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精霊伝説  作者: 白祇
1/1

〈Legand.1 「4人の精霊」〉

昔噺をしよう。『むかーしむかし、正確には今から約千年前。この世界には精霊と人間が共に暮らす時代があった。精霊は、火、水、風、木の4つのいずれかの能力を持ち互いの生活を支えていた。しかし、その能力を金儲けに利用しようと企む者が現れ始めた。その標的となったのがまだ能力値の低い精霊の子供達だった。誘拐された精霊の子供達は世界各地に売られ奴隷の様に扱われた。中には過労や能力の使い過ぎで命を落とす者もいた。

(この事件は後に“精霊狩り”と名付けられ現在では禁戒行為と義務付けられている)

この事件によって、大切な家族を失くした精霊達は、哀惜と憎しみに耐えきれず、人間共に宣戦布告をしたのだ。こうして、2つの一族の間にできた亀裂によって戦争となり、圧倒的に有利だった筈の精霊一族だったが、ある一族の思い掛けない裏切りにより、瞬く間に人間に国を占領され、遂に絶滅したのである。』

…いや、昔噺ではそう記し遺されているが、千年以上経った現在も、精霊狩りに

遭いながら僅かに生き残った精霊達は何処かに身を潜めて暮らしているのである。


〈Legand.1 「4人の精霊」〉


此処は緑深い“アラクの森”。この森にはこの世界では珍しい植物や、得体の知れない生物が数多く生息している“幻の森”である。その為、人は恐れて近付こうとしなかった。そんな森の奥に一軒の二階建ての木造の山小屋があった。その家の屋根の上に1人の赤髪の少年が木々の隙間から差し込む木漏れ日に照らされながら昼寝していた。少年の耳には、爽やかなそよ風と小鳥の囀りだけが聞こえていた。すると

「紅夜~!ごはんですよー!」

家の中から少年を呼ぶ声がした。その声に目を覚ました少年、紅夜(コウヤ)は身動きとらないままクンクンと鼻を鳴らした。すると食欲を注ぐ香ばしい匂いが漂ってきた。

「紅夜~?ごはん冷めちゃいますよー」

「分かった!今行く!!」

紅夜は、再度呼びかける声にようやく返事をすると、勢いよく跳ね起き、ひょいっと屋根の上から飛び降りた。木のドアを開けると香ばしい匂いは更に増し、紅夜を呼んでいた声の主の少年が立っていた。

名前は蒼夜(アオヤ)。紅夜の3つ上の兄である。蒼夜はキッチンでせっせと作ったばかりの料理を盛り付けていた。そして紅夜が来たことに気付くと、振り返って「おかえりなさい!紅夜」と、笑顔で告げた。それに対して紅夜は照れ臭そうに「ん。」と、相槌を打った。目の前には蒼夜特製の豪勢な料理が湯気を立てていた。

「わーアオ兄の料理はいつ見ても美味そうだよな~」

「そうですか?まぁ、毎日腕に縒りを掛けてますからね!!あ、勿論愛情も忘れてませんから味にも自信がありますよ!(ドヤッ)」

「あぁ、知ってる。」

「!…フフ」

紅夜が当たり前の様に言うと言うと蒼夜は嬉しそうに笑った。

「てか、これもう運んでいいのか?」

「あ、はいっお願いします!」

「了解っと~あれ?そいやあいつらは?」

「えーと、そろそろ降りてくると思いますよ」

言い忘れていたが、この家には2人の他に共に暮らす者がいる。

おっと、噂をすれば、2階からドタバタと慌ただしい足音が降りてきた。

「おい!バカ紅夜!!帰ってんなら言えよな!待ち草臥(くたび)れちまっただろーがっ」

(ムカ)

「おかえり、コウ」

「…ただいま。」

現れたのは生意気な少年と見るからにのんびりとした少年だった。

前者は颯宇(ソウ)、後者は呉葉(クレハ)という。2人共、年齢的に紅夜と同じくらいの年頃である。

紅夜は颯宇の第一声に苛立ちを覚えた。

「うっせぇよ颯宇!文句言う前に手伝えよな!この我儘チビ助!」

「なっんだとー!?」

紅夜が吐き棄てた暴言に颯宇はカッと顔を赤くした。紅夜はそんな颯宇にベーっと舌を出して揶揄(からか)った。

(またはじまった、2人のケンカ…もう見飽きちゃった…)

