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邪神  作者: 霧島樹


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007「真実」

「邪神……? なに言ってんだおまえ……?」


 訝しげな顔をする高橋にタイチが笑いかける。


「ははっ、冗談だよ、冗談」


「……おい、本当に大丈夫かよ、タイチ」


「大丈夫だって。むしろかつて今までにないぐらい絶好調だよ。じゃあなカズヤ」


「あっ、おい!?」


 タイチはそのまま振り返らず、教室から出て行った。




 ◯




『いいか、タイチ。もう二度とあんなことはするなよ。長生きしたかったらな』


 学校を出たあとの帰り道。

 俺は勝手に余計なことを口走ったタイチに対して厳重注意をしていた。


「わかってるって。あんなのはあれが最初で最後だよ」


『……タイチ。今のキミは非常に危険な状態にある。通常ではありえない力を手に入れて気分が高揚しているのだろう。とても冷静に物事を考えることができているとは言い難い。まずはそれを自覚してくれ』


「大げさだなぁフェイスは。ちょっとした茶目っ気じゃん。大丈夫だって。カズヤはああ見えてオレ以上にスピリチュアル的なものは信じてないタチだし、もし万が一誰かが聞いたとしてもまず間違いなく信じないだろうし」


『だとしても、先ほどの発言は単なる『茶目っ気』で口にしていいような内容じゃない。リスクが高すぎる』


「だからわかったって。もうしないって絶対」


『……タイチ。俺は『基本的には』キミの脳内で喋るだけで、他には何もしない、と言った。それは覚えているか?』


「覚えてるけど……なんだよ、なんか例外でもあんの?」


『ある。俺はいざとなれば自分の意思でキミの魂と『同化』して、肉体の支配権を奪うことができる』


「ふぅん……なんでそれ、今すぐしないんだ?」


『面倒だからだ。こうして脳内で喋ってるのと、実際に肉体を動かすのでは俺に掛かる負担が大きく違う』


「はぁ? そんな理由?」


『それだけじゃないがな。タイチ、キミが実際にやるまでが大変だと思うスポーツをひとつ挙げてくれ』


「なんだよ急に。んー……そうだな、今パッと思いついたのは野球かな? 道具と人数集めんのがサッカーとかバスケより大変じゃね?」


『そうか。ではテレビ越しに野球の試合を見るのと、実際に野球の試合をするべく動くのと、どちらが面倒かは言うまでもなくわかるだろう?』


「まあ、そりゃーな」


『そういうことだ』


「ちょっと待った。上手く話を逸らそうとしてるけど、同化したくないって理由は『それだけじゃない』んだろ? それを話してくれよ」


『…………』


「なるほどね……なんとなくわかってきたぞ、フェイス。お前のことが」


『……なんだ?』


「お前さ、昨日『邪神と名乗らなければならない制約がある』って言ってたよな」


『言ったな』


「お前ってもしかすると、それと似たような『制約』ってのがいくつかあるんじゃねぇの? たとえば……『宿主に嘘をつくことができない』、とか」


『…………』


「図星か。でも、黙ってるところを見ると、聞かれたら答えなきゃいけないってわけじゃないんだな?」


『…………』


「……いや、そうとも限らないか。話すのに何か条件があるのか? それとも、自分に都合が悪いから黙ってるのか?」


『…………なぜ制約だと思った?』


「一番初めはともかくとして、お前の話は途中から違和感があったんだよ。なんか何から何までやたらバカ正直に話してんなぁコイツ、っていうな。オレを自分の思い通りに動かしたいなら、それこそいくらでも上手く話を作ればいいのに。まるで説明義務でもあるみたいにしっかり話をしてくるじゃん? んでそのあとお前の『成り立ち』の話を聞いたら、そりゃわかるぜ。まあ基本、お前の話を信じた上での仮説だけどな」


『……名探偵もビックリの飛躍した推理だな』


「そうでもないだろ。お前がさっき露骨に話を逸らさなきゃ確信は持てなかったぜ」


『それでも普通はそんな発想には至らないぞ。キミは『奴』の生まれ変わりか何かか?』


「知らねぇよ。……っていうか、また話を逸らそうとしてるだろ」


『む……バレたか』


「そりゃバレるよ。まあ話したくないってんならいいよ、別に。結局のところオレはお前の話が全部本当かどうかなんて確認する方法はないんだし。……これで今までの話の半分以上が嘘でしたー、とかだったら逆に感心するけどな。小説だったら駄作もいいとこだぜ」


