第二話 愛と嘘
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西暦二〇四〇年十二月十四日の午前十一時頃
「計画通りに頼むぞ。計画外のことがあったら対応してくれ」
『わかっていますよ、オーナー』
男は工場を爆破したときと同様に高級マンションにある自室にいた。
そのときにいた黄緑色の妖精は、今はその部屋にはいない。
その姿は、男が覗き込んでいる画面の中にあった。
工場の付近の防犯カメラからの映像である。
そこには、男が爆破した工場と、その入口付近の道路で丸くなって話をしているスーツ姿の大人たちが十名ほど映っている。
その大人たちの中心付近に、その妖精は浮遊していた。絶対に気づくはずの位置にいるのに、大人たちはその妖精の姿に気がついていない。
「あぁ、音が聞こえないのだけが残念だな」
『オーナー、カメラの位置ではなく、私の位置に届いている音なら聞くことができますよ』
「そんなこともできるのか。それならもっと早く教えてほしかったな」
『わかりました。今後の対応に活かさせていただきます』
「そうしてくれると助かるよ」
『では、音声の送信を開始します』
送られてきた音声は、男の様子を豹変させた。
『大槻社長、何か対策案って思いついてます?』
『ここの工場の再建設が終わるまでは他の工場で賄うしかないよ。社長である私がこんなで申し訳ないね』
『いえ、ご謙遜なさらず、大槻社長』
『なるべく早く対策を打てるように努力するよ。そのためにも、君たちも助けを惜しまないでくれ』
その後も会話が続いたが、男はすでに興奮状態となっていて、聞こえていないようだった。
「どうしてお前という男はそんなにも諦めが悪いんだ。おかげで俺の復讐が面白くなってしまう!」
男は発狂しかけている。もしこの光景を見るものがいたら、必ずそう思うだろう。
「工場を破壊された時点で社長を辞めるべきだったと、後悔させてやる!」
男は不気味に笑った。しかし、次に男の口から放たれた声は、恐ろしくか細いものだった。
「やれ、Lily」
『はい、オーナー』
男の言葉に肯定の意を返した妖精は、大人たちに「大槻社長」と呼ばれてた男の額をめがけて小さな拳を振るった。
不意を打たれたために、「大槻社長」はそのまま後ろに倒れ込み、硬いアスファルトに後頭部を打った。
何が起こったのかを瞬時に理解できた者は、大人たちの中には当然ながらいなかった。
しかし、その大人たちは優秀であった。
「大槻社長」が倒れてから五秒ほどで、大人たちの一人が、
「きゅ、救急車をよばないと!」
と言い出し、周りの大人もそれに賛同し、各々行動を始める。しかし、焦っているのはその表情を見れば明らかだ。
その表情を見て、男は満足したようだった。
「この復讐は、まだまだ序章だぜ、智っ!」
男は歯を剥き出しにして、そう叫んだのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
耳元で目覚まし時計がうるさくなっている。
頭では起きる時間だと分かってはいるのだが、昨日は夜遅くまで事故について調べていたので体を起こすのが億劫になる。
それでもなんとか体を起こし、目覚まし時計を止め、ベッドから出る。
目覚まし時計を見ると、十二月十五日土曜日の七時三十分だった。
結局、昨日は必死になって調べたものの何の成果もなかった。一昨日もそうだった。やはり警視庁が情報を公開するのを待つのが一番良いのだろう。
そんなことを思いながら、リビングに向かった。
リビングには、既に朝食を食べ始めていた愛梨が食卓に座っていた。
その朝食は、日本の朝食の平均値のような朝食だった。
俺は、食卓の愛梨の正面の位置に座り、小さくい「いただきます」と手を合わせて言った。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよ愛梨」
「お兄ちゃん昨日から眠そうだね。何かあったの?」
「あぁ、お父さんの工場の事故について調べていたんだよ」
「何かわかったの?」
「いや全く」
「えぇ、なんにもわかんなかったの?すごく眠くなるまで調べたんじゃないの?」
「Obedienceも見逃すような掲示板みたいなところにもしかしたら近くの住民の情報があるかもしれないと思ったんだけど、結局は警視庁の情報くらいしかインターネット上にはなかった」
「そうだったんだ。それだったらもっと早く諦めてればよかったのに」
そう言われたら返す言葉がない。自分でもなんでこんなにも熱心に調べようと思ったのかがわからない。
「どうせ事故なんだからそんなに調べなくても良いのに」
「それが、警視庁によると事件の可能性もあるらしいんだよ」
「事故でも事件でもどっちでもいいじゃん。警察がどうにかしてくれるよ」
「ま、そうなるよな」