言い争う2人を見て呉葉はうんざりして、蒼夜の手伝いに向かった。

「俺はチビじゃねえ!!大体っ呉葉の方が俺よりチビだろーが!!」

(ガーン)←聞こえた

「ハンッそーゆーんじゃなくて、お前は心の器がちっせーってこった!!!www」

「んにゃろー!表出ろやこんの脳筋ヤロー!!!」

「上等だコラー!!丸焦の火達磨にしてくれr」

「やめなさい!!」

「「!!!」」(ギクッ)

すると後ろから2人の言い争う声に気付いた蒼夜が一声上げた。すると2人はハッと我に返り、辺りは一瞬で静まり返った。

「もう2人共、食事前に喧嘩しないで下さいよ~埃が立っちゃいますよ~?」

「アオ、そういう問題じゃない。」

蒼夜の言葉に呉葉が冷静に言った。

(ていうか、ぼくの悪口聞こえたんだけど…)

呉葉は颯宇が言った言葉に若干不機嫌になり頬をぷぷーと膨らませた。

そんな呉葉に気づかず、紅夜と颯宇はフンッと顔をそらし、各々自分の椅子に座った。それを見た蒼夜と呉葉はやれやれと肩を小さく落とし、皿に料理を人数分ついで配ると、静かに椅子に腰を下ろした。

「それでは、頂きますか」

蒼夜の声を合図に4人は、一斉に手を動かし始めた。その料理はどれも頬が落っこちそうな程美味である。暫く黙々と食を進めていると、呉葉の頭に止まっていた蝶が僅かに羽音を鳴らした。同時に呉葉の手がぴたりと止まる。

「…また、“同じ夢”を見たの?コウ…」

「!…え?」

思い掛けない訊いに、今度は紅夜の手が止まり、匙から掬いあげたおかずが零れ落ちた。それと入れ換わる様に呉葉は何事も無かったかの様に再び匙を口へ運んだ。紅夜は驚きのあまり目を見開き、口をポカーンとさせていた。

「な…なんで知ってんだ?」

やっと言葉を発した紅夜が呉葉に訊ねた。呉葉はその訊いに短く応えた。

「だって、表情(カオ)に書いてあるから。」

(なんだよそれ!!汗)

紅夜は呉葉の返答に困惑した。

「“同じ夢”ってなんですか?」

話の見えない蒼夜は、不思議そうに首を傾げた。颯宇もおかずを口に運び終えると紅夜の方を見る。問い詰められた紅夜は徐に口を開けた。

「そ、それは…」

言いかけたその時、呉葉の頭に止まっていた蝶の羽音が再び揺れ、呉葉が何かを察知したのと同時に大きな爆発音が地面が振動させた。

「なっなんだ?!」

「地震ですか?!」

「いや、この感じは…“爆音”だ!森の中で何かが起こってる!!」

「「え!?」」

颯宇の言葉に紅夜と蒼夜は同時に顔色を変えた。

「“何か”ってなんだよ?!」

「俺が知るかよ!!」

「とにかく、行ってみましょう!!」

「あぁ!!」

蒼夜の言葉に2人は頷いて立ち上がり、外に向かった。しかしその時、急に呉葉が体の力が抜けたように膝をついてその場に蹲った。

「おいっ呉葉どうした?!」

呉葉の異変に気付いた颯宇が踵を返し呉葉の傍に駆け寄る。それを見た紅夜と蒼夜も慌てて駆け戻り背後から声をかけた。

「颯宇!どうしたんですか?!」

「分かんねぇ…けど呉葉の様子が…!」

「! 呉葉!!」

蒼夜は呉葉の肩を寄せて体を支えた。呉葉の顔色は酷く、何かに怯えた様子だった。

「どうしたんですか!?呉葉何処か痛いところでも…」

蒼夜の言葉に呉葉は震えながら小さく首を横に振り、動揺した声で言った。

「あっあいつらが…あいつらが来たっ…!」

「えっ…」(“あいつら”って…!! まさか?!)

