039「突入」
フレデリックの指示により、ハロルド・ウィンゲートの豪邸に各方面から陽動部隊が突入していく。
そして、それぞれの部隊が豪邸にあと少しで辿り着くところまで近づいた瞬間。
辺りに銃声が鳴り響いた。
見れば、豪邸の窓という窓から大量の銃身が覗いている。
「くっ、やっぱり罠か! だが『人間』だ! 001!」
「おう! 行くぜ!!」
タイチは全身が隠れるほど大きい防弾盾を前方に構え、同じく防弾盾を構えて先を走り始めた護衛部隊に追従する。
「散開!」
十数メートル走ったところでフレデリックが声を上げると、護衛部隊が三人編成三組、二人編成一組の合計四組に分かれて散らばっていく。
その直後、分かれた三人編成のひとつが爆発に巻き込まれた。
目視していないため詳細は不明だが、目標との距離が五十メートル以上は離れていることを考えると手榴弾ではないだろう。
「敵のグレネードランチャーだ! 001! 『切り札』はまだか!」
「まだだ! あと少し!」
『タイチ。走ることに集中しろ。射程距離に入ったら俺が言う。このペースであればあと五秒、四、三、二、一……射程距離だ!』
「ここだ!」
タイチが叫ぶと、前を走っていたフレデリックともうひとりの隊員がタイチの前方を盾で固めた。
「見えるぜ……魂の輝きが!」
タイチは深呼吸をして意識を集中し、盾越しにソウルスティールを開始した。
するとグレネードランチャーを扱っていた敵を始めとして、およそ一秒にひとりのペースで次々とこちらに銃身を向ける人間の魂がタイチの中へと吸い込まれていく。
「ふぅ……隊長! これで北側はあらかた片付いたぜ!」
「助かった001! 建物に侵入後、他方面も頼む!」
「わかった!」
「各部隊作戦変更! 001が北側を制圧した! 各部隊は迂回して北側に合流しろ! 繰り返す! 各部隊は北側に合流しろ!」
無線で各部隊に指示を出しながら走るフレデリック。
タイチはそんなフレデリックともうひとりの隊員に追従しながら約五十メートルほどの距離を走り切ったあと、建物の中に入りすぐに深呼吸を始めた。
「さぁ……オレに見せてみろ。お前らの、最後の輝きを……!」
タイチは防弾盾を放り投げ、両手を広げて建物内にいる武装した人間たちの魂を次々と吸い取っていく。
『タイチ。地下にも敵が大量にいるぞ』
「わかってる! あとちょっとで上の敵を全員……」
「001! しゃがみ込め!」
「っ!?」
タイチがフレデリックの声で反射的にその場にしゃがみ込むと、背後から小銃を連射するような無数の銃撃音が聞こえてきた。
「暗殺無人航空機だ! 001! ここは俺たちが食い止める! お前は奥へ!」
「わかった!!」
タイチは防弾盾を構えながら叫ぶフレデリックに対して大声で返答すると、脇目も振らずに駆け出した。
『タイチ! 約二十メートル先に敵が十三人! こちらに向かってるぞ!』
「わかってるっての!」
タイチは廊下の曲がり角に背中を預けると、深呼吸をしてから敵をひとりずつ、確実にソウルスティールしていった。
「よし……これで家の中は片付いたな。あとはこのまま地下も……なっ!?」
『どうした?』
「護衛部隊が、どんどん死んでる……」
『護衛部隊の周囲に人間の魂は存在しないから、おそらく暗殺無人航空機だろう。先ほどの機体だけではなく、もっと用意があったようだな』
「一刻の猶予もねぇってことか……!」
タイチは再び意識を集中し、地下にいる人間をソウルスティールしていく。
そして四十人ほどの魂を吸い、地下にいる人間の残り人数が十人を切った時。
それら残りの魂がいっせいに建物の一階へと向かって移動を始めた。
『タイチ!』
「ちゃんと感知してるって。大丈夫だ。こっちに近づいてくる奴と、家から出ようとする奴から順番に、しっかり片付ける」
敵も地下に留まっているだけでは何らかの方法で殺されるだけ、と悟ったのだろう。
建物の一階に上がってきた人間は次々と家の中で散らばっていく。
だがタイチは着実に、確実に、それらの人間をソウルスティールしていった。
そして、残り敵の人数が四人になった時。
『タイチ! すぐ近くに敵が来ている! なぜソウルスティールしない!?』
「いや、なぜって言われても……」
「ねぇ、そこにいるの? 死神さん」
通路の曲がり角の先から、中年女性の声が聞こえてくる。
「もう私たちの負けよ。降参するから、見逃してくれないかしら?」
「…………」
『何をしているタイチ! 早くソウルスティールを……』
と、俺がそこまで言ったところで、タイチの足元に手のひらサイズの黒い物体が放り投げられた。
乾いた音を立てて転がり込んできたそれは、手榴弾によく似ていた。
『っタイチ! 目をつぶれ!!』
「なっ……!?」
直後、世界が白く染まった。
遅れて、火薬入りの巨大な風船を耳元で割ったかのような、凄まじい爆音がタイチを襲った。
「ぐああぁあぁ!?」
『タイチ!?』
「ぐっ……なん……だ……!?」
『今のは閃光音響手榴弾だ! 早く体勢を立て直せ! 意識を集中しろ! 敵をソウルスティールするんだ!』
「み……見えねぇ……目が……魂も……」
『タイチ! ダメだ! ヘルメットを外すな!』
「なんで……」
『敵が目の前にいる!』
次の瞬間、銃声が立て続けに鳴り響き、タイチの体にいくつもの銃弾が撃ち込まれた。
『タイチ!!』
「いってぇ……」
タイチはそう言って目の前にいる中年女性の肩へ左手を乗せると、右手で腰に装着していたホルダーから自動式拳銃を引き抜いた。
「え……?」
「お返しだぜ」
タイチは拳銃を中年女性の腹部へ押し当てると、躊躇なくトリガーを引いた。
辺りに銃声が鳴り響く。
「な……ぜ……」
「暗くてよくわからなかったか? こちとら完全装備だぜ。防弾チョッキぐらい、着てるに決まってるだろ」
タイチは話しながらも銃身を移動させ、今度は中年女性の心臓部分に二発目、三発目の銃弾を撃ち込んだ。