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邪神  作者: 霧島樹
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004「抵抗」

「人を殺すことに抵抗……ね。それはオレもわかんねぇな」


『わかんねぇとは?』


「少なくとも想像上で殺す分には抵抗感はないけど、リアルで殺したことはないから実際はどうかわかんねぇ。ナイフを手にして誰かの首をかっ切れって言われたら、想像の中ではやれても、実際に行動しようとしたら体が動かないかもしんねぇ。だからわかんねぇ」


『そういうことか。いや、想像上で人を殺すことに抵抗がなければ大丈夫だ。むしろ理想的な回答のひとつと言える。やはりキミとは良い相棒になれそうだ』


「そーゆーのいいからさっさと話を進めてくれよ。いちいち反応がクドイって。日が暮れちまうよ」


『わかった。では簡潔に言おう。邪神の呪いその二は、『人の魂を吸わねば生きていけない』、というものだ』


「人の魂……」


『そうだ。これは先ほどのエナジードレインで吸いとれる精気とは似ているようで異なる。どちらもなければ人は死ぬ、という点は共通しているが』


「へぇ、そうなんだ」


『なんだ、あまり驚かないな』


「いやもうさっきの質問からなんとなく想像できたし。それで? どれぐらいの頻度で魂を吸わなきゃ生きられないのオレは?」


『これは人によって個体差があるため、キミ自身が渇望を覚えないと正確な頻度はわからない。だが俺の経験にもとづく勘によれば、おそらくキミは一ヶ月ほどの頻度で魂を吸えば生きられるだろう』


「一ヶ月? ふぅん……意外と長いんだな。一日おきとか言われるかと思ったぜ」


『そうだな、そういった宿主も少なくない。キミはどちらかと言えば幸運な方だ。いや、不幸中の幸いと言った方が正確か』


「不幸中の幸いねぇ……」


『さて、それではさっそく実践といこう。渇望を覚え始めてからでは遅いからな』


「え……マジで? 今から?」


『そうだ。家に帰って服を着替えたあと、家と学校両方からある程度離れた住宅街へと移動してくれ。そうだな、最初は電車で三駅ぐらい離れれば十分だ』


 俺がそう言うと、タイチは空き地の前で止めていた足を動かし歩き始めた。


「今からとか、マジかよ……やっべぇ、超ドキドキしてきた。大丈夫かなオレ。人を殺したら吐いたりしないかな。スプラッター系のグロい動画とかは平気な方だけど」


『それは人によって千差万別だからなんとも言えないが、少なくともスプラッターなことにはならないからそこは心配しなくていい。それよりいいのか?』


「いいのかって?」


『自分が生きる為とはいえ、人の命を奪うことに関してだ』


「あー……それね。いや、それはもうしょうがないでしょ。だって自分の命が掛かってるんだから。まー、お前の話を鵜呑みにするなら、だけど」


『残念ながら今まで話したことはすべて真実だ。安心してくれ。あとで前提条件が崩れるなんてことは間違いなくない。少なくとも千年以上、邪神の呪いに関して言えば法則は変わらないからな』


「そうかよ……」


『さぁ、それでは目的地に着くまで色々と知識のすり合わせをしよう。この国は日本で合ってるか?』


「なんだよそれ、今さらだな。日本で合ってるよ。っていうかお前も日本語で話してるじゃん」


『俺の言葉は日本語ではなく思念だからな。俺自身が日本語を話しているわけじゃない。俺の思念がキミにとって伝わりやすいよう日本語として変換されているだけだ。そして俺も音の響きからキミが話している言葉を日本語と推測することはできるが、そもそも俺は異世界からの来訪者だ。俺が認識する日本と、キミが認識する日本は違う可能性がある。何しろ異世界だからな』