結局は警察に任せるしかないのが、辛いところだ。しかし、今は捜査の技術も上がっているのでどんな事件でも解決までにそこまで時間がかからないんだが、三日経っても追加の情報がないというのはあるのだろうか。その辺はあまり詳しくないが、ニュースを見る限りは大体の事件は犯人逮捕まで二日以内に終わっている。
「そんなことよりも、お兄ちゃん今年のクリスマス何する?」
いきなり話を変えてきやがった。しかも結構痛い話題だ。
「どうせお兄ちゃんクリスマス一緒に過ごすような人いないんでしょ?」
「まだ高校生だから良いんだよ」
「そういうのじゃなくって、その性格だと将来お嫁さんになりたいって人が……」
そこまで言いかけたところで、愛梨のPARSが反応した。メールが届いた合図だ。
「助かった……」
「ん、なんか言った?あ、このメールお父さんからだ。お兄ちゃんにも届いてるんじゃない?」
そう言われて、俺も左耳のPARSに触れてPARS MENUを開くと、《新着メール一件》と書かれていた。
「ほんとだ。えっと、『昨日道路で派手に転んで、今入院中だけど保険証とかなかったから持って来て欲しい』だって」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
午後三時頃、俺達は病院に向かった。
「お父さん、大丈夫!」
愛梨が叫びながら病室に入った。
俺も後に続いて病室に入る。その病室は、一人部屋で、とても広く、いろいろな設備がある。さすが大企業の社長である。
病室にいるお父さんはObedienceと思われる青い小鳥と戯れていた。
「こら、病院では静かにしていないとだめだぞ、愛梨」
「そんなこと言ったって、心配なのは変わんないよ」
愛梨はお父さんを心配しているようだ。前の電話ではお父さんにムカついているとか言ってたけど、なんだかんだお父さんのことが好きなんだな。中学生相応といえるのかな。
「そんなことよりお父さん、転んで入院なんてよほど激しい転び方したんだね」
俺はそう話しかけた。殆どの場合多少転んだくらいだったら入院なんてしないはずだ。
「あぁ、頭から転んでしまってね。それより、メールした物は持ってきてくれたかい?」
俺は鞄から保険証を取り出した。
「はい、これで大丈夫?」
「あぁ、ありがとう」
「それより、この小鳥ってお父さんのObedience?初めて見たな」
「うん、私も見たことない」
「まぁそんなに人に見せるものでもないしな。そういえば僕も君たちのObedienceを見たことがないな。機会があればぜひ見せてほしいよ」
「もちろん」
俺と愛梨は頷いた。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。今日はもう帰ってもらっていいよ」
お父さんがそう言うと、愛梨は不満そうに言った。
「えー、今来たばっかりなのにぃ」
「悪いとは思っているよ。しかし、ここに居たって特にやることがあるわけではないだろう」
「むぅ。だったらもっと家に帰ってきなさいよ」
「考えさせてもらうよ」
お父さんは苦笑いしながら答えた。
「そうだ、颯大、明日予定はあるか?」
「うん?特にないけど」
いきなり明日の予定を聞いてくるなんてなんだろうか。
剥き出しにして、そう叫んだのだった。
「颯大は確かPARSについて調べていたね。明日、そんな颯大にはピッタリな人がここに来るんだ。良ければ会ってもらおうかと思ったんだ」
PARSに関係する人とは誰だろうか。PARS開発の関係者の誰かだろうか。
「分かった。明日またこの病室に来れば良いんだね」
「えー、お兄ちゃんだけずるい!私も行く!」
「多分愛梨には退屈な話になると思うよ。それでも来るかい?」
「ならいいや」
愛梨は諦めたようだ。
「じゃあね、お父さん。正月は帰ってきなさいよ」
「さようなら、お父さん」
俺達は、病室のドアへと向かって行った。
振り返ると、手を振るお父さんと、その方の上に乗るObedienceの小鳥が笑顔でこちらを見つめていた。その小鳥の表情は、AIが作り出し、ARによって見せられている幻覚とは思えないほどリアルなものだった。
明日お父さんの元へ来る人が、この幻覚を作り出した人かもしれないと思うと今からでも楽しみになってくる。
用語解説
知能モデル
これは、Obedienceの行動や見た目を大まかに決めるものです。例えば、颯大のObedienceであるMetisは、Interegence Modelは、頭の良い、とても小さな子供の見た目をしたモデルです。このモデルだと、ネット検索や計算などを瞬時に行い、オーナーに伝えることができます。
ちなみに、愛梨とお父さんはどちらもPet Modelです。犬や猫、小鳥の他に、小さいドラゴンもあります。
他にも色々な知能モデルがあります。
それでは、次回もお楽しみに。 See you again