表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月京妖し語り~風説百魔草紙~  作者: 筑前助広
第四回 開かずの魔
27/31

その七

 大きな男だった。

 自分も大きな方だが、おそらく頭一つ分ほど大きい。

 元公家の陰陽師。そして、息子の顔立ちから、巌のような武骨な男が現れるとは思いもしなかった。


「お待たせしたようで」


 道服姿の月京は、挨拶もせずに言った。


「なんの」

「急遽、千代田のお城に呼ばれておりましてな」

「ほう。何かあったのでしょうか?」


 少し間をおいて、帯刀は訊いた。どうやら挨拶は抜きという事らしい。


「まぁ、少し。いや、少しじゃないな。幕閣の連中にとっては一大事か」

「あの連中は、箸ご転がっても慌てふためきますからな」

「ふふ。言いますな」

「お嫌いか?」

「いや、むしろ好きですね」


 と、月京は一笑した。


「話の前に、堅苦しい言葉遣いは無しにしましょう、深川の帯刀さん」

「いいぜ」

「良かった。深川界隈では帯刀さんの名前は有名だ。かく言う私も、飲む・打つ・買うの横道者でね。同じ穴の狢と畏まった物言いはしたくはない」

「そいつは楽でいいや。俺もいつも通りで行かせてもらう」

「ふふ。で、私に何やら相談に来たとか」

「そうだが、その事は誰にも漏らしちゃいない。しかも、八仙花という女は、俺の名も来訪の事も知っていやがった。清風は〔目敏い者〕が報せたと言っていたが」

「ああ、その通りだ」

「まず、それが聞きてぇな」

「何の事もないですがね」


 月京は、すうっと右手を差し出した。その上には何と、能面を被った狩衣・立烏帽子姿の小人が立っていたのだ。

 帯刀は、その小人を前につんのめって凝視した。


「おい。冗談だろう」

「なるほど。どうやら見えるようだな」

「最近、何故か見えるようになっちまった。これが陰陽術というものかい?」

「いいや。こやつは低級の妖鬼で、この屋敷に棲んでいる者だ。こやつが、意図的に姿を見せているようだな」

「ほう」

「驚かないとは」

「いや、驚いているさ」

「そうは見えぬが」

「こいつが俺の頭の中を覗いたってわけかい?」


 すると、この小人が甲高い笑い声を挙げた。


「帯刀よう。そいつは違うわえ。おぬし、寛永寺の前で、こう言ったろう。『月京は相談を聞いてくれるかな』と。儂はそれをたまたま聞いただけわえ」

「貴様は、盗み聞きしたわけか」

「くくく。そうわえ、そうわえ……」


 と、小人はスッと姿を霧散させた。


「そういう事だ。で、その相談ってのを聞かせてもらおうか」


 帯刀は、夜須藩上屋敷の蔵に現れる、女の霊の話をかいつまんで説明した。その女が、銀漢の天女か菩薩様が着るような着物を纏い、わけもわからぬ言葉を発していたという事を含め。


「ふむ。それは興味深いな」

「女は『く、さらむ』なんちゃらって言ってたが、こちとら驚いて覚える余裕はねぇ」

「まぁ、この国の霊ではなさそうだな」

「やはり、そう思うかい?」

「まぁね」


 月京は清風を呼び、ある本を持って来させた。そこには諸外国の装束が絵図にして記されていた。


「よくこんなもんを持っているな」

「陰陽師たる者、古今東西の知識を身につける必要があってね。さぁ、この中でお前さんが見た着物はあるだろうか? それが判れば、言葉の意味も判明しよう」

「なるほど」


 帯刀は暫く項を進め、あの女が着ていた装飾の項で手を止めた。


「こいつか」

「間違いないね?」


 そこには、〔朝鮮〕と記されていた。そして月京の顔が、心なしかわらったように見えた。


「報酬は二十両。びた一文負けんがいいかね?

「ああ。二十両、ちゃんと預かってきている。それと、手土産に聚楽酒」

「そいつは上等。では明後日、屋敷へ伺おう」

「今からじゃねぇのか?」

「話を聞くに、急を要する話ではない。それに相手が朝鮮女とあっちゃ、色々と準備が必要でね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
筑前筑後の代表作!⇒念真流サーガ
時代小説短編集⇒巷説江戸演義 小噺
和風ダークファンタジーシリーズ⇒風説百魔草紙 小噺
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