「あー、なるほどね。パラレルワールドとか並列世界とか、そういう感じ?」


『そういうことだ。理解が早くて助かる。では質問を続けていいか?』


「んー、オレも聞きたいことは山ほどあるんだけど、まあいいよ。先にそっちの質問を聞くとするわ」


『キミの協力に感謝する。こっちの質問が終わったらキミの質問に必ず答えることを誓おう』


「誓おうって……ははっ、変なヤツだなぁ」


『よく言われる。では質問だが……』


 俺は常識の違いで致命的なミスをしないよう、タイチが移動している間に基本的な知識のすり合わせを行っていった。







 ◯







 二人で知識のすり合わせをしながら移動を続けて、一時間後。

 俺とタイチは家の最寄り駅から三駅離れた場所の住宅街へと到着した。


『さて、この辺りでいいかな。タイチ、右側の塀に寄ってくれ』


「こうか?」


『ああ、そうだ。そうしたら、意識を塀の向こう側にある家へと集中するんだ。人の気配を探るようにな』


「人の気配を探るって、達人じゃあるまいしイメージ湧かねぇよ。どうやんの?」


『どんなに小さな音でも聞き取ってみせる、ぐらいの気持ちで家の中へと意識を集中すればそれでいい』


「ぐらいの気持ちって、適当だなぁ……」


『いいからやってみろ。今のキミならできるはずだ』


「ホントかよ。まあやってみるけど。んー……」


 タイチが目をつぶり、数十秒後。


「……すげぇ、家の中に人がいるってのがわかる」


『何人いるかわかるか?』


「二人……かな。……あれ? ひとり気配が消えた」


『それはおそらく感知できる距離の範囲外に移動したのだろう』


「へぇ……」


『キミが人の気配……正確には人の魂を感じ取れる距離は、今のところ十メートルといったところか。この感知できる距離がそのままソウルスティール……つまり人の魂を取れる射程距離となる』


「マジかよ。遠距離オーケーとかヤバいな。ってことは壁とか障害物とか関係なしに魂を取れる感じ?」


『そうだ』


「なんだ。それなら超余裕じゃん。魂を取ってる時って普段と違ってなんか光ったりとかすんの?」


『ああ。右手に意識を集中してソウルスティールをすれば、右手が光って見える。だがそれはキミ自身の目からそう見えるというだけで、他の人間にその光が見えることはない』


「なんだよ。だったら極論、電車の中とか人混みの中でソウルスティールしてもバレることないってことじゃん」


『そうだな。だがあくまでそれは極論だ。定期的に魂を吸い続けなければならない以上、たとえ僅かでもキミに繋がるような情報を残すわけにはいかない。多くの人に紛れていても、毎回目撃情報があればさすがに怪しまれる』


「いや、でも魂だけ吸い取るってことは外傷とかないんだろ?」


『まあな。外から見れば心臓麻痺による突然死という形になる』


「じゃあ疑われないでしょ。誰も何もしてないのに倒れたってのは、どう考えても普通は病気だと思うって。むしろ目撃証言があった方が逆にいいんじゃないの?」


『ならばキミは自宅で高齢者が心臓麻痺により誰にも発見されず孤独死する確率と、人目のつく場所で目撃されながら心臓麻痺により死ぬ確率、どちらの方が高いと思う?』


「あー……まあ、そう言われてみればそうか」


『そういうことだ。それに怪しまれないにせよ、疑われないにせよ、ソウルスティールによる突然死が注目されるのは俺たちにとって非常によくない。これから先のことを考えるとな』


「これから先のこと?」


『そうだ。だがこれはまだ話すことじゃない。今は兎にも角にもソウルスティールだ。今後のことはそれを終えてから話そう』


「わかった。んじゃ早くソウルスティールのやり方を教えてくれよ」


『待て。キミは気付かなかったかもしれないが、今さっき背後を自転車が通った。間違いなく目撃されたから場所を変えるぞ。また電車で駅三つ分移動してくれ』


「はぁ!? 嘘だろ、それマジで言ってんの!?」


『マジだ。壁に向かってブツブツ言っている姿を目撃されたんだから、これはもう完全に不審者だ。下手すれば何もしなくとも事案発生となる。今すぐここを離れて、半年以上は近寄らない方がいい』


「えぇー……邪神のくせに慎重すぎるだろ……めんどくせぇ……」


『タイチ。キミは警察の力を軽く見ている。侮らない方がいいぞ。日本の警察は優秀だ』


「あぁ、多分それ違う日本だわ。オレの認識と全然違うから」


『……まあいい。どちらにせよ移動はしてもらう。これは決定事項だ。それと、次から俺と話す時はできる限り電話をしているフリをした方がいいな。それで多少は怪しさを軽減できるだろう。民家の壁に張り付いているのを目撃されたら、どちらにせよ移動はしてもらうが』


「電話するフリ……その手があったか。もっと早く言ってくれよ……っていうかさ、今ふと思ったんだけど、そっちが思念で喋れるんだからオレも思念でお前と会話できたりしないの? そしたら相当楽だと思うんだけど。そしたらワザワザ電話するフリしなくてもいいだろうし」


『残念ながらそれは無理だ。宿主が自分の思考を念じても、それが思念となって俺に伝わってくることはない。思念で言葉を伝えられるのは俺自身の特殊能力だと思ってくれ』


「なんだよその不親切設計……」


『普通、口に出さねば言葉は伝わらないだろう。それが人間というものだ』


「邪神に人間を語られてもなぁ……」


『俺も元は人間だからな。それはともかくとしてタイチ。ここに留まっているとまた不審者として目撃されてしまう。早く駅へと向かってくれ』


「はぁ……なんだかなぁ……」


 タイチはぶつくさ言いながらも、再び駅へと戻るため歩き出した。

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