『……それはない。俺が今まで話した内容はすべて真実だ』


「へぇ、ならいいや。その言葉、信じることにするよ。その方が面白いからな」


『そうか。それはありがたいことだ』


「わざとらしいなぁ。まあいいけどさ。んで? 学校を出る前に言ってた『重要な話』ってのは?」


『ああ。その前に、さっきからスマホが震えているが……マナーモードで鳴ってるんじゃないか? 出なくていいのか?』


 俺がそう言うと、タイチはポケットからスマホを取り出して画面を操作した。


「あー、これは出なくていい……っていうかむしろ着信拒否しとくか。どうせこれから先も出ないし」


『そうなのか?』


「そうなんだよ。これ元カノだから。多分いきなり俺がメールで『別れる』って送ったから鬼電してきてるんじゃん? メールも返信してないからな俺」


『そうか。大丈夫か? ちゃんと話した方が後腐れないんじゃないか?』


「話したくねぇよ。嫌いになって別れるわけじゃないんだし、話せば話すだけつらいじゃん」


『それは……なんというか、すまない』


「はは、真面目かよ。冗談だよ。ただ相手すんのがメンドイだけだっつーの。んで、『重要な話』って?」


『ああ。キミのこれからの人生計画についての話だ』


「おー、それは重要だな。んでんで? オレはアレか? これから新世界の神にでもなればいいのか?」


『いや、神を騙った宿主は大抵が早くに自滅するか殺されるからな。基本的にそれは悪手だ』


「お、おう……前例ありか。冗談だったんだけど。って、話の腰を折って悪いな、続けてくれ」


『まあ俺自身、話が回りくどくなりがちだからな。今回は結論から言おう。タイチ。キミは高校を卒業したらアメリカの大学に留学してくれ』


「おお、また随分と話が飛んだな。んで理由は?」


『すべての詳細を話すと大変長くなるので今は省くが、大まかに言えば警察に捕まるリスクの軽減と、今後の活動を自由にするための土台作り、この二点だな』


「なるほど。省かれすぎて全然わかんねぇ。警察うんぬんはなんとなく予想つくけど」


『これらに関しては順を追って説明するからもうしばらく待ってくれ。その前に話すこと、やってもらうことがあるからな』


「わかった。けどひとつだけいいか?」


『なんだ?』


「オレ、海外留学できるほど頭よくないんだけど」


『ああ、その点は心配しなくていい。これから学校のテストや大学入試などはすべて俺が助言する。キミはアメリカで日常的に使う英語の勉強だけに注力してくれればいい』


「お……おお、マジか。なんだよ、『知識面では頼りにするな』とか言っておいて、メッチャ頼りになるじゃん」


『テストや入試で俺が助言する知識は俺自身の知識じゃないからな。俺が頼りになる、という表現は少し違う。急を要する場面には使えないしな』


「……ん? なにそれ、つまりどういうこと?」


『つまり、だ。俺は、俺が今まで取り込んできた魂を任意で呼び出し、俺の魂と一時的に同化させることによって、その呼び出した魂が持つ知識や経験を十全に引き出すことができるんだ』


「……知識や経験を引き出す?」


『そうだ。これはキミが背負った邪神の呪いとは性質が異なり、俺だけが持つ固有の能力だ。俺への負担が非常に大きいためできればなるべく使いたくない奥の手ではあるが、この世界で理想的な活動環境を作るためにはアメリカへの留学が必須だからな。学校のテストや大学入試などでは使うことにする。だが逆に言えばそれ以外ではよっぽどのことがない限り使わないつもりだ』


「はあ……奥の手ね。なんだかすげぇな。ちなみに今まで何人ぐらいの魂を取り込んでんの?」


『それはちょっと見当がつかないな。次の世界に移動する際はその世界の魂をすべて取り込んでから移動するから、おそらく相当な数の魂を内包していると思う。最低でも三千億を下回ることはないだろう』


「三千億!? ひぇー……七十億とか、八十億とかそんなレベル軽く超えてんじゃん。マジで尋常じゃねぇな……」


『そうだな。その話はひとまず置いておくとして、タイチ』


「ん?」


『前方の約十メートル先の曲がり角に人が隠れているぞ。動かずジッとしている。待ち伏せかもしれない。気をつけろ』


「…………マジか」


 タイチは俺の言葉に短く答え、制服のポケットからスマホを取り出した。

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