呉葉の尋常じゃない様子に紅夜は何かを悟った様に顔つきを変えた。

「こ、紅夜…?」

紅夜の鋭い目つきの変化に気づいた蒼夜は心配そうに名前を呼んだ。すると紅夜は背を向け蒼夜に告げた。

「アオ兄は呉葉を頼む」

「え?」

「オレ、ちょっくら森の様子見てくる!!」

「な!?ちょっ…紅夜?!」

「俺も行く!!」

「あ!颯宇まで?!」

真っ先に飛び出していく紅夜の後を颯宇も続いて追いかけるように走っていった。

「待ってください2人共!危険です!紅夜!!颯宇!!」

蒼夜は必死に2人を呼び止めようとするが、その声は既に2人には届いていなかった。直後、呉葉は崩れ落ちるように意識を失った。蒼夜は反射席的になんとか呉葉の体を受け止めた。

「あわわ!?呉葉まで?!しっかりして下さい!!呉葉!!」

蒼夜は何度も呉葉の名前を叫んだが、返事は全く返ってこなかった。


その頃、森に出た紅夜と颯宇は、大地が響く音源地へ向かっていた。

「先行く!」

「あぁ!」

途中、紅夜の後ろを走っていた颯宇が紅夜の前方に出て、あっと言う間に姿を消した。

「ったく、相っ変わらずムカつく能力だな!!」

紅夜も颯宇に追いつこうと森の木々の枝を伝ってその後を追う。暫く行くと前方に颯宇の静止した背中が見えた。紅夜は不思議そうに思って、颯宇の横で立ち止まって訊ねた。

「颯宇?おい、どうし…!?…んだよ、これ…」

紅夜は目の前の赤い光景に気付くと絶句した。2人の視線の先には勢いよく燃え盛る火の海が広がっていたのだ。

「森がっ…一体どうして?!」

「分からない…けど、さっき来るとき森に残っていた匂いは“奴ら”じゃない…」

(ってことはやっぱり呉葉が言ってた“あいつら”って…)

「クッソ!!」

「!」

その時、紅夜の思考を遮るように颯宇が声を発した。

「なんでだ?!…なんで俺たちがこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ!!俺たちが

一体、何をしたってんだ…!!」

颯宇は悔しそうに木の幹に拳をぶつけ、唇を噛み締めた。紅夜は暫く何も言わなかったが、同じ気持ちだった。そして瞳を閉じ息を大きく吸って吐くと静かに告げた。

「颯宇、お前はアオ兄呼んで来い。」

「え…?」

「これが“あいつらじゃない”ってんなら、まだこの炎の先に全ての元凶がいる筈だ。こんな盛大にオレ達にケンカ売ったってんだ、オレがキッチリと

“本物の炎の恐ろしさ”ってのを教えてやる…!!」

「!?おい!待てっ紅夜!!」

そう告げると、紅夜は開いた赤い瞳を光らせ颯宇の声に振り返らないまま火の海の中へ消えていった。


同時刻、森の奥に2人の男の姿があった。どうやらこの2人が全ての元凶の様だ。

2人のうち1人が爆薬に火を点け森へ投げ込んだ。すると直ぐに森から鼓膜が破ける様な爆発が起きた。

「ヒュ~よく響くなこの森は!爆破の実験には丁度いいぜ!火の粉も破片も飛んでこねぇし、そんだけ広れぇってことか!」

爆薬を着火させた男が満足気に笑みを浮かべ地面に腰を下ろし、煙草に火を点けた。すると、もう1人の男が不安そうに言った。

「けどよぅアニキ、いくら盗んだ爆薬が軍の使い古しでも、強盗に使うのは危ないんじゃないか?湿気てるつっても威力も相当あるみたいだし…」

「今更何言ってんだよ!!やるっつったらやるんだよ!ビビってんじゃねぇぞ!!」

「べ、別にビビってなんかねぇよ!!ただこの森…昼間なのに陽が入ってこねぇから暗くて不気味だし、それにアニキも知ってるだろ?!この森には得体の知れねぇ化けモンが棲んでるって噺!噂じゃあの、史上最強の一族の生き残りの住処だとか…

