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邪神  作者: 霧島樹


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40/110

040「結末」

「あ……やべ……」


『どうした?』


「エナジードレインで回復すりゃ良かった……耳が超痛い……」


『いや、銃で殺したのは正解だった。次の敵がこちらに向かって来ている。悠長にしている時間はなかっただろう』


「にしても、耳が……目も見えねぇし……」


『耳が『痛い』程度なら大丈夫だ。フルフェイス型ヘルメットのおかげだろう。鼓膜は破れていない。それに目もなんともなってないだろう。暗視スコープ機能の安全装置を確かめてみろ』


 タイチが装備しているフルフェイス型ヘルメットは暗視スコープ機能も搭載されている。

 だが閃光音響手榴弾スタングレネードなどで強い光を受けると故障してしまう旧式とは違い、タイチが今装備している最新モデルには安全装置が搭載されているため、故障はもちろんのこと失明するようなレベルの閃光だって遮られたはずだ。

 突然の光に多少は目が眩んだかもしれないが。


「あ、ホントだ。安全装置が動いてただけだった。ちゃんと目ぇ見えるわ」


『タイチ! 敵が来る……いや、来ない』


「どっちだよ!」


『方向転換した。感知できないのか?』


「ん……耳鳴りがひどくて集中できねぇ……」


『深呼吸しろ。心を静めるんだ。そして……タイチ! 避けろ!』


「うおぁ!?」


 タイチがその場から飛び退くと、今までいた場所に無数の弾丸が撃ち込まれた。

 そして慌ててタイチが振り向いた先では、全長五十センチほどの暗殺無人航空機アサシン・ドローンがこちらに小銃を向けて宙に浮かんでいた。


「うおおおおおぉぉぉ!!」


 タイチは床に寝転んだまま即座に両手で拳銃を構えた。

 刹那のうちに、こちらへ無数の弾丸を飛ばしてくる暗殺無人航空機アサシン・ドローンと撃ち合いとなる。


 数秒後、撃ち合いの末に暗殺無人航空機アサシン・ドローンの羽根部分を破壊することに成功したタイチは、ヘルメットを破損し右目にケガを負っていた。


 いかに相手が耐久力の低い暗殺無人航空機アサシン・ドローンとはいえ、自動小銃と撃ち合ってこの程度で済むとは……相変わらずタイチは凄まじい強運の持ち主である。


「ぐ……やっべぇ、死ぬほど痛いんだけど……これ右目失明か?」


『大丈夫だ。エナジードレインで治る……なにをしている!? ヘルメットを外すな!』


「中で血が飛び散って目の前が見えねぇんだよ。しょうがねぇだろ。んなことより、敵はどっちだ!?」


『キミの正面を北に仮定すると、南東の方角だが……タイチ!?』


 タイチは俺の言葉を聞いて突如として走り出した。


「フェイス! ナビしてくれ! 今のオレはケガの痛みで魂の感知ができねぇ!」


『今の状態で敵に自ら向かって行くなど! 危険だタイチ!』


「どっちにしろハロルド・ウィンゲートを逃したらオレらは『詰み』なんだ! やるしかねぇだろ!」


『今逃げているのがハロルド・ウィンゲートとは限らない!』


「だが、ハロルド・ウィンゲートである可能性は非常に高い! ……だろ? フェイス」


『…………』


「さっきから感知した人間を片っ端からソウルスティールしてきたけど、六十代男性の魂なんてオレは吸い取った覚えがねぇ。だからハロルド・ウィンゲートは九割九分、今逃げてる三人のうちの誰かだ。ったく、悪運の強い奴だぜ。まるでオレみたいだ」


『タイチ……』


「どっちがより悪運が強いか、勝負してやろうじゃねぇか! なぁフェイス!」


『……わかった。確かに、今ハロルド・ウィンゲートを逃すのは悪手かもしれん。キミの悪運に賭けるとしよう』


「そうこなくっちゃな!」


『では次の角を曲がり、そのまま真っ直ぐ行って……』


 幸い敵の移動速度はタイチに比べてかなり遅い。

 俺が敵に向けての最短距離をナビゲートした結果、全速力のタイチはすぐに敵の背中に追いついた。


「見つけた……!」


 タイチは走りながら敵の背中を右手の拳銃で撃ちまくった。


「ぜんっぜん当たらねぇ!」


『タイチ! 敵はそこの廊下を曲がり、すぐ右手にある部屋に入った! 気をつけろ!』


「りょーかい!」


 拳銃の弾倉マガジンを交換しながら、タイチはドア近くの壁に背を向け、そっとドアノブを回そうとした。

 だが、ドアにはカギが掛かっているようでドアノブは回らない。


「跳弾が怖い……とか言ってる場合じゃねぇな」


『拳銃でカギを破壊するのか? やめておけ。その拳銃じゃカギ破壊は無理だ』


「んじゃどうするんだよ」


『幸いこのドアは蝶番ちょうつがいが露出しているタイプだ。蝶番を二つとも撃って破壊し、ドアを蹴破るのが最適解だろう。跳弾には気をつけろ』


「跳弾が怖いのは変わらないんだな……」


 タイチはそう言いながら蝶番を撃って破壊し、ドアを蹴破ってから部屋には入らず、すぐまた壁に隠れた。


「……撃ってこないな。逃げたか?」


『いや、ソファの陰に三人隠れている。今見たところ、この部屋は窓が天井近くに付いていたからな。逃げられなかったのだろう。……タイチ、ソファを撃つんだ。そして敵が撃ち返してきたらすぐに隠れろ』


