作戦決行
「──ねぇ、似合う?」
そう言って、ドレスを纏った彼はくるりと回って見せる。疑問形で聞きつつも「似合わない」とは言わせないとばかりに胸を張った相手に、執務机で頬杖を付いた少年が「あぁ」と余り関心が無さそうに合槌を打った。
「あのさぁ、俺が此処までしてるんだよ?休憩時間まで潰して」
返答が気に入らなかったらしい彼はじとっと己に関心のない少年を見やる。
美しく着飾ることは、令嬢なら日常のこと。ドレス一着、アクセサリーの類を含めれば選ぶのに半日を費やすとも聞く。彼自身がそれほどの時間を掛けて着飾った訳ではないが、それでも可憐なドレスを纏って化粧を施した彼は何処から見ても良家の姫君だった。
それなのに眼前の少年は、彼も忙しい中、命令通りに女装し、他の令嬢に引けを取らない程度には着飾ったと言うのに「似合う」の一言もない。これで怒るなと言う方が無理だ。
しかし、気乗りしなそうな少年からすれば、彼が年頃の少女に見えればドレスでも平服でも構わないのでわざわざ何処かの姫君のように時間を掛けて衣装を選んで貰う必要はなかった。時間がないというならば、合理的な服装を選んでくれればいいのだ。……これで責められるのは理不尽だろう。
それに加えてこの案件を任せるならば彼だろうと発案したのは他の人間であって、少年は同意したに過ぎない。責められるのはお門違いだ。しかし、このままでは話が進まない。
「……似合うよ。良家の令嬢と変わらない位にね」
「お前、今のままじゃ女性は口説けないね」
返答が気に食わないらしく、肩を竦めた女装男子はそう言うと少し真面目な顔をする。
「それで俺に女装させた理由は?」
「理由も聞かずに着たのか?」
「うん、聞いてない」
大きく首肯する相手に、少年は思わず額に手を当てて項垂れる。同じ年頃の少年としては、理由も知らずに女装する度胸に感心するべきなのか、彼の好奇心は別の道で使えと言うべきなのか判断に迷う。いや、これは後者であるべきか、と結論付けるが、その前に目の前の彼が口を開く。
「まぁ、大凡の見当はついていたからだけど。俺が動くってことは、奴らを見つけたの?」
「そういうことだ。始めるぞ、殲滅作戦」
少年が命じれば、彼は可憐な格好に不似合いな、けれど彼の性格を明確にする小生意気そうな笑みで応じた。
さぁ、始めようじゃないか。君達は好き勝手にやっているようだけど、これ以上は赦さないよ。首を洗って待っているがいい。