もし、この噺が本当なら俺たちこんなことしといて、生きてこの森から帰れるのか?」

男が言うと、暫くの沈黙が風から伝わる木々が燃えて倒れる音に遮られた。

直後、男の頬に冷や汗が滴る。

「ばっ馬っ鹿!!そんなもんっ政府がこの森に人を近付かせなくする為に捏ち上げたデマに決まってんだろ!!それに、その化けモンって聞いた噺じゃ、千年前に人間に滅ぼされたって言う一族なんだろ?そんな連中が運良く生き残ってたとしても、人間ごときに滅されるくらいの下等なら大したモンじゃねぇってー」

「ふぅ~ん、随分と好き勝手言われてんのな、オレらって。」

「「?!」なっなんだ?!」

「だ、誰かいるのか?!」

突如森の中から声が響き渡り、男2人は戸惑いを面に晒し、辺りを見回した。

が、声の主の姿はない。

「あの戦争からまだ“千年しか”経ってねぇのに…嘗められたもんだな~

なぁ?“人間”!」

「「?!!」」

声の主は視線を上げたその先に姿を現した。その正体は、紅夜だ。男共は驚異で一瞬声を忘れていた。

「な…なんだ?!お前!!」

「一体何処から…?!」

「さぁね。知ってても教えてやるもんか!!」

男共に対して紅夜は意地悪気にベーっと舌をだした。そして木の上から飛び降り、地面に着地した。

「つかさ、これやったの、お前らだよなぁ?っつっても訊かなくも一目瞭然だけどな。」

「フン…だとしたら、なんだってんだ?」

煙草の男が苦笑しながら言った。

「困るんだよなぁ、こんなことされっと…頼むからさ、他を当たってくんねぇか?

この森はオレらの大事な住処なんだ。その住処をお前らがオレらの断りナシにどうこうしようってんなら、こっちも黙ってらんねんだよ。今なら“未遂”ってことで見逃してやる。この森から立ち去れ、人間」

紅夜が力を込めて言うと男共は嘲笑う様に言った。

「“この森がお前らの住処”?!随分おもしれぇ生活してんだな!」

「!」

「どんな化けモンが棲みついてんのかと思えば、いんのは只の“餓鬼”じゃねえか!」

「やっぱりあの噂はデマだったんだ!!」

そう言いながら男共はゲラゲラと声を上げて笑った。そんな男共に紅夜はもう一度警告した。

「これが最後だ…今すぐこの森から立ち去れ!これ以上オレを本気で怒らせ無い方が、身の為だぞ…」

さっきより声を低めていった紅夜に男共は笑みを浮かべたまま訊き返した。

「ああン?なんか言ったか?餓鬼」

その言葉に紅夜は瞳の色を変え口元を緩ませて言った。

「あーあ、せっかく警告してやったのに、“人間”ってのは今も昔も命知らずな一族だな…いいぜ?そっちがそう言うんなら見せてやるよ、

“化けモンの本性”ってやつをな…後で後悔して吠え面かいたって…もう遅せぇから」

そう言った直後に、紅夜の瞳が怪しく光り、左頬に赤い炎の刻印が浮かび上がった。同時に熱い風が男共を囲い込んだ。

「なっなんだこの風!熱いぞ!?」

「おっおい!あの入れ墨…まさか“魔導師”か?!」

「あ"あ"?!ダーレが“魔導師”だって?!あんな“裏切り族”と一緒にしてんじゃねぇよ!!!」

男の言葉に紅夜の怒りは更に増し、体から灼熱の陽炎が揺らいだ。

「くそ!化けモンめ!!」

煙草の男は護身用のナイフを取りだし構えた。しかし、そのナイフは見る見るうちに溶けた鉄の塊となった。それを見た男共は遂に悲鳴を上げた。

「く、くっそー!一体なんだってんだよ!!」

「言っただろ?“この森はオレらの大事な住処だ”と。敵から住処を守んのは当然のことだ。お前ら人間がオレらを“化けモン”ってんなら、オレらにとっちゃ、オレらの住処を奪おうとするお前ら人間だっておんなじ“化けモン”だ!!ま、人間の力なんて高が知れてるけどな」