「んで銃撃が止んだら突入か」


『いや、突入は避けた方がいい。普通に隠れながら狙い撃て』


「持久戦は勘弁してほしいんだけどな……出血で頭がクラクラしてきたぜ」


 自分自身にも聞こえるか聞こえないかという小声で会話したあと、タイチは頭と腕だけを出してソファを狙い撃った。


 直後、銃撃の嵐が吹き荒れた。


「うっはぁ、すげぇ……壁が薄かったら死んでるな」


『タイチ。ここまで追い詰めたなら、やはり応援を待つという手も……』


「大丈夫だって。……この威力だと突撃銃アサルトライフルじゃなくて短機関銃サブマシンガンだ。多少なら撃たれても防弾チョッキが守ってくれるさ」


『…………』


「それにフレディたちが応援に来れるとも限らないし……オレの体力も出血で限界が近い。持久戦になったらオレの方が不利だ」


『いや、だとしても……』


「静かに。もうそろそろ止むだろ…………って、止まないな。まさか全弾撃ち尽すつもりか?」


『ふむ……興奮状態なのかもしれないな』


「マジかよ。ド素人じゃん。ラッキー。こりゃ突入するしかねぇだろ。やっぱ隠れながらじゃ狙いが定まらねぇよ」


『油断するな。罠という可能性も……』


「っしゃあ止んだぁ!!」


 銃撃が止んだ瞬間に部屋の中に踏み込んだタイチが見たものは、左手にある短機関銃サブマシンガンを投げ捨て、右手にある短機関銃サブマシンガンを両手で構える老年の男性だった。


「あばよ、死神」


「――ハロルド・ウィンゲートぉぉぉ!」


 叫びながら拳銃を両手で構え連射するタイチに、ハロルド・ウィンゲートだと思われる老年の男性は短機関銃サブマシンガンで応戦する。


『タイチ! 奴に銃が効いていない! 奴も防弾チョッキを着ている! ここは一度下がって態勢を……!』


「退かねぇ!!」


『タイチ!?』


 タイチは拳銃の照準をゆっくりと上げながら前に進んだ。

 そして一メートルほど進んで立ち止まり、再び拳銃を連射して、何発目かの弾丸を撃ち放った時。


 ハロルド・ウィンゲートは、その脳天に弾丸を受けて倒れ込んでいた。


『タイチ、なぜ……』


「退いたら死んでた。多分な。……っ」


 そう言いながら腹部を押さえるタイチ。


『しかし、キミの強運は本当に神がかっているな。撃たれたのは右耳と、左腕、あとは防弾チョッキを貫いて内臓に何発か……だな。信じられん。まるで奇跡だ』


「どこが、だよ……もう二人、敵が残ってるだろうが……」


『落ち着けタイチ。大丈夫だ。敵はもう無力に近い。しっかり確実にエナジードレインすればいい。敵のうち、一人は絶望し、もう一人はそもそも……』


 話の途中で、ソファの向こう側にいる二つの魂、そのうちのひとつに急激な変化が見られた。

 すべてを飲み込む闇のように黒く、何もかもを燃やし尽くす炎のように激しい、急激な変化が。


「お父……さん……!」


「なに……?」


『っマズい! タイチ! 拳銃を構えろ! 敵が殺意を――!』


「うわああああぁああぁ!!!!」


 耳をつんざく叫び声と共に、ソファの向こう側から金髪碧眼の女性が回転式拳銃リボルバーを構えながら立ち上がった。

 慌ててタイチも拳銃を構えるが、敵の女性が放った弾丸の一発目が右腕に当たり、拳銃を落としてしまう。


「マジかよ……肝心なところで……!」


『落ち着けタイチ! 敵の銃は回転式拳銃リボルバーだ! 両手で頭を守りながら近づき、敵の体を掴んでエナジードレインをしろ! そうすればキミのケガを治癒することは容易だ!』 


「簡単に言ってくれるぜ……!」


 口ではそう言いながらも、タイチは俺の言う通り両手で頭を守りつつ、敵の女性へと近づいた。

 そして女性が回転式拳銃リボルバーを撃ち尽くし、タイチがソファに足をかけたと同時に、


「がっ!?」


 タイチは頭部に衝撃を受け、ソファごと前のめりに倒れ込んだ。

 どうやら女性に回転式拳銃リボルバー銃把グリップ部分で殴られたらしい。


「キャァ!?」


 だが床に倒れ込んだタイチは意識を失わず、なんとか右手を動かして女性の足首を握り締めた。

 女性が怯えながら尻もちをつく。


『タイチ! その手を離すな! 絶対に離すんじゃないぞ!!』


「離すわけねぇだろ……オレは、まだ死なねぇ……ぐぁ!?」


 タイチの頭部に硬い何かが当たった。


「なん……だ……?」


 タイチのすぐ目の前に、ロケットのおもちゃが落ちていた。

 そしてタイチが目線を上げると、


「うぐっ……ママっ……」


 泣きながら女性の手を引っ張る、金髪碧眼の子供がいた。


「ママっ……ママっ……!」


「…………」


 その子供を呆然と見つめていたタイチは、いつの間にか女性の足首を離していた。

 するとそれに気づいた女性は即座に子供を抱きかかえながら、その場から逃げ出していった。


『……タイチ』


「……なんだよ」


『すまない……俺のミスだ。まさかあの状態からあそこまで、急激な感情の変化が見られるとは……』


「…………いや、多分フェイスが注意を促してても、この結末は変わらなかったぜ」


『すまない、タイチ……』


「んだよ、湿っぽい声出すなっての……まるでオレが死ぬみたいじゃねぇか……」


『…………』


「オレは死なねぇよ……ちょっと眠るだけだ……」


『…………ああ』


「おやすみ……フェイス……」


『おやすみ……タイチ』


 俺は眠りにつくタイチと一緒に、深い闇の中へと意識を沈み込ませていった。

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