って喰おうってわけじゃない。私の質問に答えるだけでいいんだよ」
とりあえず話は聞いてみるか。
「わかりました。良いでしょう」
「良い返事が聞けて嬉しいですよ、颯大君。しかし悩みすぎるのは君の欠点ではないのかな。私にはそんな気がするよ。将来どんな職に就くにしても直したほうが良い」
まるで剣先で突かれたような気分だ。
「とりあえず話を始めよう。颯大君は、FYOPについてどう思う」
「どうって言われても、ただそこにあるだけですよ」
「聞き方が悪かったかな。Obedienceと人間の関わりについて、というのはどうかな」
人間とObedienceの関わり、なんて考えたこともなかったな。難しい題材だ。Obedienceは、コミュニケーションは取ることができるが、完全ではない。そこを考えると、物として思ってしまう。が、世の中には恋人のように扱う人もいると聞いたことがある。
「人それぞれだと思いますけど、俺は使い方こそ道具と同じかもしれませんが、人間に持つのと同じような感情をObedienceに持っているのは確かです」
「やはり君は珍しい人だね。日本の殆どの人は会話ができる道具止まりだよ」
「ひどい考え方をしますね」
「なぜ人々はこのような捉え方をするのか、私は考えたんだ。しかし、たどり着いた答えは単純なものだった。それは、『AIには魂がない』もちろんこれが正しいとは言わない。しかし、的を射た答えではないかな」
魂がない。それは、当たり前の事だ。AI、Obedienceは機械であって生き物ではないからだ。
「俺もそう思いますよ。というか、そこら辺に歩いてる人に聞いても同意するんじゃないですか」
「あぁ、そうだろう。しかし、本当に魂はないと、颯大君は言い切れるのかな」
「どういうことです?」
「意識というものは、主観的なものであって、客観的になることはありえない。つまり、私は目の前にいる人間に魂、つまり意識があるのかは証明ができないということだよ」
他人に魂があることを証明する。こんなことは不可能だ。そのくらい勉強不足の俺にもわかる。
「つまり、AIに魂がないのを証明するのも無理ということになる」
たしかにそう言うことはできるが、現実的ではない。
「そう考えると、AIをただの喋る道具だなんて思えないだろう」
しかし、おかしなところはある。
「でも、そう考えると人の作ったものすべてに魂があるとも言えますよね。人工物というカテゴリーはどうやっても覆せないものではないのですか」
「颯大君は鋭いね。しかし大事なのは魂があるかないかではないんだよ。魂があると思えるかなんだよ」
「つまり、魂があると思えれば道具ではなくなるということですね」
「そういうことだ。理解が早い、さすが智社長の息子さんだ」
「でも、なんで今そんな話なんてするんですか」
AIに魂があるかどうかなんて、俺の求めていた話ではない。
「この話は、私が講演をするときにも必ずする話だ。AIに魂があるかどうかというのは、AIの人権を認めるかという話にも繋がる。これは二十年前頃から議論されている話題だ。颯大君ももちろん知っているだろう?」
「えぇ、知っていますよ。自動運転車とかの話ですよね」
「そうだ。自動運転車は、結局は事故が起きたときには持ち主が責任を取ることになったが、それが完全に人間と同じ感情を持てるとなると、違うものになると思うんだ。自動運転車には魂がないのは分かるともうが、人間と同じ行動、表情をすると魂があってもおかしくないと思うはずだ。それが認められると、AIが起こした事故はAIが責任を取ることになる」
たしかにそのとおりだと思う。人間と同じレベルになった人型のAIは、人間と同じだと思っても仕方がない。しかし責任を取れるかというと違う気がする。もしそのAIが何かのはずみで記憶を全消去でもされたら、責任を取るべきAIはいなくなってしまう。責任は人間が取るべきものだろう。
「さて、ここまで話を聞いて、颯大君は、AIに魂があると認めるか、それとも認めないか、どちらだと思う?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ただいまー」
「お帰り、お兄ちゃん。どんな話だった?」
「興味深い話だったよ」
もしあの話がAIを学ぶ上での基本だとしたら、研究者たちはものすごい悩んだんだろうな。
「AIに魂があるかどうか、っていう話だったんだ」
「えぇー、なんか難しそう」
「やっぱりそう思うだろ、凄い難しい話だったよ」
「で、その人は誰だったの?」
「Pionea社の稲留社長だよ」
「Pionea社……って何?」
まさか愛梨は超有名企業の名前も知らないのか。自分の使ってるものを作った会社なのに
「ほら、PARSを作った会社だよ」
「あぁ、って、えぇー!めちゃくちゃすごい人じゃん!」
「うん、だからちょっと緊張しちゃった」
もしあの話が基本だとすると、その後には色々と続くはずだ。ということは俺はまだ何回か稲留社長に会うことになるのだろうか。そうだとしたらもっと知識をつけておいたほうが良いかもしれないな。
今回は用語解説はありません。
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それでは、 See you again