紅夜のその言葉に男がやっと気づいたように言った。

「じゃ、じゃあお前は本当にあの史上最強一族っ“精霊導師”の生き残り…!!」

「?!!」

男共は目の前に立ちはだかる“化け物”に恐怖で縮こまり果てていた。しかし、煙草の男は中々その存在を認めようとはしなかった。

「おっ俺は騙されねぇぞ!!精霊族は千年前に滅ぼされてる筈だ!こんな処にいるわけねぇ!!」

「っけど、アニキも見ただろ?!さっきの炎の風でナイフが溶けたのを!!」

出鱈目(デタラメ)だ!!何か仕掛けがあるに決まってる!!」

「あのなぁ~ここまできてまだそんなこと言ってんのかよ。往生際ワリィな~」

紅夜が呆れた顔で男の前でしゃがむと男は「寄るな化けモノ!!」と叫び後退りをした。

((イラッ)こいつ…!認めてんじゃねぇかよバケモンって…めんどくせぇ…)

「お前、“めんどくさい”ってよく言われねぇか?今オレすっげぇ思ってんだけど」

「それ、俺たちの母ちゃんの口癖だ…父ちゃんとアニキに対してよく言ってた」

「あー分かる分かる、お前らのオフクロさん、めんどくっせぇオヤジに似た息子の世話に苦労したんだろうなぁ~人の話は素直に聞き入れた方がいいって今日思い知ったろ?」

「煩せぇ!よけーなお世話だ!!お前も何ちゃっかり会話に混じってんだ!!化けモンの代わりにシバかれてぇのか?!」

「ヒィー!勘弁してくだせぃ!!(汗)」

男(兄)の紅夜への“とばっちり”を受けそうになった男(弟)は我に返り、慌てて男(兄)の方へ駆け寄った。

「とにかくっあの伝説は本物だ!!精霊は千年前の戦争で人間に滅ぼされたんだ!!

こんなところに“精霊”がいるはずねえ!!」

「あぁ、確かにそうだ。」

「「?!」」

「少なくともあの戦争に参加した一族の殆どが人間の捕虜となり、惨殺された。女子供関係なくな…」

(それに、その中には…)

紅夜は何かを思いだし顔を歪ませた。そしてすぐに元の表情に戻る。

「けどナニがドウであれ、実際お前らの目の前に、その“いるはずねえ精霊の生き残り”が存在してんだよ。すっげぇ奇跡的にな。あ、ちなみに“オレだけ”じゃねぇぞ」

「「え?」」

紅夜の言葉に男共は目を丸くした。すると地面が割れ、土の中から太い木の根が男共の足に絡みついた。

「うわー!き、木の根が足に…!」

「くそっ動けねぇ!」

「よう!やっぱ来てたのか~よく此処が分かったな。呉葉」

「森がコウの居場所を教えてくれた…」

現れたのは、木の根を操る呉葉だった。呉葉が得意げに言うと紅夜は「流石だな」と笑って言った。

「つかもう動いて大丈夫なのか?まぁだからここにいんだよな」

「うん、もうヘーキ…でも、こいつら追っ払ったら、もっと元気になるかも。」

「アハハ!そうか~んじゃ、ちゃっちゃか追っ払わねぇとな!!」

呉葉が言うと紅夜は豪快に笑った。そして、身動きが取れず恐怖に怯える男共に気付いた紅夜は悪戯に白い歯を見せて言った。

「あ、こいつさ~“木の精霊”っつってこの森の主っぽいやつなんだよ。

普段は半目で大人しいけど怒ったらすっげぇ怖くてさ~特に人間と森を荒らすやつとか争い事が大っ嫌いでさ~こいつに逆らうとどーなんのかな~もしかしたらこの世界ごとお前らを生き埋めにすっかもな~」(ニヤニヤ)

悪戯な笑みの紅夜の言葉に呉葉が男共を睨みつけた。男共はその鋭い目つきに「「ヒィッ!!」」と悲鳴を上げた。

「ちなみにオレはな~自分で言うのはアレだが、一族の中でも“最強”と謳われた“火の精霊”なんだ。祖先には“精霊獣”っていうおっかねぇ怪獣を倒したっていう王様もいるくれぇだし、オレが本気出せばお前らなんて灰も残らず存在ごとこの世界から抹消できっけど、それでもいいなら、オレらに逆らってみっか?」

そう言って紅夜はじっと男共を睨みつけると、背後の火柱は大きな炎の獣に形を変えた。

「「ご、ご遠慮しますーーーーーー!!!」」うわあああああああ!!

