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同級生

作者: 黒宮杳騏

あの頃の私は、毎日のように教室の隅で昼食のパンを賭けた麻雀に興じている彼を「眼鏡で不気味な奴」、としか思っていなかった。

どうやら中学受験に失敗したらしい、という噂を聞いたが、特に目立つ事もなく、だがやはり何か未練のようなものがあるのだろうか、彼が纏う雰囲気はどこか陰湿だった。

まあ、特に彼との接点がない私には、彼がどういう人間なのか、詳細は全く分からなかったけれど。


あれから随分と年月が経って、私はありきたりな人生を送って主婦になり、そしてどういう訳か、何となくつけっぱなしのテレビで彼の名前を見かけるようになった。

私が知らないうちに、随分と彼は出世したようだ。

普通なら「有名人と同級生だった」なんて事は自慢話になるかも知れないが、私は周囲には彼と同級生だったという事は伏せている。

理由は、別に彼と仲が良かった訳でもないという事と、彼が公表している年齢は実年齢より二歳程逆サバを読んでいる、という事だ。

彼と同級生だ、と言うと、私の実年齢ではなく、逆サバを読んだ彼の年齢になってしまう。

だから私は、「彼が詐称した年齢」だと思われたくないので、彼がプロフィールを正しいものに戻した今も黙っている。


「この人さぁ、一体どんだけ稼いでんだろーね?」

テレビを見ていた娘が、何の気なしにぼそりと呟いた。

勿論、娘は私と彼が同級生だった事を知っているし、実際に卒業アルバムも見ている。

その時の娘の感想は「うわ、本当にいるー。今と顔ほとんど変わってないなー」というものだったが、「私が同級生だった」という事は、彼が年齢詐称をしていたので、決して周囲に喋らないよう、娘が小学生の頃からきつく口止めをしておいた。

「昔から何考えてるのか分からない感じだったけどねぇ・・・」

「ふーん・・・」

興味が失せたのか、娘は生返事をしてチャンネルを変えていく。

「でも年齢はもう修正したんでしょ?」

「どうだろう・・・知らないけど」

「えー、もうそんな若く無いんだし、逆サバ読む必要無いじゃん?お母さん何年生まれだっけ?」

そう言うと、娘はテーブルの上に無造作に置いていたスマホを手に取り、検索画面を立ち上げた。

私が生まれ年を告げると、娘は「うーん・・・ちょっと待って」と検索結果を読み始め、「・・・あったよ、今はもう逆サバ読んでないみたい」と私に教えてくれた。

だからと言って娘が周囲に言う事ももう無いだろうから、今度は私が「ふーん・・・」と言っていた。

娘同様、私も彼についてはあまり興味が無いので、この話はこれで終わるかと思いきや、ふと娘が見ていたアニメを思い出し、「絶対天国には行けないよな・・・」とつい口に出してしまったら、それを聞いた娘が「何それー」と笑いながらスマホをテーブルに伏せて、今度こそ彼の話は終わった。

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