それを見た男共は、紅夜の言った通り吠え面をかいて、一目散に逃げて行った。

「ありゃ、んだよ呉葉~もう拘束解いたのかよ~」

「だって、灰にされるとアオに怒られる…」

「分かってねぇな~人間ごときにそんな本気だすワケないだろっ脅しだ!お・ど・し!!ちぇ、も少し遊びたかった…」(ブ~)

「十分遊んでる」

紅夜はつまんなさそうにボヤくと呉葉が呆れたように言った。すると、呉葉が不機嫌な表情で思い出したように言った。

「それよりコウ、“世界ごと生き埋める”なんて大げさだよ。」

「いいじゃねぇか!あながち間違ってないんだからっ」

「ぼく、そんなおっかないコトしないもんっ」(むぷー)

紅夜の言葉に呉葉は再び頬をぷぷーと膨らませた。そんな呉葉に、流石の紅夜も申し訳なくなって「わ、悪かったよ(汗)」と一言誤った。そして、代弁するように呟いた。

「けどまあ、あんだけ脅しとけばまた噂が濃くなって、暫くは誰もこの森に近づかねぇだろうし、一石二鳥だろ?(ドヤッ)」

紅夜がドヤ顔で言うと紅夜の作戦(?)に、呉葉が「ああ、そっか。」と納得した様に言った。

「コウってけっこうタチが悪いんだね、スゴイよ~」

「それ褒めてんの?!貶してんの?!汗」

「え、ちゃんとほめてるよ?」

「いや、今のだと褒めてるように聞こえねぇよ(汗)」

「うーん、そうかな?」

「そうだよ!!(汗)」

「そんなつもりはないんだけど…」

(自覚ナシ?!マジで言ってんのか、こいつ…(汗))

呉葉の天文学的天然な発言に困惑する紅夜。すると、遠くから声が近づいてきた。

「おーーーい!紅夜ーー!呉葉ーー!」

「無事ですかーー?!」

その声は二人を追って森の中から現れた蒼夜と颯宇のものだった。

「アオ!ソウ!」

「良かった…2人共、怪我はなさそうですね」

蒼夜は元気そうな2人の姿を見てホッと胸をなで下ろした。そんな蒼夜に、紅夜が呆れたように言った。

「相っ変わらず心配症だな~アオ兄は。つーかおっせぇよ颯宇!もうとっくに方ぁついてんぞ!!お前らの出番ナシ~」

「うるせーな!往復すんのにどんだけ距離があると思ってんだ!!それより、どうだった?!」

厭味の言い方の紅夜に怒りを覚えつつもすぐ本題に戻って、颯宇は現状を紅夜に訊ねた。

「あぁ、人間2人が森を燃やしてた。“爆破の実験”とかなんとか…って。」

「え!?爆破?!!ですか?!」

「ん?あぁ、なんかそんな話してたぞ。」

↑(実は期の上から盗み聞きしていた悪いコwww)

「やっぱり森に残ってたあの“火薬の匂い”は“人間”だったのか…にしてもほんっとーに人間がすることはいつも理解不能だな!!森を爆破させて一体ナニが楽しいんだ?!」

「そこなんだよ颯宇!!こっちにとっちゃただのはた迷惑にしか思えねぇ!!」

「全くその通りだ!!」

「うん…人間、キライ…」

「「うんうん!」」

颯宇は紅夜の報告にうんざりして言うと2人も同感して頷いた。すると

「話は済みましたか?」

「「「?!」」(げっ!)」

そう切り出した蒼夜は腰に手を当てた状態で“黒い笑み”を浮かべていた。

「あ、アオ兄…?汗」(や、ヤベェ…このポーズは…!汗)

3人は同時に嫌な予感がしていた。そして…

「全っく!勝手に行動するなんて何考えてるんですか?!呉葉も呉葉で、目が覚めた途端に飛んで行っちゃうしっあの状況で単独行動じゃ危険すぎます!!」

(((やっぱり…汗)))

蒼夜の説教が始まり、3人の予感は的中した。3人はうんざりとした様子で長い説教を聞いていた。

「いいですか?!3人共!こういう緊急時はもう少し思慮深い行動をとってください!!無事だったから良かったものの、もしあの爆発が“精霊狩りを目論む人間”や、“軍部魔導師が精霊(僕達)を(おび)き出すための罠”だったらどうすー」

「それはない!」

「え…?」

蒼夜の説教中、口を挟んだ颯宇は、表情を曇らせ俯いていた。

「あいつらは…森を焼き払うくらいで俺達を誘き出したりしない…そんな、“生温いモン”じゃねぇんだっ!っつ…!」

颯宇は何かを思い出したように、小さな拳を握らせ悔しげに言った。その表情は哀しみで陰っていた。

「…ソウ?」

「…なんだよ。別になんともねぇよ」

俯いた颯宇に紅葉が心配そうに顔を覗かせると、颯宇は素っ気なく応えた。そんな颯宇に気を遣いながらも、蒼夜の説教は続いた。

「コホンッ…と、とにかく!今日のような危険な行動は金輪際(こんりんざい)やめて下さい!!心臓がいくらあっても足りませんから!特に紅夜!!!」(ビシィ!!)

「(ギクッ)オレ?!」

蒼夜に指定された紅夜は、人差し指で自分を指して、驚いたように言った。

「そうです!!元はと言えば紅夜が緊急時に限って真っ先に飛び出していくのがいけないんです!!大体っ紅夜はいつも強引すぎます!!!全く後先考えませんし、少しは冷静に行動して下さい!!」(ガミガミ)

(め、めんどくせぇー…汗)

蒼夜は極度の心配症であり、紅夜には一層厳しいのである。紅夜が力なく呆れていると

「アオ、早く火消さないと森、なくなっちゃう…」

呉葉の冷静なヒトコトに蒼夜は我に返った。

「あ!いけませんっそうでした!!僕のしたことがついうっかり!!颯宇、力を貸してください!!」

「お、おう」

(説教はもういいのか…汗)

(呉葉、サンキュー!!!)

(アオ、単純…)

各々がそう思った。蒼夜に言われた颯宇は、静かに蒼夜の隣に立った。2人は息を合わせ同時にゆっくりと瞳を閉じた。

ちなみに蒼夜は“水の精霊”、颯宇は“風の精霊”である。

「それじゃ…いきますよ、颯宇」

「あぁ、いつでもいいぜ」

蒼夜は颯宇に確認をとると綺麗な音で息を吸い込み、呪文を唱えた。

「“集え、聖なる水の使徒よ、我が声に応え神聖な森を潤し給え”」

「“風よ、ここに来い”」

「“聖水浄化(クリアスピリティ)

 “風の息吹(サファルティア)” 」

2人の声に大きな透明な水柱と竜巻が燃えた森を包み込んだ。すると、水柱が上空で弾け、雨となって降り注ぐと、燃えて灰になった森が次々と復元されていった。

そして最後には完全に元通りの森になった。やがて雨は止み、風も音を消した。

「よし、復元完了です!助かりました、颯宇。いつもありがとうございます。」

「いいってことよ!おかげで俺らの出番もらえたし~」

「うぐっ…チッ」

颯宇のわざとらしい笑みに紅夜は顔をそらし、悔し気に舌打ちをした。

「にしても、今日は大変な一日でしたね」

一仕事終えた蒼夜が呟く様に言った。

「ああ、確かに今日はやけに疲れたな~早く帰って飯食べようぜ」

「お腹すいた…」

「そういえば食事の途中でしたもんね。僕もお腹ぺこぺこです!」

蒼夜の呟きに、颯宇と呉葉が交わり、3人の会話が弾んだ。すると3人の後ろにいた紅夜が、背後から何かの気配を感じ、咄嗟に振り返った。しかし、そこにはなんの影もなかった。

(気のせい…か…)

そう、胸をなで下ろしていると、

「何やってるの、コウ」

「!」

呉葉が呼びかける声に紅夜は3人の方を振り返った。

「さっさと帰って飯食うぞ」

「早く来ないと置いてっちゃいますよ~!!」

蒼夜と颯宇が言うと紅夜は静かに微笑んで「…あぁ、今行く!」と3人の元へ駆け出した。

こうして、4人の影が地面に長く伸び、薄紫の空が夕陽と共に暮れていった。


その夜、暗い茂みの中に3つの影が潜んでいた。

「へぇ~こんな処に精霊の生き残りがいたなんて驚きッスね。」

1人目の少年が興味深そうに言った。

「“アラクの森”…か、確かに政府の地図にも載ってない“幻の森”なら住処としては最適だな。」

2人目の少年が電子ナビを操作しながら呟いた。

「にしても、政府も懸案な仕事をほったらかしすぎッスよ~お陰でオレたちが出動する羽目になるし、ホント、やーな任務(シゴト)ッス~」

「任務前にボヤくな。“こいつ”みたいになるぞ。」

2人目の少年が木陰で横になっている3人目の少年を目で振り返る。その声に少年は目を覚まし、眠そうな声で言った。

「なんだよ~まだ仕事の時間じゃないじゃ~ん」

「寝言は寝て言え阿呆。標的(ターゲット)の監視も立派な仕事だろ。」

「えぇ~だってあれから全然動きないじゃん~

監視なんて退屈で飽きたyくあ~」

そう言って少年は大きな欠伸を1つして眠そうな瞳で言った。そんな少年に1人目の少年は呆れ顔で言った。

「猫ッスかも~、だらしないッスよ、センパイ~。

(確かにセンパイにはなりたくないッス)ポソリ…

あ、ところでセンパイ~、あの強盗容疑者2人どうしたんスか?」

1人目の少年が思い出した様に訊ねた。すると3人目の少年が淡々と応えた。

「あぁ、彼らならさっきボクが組織に引き渡しておいたよ。目を離した隙に逃げ出されても困るからね。」

「え"?!もう引き渡しちゃったんッスか?!」

「だって、彼らが強盗に使うために軍から盗んだ火薬も使い古しじゃなくて危険だから回収してもらったし~あとは“彼女”がなんとかしてくれるって言ってくれたからこの件については万事解決~♪」

「その発言だと上司を顎で使ってるようなんでやめてほしいッス…(汗)」

「え?どのへんが?」(かしげ)

「“全部”ッス!!」

(恐いもの知らず過ぎるセンパイが怖い!!汗)

その時、後輩はそう思った。

「と言ってもまあ、“あの人”なら信用できるんッスけど、まだ泳がせておけばもっと情報が得られると思ってたのにィ…勿体無いッス」(しょぼんぬ)

「何言ってるんだよ、もう情報は十分揃ってるでしょ?」

「へ?そうなんスか?」

3人目少年が起き上がりながらそう言うと、1人目の少年は驚いたように目を丸くさせ、少年の顔を見たそしてすぐにその言葉が“真実”だと悟った。

「今日、彼らの監視しててようやくハッキリしたよ。あの4人の中にボク達が追っている“例の事件”を引き起こした“主要(ファクター)”がいるってね」

少年は確信を持って言った。その言葉に2人の少年は異議申し立てしなかった。

「流石、堕落してるように見えて凄い観察眼ッスね…

オレ、この人だけとはゼッタイ敵になりたくないッス」

1人目の少年がこっそりいうと、2人目の少年は「同感だな。」と、当たり前の様に告げた。すると、3人目の少年がゆっくりと立ち上がった。

「さてと…そろそろ本部へ戻ろうか。“作戦”を考えないとね…」

「言っときますけどっそれ考えるのオレなんスよ?!」

「分かってるって~とっておきの、考えてよ?」

「くれぐれも管理を厳重にな。期待してるぞ」

「当然ッス!」

2人の言葉に背中を押された少年(後輩)は自信気に頷いた。

(そう…譬え政府が真実を欺こうが、偽ろうが、ボク達は地獄の果てまで逃がさないよ…)

先頭に立つ少年が不気味に笑う。そして3つの影…元い、3人の影は暗闇に消え、少年の愉し気な声だけが

残響となって闇に響いていた。

「クスス…これから愉しくなりそうだ…ねぇ、“炎龍”?」                                                         

                       

ーTO BE CONTINUEDー



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